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外れスキル【地図化】を手にした俺は、最強パーティーと共にダンジョンに挑む  作者: 鴨野 うどん
第6章後半 外れスキル持ちの俺と『王女の軍隊』
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第104話 ソフィーと不満


「ノートはあれでいいと思うの?」


 キッチンでエリンの夕食作りを手伝っていると、ふと問いかけられる。

 一体、なんのことだろう。使い終わったフライパンの汚れを落とすのに夢中になって、話を聞いていなかった。


「あれって?」


「だから、ソフィーのことよ!」


 全然話を聞いていなかったことがバレたのか、エリンの語調が強くなる。

 まあエリンも本気で怒っているわけじゃないと思うので、続きを促すことにする。


「ソフィーさんがどうかしたの?」


「ロズリアやネメにいいように使われているでしょ?」


「ああ、そのことか」


 エリンの発言にようやく納得する。

 家事当番を任せるロズリアだったり、お菓子を作ってと頼むネメだったりと、パーティーメンバーがソフィーを不用意に頼っている姿が散見されるようになっていた。


「俺も実は気になってたんだよね」


「やっぱりノートも?」


「まあね」


「酷いわよね、ロズリアもネメも。ソフィーは新しく入ってきた立場なんだし、頼みを断りにくいに決まっているじゃない。そこに付け込むなんて」


 エリンはツインテールを揺らしながら、怒りをあらわにする。


 確かにエリンの言う通り、ロズリアとネメはソフィーを頼りすぎている。

 頼みを断らないソフィーに対して、他の人には普段頼まないようなことを要求している節はあった。


「少しは遠慮ってものを覚えて欲しいよね」


「本当によ」


「それにしても意外。エリンがソフィーのためを思って怒るなんて」


「そう?」


「だって、パーティーに加入するの、反対していたじゃん」


 エリンはソフィーが加入するのに最後まで反対していた立場の人間だ。

 そんな彼女が、元から賛成派だった俺と同じようにソフィーのことを慮 っているのが不思議に思えた。


「私はそんな薄情な人間じゃないわよ!一度パーティーに入れると決めたんだから、同じ仲間として扱うに決まっているじゃない」


「エリン……」


「それにノートが入ってきたばっかりの頃、冷たくしちゃったことを後悔してるのよ。だから優しくしようかなって」


 そんなことをエリンが考えていたとは思わなかった。

 彼女も彼女で随分丸くなったものだ。初めて会った時からは想像できないような変わりように胸が温かくなる。


「どうした方がいいと思う?やっぱりロズリアとネメに注意した方がいいと思う?」


 エリンが鍋をかき混ぜる手を止めて尋ねてくる。


 どうだろう? 二人とも強く言えば一時的には反省してくれるかもしれないが、それはその場しのぎの解決策のような気がする。

 この問題の本質はもっと別のところにあると思っていた。


「どちらかというと、ソフィーに言った方がいいんじゃない?」


「なんでそっち?」


「頼んでいるロズリアやネメに悪気があるわけじゃなくて、むしろなんでも引き受けちゃうソフィーの方に問題があるような気がするんだよね」


「確かにソフィーは断る素振りすら見せないわね……。私だったら絶対キレて文句言っちゃうもの」


「その姿が想像できる……」


「じゃあ、早速言いに行きましょ」


 そう言うと、エリンは鍋の火を消してソフィーを呼びに行ってしまった。

 別に料理の手を止めて今すぐに言う必要は全く感じなかったが、行動力があるのはいいことだ。


 洗い終わったフライパンを水切りかごに置いて、火をつけ直して鍋をかき混ぜていると二人がやってきた。


「何? 話って?」


 状況を理解していないソフィーが、俺とエリンを交互に見ながら首を傾げる。

 そんな彼女に向かってエリンは言った。


「心当たりはないの?」


「心当たり……もしかして、何か悪いことをした?」


「そうじゃないわよ!」


 そんな詰問のような問いかけをしたら、ソフィーのように思ってしまうのも無理はない気がしたが、ここはエリンに任せることにしよう。

 鍋の中のじゃがいもに火が通っているか確認しながら、二人の会話に耳を傾ける。


「なんか言いたいことがあるんじゃないの?」


「わかった。もしかして、夕食作るの手伝った方がよかった?」


「それよ、それ!」


「わかった。今、手を洗うから待ってて」


「そうじゃないわよ!手伝わなくていいのよ!」


「……どういうこと?」


 微妙に噛み合わない会話にモヤモヤして、口を挟むことにする。


「エリンはそうやってなんでも引き受けちゃうソフィーさんの態度に言いたいことがあるみたいなんですよ」


「なんでもって?」


「ロズリアの家事やネメにお菓子を作ってあげたりですよ」


「駄目だった?」


 ソフィーはきょとんしながら立ち竦んでいた。まるで何が悪いのかわからないといった様子だ。


「駄目というか、嫌なことは嫌って言っていいのよ。遠慮なんてしないで」


 エリンは腕を組みながら言う。

 しかし、ソフィーは依然変わらない表情で返答をした。


「別に嫌ってわけじゃないけど……」


「家事を押しつけられるのが?」


「はい。特にやることもないし、だったら誰かの役に立っている分マシだから」


「……そうなの?」


 エリンにとっては想像もしていなかった考え方との邂逅だったらしい。未知の生物に出くわした時のような戸惑い方をしていた。


「いいのよ、無理はしなくて」


「無理をしているつもりはない」


「そう……」


 微妙な空気が流れる。エリンの方はソフィーを慮って声をかけたものの、不器用な言い方も相まって、あまり気遣いが伝わっていないようだ。


 ソフィーの方も、言葉の裏を読むということを全くしないため、言葉足らずなエリンの発言を充分に理解できていないようであった。

 絶妙に会話の波長が合わない二人である。


「じゃあ、他に何か不満とかない? 『到達する者(アライバーズ)』の生活で」


 無言の時間に堪えかねてか、エリンが口を開く。

 エリンもエリンでソフィーのことを心配しているんだけどなぁ。どうしてこうも上手く伝わらないんだろう……。


「特にない」


「特にないって。なんかあるでしょ、なんか!」


「レイファ殿下のところと比べたら、与えられる命令も少ないし」


「それはそうに決まってるでしょ!そんなところと比べないでよ!」


「それは殿下への悪口?」


「あっ、いやそういうわけじゃないのよ……。うん……。ただ王女様の騎士をやっていた頃と一介のパーティーでの生活を比べるのもねぇ……って意味で……」


「なら、いい。わたしを引き取ってくれたのは感謝しているけど、レイファ殿下への侮辱は見過ごすことができないから」


「うん、ごめん……」


 そう言いながら、軽く頭を下げるエリン。

 やっぱり絶妙に会話の波長が合わないみたいだ。エリンも不用意な発言は避けた方がいいし、ソフィーももう少し融通を利かせた方がよさそうだ。


 まあ、これは性格の問題で、一朝一夕で直るようなものでもなさそうなので、敢えて指摘はしないけど。


「やっぱ、なんかないの?不満とか」


 またしても、先に口を開いたのはエリンであった。


「ずっと一緒に暮らしていたら、何か一つくらいあるでしょ?不満くらい」


「不満……」


「どう? あるんだったら、私がどうにかするから」


「ないこともない」


 意外な発言に、俺も気になって鍋をかき混ぜる手を止める。


「誰よ、誰が原因なの? ロズリア? ネメ? 私がとっちめてやるから!」


「違う」


「じゃあ、誰よ!」


「ノート……」


 まさかの俺だった。

 エリンがぎょろっとこちらを向く。ルビー色の鋭い瞳がこちらを突き刺す。


「何をしたの?」


「いや、何も身に覚えは……」


「もしかして、頼みを断らないソフィーをいいことに、いやらしい要求をしたんじゃないでしょうね?」


「そんなことしないから!」


 完全にあらぬ疑いだ。慌ててソフィーの方に視線を向けるも──。


「やっと納得した。わたしなんかをパーティーに引き入れてなんのメリットがあるのかずっと疑問だったけど、身体目当てだったの」


「変な納得しないでくださいませんかね!」


「ノートには恩がある。実際のところ、貴方にそういうことされるのは死ぬほど嫌だけど、命令されるなら仕方ない。わたしは従うのみだから」


「そこは従っちゃ駄目ですよ!」


 ソフィーのなんでも受け入れてしまうスタンスに呆れを通り越して、恐怖まで覚えてきた。

 ほんと、フォースがまともになって助かった。昔の彼なら、冗談抜きでいやらしい要求とかしそうだから。


 しかも、たとえフォースが冗談でそういうことを要求したとしても、真面目なソフィーなら言葉通り受け取ってしまいそうだ。

 フォースがまともにならなかったら、今頃『到達する者(アライバーズ)』の風紀は乱れに乱れ切っていたことだろう。


「というか、死ぬほど嫌なんですね……」


 スルーしかけていたけど、微妙にショックを受ける表現だ。死ぬほどって。

 別にソフィーのことを狙っているわけでもないし、そういう関係になる気もさらさらないけど、異性にそういうこと言われると普通にショック受けるよね……。


「安心して。わたしは多分、みんなほど死ぬことに抵抗がないから。それなりに嫌だっていうだけ」


「それ、あんまりフォローになってないですよ」


 嫌なことは嫌なんだ……。と思わないでもない俺であった。


「で、俺に不満って一体なんなんですか?」


 これ以上この会話を続けていると、心のHPが持たないので話を元に戻すことにする。

 ソフィーは不満をぶつける相手が目の前にいるにもかかわらず、躊躇うことなく口を開いた。


「敬語」


「敬語?」


「そう。同い年なのにずっと敬語だから」


「えっ!? 同い年なの!?」


 不満の内容よりも先に、ソフィーからもたらされた衝撃の事実に反応してしまう。


「だって十八でしょ?」


「そうだけど……。なんで俺の年齢知ってるの?」


「レイファ殿下の命令で、ノートの情報は調べていたから」


「……」


 理解はできるけど、心情としてなんとも納得いかない情報だった。

 敵の情報を知っておく必要があるのは百も承知だし、かく言う俺も首切り達からレイファの情報を得ようとしていたわけだから、強くは追及できないんだけど。


「ということは私とも同い年ってことね」


「そうなの?」


「だって、私とノート同い年だから」


 どうやらエリンの情報までは事細かに調べられていなかったようだ。今度はソフィーが初めて知ったみたいな反応を見せた。


「ここにいる三人、同い年だったんだ……」


「そうみたい。だから、ノートもわたしに敬語使わなくていい」


「そういうことなら」


 今度からソフィーには敬語を使わないことにしよう。

 最初の出会いが王女の使いとしての認識だったため敬語だったけど、同い年ということなら気兼ねする必要もない。


 それにしても前にぶっきらぼうな物言いをした時は、王女への不敬な態度と見做すぞと脅された彼女に、敬語じゃなくていいと言われるなんて。

 ソフィーもこのパーティーに入って、心情に変化があったのかもしれない。敬語じゃなくていいってのも、彼女なりの親交の深め方なのだろう。


「でも、意外。ソフィーの方から敬語じゃなくていいって言われるなんて」


「そう?」


「だって、俺と距離を取りたがっているように少し感じていたから」


「別に仲良くしようと思って敬語じゃなくていいって言ったわけじゃない」


 しかし、ソフィーは俺の予想に対して意外な言葉を返した。


「ただ同い年なのに、わたしに敬語なんか使う必要がないってだけ。ノートは雇用主の立場なんだから、わたしより上の立場。むしろ、わたしの方が敬語使うべきかもしれない」


「……」


 なんか俺の予想とはかけ離れた理由だった。

 相変わらずソフィーはソフィーのようだ。長年レイファの下にいた癖が抜けないというかなんというか。

 自分を卑下して、誰かに尽くそうとする考え方はなかなか変わらないみたいだ。


「いや、敬語じゃなくていいよ」


 ソフィーが『到達する者(アライバーズ)』に溶け込むのにはまだまだ時間がかかるかもしれない。そう思ってしまうやり取りであった。



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