第九話 僕らが求めたモノは
その女性が現れた途端に、何かに取り憑かれたみたいに僕らに襲いかかっていた骨人間たちが、水をうった様に静まり返り、時が止まったか様に停止する。
「ヒロちゃん、あの女は味方かな?」
骨人間を止めてくれて、僕らを助けてくれたんだ。(今の状況では、そう思いたいよ)
そんな希望的観測も含めて、僕を庇うヒロちゃんの背中に聞いたんだけど、ヒロちゃんは僕の問いには答えない。
その背中からは、骨人間たちと戦っていた時より緊張しているような気配がした。
第九話 僕らが求めたモノは
「そうですか。ニールティアーにディルヴァ・トゥ・マジスを返してもらいにきたのですか。そういうことでしたら、私が会わせて差し上げますよ。」
言いながらにこやかに笑う人は、長い髪を持ち、その髪は見たことがないような色合いで、白とも銀とも見えるような淡い光を放っていた。
肌も白く、体も細くて華奢で全体的に儚い感じがする女の人だった。
でも、何故だかその底が見えないような黒々とした大きな瞳だけは、妙にギラギラしていて、生々しい印象を僕に残した。
まあ、それも多分気のせいだとは思うけど、例えそういった印象があったとしても、彼女は間違いなく僕が今まで出会った女の人の中で一番綺麗な人だという事実には変わりなくて、僕は普段見慣れていないその美しい人に、思わず見とれてしまう。
と僕らを助けてくれた女の人の話はとりあえず置いておいて、彼女の言葉と雰囲気から分かるように、骨人間に襲われて絶体絶命だった僕たちの状況は180度好転したんだ。
何しろ彼女は天女・ニールティアーの知り合いらしく、鶴の一声で骨人間たちを大人しくさせると、僕らの事情をきちんと聞いてくれて理解すると、快くニールティアーに会わせてくれると言ってくれたのだ。
僕とカイは大いに喜んだ。
ちなみに、現在その天女がいるという場所に案内してもらっている途中。
この女の人といれば、骨人間は僕らに近寄っても来るどころか、その影さえ見せない。
さっきの骨人間たちの豹変ぶりも気になるところだけど、とりあえず安心って感じ。
ビクビクしながら歩いていたファシジュの都も、今は堂々と胸を張って歩けているくらいだ。(ちなみに僕とカイが女性を挟んで前を歩いていて、ヒロちゃんはその後ろをついてきている。あれから、何故かヒロちゃんは黙り込んだままだけど)
「昔、ニールティアーから聞いたことがあります。ディルヴァ・トゥ・マジスは、トルマシオという人物から借りたものだと。」
歩きながら、女性は自分の知っている情報を僕らに話してくれた。
「それ、僕のご先祖様だよ!」
ということは天女・ニールティアーというのが、カイの探しているニールティアーであり、ファシジュの都が『呪われた街』であることが、これで証明された訳だ。(これだけ、危険な目に遭って、実は違いましたみたいなオチがなくてほっとしたよ)
「ところで、そのディルヴァ・トゥ・マジス?ていうのは、そもそも何なんですか?その名前を聞いた途端に襲われたんですけど。」
ニールティアーは、僕らがいた反対側の街はずれにいるらしく歩いて30分ほどかかると言われ、僕はこの際色々聞いておくことにした。(本当ならヒロちゃんが聞いていそうなものだけど、あれから本当に一言も喋らないし)
「それは仕方ないでしょう。ディルト・トゥ・マジスとは魔力を秘めた杖。ニールティアーの魔法により彼らは永遠の命を授かっていますが、その魔力の根源は実はディルト・トゥ・マジスであり、彼らの命はその魔力から半径10キロメートル内になくては保たれないのですから。」
・・・それは、すなわちディルト・トゥ・マジスこそが、骨人間たちの命ということじゃないだろうか?
さらりと言われた言葉だったけど、僕はその事実に目を見張った。
同時に、さっきの骨人間たちが僕らに襲いかかった理由も良く理解できた。(カイにそれを持っていかれたら、自分たちは死んでしまうのだから)
「カイは、そのディルト・トゥ・マジスが魔法の杖ってことは知ってたの?」
「うん。僕のご先祖様の杖だよ。でも、ニールティアーっていう人に貸してあげたんだって聞いてるよ。」
そういうカイに女の人が優しげに語りかける。
「ええ。貴方のご先祖様はこの街の人々を助けるためにニールティアーにディルト・トゥ・マジスを貸してくださったのですよ。」
女はそこまでいうと、僕に背を向けてカイに向きなおった。
「ところで、貴方はディルト・トゥ・マジスが彼らの命と知っても、それでもなお、ニールティアーにそれを返せと言うのでしょうか?そして、それはまた貴方のご先祖様の意に反することになるのではないのですか?」
僕から見える、女の人を見上げるカイの顔が強張った。
女の人の声にカイを責めているような感じはしないけど、でも、言っていることは間違いなくカイを責める内容だ。
そういえば、僕とヒロちゃんはどうしてカイがディルヴァ・トゥ・マジスを求めているのかという所まで、突っ込んだ話はしたことがなかった。(何しろそれを求めてこの都を探していたってことも、さっき知ったばっかりだし)
人間にあんな形にしろ、永遠の命を与えるほどの魔力を持つ物騒そうな杖を、そもそもどうしてカイみたいな子供が欲しがるのだろう?
「・・・確かにそうかもしれないけど。僕はディルヴァ・トゥ・マジスを諦めるわけにはいかないよ。」
カイの舌っ足らず子供っぽい声に乗せられたのは、きっぱりとした決意の言葉。
「それは、どうしてかしら?」
女の人は僕とは反対側にいるカイを見下ろしているために僕には顔は見えない。
「僕の帰りを待っていくれる人たち、たくさんの命がかかっているから。それを守るためには、絶対にディルヴァ・トゥ・マジスの力が必要なんだ。」
カイは女の人から目を逸らし、正面を向いた。
その横顔は、子供のくせに子供っぽくない真剣で、思いつめたようなもので、いつもフニャフニャしているカイの顔しか見たことなかった僕はどきりとした。
それに、折角女の人が快くニールティアーに会わせてくれると言ってくれているのに、こんな言い方をして気分を損ねないか不安だった。(だって、骨人間じゃないから安心してたけど、ファシジュの都にいるってことはこの女の人だって、ディルヴァ・トゥ・マジスで永遠の命を得ている人なのかも知れないじゃないか)
「そうですか。では、ニールティアーにもその旨をお伝えください。」
だが、僕の予想に反して女の人はあっさりと引いてしまう。
ほっとする反面、僕は何となく違和感を覚えた。
「・・・あの。」
だから、僕はその違和感を早速口にする。(ヒロちゃんが疑問はすぐに解決しろって、いつも言っているし)
「はい、何でしょう?」
「ニールティアーは神様が遣わした天女なんでしょ?魔力を持つ杖がなくても、街の皆を助けられたりしないの?」
大体、カイは普通の人間なんだから、カイのご先祖様だって普通の人間なはずだ。(どうして、そんな杖を持っていたかは知らないけど)
天女がその普通の人間から借りた杖なしに、奇跡を起こせないなんておかしい話だよね?
だから、僕は何とか穏便にディルヴァ・トゥ・マジスを返してもらえないものかと知恵を絞ってみて提案したんだけど、それはあっさりと却下される。それも、思わぬ言葉で。
「無理ですよ。ニールティアーは天女などではなく、普通の人間なんですから。」
「え?でも、さっきネイサンっていう骨・・・じゃない街の人に、ニールティアーは神から遣わされた天女だって僕らは聞いたんだけど。」
そこ(ニールティアーが天女じゃないって所)から否定されるとは思ってもみなくて、別に僕が悪いことした訳じゃないけど僕の声は狼狽しているように裏返る。
「それは、その人が誇張していったに過ぎません。ニールティアーは決して天女などではなく、ただの普通の人間ですよ。まあ、神の遣いというのは、あながち間違ってはいませんけどね。」
「どういう意味なの?」
僕の問いに女の人はにっこりと微笑む。
その微笑みは、彼女こそが天女様見たいに綺麗で、神々しくて、眩しかった。
「そうですね。少し話をしましょうか。」
彼女はつい最近の話のように気軽に話し始める。
それは、千年前にこのファシジュの都での話。
でも、千年の時を経て、僕らにはまるで神話にも聞こえる過去の話だった。
第九話まで更新完了です!10話前後とかいいつつ、書いてみたら実は13話にまでなりました。もう少しだけお付き合いただけると嬉しいです。次回は急展開の予定なので、この話を読んでいてくれている奇特な方はお楽しみください。(本当にこの話は読者の方が少ないので(笑)、ここまで行き着いた方は本当に私にとっては神様のような人々なんです!)




