第二百四十六話 講和会議の開催場所は
そもそも――と書くと語弊があるが、講和会議というのは敵対関係にある国のどちらかで開く、ということはあまり無い。無論、完全な負け戦で城下の盟を交わす場合もあるし、逆に敗戦国の人間を呼びつけて行うこともある。あるが、これは講和会議という名を借りた敗戦処理であり、現状の浩太達、つまりフレイム帝国とフレイム王国の様な完全に勝ち負けの決してない状態ではあまり無いのである。それはライム都市国家同盟とラルキア王国の戦争で、テラの街が講和会議の場に選ばれたのと同様、どれだけ片方が劣勢だとしても、だ。
「ソルバニアで講和会議を開く、ですか」
「はい、そうですわ。相手が場所の指定は任せると言って下さっているんです。何処でも良いなら、ソルバニアで宜しいでは無いですか」
「……いや、ですが……」
ソニアの言葉に浩太が少しだけ口籠る。そんな浩太に、ソニアが不思議そうな表情を浮かべて見せた。
「コータ様はイヤなのでしょうか、ソルバニアに来られるのは」
「いや、別段イヤと言う訳では……まあ、いい思い出が無いと言えば無いですが」
「わたくしと出会えた国ですわよ? いい思い出では無いですか?」
「……その前が酷過ぎましたので」
拗ねたような表情のソニアに浩太がため息を吐いて見せる。浩太的には脅され、賺され、宥められ、無理やりな条件突きつけられた国だ。いろいろあって今はそうでも無いが、軽いトラウマはある。
「……っていうか、そもそもカルロス陛下に目を付けられなかったらこんな事態になって無いんじゃないですかね、今の私達って」
気づいてしまった事実に愕然とする浩太。完全に冤罪では無いが……まあ、カルロス一世に目を付けられなかったら今より平和な生活ではあっただろう、多分。
「人の父親を悪の元凶の様に……まあ、否定は出来ませんが言うのはやめてくださいまし。そこまで悪い人間ではありませんよ、お父様も。喰えない人ではありますけど」
「それだけで十分すぎるぐらい、十分なのですが」
ため息一つ。
「まあ、私個人の感情は良いんですよ、この際。問題はあちら側、つまり王国側が乗って来るかどうか、ですね」
「なぜ?」
「ソルバニアですよ? 流石に近すぎるでしょう」
物理的な距離が、ではない。
「テラとソルバニアなんて……殆ど、同一視してませんかね、あちらは」
講和会議を行う第三国、というのは完全な『第三国』が望ましい。これは理想論に過ぎず、何処だってある程度利害が絡む以上どちらかに肩入れはしてしまうものだが……だが、流石に完全に第三者でない国でやるのは敵国でやるのと変わらないからだ。
「まあ、そうでしょうね」
ソルバニア王第十一子であるソニア・ソルバニアが居るのである、テラには。カルロス一世が最も可愛がっているとオルケナ中の諸侯の共通認識である、ソニアのいる街なのである、テラは。これでソルバニアとテラの関係を疑わない人間がいるのであればある種滑稽になるほどの阿呆であろう、その人間は。
「今更、でしょう? それに、確かにソルバニアはわたくしがいる関係で完全に『身内』扱いでしょうが……それはラルキア王国にしたってそうでしょう? ねえ、アヤノさん――ラルキアの聖女様?」
「流石に私はソニアちゃん程じゃないんじゃないかな~?」
「自己評価は結構ですわ。アヤノさんがそう思っていても……あちらさんはそうは思わないでしょうし。そういう意味ではライムも無理です。完全に、とまでは言いませんがフレイム王国側からすればこちらも殆ど身内扱いでしょうしね。そもそも、フレイム王国の味方をする国など……頑張って、ウェストリアくらいでは? そして、まさかコータ様、ウェストリアで行う講和会議、なんてものにのこのこ行くつもりも無いでしょう? もしそうなら、全面的に止めますわよ、わたくし」
「流石に自殺行為ですしね、それ。私でも行きませんよ」
鴨がネギ背負ってやってきた様なものである。
「同様の理由でローレント王国も無理ですね。ウェストリアの姫君が嫁いだ以上、一番『濃い』親戚国家ですし。まあ、そもそもローレントが会談の場所を用意してくれるとは思えませんが。あそこはあそこで今、ごたごたしているでしょう?」
「ごたごた?」
「ウェストリアの姫君――マリー様の嫁いだ第二王子と第一王子の間で政争になっていますので。人の世話をしている場合では無いです。まあ、結果は火を見るより明らかですが」
「第二王子派の勝利、ですか?」
「恐らくは。あそこの第一王子は……そうですね、王族にたる方では無かったかと。正直、『王太子殿下』と呼んでおけば事足りるので……名前も憶えておりません」
「……ソニアさん」
「まあ、廃嫡されると噂でしたので。わたくしも二回しかあった事ありませんし、それで足りました。まあ、その話はどうでも良いんです。ともかくコータ様? 既に選択肢なんて殆ど無いんですよ。ソルバニアが嫌なら、もう何処でも開くことはできませんよ、講和会議なんて」
そういってにっこりと笑って。
「ですから、書状を出してみましょう? 『ソルバニアでやるなら、講和会議は受ける。だが、それ以外なら受けない』と。それで遊びに行きましょう、ソルバニアに!!」
――ソニアの言を受けた書状の返信が『是』で来たのはそれから二週間後、浩太達の『バカンス旅行』が決定した瞬間である。




