十九.五話 弟子の背中を見送って
・・・・・・行ったか。
駆けていく赤髪の少女。自分の弟子であるヒヨが去って行くのを見て、私、レーザは安堵する。
ずっと付けられていたこの首枷。魔法を無力化するなどと言っていたが、案外そうでもないらしい。だから、ヒヨを赤髪に変えることができた。
これで、不自然には思われるだろうが、堂々と「青髪の弟子」と言ったんだ。赤髪のヒヨは誰も追わないだろう。
だが――
ヒヨのあの美しいサファイアのような髪が失われるのは、いささか不本意だったが。
「おい、魔法使い。なんだ今の遺言は」
そう若干の苛立ちを見せるのは、『魔法使い狩り』を名乗るメガルハ。
「なんだも何も、あれが遺言だ」
私はあれを伝えたかった。それに、あれはただ観衆に向けていたんじゃなく、ヒヨただ一人に向けての遺言だ。何を聞かれようとも、どう答えるか迷ってしまう。
「ふん。命乞いぐらいしてみせろ。『俺は魔法使いじゃない』みてえにな」
けたけたと下品な笑い声をあげるメガルハを見て、私は不快感を覚える。
そして、尋ねる。
「それは、他の魔法使いの遺言か?」
その問いに、メガルハはすんなりと、たった一言答える。
「ああ、そうだ」
――ああ、やはり、こいつは。
ただのクズだ。
そして諦めたように広場に目を落とす。処刑を見せびらかすために少し高くなったこのギロチンからは、皮肉だが観衆やら何もかもが見て取れ――
「メガルハ」
「ああ?」
私は、口元をゆがめながら言う。
「警備はしっかりとしておいた方がいいぞ」
「はあ? 何言って」
不機嫌そうに私を見るメガルハの豪華な服に――たいまつが。
ボウッ。
「うあ? あっちいいいいいぃぃぃ!」
そのまま火が燃え移り、メガルハを火に包む。
が、完全に飲まれる寸前で服を脱ぎ捨て、それを放り投げる。と、下から悲鳴があがった。
「誰だ?! たいまつなんか投げやがった野郎は?!」
半裸で怒り狂うメガルハ。そのメガルハに向けて、答えが発せられた。
「賢者に恩がある者だ」
ああ、なんと人間とは愚かなんだろう。こんな場所、私一人が手を汚すだけでかまわないというのに――
「ジャンを助けてくれた、魔法を見せてくれた恩です。賢者様」
それは、ルトンとその他たくさんの老若男女の姿。
そして、そのみんなが目に怒りと、そして決意をみなぎらせている。
「・・・・・まったく」
「やれえええええ! 皆の者おおおおお! 恩返しの時だああ!」
うおおお、と大きな歓声とともに、剣や槍を持った傭兵たちが、対抗してくる兵士を倒す。
金属がぶつかる音。火が燃え移る音。関係のない、観衆の悲鳴。
だが、観衆には手を出さない。
「な、なんだあいつら! おい! もっと兵を出せ!」
怒り、だが困惑の表情を浮かべたメガルハが、近くの兵に向けてそう吐き捨てる。
そして、俺に向かってくる。
「てめえの仕業か!」
「いいや、違う。あんなやつらは知らない」
なぜなら、助けた人々一人一人なんて覚えてられないだろう?
「じゃあなんだ! あいつらは! 魔法使いは、邪悪な存在で――」
そうわめきちらすメガルハの前で、私は――ギロチンを、木っ端微塵に粉砕した。
「・・・・・・は?」
唖然とするメガルハの前で、私はただ告げた。
「私は、賢者だ」
今までに人を傷つけたことはない。野菜を作れる人間を尊敬しているし、彼らがいないと私も生きていけない。
「だが、今からは――魔法使いとなろう」
私は、メガルハの耳に魔法の風の刃をかすらせる。
これで、私も魔法使いか。
どこか大切なものを失った気もするが、それよりも大切なことがあるのだ。
「今まで魔法使いと間違えて賢者を数多く殺めてきた、哀れな『魔法使い狩り』よ!」
ヒヨは、誰にも追わせない。
「本当の魔法使いの力、見せてやろう。――さあ、殺してみるがいい」




