表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
174/252

第百七十三話 私に触れても良いヒト


『――とてもお似合いですよ。エリカ『さん』』


 髪の色が違う。

 瞳の色が違う。

 体型だって、喋り方だって違う。違うのに。

 それでも、その優しい声音と優しい眼差しは、忘れようとしても忘れられない、エリカの胸の奥を高鳴らせる、聞きなれた、見慣れた、大好きな、大好きな『モノ』で。

「――あ」

 その言葉は、聞き間違いかも知れないと思う。

 その笑顔は、見間違いかも知れないと、そうも思う。

 もしかしたらこれは幻想で、全部嘘で、ただの夢で、起きたら自分はあの囚われの部屋に一人で居るのじゃないかって、そんな事を思ってエリカは自身の頬を抓る。

「……いたい……」

 痛い。

 ジンジンと、頬が熱を持つほどに強く抓って、その痛さが無性に嬉しい。

「……あら? どうされました、エリカ様? 急にほっぺなんか抓ってからに。それに、なんやニヤニヤしてはりますけど? エエことでもあったんですか?」

 小憎らしく、そんな事を言って見せる『ウェイト』。そんな姿に少しばかりむっとしながら、エリカは自身の首元のネックレスに手を――憎らしさと、それ以上の『歓喜』で震える手で外そうとする。

「……あ、あれ?」

 するも、失敗。その姿に、少しだけウェイトが肩を竦めて見せる。

「……お手伝い、させてもらいましょか? 手、震えてはるみたいですし?」

 少しだけ小馬鹿にした様なそんな態度。それすら、そんな軽口すら嬉しくて、エリカも口の端を少しだけ釣り上げて見せる。

「……結構よ。さっきも言ったでしょ? 一人以外には付けて貰いたくないって。私に触れて良い男性はこの世でただ一人だけなの。『ウェイト』、貴方じゃないわ」

 ウェイトの顔が驚きと――そして、少しの羞恥に歪む。なんだか、その表情がエリカにはとっても愉快に映った。

「……へえ。そら、随分と果報な男もいはるもんですな。羨ましい話ですわ」

「あら? 羨ましいかしら?」

「そら、そうですわ。エリカ様ほどのお美しい方にネックレスを付ける栄誉を賜るんですから。羨ましい限りですわ」

「そう? でもね? その男、私の事なんてちっとも見てくれ無いのよ? こんなに慕ってるのに、私の事はいっつも後回し。ウェイト、貴方の爪の垢でも煎じて飲ませてあげてくれないかしら?」

「……」

「隣国の王女様に、良く出来たメイド、職場の同僚に……最近はポンコツ科学者もかしら? みんなその男性の事が大好きすぎて、その男性に夢中だから。私の順番までは中々回ってこないのよね。どうしたらいいかしら、ウェイト? 私だってそのライバルたちに負けないぐらい、その人の事が大好きなのに、私の事なんて後回しなのよ?」

「……そんな事はないと思います」

「そうかな~? 私としてはもうちょっと、私を大事にしてくれたら良いな、って思うのよね? 貴方の意見はどうかしら?」

 意地悪な表情を浮かべるエリカに、ウェイトは困り顔を浮かべて見せる。そんな姿が嬉しくて、おかしくて――そして、愛おしくて、エリカは意地悪な笑顔を素晴らしいそれへと変えた。

「なーんてね? 冗談よ、ウェイト? だから、そんな顔をしないで?」

「……心臓に悪いですわ、エリカ様」

「でも、それぐらい寂しいって気持ちは理解して欲しいかな、とは思うのよね。私、今は一人ぼっちだから余計に。知ってる? 私今、クリス殿下の居た部屋にいるんだけど……あの部屋、一人だと広いから。寂しいな~って」

「……はい。その……申し訳ないですわ」

「あら? 貴方に謝って貰う必要は無いんじゃないの、『ウェイト』?」 

「……感じ悪いですわ、エリカ様」

 降参と言わんばかりに両手を挙げて見せるウェイトに、エリカが鈴が鳴る様な笑い声をあげる。『何事か?』と言わんばかりの表情を見せるクリスとニーザになんでもない、と手を振って、エリカは視線をウェイトに戻した。

「少し苛めすぎたかしら?」

「……ホンマですわ。折角、エリカ様に似合うと思うて一生懸命作らせてもろうたのに」

「そう。それは――」

 そこで、一瞬言葉に詰まる。


「――作った?」


「そうです。俺、ニーザはんと同じで根っからの商人なんですわ。せやからデザインも彫金も苦手なんですけど……ニーザはんからエリカ様にお逢い出来る、と聞いて一生懸命作らせてもろうたんですわ。アントニオはんには『材料の無駄!』言うて怒られたんですけど……ほいでも、ある程度エエもんが出来たと思いますよ? アントニオさんにも合格点、貰いましたし」

「……え? こ、これ、貴方が作ったの!?」

「そうですわ」

 そんなウェイトの言葉に、慌てた様にエリカは首元で揺れるペンダントに視線を送る。後、エリカの頬が嬉しそうに緩む姿を満足げに見つめ、ウェイトは口を開いた。

「……それとも、アントニオはんが作ったアクセサリーの方が良かったですか?」

「……ばかぁ」

 少しだけ拗ねた様に、それでも頬を朱に染めてエリカは大事な宝物を抱く様に胸元のペンダントを抱きしめる。

「……嬉しいわよ。すごく」

「それは重畳。頑張ったかいがあったちゅうもんですわ」

 そう言って、にっこりと笑って見せるウェイトにエリカの頬も緩む。

「……知ってはります、エリカ様?」

「なにを?」

「宝石には石言葉、花には花言葉ちゅうのがあるんですわ」

「……へえ」

「ペンダントトップについてるタンザナイトの石言葉は『誇り高き人』なんですわ」

「ふーん。それで? この……オミナエシ、だっけ? ペンダントのデザインに使われている花の花言葉は?」

「美人とか、親切とか、優しさとか……深い愛とかありますけど」

「ふ、深い愛!? ふ、深い愛って!」

 エリカ、顔真っ赤。手をワタワタと振って見せるそんなエリカに、ウェイトは優しい微笑みを浮かべて。


「『約束を守る』」


 そのウェイトの言葉に。


『――必ず、助けに来ます』


「――あ」


 あの日、抱きしめられて耳元で囁かれた言葉がリフレインされる。

「……そんな花言葉もあるんですよ、エリカ様」

「……うん」

「……さ! ほいじゃエリカ様? そのペンダント、ちょっと返して貰ってもエエやろか?」

「……え? か、返す? イヤよ! これ、気に入ったわ! 私、これにする! なんで返さなくちゃいけないのよ! 意地悪言わないで!」

 ウェイトの言葉に、まるで抱え込むようにエリカがペンダントを胸に抱く。その姿に苦笑を浮かべながら、ウェイトが『ちゃうちゃう』と手を左右に振って見せた。

「別に盗りはせーへんですし、意地悪ちゃいます。ようお似合いでしたけどエリカ様? ちぃーとばっかし、サイズが合ってない様に思うんですわ。いやー、ちょっとチェーンの部分を長くし過ぎたんちゃいますかね?」

「……え?」

「やっぱり、もうちょっと高い位置で輝いていた方がよう似合いますから。どないでっしゃろ? 少しばかりそのアクセサリー、手直しさせて貰って……十日後くらいにもう一度、王城の方に寄らせて貰われへんですかね?」

 絶望に染まっていたエリカの顔が、ウェイトの言葉に緩み――そして、少しだけ残念そうなそれに変わる。

「……十日後、か……」

「……ご都合、悪いですかね?」

「……ううん。そんな事はないけど……長いな~って」

「……色々準備もありますさかい。申し訳ないんですけど」

「……ううん、こちらこそ申し訳ないわ。そうね。分かりました。それでは十日後、待っています」

「かしこまりました、女王陛下」

 そう言って、恭しく一礼。芝居掛かったその演技にエリカが先程の焼き直しの様にクスリと噴き出す。

「ん~? エリカ様、決まったか~?」

 そんなエリカの仕草を遠目で見ていたクリスから声が掛かった。

「ええ。私は決まったわ。でも、少し直しがあるから……十日後、もう一度来て貰いたいんだけど、いいかしら?」

「お! なんや、丁度エエがん! 私もエエのあったんじゃけど、ちょっとサイズが大きすぎてな? 直し入れて貰おうと思うとったんじゃ。ニーザ、十日で出来るかいの? ちゅうか、出来るじゃろ?」

 クリスの言葉に、小さく溜息。やがてニーザはゆるゆると首を縦に振った。

「……ダメって言ってもやれと仰るでしょ、殿下は。本当に我儘なんですから」

「まあ、摂政殿下じゃけんの。この国で二番目の権力者じゃで? 我儘も言うわ。ちゅうか、我儘って不敬じゃぞ?」

「これは失礼。ですがまあ、これぐらいは勘弁願えれば」

「私とニーザの仲じゃし、それは構わん。じゃけん……」

「……はあ。分かりました。それじゃアントニオにはそう申しつけておきます。それじゃウェイト? そっちもそれでいいかい?」

「はいな。大丈夫でっせ」

「わかりました。それでは十日後、またお邪魔致します」

 そう言って丁寧に頭を下げるニーザの後ろで、ウェイトも頭を下げた。


◇◆◇◆


「……戻りました」

 ホテル・ラルキアの最上階にあるスイートルーム。五階建てと相応の高さがあり、ラルキアの街を一望できるその部屋にいた女性たちは、戸口から聞こえて来た男の声に一斉に視線をドアに向ける。見目麗しい女性たちの注目を一身に浴びる、という、ある意味では羨ましく、しかしあまり体験したくないであろう行動を受けても男は動じることなくにっこりと微笑みを浮かべて見せた。

「それほど注目を集めると照れてしまいますね」

 加えて、軽口を一つ。そんな男の言葉に、部屋の最奥のソファに腰かけていた女性がふんっと鼻を鳴らした。

「なにが『照れてしまいますね』だ、このバカが。誰もお前になんか注目してなどいない。さっさと結果を言え」

「……言ってみれば『敵地』から無事帰って来た様なモンですよ? もうちょっと優しくしてくれても罰は当たらないんじゃないんですかね、シオンさん?」

 そう言って肩を落とす男――ニーザに、もう一度ふんっと鼻を鳴らすシオン。

「お前が十日前に自分で言ってただろうが? 『たぶん、危険はないですので心配いりませんから』とな。なら、心配なんぞせん」

 あんまりといえばあんまりのその扱いに、思わずため息を漏らしそうになって――そして、気付く。

「そ、その、ニーザ様! え、エリカ様は、エリカ様はご無事でしょうか!」

 そう言いながらがぶり寄りで詰め寄ってくるエミリに、思わずニーザが一歩体を引く。美人の必死な形相は怖い、なんて益体もない事を考えながら、ニーザはどうどうとエミリを手で制した。

「安心して下さい、エミリさん。エリカ様は無事……と言っていいのかどうか分かりませんが、ともかく元気そうではありました」

 その言葉に、腰が砕けたかのようにその場にへたり込みそうになるエミリを慌てた様に綾乃が支え、そのままニーザに対して口を開く。

「……んで? ニーザだけなの、帰って来たの?」

「コータさんは今は地下の大浴場ですよ。この季節とはいえ、服に詰め物をしていたので汗だくらしいので。ご心配なく、こちらも無事ですから」

 ニーザの言葉と同時、部屋のドアが開く。自身にあつまる視線に少しだけぎょっとしながら、それでもニーザ同様、笑顔を浮かべて浩太が室内に足を踏み入れた。

「戻りました、皆さん」

 風呂上がりだから、若干湿り気を帯びた黒髪と柔和な笑顔。これだけの視線を集めながら、それでもいつも通りの浩太の姿が――

「浩太、目」

「目?」

「カラコン、入れっぱなしよ。黒髪に青目って、なんか凄い不気味……ああ、欧米人でもそういう人はいるか。んじゃ浩太が似合わないだけね」

「……酷い言われようだな、おい」

 綾乃の言葉に顔を顰めながら、それでも彼女の指示通り浩太は自身の目からコンタクトを外すと、コンタクトケース代わりに用意された水の入ったコップにそれを入れる。黒目に戻った浩太を満足げにうんと一つ頷いて見やり、綾乃は口を開いた。

「うん、やっぱり薄い醤油顔の純日本人的な浩太には黒髪黒目が似合うね」

「あれ? バカにされてる?」

「褒めてんのよ。それとももしかして、気に入ったの、それ? つけっぱなしだったし」

「いや、別に気に入った訳じゃない……と言うとアリアさんに失礼だけど。ただ、このカラーコンタクト、目の中に入れていても全然違和感ないんだよな」

 そう言ってカラーコンタクトの入ったコップをピンと人差し指ではじいて見せる浩太。その姿を見ながら、シオンが小さく胸を張る。

「どうだ? 役に立っただろう? お前は『そんなもの探してなんになる』とか言ってたが。褒めてもいいんだぞ? うん?」

「まあ、命を懸ける程のモノでもないとは思いますが……でもまあ、はい。正直、助かりました」

 シオンに向かって頭を下げて見せる浩太。横目でそんな浩太を見やり、綾乃は視線をシオンの座るソファの隣、サイドテーブルに乗せられた一冊の本に向ける。

「……なんだったかな、ソレ?」

「ソレとは……ああ、アレイア文書か?」

「そう、それ。なんだっけ? アレックスの発明品の数々が載っているんだっけ?」

「そうだ。アレイアの遺産にしてもそうだし、様々な兵器や乗り物まで載っている……らしい。凄いだろう?」

「本当に凄いわね」

 溜息一つ。



「……まさか、染毛剤とカラコンの作り方まで載ってるとは思わなかったけど」



「アレックス帝は偉大な皇帝とはいえ、一人の人間だ。いつもいつも皇帝では気も張るだろうし、変装して遊びに出てもまあおかしくは無かろう」

 そう言ってサイドテーブルから持ち上げた本を二、三度振って見せるシオン。リズの母親であるアンジェリカ然り、リズの従姉妹であるジェシカ然り、この国の王族の放浪癖はある種アレックスからの伝統といっても良いのだろう、なんて、しょうもない事が頭に浮かんだ浩太はその考えを拭う様に頭を左右に振り、言葉を発した。

「アレックス帝云々はともかく、助かったのは事実です。エリカさんともお逢いする事が出来ましたし」

 ぐるりと室内を睥睨して放った浩太の言葉に、室内にいる全員の顔に安堵の表情が浮かぶ。が、それも一瞬、訝し気な表情を浮かべたまま綾乃が手を挙げた。

「ええっと……それで? 王城内はどんな感じだったの?」

「私たちが王城内に間借りしていた時と警備の雰囲気は然程変わった様には思えなかったな。まあ、近衛じゃなくてウェストリアの人が警備についている点が違うけど……少なくとも、厳戒態勢って感じでは無かった」

「……いいの、それ? 普通、クーデター後ってもうちょっと戒厳令的なモノが布かれてるイメージなんだけど?」

「……だよな? 俺もそう思って少しだけ緊張したんだけど……なんなく通されたから。これもロート商会のご威光かな?」

 そう言ってチラリとニーザを見やる浩太に、左右に首を振る事でニーザは答える。

「別にロート商会だから、という訳ではありませんよ。先日も申しましたが、今、王城内では消費されている物品が多いんです。生活必需品はともかく、服や靴、お菓子、本なんかの嗜好品は直接クリス殿下の所まで持っていく事が多々あるんですよ。商人仲間では有名ですよ? 『今の王城は何持って行っても買ってくれる』って」

「……お得意さまですね」

「しかも支払いも渋らないし、値切りもしないんですよ。変な話……」

 そこまで喋り、チラリと室内を見渡すニーザ。

「ええっと……陛下とアリアちゃんは?」

「アリアちゃんと陛下はホラ、そのカラコンと浩太の髪染め作るので徹夜してたから。今はお昼寝中よ」

「……仮にも一国の女王陛下に何させてるんですか、アヤノさん?」

「私が言ったんじゃないわよ? シオンが……」

「陛下が自分から言ったんだ。『私にもなにかさせて下さい!』とな。実験系は私にさせるのを嫌がるからな、アリアは」

「……」

 シオンの『前科』を知っているだけにニーザも言葉もない。きっとクラウスも全力で止めたんだろうな~なんて考えながら、言葉を継いだ。

「それでは言っても良いですかね? 正直、今の……『クリス政権』とでも言いましょうか。クリス政権は、商人仲間では非常に人気があります」

「ロッテ翁の時代に節約や倹約が尊ばれていたからか?」

「です。正直、我々としても懐が潤うのは有り難いですから。特に九人委員会のメンバーは……」

「通貨の件が白紙撤回だからな。伝統も守ったと大喜びだろう?」

「……シオンさんの前では言い難いのですが」

「構わんさ」

 なんでもない様にそう言って、煙草をくわえる。美味そうに紫煙を吐き出したあと、シオンは言葉を続けた。

「クリス殿下のやり方は巧い方法ではある。ロッテ翁の政策の多くは、商人達には厳しい物が多かった。一気にタガが緩めば人気も出るだろうしな」

 白河の、ではないが、人間は理想と清貧だけでは生きてはいけない。田沼意次がただの金権政治屋だったか、紙幣経済の導入を推し進めた経済上の偉人かの議論は省くが、政治家が手っ取り早く人気を獲得する方法はカネをばらまく事にあるのは、古今東西歴史が証明していると言ってもまず異論は出ないだろう。

「上客であれば文句は言いませんから、商人は。陛下の前では言えませんが、今のクリス政権を指して『過去例を見ない理想的な政治』という声もあるんですよ。実際、幾つかの商会は巨額の利益を得ていますので。ただ……決してフレイム王国の財政も隆々では無いと思うんですよね。こないだの海上保険の時にフレイム王国の収支も見ましたけど、今のままじゃ破綻するんじゃないかって」

「……ふむ」

 ニーザの言葉に、シオンも沈痛な表情を浮かべて見せる。空気が重くなる気配を察し、綾乃が慌てた様に声をあげた。

「ほ、ほら! フレイム王国の財政に関しても大事だけど、今は別に考える事もあるでしょう! 浩太! エリカはどうなの?」

「あ、ああ! エリカさんとは取りあえず、十日後にもう一度逢える事になってる。それまでに何とか王城内から脱出できないか、って思ってるんだけど……どうですかね、シオンさん? こないだ使ったみたいな、王城内で脱出出来そうな抜け道ってもう無いですかね?」

「ない事も無いだろうが、殿下の部屋からは幾分遠い。その間にエリカ様とコータが抜け出せる可能性は非常に低いし、リスクも高いな」

「……一応聞きますけど……クリス殿下の居た部屋に抜け道があったりは……」

「あると思うか?」

「……ですよね」

『人質』であるクリスの部屋に抜け道があった日にはそれこそ大問題になる。暗に目だけでそういうシオンに、浩太が肩を落として。



「――わたくし、気に入りませんわ」



 浩太の耳に、そんな声が聞こえてくる。慌ててそちらに視線を向けると、シオンとは部屋の対角線上に置かれたソファに座ったソニアの姿が目に映った。

「……ソニアさん?」

「先程から聞いていれば、逃げるだの脱出するだの……後ろ向きな話ばかりですわ」

「あー……ソニアちゃん? いや、そりゃあんまり気分が良いもんじゃないだろうけどね? でも、だからと言ってエリカをあのまま王城に残して置く訳には――」

「何をいっているのですか、アヤノさん」

「――いかな……へ?」

「エリカ様を王城に残す? そんな事、認めませんわ。皆で仲良く、テラに帰るんです。あそこがわたくしたちの暮らす場所です。一人エリカ様を王城に残して置くなど、そんなもの認められないですわ」

「ええっと……」

 ソニアの言葉に、綾乃が頭に疑問符を浮かべる。そんな綾乃を、ソニアは微笑みを持って見やって。


「――王城を出るときは、コソコソと逃げる様な事はしません。堂々と、正門から出ましょう」


 そう言って、視線を室内に睥睨させて。


「その方法も、あります。まあ、尤も」


 一息。




「……皆様に、その『覚悟』があれば、ですが?」




こんな引きですが済みません、来週は更新難しいかも。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ