第七話 骨人間たちの街
カタカタカタカタカタ・・・・。
僕はその異様な光景に、涙すら浮かべたよ。
カタカタカタカタカタ
絶対に夢を見る。
しばらくは、この悪夢で僕は魘され続けるに違いない。
その度に、ヒロちゃんにからかわれるかと思うと気が重いけど、僕はそんな確信を抱いていた。
カタカタカタカタカタ
だって、
カタカタカタカタカタ
こんなに
カタカタカタカタカタ
たくさんの骨人間たちの目玉のない空っぽの瞳に見つめられるなんて、誰だってその怖さに耐えられるわけないでしょっ?!
大体、骨同士が軋むカタカタカタカタカタって音が、いい加減鬱陶しいんだよ!!
僕は(心の中だけで)そう絶叫していた。
第七話 骨人間たちの街
「・・・本当に、私たちのことを外で話さないと約束してくれるんですね?」
ファシジュの都に入る一歩手前で立ち止まると、辿りつくまでしつこいくらいに聞いてきた質問を、また骨人間ことネイサンは繰り返した。
「しつこいぞ。心配しなくても、私たちは不死の体なんて興味はない。私たちはニールティアーという人に会いに来ただけだ。大体、外でこんなこと話しても誰も信じやしない。」
それに対して、ヒロちゃんはこれまた同じ答えを繰り返す。
その答えを聞いてネイサンの表情があるはずもない、骨の顔がこちらをじっと見つめる。
目玉のない空っぽの瞳は、不気味で無機質で僕には恐ろしさしか感じられないけど、ヒロちゃんはそんな僕を背に庇いながら、その瞳を逸らすことなく見返している。
お人好しで小心者のくせに、こういう時のヒロちゃんは本当に頼りになって、カッコいいんだ。(本人には絶対言わないけどね)
そして、ヒロちゃんが答えて少しの沈黙の後、ネイサンがやれやれといったように溜息をつく。(だから、何で肺がないのに息が吐けるんだ?)
「分かりました。じゃあ、とりあえず、こちらです。」
半ば諦めたようにそう言って、そうしてやっとネイサンは僕らは都の中に招き入れてくれたんだ。
「都の中は別に普通の亡国の廃墟と変わらんのだな。」
「まあ、私たちは死なずに済んだんですが、別に街自体が終焉の宣告を免れたわけではないですから。」
「なるほど。それも、そうだな。」
以上が、都に入ったヒロちゃんとネイサンの会話。
なんとも淡々とした会話をしているけど、こんな風にネイサンと平然と会話を続けるヒロちゃんの神経を僕は疑う。
確かに都の建物は、僕も見たことがある亡国の廃墟と大差ないよ。
壊れかけ、崩れ落ちそうな建物、あまり見かけないようなデザインや鉱物で造られている何だかよく分からないオブジェ。
まあ、確かにそんな様子は他の亡国の廃墟と変わらないように見えるね。ヒロちゃんが言うように。
でも、でもだよ?
ヒロちゃんの背中だけを見ている視線を少しだけ横にずらせば・・・
建物から、こちらを覗いている無数の骨人間。
これのどこが普通だっていうの?!
こんなにたくさん骨人間がいるなんて思っていもみなかったし、こちらをじっと見つめている骨人間たちの感情など分かるわけないけど、どう見たって友好的な雰囲気じゃない。
更に何処からともなく聞こえるカタカタカタと骨の鳴る音しか聞こえない都の雰囲気は、正にゴーストタウンとしか言いようがなくて、僕の恐怖心を一層駆り立てる。
これで、あんな風に平然としていられるなんて、絶対可笑しいでしょ?!
ヒロちゃんが何と言おうと、僕は声を大にして言うよ!(とりあえず、無事にこの都を出たら)
そんな風に不満と怯えが入り混じったような複雑な思いを持ちながら、ネイサンと横並びになって歩いているヒロちゃんの背中だけを見ていると服の裾が引っ張られる。
「エヴァ、僕たち生きて帰れるのかな?」
カイも不安そうだ。(なのにヒロちゃんは都に入ってから、僕らを全く顧みようとしないし)
僕だって聞きたいくらいだけど、見上げてくるカイの目が涙交じりなのを見て、とりあえず元気づけるようにいってやる。
「大丈夫だよ。ヒロちゃんの性格からして、何の採算もなしに、こんな怪しげな場所に入らないとは思うし、それにニールティアーに会うためだよ。」
「うん。それはそうなんだけど・・・。」
分かるよ。それでも、怖いものは怖いよね。
さっきまでの僕ならこれにイライラして怒鳴ってたかもしれないけど、まあ、僕の方がお兄さんだしと思い、引きつっているとは思うけど笑顔を浮かべて、頭をぽんぽんと撫でた。
それ以上は、慰めの言葉は言わない。
だって、カイを安心させる言葉が何一つ思いつかなかったから。
今の僕とカイは、ヒロちゃんを信じるしかないんだ。
「・・・そういえばさぁ。」
これ以上色々考えていると怖いばっかりだと思い、気分転換に僕はカイと会話をすることにした。
そっちの方が、カイも気が紛れるかなと思ったもある。
「なあに?」
カイもそれに乗ってくる。(ただ、お互い視線はヒロちゃんの背中を見ていて、他は怖くて見れていない)
「そのニールティアーっていう天女に会って、何をするつもりなの?」
僕とヒロちゃんは、カイが呪われた街でニールティアーに会いたいという話は聞いていたけど、そういえば、彼がその天女に会って何をするかなんて聞いていなかった。
まあ、こんなに早く呪われた街が見つかるなんて思ってなかったし、その事情を聞いた時はカイが泣きわめいていて、それ所じゃなかったというのもあって、なんか有耶無耶になっていたんだ。
大体、こんな骨人間を大量生産している天女に一体どんな用があって、どこでその天女のことを知ったのだろう?
この骨人間たちは、これほどまでに外に自分たちのことが知られまいと気をつけて、現に千年も方法はともかくとして、その秘密を外に漏れないようにしてきたんだ。
それをどうして、カイは知っていたのだろう?(聞く前は別に気にならなかったけど、聞いているうちに段々不思議に思う気持ちが強くなってきた)
「あれ、言ってなかったっけ?」
だけど、カイの方はあっけらかんと僕の質問に答える。
「えっとね、ニールティアーからディルヴァ・トゥ・マジスを返してもらうの。元々、それは僕のご先祖様のものだから。それでね、ぼ------」
ガシャン
カイはまだ何か言おうとしてたけど、さっきつけ方が甘かったのかネイサンが頭を落とした音によって、それは遮られた。
僕らはその音にビビってしまい、会話の途中だったけどヒロちゃんの背中にすぐに隠れた。
「何だ、どうかしたのか?」
ヒロちゃんが聞く。
その言葉に地面に落ちたままの頭が、カタカタと動きながら言葉を発する。
「そ・・・ちらのお子さん、い・・・今、何ていいました?」
ネイサンが乾いた声を出す。
どうにも様子が変だ。
「・・・え?あ、うん?」
カイもいきなりそんな風に言われて戸惑うというか、それに怯えいている。
だって、相手は骨人間。(しかも頭はとれているし)
「カイ。」
でも、そんな妙な雰囲気の中、ヒロちゃんの優しげな声がカイを呼ぶ。
「何か言ったのか?心配いらないから、話してみろ。」
ネイサンをカイの視界から見えないし様にしてやって、カイに目を合わせてヒロが微笑む。
それに安心したのか、カイがさっきの言葉を思い出しながら話す。
「あ・・のね。エヴァがニールティアーに会ってどうするの?って聞いたから。」
僕の視界には、頭をくっつけようとして、手元が狂って失敗しているネイサンが映る。
表情がある訳じゃないから、よく分からないけど、それが僕にはまるで、何かに焦っているか、動揺しているように見えた。
一体、どうしたんだろう?
「ニールティアーから、ディルヴァ・トゥ・マジスを返してもらうのって------」
しかし、またしてもカイの言葉は最後までいくことなく、ネイサンによって遮られた。
「ディルヴァ・トゥ・マジスッ!!!!」
今度は、彼の奇声みたいな声によって。
カタカタカタカタカタカタ
そしてそのネイサンの奇声が上がった途端に、周囲から鳴り響く骨と骨が当たる音が都を支配した。
さっきまでの、何処からともなく聞こえるような薄い音じゃない。
まるで、こちらを威嚇するような強い、そして数も増えたような音が、ファシジュの都に鳴り響く。
「ディルヴァ・トゥ・マジス・・・、何だそれは?」
異常の原因を探ろうとカイとネイサン、二人にヒロちゃんが尋ねる。
ただ、ヒロちゃんもこの異様な状況を警戒して、二人に尋ねながらも左手に持っていた剣を利き手に持ちかえた。
僕もそれに従って背中に背負っているライフルを、そうっと自分の手に持つ。
「あ・・・それはーーー」
カイがヒロちゃんの言葉に何かを言おうとするけど、いつの間にか首を体に付けていたネイサンがカイの首に掴みかかった。
「あれを知っているのかっ!?やはり、お前はあいつらの子孫なのだなっ!?あれを奪うことは許さな-------
」
しかし、ネイサンの言葉もまた言い終わることなく空気に散った。
ガシャッ!!
何故なら、ヒロちゃんが剣を真横に振って、再びネイサンの首から下の体を吹っ飛ばしたから。
体は衝撃でばらばらとなり、再び頭もゴロゴロと転がる。
さっきの不浄の大地で彼と初めて会った時と同じような光景が再現される。
二度目だし、一度目ほどの衝撃はないけど、いきなりやられるとビビっちゃうよ。
でも、今は怖がっている場合でもないので、僕は倒れこんだカイを起こしてやる。
「エヴァ。」
「え?」
僕の名を呼びながらヒロちゃんが剣を抜いて、柄をベルトに挟む。
視線は僕らに向いていない、油断ならないようにあたりを見回している。
カタカタカタカタ
音は鳴りやむどころか、もっと大きく鳴っている気がする。
「・・・走るぞ。お前はカイを守れ。」
「ちょ・・・・。」
僕が状況を把握する前に、駈け出すヒロちゃん。
慌ててカイの手を引いて、僕もそれに続く。
そして、その後ろから首だけのネイサンの声が追いかけてきた。
「そいつらは、俺達の命を奪いにきた悪魔だぁっ!殺せ、殺せぇ!!!」
ガタガタガタ・・・・ガダッ
その声に呼応するように、一層大きくなる音。
建物に隠れて、こちらを窺っていた骨人間たちが出てきて、こちらに空洞の瞳の中を一斉にこちらに向けた。
空っぽの瞳のはずなのに、どうしてかその瞳に殺気を見つけることができるのはどうしてだろう?
『私たちの命を奪うものを、ころ・・・せぇぇぇっ!!!!』
そして声を上げて一斉に襲い掛かってくる。
僕はその情景に、自分が絶体絶命であることを察した。
急に、何がどうなっているのっ!?
カイの言葉が引き金になったのは間違いないけど、それにしたってこんなに骨人間たちが襲いかかってくる理由が分からない。
カイも同じようで、ただただ目を丸くしいる。
でも、今はそれを探っている時間は、どう見てもない。
そんな混乱しかしていない頭で、ただヒロちゃんの背中だけを追った。
骨人間たちが追ってくる気配がするけど、それを見ても怖いだけなので僕はただただヒロちゃんの背中しか見ないようにした。
だって、どうせ、僕にはそれしかできない。
でも、それが、ヒロちゃんの背中に隠れていることが、逃げることが、一番安全だって僕は知っていた。
それが、どんなにみっともないことでも、生きていくためにはそれでいいのだと、ヒロちゃんに教えてもらっていた。
だから、僕に迷いはなかった。
ついに呪われた街・ファシジュの都に到着ですが、いきなり骨人間たちが襲ってきましたねぁ。さて、この後、どうなるか私もドキドキです(笑)
後半部分に差し掛かり、だんだん色々分かってきましたが、まだ分かっていない部分も多いですよね。後4.5話といったところですが、頑張ってまとめられたらいいと思っております。山はあと2つくらいです!




