十九話 お師匠様の言葉
オワの街。
それが、お師匠様の連れていかれた街だ。
あたいたちは、その街に向かっている。
ホワは、すごい速かった。
あたいが感じたことのないスピードだったから、少し怖かったぐらい。
道行く馬車を何台も通り越して、あたいたちはその街に着く。
すると、大勢の人だかりができていた。
「・・・・・・間に合ってしもうたの」
ルトンさんがそう呟いた。
そう、間に合ってしまった。・・・・・・お師匠様の処刑時間に。
あのホワの馬車ならぬ犬車の中のムードは消え去っていた。
「お師匠様・・・・・・!」
観衆の目線の先にはーーギロチンに首を置かされたお師匠様の姿があった。
そして、その隣にはーー残虐な笑みを浮かべたメガルハ。
それを見て、あたいは途方もない怒りを覚える。
ーー殺してやりたい。
だが、きっとあたいの力では殺せないだろう。
と、メガルハが拡声器を持った。近年の人間が、魔法を研究して作り出したらしい。
『さあ、今から魔法使い、ザーレの処刑を始める』
ザーレ?
あたいは、少し引っ掛かりを覚える。が、それはお師匠様が名乗った偽名だと思い出した。
ああ、つまり、彼はーー
「・・・・・・なんだ。馬鹿じゃない」
これが偽名だと、わからなかったんだ。
でも、そんな些細なことはなんの慰みにもならない。
なんで、お師匠様は逃げないのだろう。
あたいはそう疑問に思う。だが、そんなあたいを置いて処刑へのカウントダウンは進む。
『じゃ、なんか遺言はあるか? 魔法使い』
馬鹿にするような口調のメガルハ。
「あいつ・・・・・・!」
ジャンも、拳を強く握るのが見えた。
あんな馬鹿にされるような言い方、あたいは耐えられない。たけど、何も出来ない。
自分の弱さに腹が立つ。
『・・・・・・遺言ならあるぞ』
レーザお師匠様がそう口を開いた。
『ああ、聞いてやろうじゃねえの。死者の最後の言葉を聞くのが大好きでなぁ』
そして、メガルハが拡声器をお師匠様の前に置いて、数歩後ろに下がった。
『・・・・・・ああ、変人の独り言だと思って聞いてくれ』
そう、不器用な言葉から始まるお師匠様の最後の言葉を、あたいは一語一句聞き逃すまいと耳をすませる。
『あなたは、賢者と魔法使いの違いを知っているか?』
そう問いかけるお師匠様の落ち着いた声。
その問いに、あたいは頭をはたらかせる。
違い・・・・・・?
『それはな、人間を傷つけたか否かだ』
そうお師匠様が答えを言う。
『魔法使いというのは、賢者の中でも忌まれる存在。尊敬すべき人間を傷つけ、殺して、強奪や強姦を繰り返す卑劣な輩だ。だが、賢者は違う』
魔法使いというのは、賢者の中でも忌まれる存在。
それが、お師匠様の魔法使いを嫌う理由なのだろうか?
きっとそうだろうが、違う気もする。
『賢者というのは、人間とーー助け合う存在である。賢者とて、万能ではない。野菜は枯らすし、仲間を助け遅れるし、ーードジっ娘だったり』
はっと、あたいは顔を上げる。
『だから、私たちは人間を頼る。金が無い代わりに薬を渡し、野菜を貰う。紅茶を出す代わりにーー人間と会話する』
小さく息を呑む声が、隣から聞こえてきた。
『それが、賢者だ。だが、忘れてはならない。賢者とは、人間と助け合う存在にあると』
そして、大きく息を吸い込む音が聞こえた。
『行け! 我が青髪の弟子よ! お前のーー親のことは、あの里に! そこに真実がある!』
だっと、お師匠様に背を向けてあたいは走り出した。
「ヒヨ!」
ジャンの声が聞こえる。ルトンさんは何も言わなかった。
『今までありがとう! 弟子よ! 私はお前をーー愛している!』
涙を堪えて走った。涙を流すと、不自然に思われるだろうから。
ただ、俯いて、地面を見て、人を避けて、走る。
「ヒヨ!」
どれほど走ったんだろう。
あたいは、草原の真ん中に立っていた。
「・・・・・・ジャン」
後ろにいるはずのジャンを見ずに、あたいは話し出す。
「あの里のこと、知ってるの」
一度だけ、聞いたことがある。
全ての賢者の聖地と呼ばれる場所。
「あたい、行くわ」
そして、頬を伝う生暖かいものを拭う。
と、ジャンがあたいの肩に手を置いた。
「・・・・・・俺も、手伝ってやる。お前一人じゃ、心寂しいだろ?」
ーーその手の温もりですら、温かい。嬉しい。
「・・・・・・うん」
紅く輝く夕日が目の前の空を覆い、緋色の髪があたいの視界に入る。
「・・・・・・え?」
それが一瞬何かわからずに、思わず手に取る。
それは、あたいの髪だった。
青から、赤に。
「・・・・・・お師匠様?」
なんで、いきなり駆け出したあたいを誰も追わなかったのか。
お師匠様が、わからないように、変えてくれた・・・・・・?
でも、これで、あたいは追われない。
「ありがとう。お師匠様。レーザお師匠様。あたいーー行くよ」
そして、立ち上がる。
空が、眩しかった。




