最終話 あたい賢者になるっ!
その日。あたいとジャンは歩いて帰った。
ホワが見当たらなかったのと、あそこに戻るのはどうも気が引けて、というか、あたいは戻りたくなかった。
それに、ルトンさんの姿も見えなかったんだけど、どうしたんだろう。
とりあえず、そうしてルトンさんの家に着くと、もう月も頂点に上るほどの深夜だった。
その日はお風呂にも入らずに、ぱっと服を着替えて、そして眠りについた。
夢を見る隙も、ジャンが起こす隙もないぐらいの爆睡だったらしい。それを聞いて少し恥ずかしくなってしまったあたいだった。
そして、三日後。
「よし・・・・・・!」
お師匠様の家から持ってきた本の中に、たまたまあった地図とか本とかを使って、賢者の聖地。《ブレイヌ》の場所を導き出した。
「ジャン! わかったよ!」
「まじで? 三日の努力の甲斐があったな」
そう言って、自分のことのように、嬉しそうに笑った。
――三日たっても、ルトンさんは帰ってこなかった。
でも、ジャンはそのことについて触れないし、あたいの前ではいつもこう笑っている。
いつだったか、ジャンが泣いているのを見た。
だから、なるべくあたいはジャンに寄り添ってあげる。
あたいが、されたみたいに。
「えっとね。歩きで一ヶ月だって!」
「馬車は?」
「そんなお金ないよ」
実質。今まではジャンが親から貰ってきた食べ物と、あたいの知識で採ってきた食べられるキノコや山菜で食料はまかなってきた。
それほど、お金は無かった。
「ま、そうだよなぁ。じゃ、出発は明日か?」
「うん。そうね」
今はもう真っ昼間。こんな時から出たら、すぐに夜になっちゃう。
あたいはジャンにも支度を早めにするように伝えて、あたい自信も明日の準備にとりかかった。
その途中でふと思う。
――賢者の聖地って、どんな場所なのだろう。
盆地の中か、高い山の上か、はたまたただの平原の上か。
まったく想像がつかない。だから、少し楽しみになってしまう。
「それに、お父さんとお母さんのことも・・・・・・」
お師匠様はそう言っていた。
だから、余計に行きたくなる。
「やっぱり、いてもたってもいられない!」
だだだと廊下を駆け抜け、あたいはジャンの部屋の扉を開ける。
「ジャン! やっぱり今日出発!」
「はあ?! 急すぎじゃ」
「よろしくね!」
そして、勢いよく扉を閉めて、あたいは今度は玄関を通って外へと駆ける。
今までなじみのあったこの周辺とも、おさらばになる。それに、あたいとお師匠様の家とも。
涼しい風がほおに触れる。
・・・・・・ここからだ。
ここからが、あたいの本当の物語。
「あたい、賢者になるっ!」
あたいは、空に向けてそう叫んだ。
見ててね、お師匠様。あたい、頑張るから。
絶対に、賢者になるの!
最後までお読みいただきありがとうございます。これにて、「あたい賢者になるっ!」は完結とさせていただきます。最後までお付き合いくださった方、ありがとうございました。現在、「死神と呼ばれる猫耳少女は復讐のために鎌を握り、その横でパンダさんは笹をしゃぶる」という作品も連載しておりますので、よければそちらもどうぞ。




