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35、対決~3、腹の探り合い~

 安倍晴明と術比べを行った伝承を持っている外法師、芦屋道満。

 護は現在、まさにその人と対峙し、術比べをしている。

 だが、戦況は一進一退。互いに仕掛けた術をつぶし合い、勝敗の行方はいまだ見えない。


「ほっほ、なるほど。確かにおぬしはあの男の子孫よな」

「まだ二回しかぶつけあってないっての……あの男ってのは安倍晴明様ってことでいいのか?」

「うむうむ、まさにその男よ。一時は弟子入りし、奥義書を手に入れ、殺しもしたがな」

「あ、その逸話、本当だったんだ」


 安倍晴明という陰陽師にはいくつもの記録や逸話が存在するが、その中の一つに、晴明が道満と自身の妻である梨花に殺害されるという逸話もある。

 道満が語っていることは、おそらくそれのことだろう。

 伝え聞いていた先祖の伝承の一つが本当であることに、なぜか感動のような何かを覚えた護だったが、すぐに気を取り直し、道満に問いかけた。


「で? 満足したか?」

「まだまだ、足りぬのぉ。術比べとは、どちらかが相手を下すまで続けるものじゃろうて」

「まぁ、そらたしかに……」


 道満の言葉に、護はげんなりとした表情で同意した。

 何事も決着という終わりがなければならない。

 それがすべての術者の共通認識だ。

 それに基づくなら、確かに、この術比べにも決着が、どちらかが下されるまでやりあう必要がある。

 だが、かといって馬鹿正直に付き合うつもりはない。

 いや、付き合ったら付き合ったでどのような結末になるかわかったものではないため、できる限り避けたい、というのが本音だ。


「けど、あんたと最後まで付き合うつもりはないんでね、俺は」

「つれないのぉ……まったく、あの男と違ってつまらぬやつよ」

「あくまで子孫であって、本人じゃないんで」

「あぁ言えばこういう……まったく、かわいくないのぉ」

「なんでお前相手にかわい子ぶらなきゃならないんだ。つか、俺はあんたの子孫でも何でもないだろうが」


 苛立たしげに道満の言葉に返しながら、護は次の手を考えていた。

 だが、式を飛ばすことによる直接的な攻撃、五気の操作、呪術のぶつけ合い。

 そのすべてをさきほどの二回のやりとりで行ったが、どれも互角。

 いや、あるいはあちらのほうがわずかに上かもしれない。

 用意していた手段のほとんどを握りつぶされた。そんな感覚が護にはあった。

 試していない術がないわけでも、策が残っていないわけでもない。

 だが、それらはすべて似たようなものばかりだ。

 術ごとに対応は異なることは事実ではあるが、あっさりと対処されそうな気がしていたため、そうしたものかと考え始めていた。


――吉田の呪詛返しのほうは、順調みたいだな。あとは気づかれずに呪詛を返して、動揺させるくらいしかない。けどなぁ……


 だが、果たして佳代を死なせることなく呪詛を返したことに、道満が動揺するだろうか。

 千年という長い時間で、確かに呪術は衰退し、道満が生きた時代に比べれば、児戯にも等しいものが多くなっているだろう。

 だからこそ、呪詛返しで犠牲者が出ないことに動揺してくれるかもしれない、という希望的観測があった。

 だが、仮に驚愕すらしなかったら。

 そのことが頭をよぎると、そうなった場合の保険をどうするか、まったく思い浮かばない。

 もう少し考える時間がほしいところなのだが、道満はそれを許さなかった。


「ほっほ! そろそろ仕掛けるとするかのぉ!!」


 愉快に笑いながら、道満は更に術を行使してきた。

 いや、術を行使してきたというよりも、周囲に散らばった自分の霊力をかき集め、蛇のような形状に変え、護にむけて解き放ったというべきだろうか。


「また蛇か……けど!」


 再び孔雀明王呪で霊力の蛇を無力化させようと考えた護だったが、本当にそれで大丈夫なのか、と戸惑った。

 たった一度だけではあるが、同じ術を使うほど、芸のないことを道満が行うだろうか。


――いや、あの道満のことだ。そんな芸のないことはしないはず……別の手を考えた方がいいか?


 心の内で、そんな迷いが生まれ、その迷いが、一瞬の隙となってしまった。

 道満の放った蛇は牙をむき、迷うことなく護の腕と足に噛みついてくる。


「しまっ??!!」

「ほっほ! 呆けておる場合かの? このままではぬしの体に徐々に瘴気が……」

「オン、マユラキ、ランデイ、ソワカ!」

「む?」


 道満の霊力で生まれた蛇が、瘴気の毒を護の体に注ぎ込もうとした瞬間、護は素早く孔雀明王の真言を唱えた。

 その瞬間、護の体から風が巻き起こり、噛みついてきた蛇を吹き飛ばす。

 そこからさらに、呪符を数枚引き抜き、びりびりと破り、その破片を宙に投げた。


「ノウモボタヤ、ノウモタラマヤ、ノウモソウキヤ……」


 孔雀明経印を結び、孔雀明王経の真言を唱える。

 その瞬間、宙に投げた破片一つ一つが緑色の光をまとう孔雀へと変わり、吹き飛ばされたものも含め、道満が呼び出した蛇をついばみ始めた。


「ふむ、またも孔雀明王呪か。まぁ、基本ではあるが、味気はないのぉ」


 孔雀は毒蛇を食すこともあり、孔雀を神格化させた孔雀明王の呪には解毒や害毒消去の力があるという。

 ゆえに、護は孔雀明王呪で孔雀を呼び出し、蛇を食わせるという先ほどと同じ術を行使したのだ。

 もっとも、なにか仕掛けがあるのかもしれないと勘ぐっていたため。


「まさか、これで正解だったとは思わなんだよ」


 と、頬に汗を伝わせながらつぶやいていた。

 

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