第百四十一話 暴走モード、シオンさん。
戦国乙女を打ってきました。なんだか連チャンかかってアレよアレよと言う間にエピソードの『終幕』まで行ったんですね。結構感動的というか、切ないというか、ともかく良いエピソードだったんです。だったんですが。
――隣の知らないおじさんが覗き込んで涙ぐんでた。
目が合ったら慌てて目を逸らされました。見て頂いても全然構わなかったんですが……まあ、中々に得難い体験でした。
さて、来週ですが色々と飲み会の予定が詰まってまして更新厳しいかも知れません。『魔王は聖母に祈らない』は更新予定ですが……フレイムは再来週になるかも。楽しみにして頂いている方には申し訳御座いませんが、お待ち頂ければ幸いです。一応、頑張りますので!
「……なるほど。アドルフ殿は賛成はしないと……そう言われましたか」
手痛い『敗北』を喰らった浩太とシオン、立ち直れないシオンを部屋に帰し、浩太は一人ロッテの下を訪れていた。基本、『忙しい人』であるロッテへのアポ取は難しいと思っていたが、予想に反してすんなりとアポが取れて面談の運びと相成った。
「ええ。申し訳御座いません、ロッテさん。アプローチの仕方も不味かったのですが……」
「いえ……ええ、『いえ』です。徹頭徹尾、私の見通しの甘さが招いた事態でもあります。ホテル・ラルキアでの貴方の『ご活躍』をお聞きしておりましたから……或いは、と思ったのですが」
「……お恥ずかしい話ですが……恐らく、私も心の何処かで『そう』思っていたのでしょう。正直、『断られる』ことを想定すらしていませんでした」
ロッテの言葉に、浩太も小さく唇を噛む。
今回の『敗北』で、初めて浩太もホテル・ラルキアには関しては見通しの『甘さ』もあった事を悟った。確かに『難しい』案件ではあるが、クラウス、エルの全面的なサポートもあり、加えて自身の『働き』でホテル・ラルキアの窮地を救ったという自負もある。あまり良い言い方では無かろうが、ある程度『お付き合い』をしてくれるのでは無いだろうか、という見通しもあったのだ。
「……仕方ないでしょう、それは。貴方だけのせいではありません」
そして、ロッテにしてもそれは同じ事だ。浩太の業績は十分把握していたし、よもやけんもほろろにアドルフが断るとは思っていなかった所もある。
「……シオンのせい、ですかな?」
「……そうではありませんよ。これは私の責任です」
提案自体はシオンのモノではあるが、シオンの弁に反論を挟まなかったのは浩太だ。浩太自身、シオンの提案を『良い』と思った以上、誰が喋ったかというレベルの話に過ぎない。
「……『アレ』を庇って頂けるのは身内としては有り難い事ですが、あまり関心せんやり方ですぞ?」
「事実ですから」
「そうですか。それではそういう事にしておきましょう」
そう言ってロッテがふむと頷き顎に手を置いて瞑目を始める。時間が止まった様な感覚の中、耐えきれない様に浩太が口を開いた。
「……それで、なにか対策はありますか?」
「対策、ですか?」
「ええ。例えば……そうですね、他の九人委員会を説得する、とか」
「難しいですね、それは。残りの四つについては端から説得する事すら考えていません。無論、幾つかメリットを提示すれば交渉のテーブルに付く事はあるかも知れませんが……」
そう言って、溜息一つ。
「……元々、九人委員会は既に手元に唸る程の『富』がある先ばかりです。今更、こちらが提示できるほどの……『小銭』の様なメリットでは、乗っては来ますまい」
「……『大銭』では?」
「それなら紙幣導入自体を諦めた方が良いでしょうな。私は紙幣発行を行いたい訳ではない。このフレイム王国の財務を改善したいのですから」
財務改善の為に紙幣経済の導入をしたいのであり、改善効果以上の『メリット』を提示しなければ出来ないのであれば、そもそもする必要がない。紙幣経済は手段であって、目的では無いのだ。
「……では、諦める、と?」
「そうは言っておりません。無論、簡単に出来る事では御座いませんが……そうですな。今度は私が直接、アドルフ殿とお話をさせて頂きます」
「……」
「ああ、先程も申しましたが、貴方がたが『不甲斐ない』から私が出張る訳ではありません。嫌味でも皮肉でもなく、貴方のお陰で此処まで来れた事は間違いないのです、松代殿。ですから……そうですな。これは『身内』が失礼な事を言ったことに対する『侘び』ですよ」
そう言って首を左右に振って見せるロッテに、少しだけ驚いた表情を浮かべる浩太。そんな浩太の表情の変化に、ロッテが訝し気な表情を浮かべて見せた。
「なんですかな?」
「いえ……本人を前にこういうのはアレですが……失礼を承知で言えば、『優しい』な、と」
「……ああ」
浩太の言葉に苦笑を浮かべるロッテ。
「勘違いをされておられるかも知れないですが、私自身は別に冷たい訳ではありません。敵には厳しいと自負しておりますし、ヘマを打った身内にも厳しいですが……貴方の御尽力には頭を下げるほかないですからな」
「……具合でも悪いんですか、ロッテさん?」
「……シオンの様な事を仰らないで欲しいですな、松代殿。元気ですよ、私は」
そう言って小さく溜息。
「……まあ、幾つか腹案も御座います。これから先は私が案件を引き継ぎます。早急にアドルフ殿にはアポ取を願うとしましょう」
「忙しい、と仰っていましたが?」
「貴方であればアドルフ殿もそう仰るでしょう。ですが、私は仮にもフレイム王国の宰相です。なんとでもなりますよ」
「……そうですかね?」
『国王ですら、予約が無ければ宿泊出来ない』と言われるホテル・ラルキアの最高権力者だ。先約を破棄してまで、面談をしてくれるとは思わないという浩太の表情にロッテは苦笑を一つ浮かべて見せる。
「アドルフ殿は義理堅い方ですからな。無論、先約があれば難しいでしょうが……ですが、松代殿? どんな事にも『抜け道』はあるのですぞ?」
「抜け道?」
「まあ、その辺りはどうでも宜しいでしょう。ともかく、後はこちらで何とかさせて貰います。ああ、どういう形になろうともこの『恩』はテラ領に何らかの形で還元させて頂きますのでご心配なさらず。松代殿。今回は本当に、ありがとうございました」
そう言って深々とロッテは頭を下げて。
「――後は、私の仕事です」
上げた顔にはニヤリとした笑みが浮かんでいた。
◆◇◆◇
――正直、ちょっとだけ嫌な予感はしていたのだ。
「あああああああ! ムカつく! 本気でムカつく!」
「ちょ、ちょっとシオン! 何時だと思ってるのよ! 怒られるって! リズに白い目で見られるから!」
「白い目でもなんでも見て貰えば良かろう! なーにが『失恋した事があるかな?』だ! なんで上から目線であのような……くぅー! ムカつく! 本気でムカつく!」
「……なんですか、この惨状は?」
「あ! こ、コータ! 違うの! これは違うの!」
ロッテの執務室を後にし、王城内の自室に帰って来た浩太。部屋の扉を開ける前、それどころか廊下を歩いている所から聞こえて来ていた『その声』に、自室に闖入者がいる事は大体分かっていた。分かっていたのだが。
「……あのですね? 別に飲むなと言うつもりは無いのですが、せめて『綺麗に』呑んで貰えませんかね?」
部屋の室内に転がった酒瓶。
テーブルの上に散乱した空き皿。
開けた瞬間、スモークが焚いてあるのではないかと見間違う様な真っ白な煙と、灰皿の上で山盛りになっている吸い殻。
「……これ、酒盛り終わった所ですか?」
まるで、自室で開いた飲み会の翌日の朝の様な惨状に、知らず知らずの内に浩太は小さく肩を落とす。潔癖ではないが、どちらかと言えば綺麗好きな浩太的には目も眩むばかりの、そんな惨状。
「……なにが有ったんですか、これ?」
「え、えっと……ちょっと話があってコータの部屋を訪ねたのね?」
「……」
「ノックしたら、中から『どうぞ~』ってシオンの声が聞こえて、それで部屋に入ったら……その、この『惨状』で」
「……ああ」
「シオンに何聞いても『フラれた事が無いのが、そんなに悪いのか!』しか言わないし……」
「……放って置いて帰れば宜しかったのに」
「……流石にあの状態のシオンを放って帰ったらコータも大変かな~って……」
エリカのそんなやさしさに、思わずホロリと来た浩太がエリカの頭を優しく撫でる。『はうあ!』なんて声をあげてエリカが顔を真っ赤にした辺りで、浩太はシオンに視線を向けた。
「……で? なんですか、シオンさん? この惨状は」
「だから――ん? おお、コータ! 良く帰って来たな! さあ、飲もう!」
随分な酒量を呑んでいるのであろう、顔を上気させ、目をトロンとさせてシオンがコータの姿を見つけるとその頬をだらしなく緩める。そんな姿になんだか頭痛がして来た浩太が痛む頭を二、三度振った。
「……ねえ、コータ?」
「……なんです?」
「その……一体、何があったの? シオンも随分怒ってるみたいだけど……」
服の端をくいっと引っ張りながら、首を横に傾けてそんな事を聞くエリカ。そんなエリカの姿に、浩太が小さく肩を竦めて見せる。
「先程、アドルフ会長の所に行っていたんですよ。例の紙幣の件の賛成を求める為にお邪魔したんですが……その場でアドルフ会長にシオンさん、『貴方、フラれた事が無いでしょう?』と言われまして……それが、余程悔しいみたいですね。この惨状を見る限り」
「……待って? どういう話の展開で、紙幣の話からそんな話になるの?」
首を捻り、全く理解できないという顔を見せるエリカに浩太は小さく苦笑をして見せた。
「私達の提案が、その……なんでしょう? 相手に対して全く『思いやり』が無い提案でしたので」
浩太の言葉にエリカが『貴方が?』と言わんばかりの驚いた表情を浮かべて見せる。
「……貴方、半分はやさしさで出来ているんじゃないの?」
「頭痛薬じゃないですよ、私」
エリカの声に苦笑の色をより濃くし、浩太は言葉を継いだ。
「言い方があまり宜しくありませんが、正直私はアドルフ会長……いえ、ホテル・ラルキアに一つ『貸し』があると思っていました。時間もあまり豊富に残されている訳ではありませんでしたので、つい……早急な解決策に走ってしまいました」
銀行は四半期、半期、或いは通年という単位で従業員に所謂『ノルマ』を課す銀行が多い。公共性が高いと言われてはいるが、それでも儲けてなんぼの『営利』企業である以上、当然とも言えるであろう。クレジットカードの獲得、投資信託、個人のローン取引、事業性資金と呼ばれる法人向け融資などが代表的なモノになる。
「……失敗しましたよ、ホント」
期末になると銀行員は毎日の様に未達成項目の達成に向けて駆けずり回る。懇意にしているお取引先に出向き、従業員のクレジットカード取引の推進、余裕資金があれば投資信託購入のお願い、事業性資金の融資獲得などに頭を下げる事になり――『先日無理を聞いて貰ったし、今度はこちらがお付き合いをしてあげようか』と言って下さる先に行きがちになるのはまあ、ご理解頂けると思う。
「見通しが甘かったですね」
「……コータ……」
ある程度、『お願いセールス』でも達成できるのではないかと思っていた見通しの甘さ。結局、今回の敗因はこれに尽き……そして、それは浩太自身のせいである事は浩太だって十二分に自覚しているのだ。今更言っても後の祭りではあるが、他の案件に掛かっている合間に、何かしらホテル・ラルキアを『口説き落とす』策を練る事だって出来た筈なのである。
「……それじゃ、アドルフはダメだったって事?」
「そうですね。賛成を引き出すほどの論陣を張れませんでした。先程、ロッテさんにお逢いして来ましたが……後はロッテさんにお任せする事になりました」
浩太とて内心忸怩たる物はあるが、自身のミスに起因する以上仕方ない。肩を落とす浩太に、エリカは明るさを心持プラスして言葉を掛ける。
「ほ、ホラ! コータ、そんなに落ち込まないの! コータ、いっぱいいっぱい頑張ったし! 後はロッテに任せよう? きっと、巧くやってくれるって!」
ね! と笑顔を浮かべるエリカ。その姿に、先程よりも苦笑の色を濃くし――そして、一度躊躇をして見せた後、浩太はゆっくりと口を開いた。
「そうですね。後はロッテさんに託すしかないのですが……ですが、それはそれでちょっと腹立たしかったりするんですよね」
「……なんでよ?」
「だって……ほら、失敗した後始末をして貰うのって……格好悪くありません?」
そう言って、憮然とした表情をして見せる浩太。その姿をポカンと見つめた後、エリカが小さく噴き出した。
「ぷっ……なによ、それ?」
「まあ、アレです。ちょっと拗ねて見ました」
「もう、コータ? そんな仕方のない事を言わないの。子供みたいよ?」
「ロッテさんやアドルフさんから見ればまだまだ子供なんでしょう、私も」
「ふふふ。それじゃ子供のコータ君? お姉さんが『よしよーし』ってして上げましょうか?」
並み居る強敵を前にしても胸を張って堂々と、或いは飄々と受け流しながら、何時だってエリカを引っ張ってくれていた浩太の、何時にない子供っぽい、拗ねた、可愛らしいその態度に、なんだか浩太との距離感が一層縮まった気がして嬉しくなったエリカがそんな軽口を叩く。そんなエリカの態度に呆気に取られたのは一瞬、浩太がニヤリと口の端を歪めて見せた。
「……そうですね。それじゃお願いしましょうか?」
「…………へ?」
「どうしたんです? 『よーしよし』ってしてくれるんでしょう? どうしましょう? 私とエリカさんでしたら身長差がありますし……頭、下げましょうか?」
「あ、いや……そ、その……そ、それは、じょ、冗談っていうか……」
「冗談? いやいや、エリカさん? 折角楽しみにしてたのに、それは酷いんじゃないですか?」
「た、楽しみって――そ、それは……」
「さあ、お願いします」
どうぞ、と言わんばかりに浩太が頭を下げて見せる。珍しく意地の悪い笑顔を浮かべて見せる浩太に、少しだけむっとしたのか、頬を赤く染めながらも軽くエリカが浩太を睨む。それでも表情を変えない浩太に呆れて、諦めた様に溜息を一つ、エリカはその場に腰を降ろした。足と足の間にお尻を落とす、俗にいうぺたん座りで。
「……エリカさん?」
「……そのままじゃまだ頭が高いわよ。背伸びしたら足が痛いし……ほ、ホラ! 頭撫でてあげるから……す、座って、此処に頭乗せなさい!」
そう言ってぺチペチと両手で叩く。
「…………え?」
――自身の、太ももを。
「ひ、膝枕してあげるわ! これなら撫で易いし……それに、『子供なコータ君』には頭を撫でるだけじゃ足りないかも知れないでしょ?」
頬を赤く染めたまま、それでも『ふふん!』とばかりに心持強気に微笑んで見せるエリカ。年下の女の子の、精一杯の背伸びの姿勢の様に見えて、その姿は非常に可愛らしいモノである。モノではあるが。
「……そうですね。それではお願いしましょうか?」
――なんだか、此処で狼狽えたら負けな気がする。
一体何と戦っているのか、浩太の頭の中でそんな言葉が流れた。まあ、年下の女の子、しかもどちらかと言えば『守って来た』エリカにそんな事をされると、浩太の片隅にある『男の子としてのプライド』的なモノが刺激されるというモノだ。
「……へ?」
対してエリカは狼狽えるターン。どうせ浩太の事だ、『なにをやっているんですか、エリカさん』なんて、何時もの優しいあの感じで止めてくれると思っていたのに、存外に乗り気の態度だ。まあそうは言っても此処で『じょ、冗談よ、冗談!』って言うのはなんだか女が廃る気がするし……そもそも、役得でもある。女は度胸! とばかり、エリカに背を向けて座り、そのまま体を倒して迫り来る浩太の後頭部を優しく太ももで受け止めようと、エリカが少しだけ背筋をピンっと伸ばして――
「――そういう事は二人っきりの時にやれっ!」
――シオンの声に、倒しかけていた体を起こす浩太に、下半身の力だけでぴょんっと立ち上がって見せるエリカ。少しだけ照れ臭そうに頬を掻いて明後日の方を向く二人に、シオンが胡乱な瞳を向けた。
「……あのだな? 確かに仲良き事は良きことだとは思う。思うがな? 普通、傷心の友人が訪ねて来て、酒を飲んで管を巻いているんだぞ? もうちょっとこう……あるだろう? それを……お前らと来たら、私を放って置いて二人でイチャイチャしやがりやがって! 拗ねるぞ!」
「えっと……その……」
「なんだ! 謝罪なら聞かん!」
「いや、謝罪は……ああ、いえ、謝罪もなんですけど……」
そう言って、言い難そうに浩太が自身を指差し、その後その指をシオンに向ける。
「………………友人?」
「本気で拗ねるぞ、お前っ!」
「ああ、す、済みません。いえ、その……た、確かに友人ではあるのでしょうが……なんでしょう? シオンさんからそう言われると、なんだか反発したくなると言いましょうか……どちらかと言えば、私達の関係性は加害者と被害者と言いましょうか……巧く言えないのですが」
「巧く言わんでいい! なに? なんだ? じゃあお前は、私の事を友人だと思っていなかったのかっ!」
シオン、吠える。そんなシオンを同情的に見やり、少しだけ非難の籠った視線をエリカは浩太に向けた。
「……その、コータ? 今のは流石にシオンが可哀想だと思うわよ、私」
「ち、違うんですよ。友人だとは思っているんですか……こう、なんでしょう? シオンさんに『私達、友人だよな!』と改まって言われると……エリカさんも思いません?」
『俺達、友人だろう? 親友だろう! 心の友よ!』とガキ大将に言われる眼鏡君の心境なのだ、浩太的には。
「……どうしよう。なんとなく、分かる気がする」
改めて言われると分からんでもない。そんなエリカの曖昧な肯定の発言に、シオンがますますヒートアップし出した。
「お、お前らはっ! 酷い奴らだ!」
「す、済みません」
「ご、ごめん」
「ふん! 謝っても許してなどやらん! そもそもだな! なぜ私が此処で酒を飲んでいるか、まず最初に聞くのが筋だろうが! それを二人でまあ、イチャイチャイチャイチャしやがってからに……」
「……そもそも、不在の人の部屋で勝手に酒盛りしているのがどうかと思いますが……」
「なんか言ったか!」
「……いえ、何も。どうぞ、お話をお続けください」
負い目もあり、何となく低姿勢な浩太にふんっと鼻を鳴らし、シオンは言葉を続ける。
「最初からそう言えば……ふん! まあいい。ともかくだ! あの時は場の空気に負けて、なんとなく『ああ、私に優しさが足りなかったのかな?』とか思ったが……よく考えて見ろ! なんで私がアドルフ殿に上から目線で『お前、男にフラれた事ないんだろう? 人生経験浅いんだよ』なんて言われなくてはいかんのだ!」
「別にそこまで言っては無かったと思いますが……」
「言ってた! コータだって分かるだろう!」
まるで刺すようなシオンの言葉に、浩太も言葉に詰まる。シオンの言っている事も分からんではない。はっきりと言葉に出して言っては無いが、ようは人生経験の違いを諭されたのには間違いはないのだから。
「……まあ、確かに? 私にだって泣き所はある。アリア程では無いにしろ、私だってラルキア王立大学にはスキップで入学したクチだし期待もされていた。そもそも私は『学ぶ』事が好きだったからな。色恋沙汰に現を抜かしている暇など無かったんだ」
「……ああ。そう言えば言ってましたね、世界に恋してるとかイタイ事を」
「イタイって言うな! ともかく! アドルフ殿の言った事も一理ある。私には『そちら』方面の知識が圧倒的に足りてない。フラれた事どころか、男性と親しいお付き合いすらした事がない。社交界に出ても、浮いた噂の一つもないしな」
「……よく考えたら凄い事よね、それ。シオン、結構美人なのに」
「自分だって無いだろうが、エリカ様」
「それは……そうだけど」
「まあ、言っている意味は分からんではないがな。エリカ様は王族の一員、しかもピカピカの王女様だ。軽い気持ちで火遊びに誘うには恐れ多い。そういう意味では私の様な平民出の方が声を掛けやすいのは掛けやすいだろうし……後腐れなく済むからな」
「そ、そういう意味で言った訳じゃ無いわよ!」
「分かっている。だが、事実ではある。まあ、それは良い。ともかく! このままでは私の、このシオン・バウムガルデンの沽券に関わる! 『アイツ、恋愛した事ないんだって~』と言われるのは中々に業腹ではあるし……そもそも、『知らない』事があるのはやはり不愉快で、我慢できない事だ!」
「……ええっと……それで? 結論はなんですか?」
浩太、イヤな予感しかしない。そんな浩太の心情を知ってか知らず――まあ、間違いなく知らないのだが、シオンはにこやかな笑みを浮かべて。
「だから、コータ! 明日、私とデートをしろ! 楽しく遊んで――それで、私をこっぴどく『フッて』くれ!」
バカみたいな事を、言いだした。




