第百七話 ロート家の兄弟
ついに……一千万PV突破です! やった! 目標低いと言われそうですが、これを一つの目標に頑張っていましたので今回はマジ嬉しいです! これもお読み頂いている皆様のお陰、本当にありがとうございます!
「大変申し訳御座いませんでした!」
「……悪かったな、兄ちゃん」
浩太の頭にまるで吸い込まれる様に宝石の原石がクリーンヒットして、しばし。『ボロイ』と称された小屋の中で頭を下げる大人二人に、浩太は小さく手を振って応えて見せた。
「ああ、いえ……大丈夫です」
細身のダンディなオジサマと、刺青入りの熊みたいな男に揃って頭を下げられるなんてちょっと珍しい体験をしながら浩太は小さく頭を掻いていた。ちなみにオデコには水で濡らした冷えたタオルを置いていたりなんぞする。
「……まあ、その、なんだ。俺が悪かった。つい『かっ』となって石なんか投げちまってよ? 傷が残る様だったら教えてくれ。俺に出来る事はさせて貰うから。貰うんだけど……」
言外に『お前、誰だよ』と言わんばかりの熊男の視線。その視線を受けて、浩太はゆっくりと額のタオルを取った。
「申し遅れました。私、松代浩太と申します。ロンド・デ・テラ領に御厄介になっている……まあ、食客みたいなモノでしょうか?」
「大川綾乃です。私も今はロンド・デ・テラでお世話になっています」
「マツシロ・コウタにオオカワ・アヤノ……なんだ? 珍しい名前だな。この辺りの人間じゃねーのか?」
「私たちはヤメート出身なんです。ですのでこの辺りでは珍し――」
「って、あーーー!」
浩太の言葉を遮る様、ダンディ男が大声を上げる。その声に熊男はめんどくさそうな視線を向けて口を開いた。
「うっせーんだよ、エンリケ。なんだよ? 大声あげて」
「コータ・マツシロにアヤノ・オオカワ!? あの、『ロンド・デ・テラの魔王』に『ラルキアの聖女』ですか!? も、申し遅れました! 私、ラルキアで宝石や貴金属、それにアクセサリーの商いなどをしております、ロート商会のエンリケ・ロートと申します! 以後、以後、お見知りおきを!」
少しばかり興奮した様子で浩太と綾乃に詰め寄ろうとするダンディ男。鼻息の荒いその姿に、さしもの綾乃をもってしても少しばかり怖いモノがあったか、喉奥で『ひぅ!』っと小さな悲鳴を上げて一歩後ずさる。そんな綾乃を庇うよう、浩太がダンディ男と綾乃の間に体を差し入れた。
「ぜひ! ぜひお見知りお――くぺっ!」
「興奮しすぎだ、エンリケ。おら! お嬢ちゃんがビビってるだろうが。つうか、なんだ? お前ら、そんなこっぱずかしいあだ名が付いてんのか?」
エンリケ、と名乗った男を後ろから羽交い絞めしながら、面白そうにそんな事をのたまう熊男。危機は取り合えず去ったと判断した浩太はその言葉に、少しだけ照れ臭そうに頬を掻いて肩を竦めた。
「正直、私自身もちょっと恥ずかしいのですけどね」
「だろうな。俺だったら街、歩けねーぞ?」
そう言ってガハハと笑い、綾乃に視線を向ける熊男。
「おう、嬢ちゃん。悪かったな、ビビらせてよ」
「ええっと……その……」
そんな熊男に遠慮がちにかかる声、綾乃だ。熊男はその声に視線を向け、ニカっと笑って見せた。
「なんだい、嬢ちゃん? ああ、俺の名前か? 俺の名前はアントニオ・ロートだ。ロート商会つう商会の会長をしてる……んだけどよ? 俺は銭勘定は苦手だかんな? 専らこの小汚い小屋でチマチマ作業してるんだ」
「いえ、そうではなくてですね」
「ん? ああ、そっか。こんな熊みたいな図体で繊細な作業が出来るかっつう話だろ? ソコはホレ、昔取った杵柄っつうかよ? まあ、ある程度オンナが欲しがりそうなデザインっつうのは頭に思い浮かぶんだよ。後はソレの原型を作ってやれば、ロート商会の抱える職人達がうまーく加工してくれるっつう寸法よ」
「ああ、職人って言うよりはデザイナー肌なんですね? いえ、そうでもなく」
「なんなら嬢ちゃんに似合うアクセサリーのデザイン、書いてやろうか? 『聖女オリジナル』ってことで。なーに、心配すんな。嬢ちゃん、その兄ちゃんの連れだろ? さっきの詫び代わりに、タダでやってやんよ。兄ちゃんだって嬉しいだろ? 自分のオンナは別嬪の方が。腕にヨリをかけて書いてやるぞ?」
「お、おおおおおオンナって! わ、私と浩太は………………そう見えます?」
「あん? 違うのか? お似合いの二人だと思うけどよ?」
「お、お似合いの二人って……え……えへへへへへへへへへへへへへへへ!!」
「おい、嬢ちゃん。涎拭け。カレシ、ドン引きしてるぞ?」
「えへへへ――――っは! そ、そうじゃないんです! そうじゃなくて!」
「じゃあ……ああ、この刺青かい? コレは若い頃にちーっとばかしグレてた事があってよ? まあ、そのなんだ……若気の至りで入れちまったんだよ。まあ、これだって俺の人生の一部だからな。巧く付き合っていってるつもりだ。それがこの俺、アントニオ・ロートの生き方ってモンだ!」
「ドヤ顔でなにしょーもない事言ってるんですか。って、そうじゃなくて!」
そう言って綾乃はびしっと熊男――アントニオを指さす。より正確には、アントニオに羽交い絞めをされているエンリケを。
「――エンリケさん、白目向いて泡吹いてますよ! 早く離してあげて下さい!」
◇◆◇◆◇
「いや……本当にお恥ずかしい」
「いや、マジで恥ずかしいぞお前。鍛え方、たんねーんじゃねえの? あれぐらいでオチるなんてよ? ロート家の男として恥ずかしくないのかよ、ったく」
「ロート家の男は別に武闘派じゃないですから! ……コホン。大変失礼しました。再度になりますが私、エンリケ・ロートと申します。ロート商会の代表代行をさせていただいております。こちらに居る、熊の様な大男はアントニオ・ロート。ロート商会の会長です」
「俺、さっき自己紹介したぞ?」
「私は聞いてないんですよ、兄上のせいでねぇ! ……コホン。重ね重ねすみません。それで? 本日はこのボロ小屋にどういったご用件でお訪ねでしょうか?」
「おい。ボロ小屋ってなんだよ、ボロ小屋って」
「自分でも言ってたでしょ、さっき! 小汚い小屋って!」
「自分で言うのは良いけど、人に言われるのは腹立つんだよ。大体、この部屋でロート商会のアクセサリーは生まれてんだぞ? 何が不満なんだよ? ああ? そんなに不満ならもうデザイン、描いてやんねーぞ?」
「本気で兄上、ちょっと黙ってて下さいよ! っていうか、兄上! 描かないってなんですか、描かないって! ちゃんと仕事しろ!」
「はん! お前のその、銭勘定とは違ってよ? 俺らみたいな職人は気分が乗らなきゃ描けねーもんは描けねーんだよ。ほら、仕事して欲しかったら気持ちよく笛と太鼓で躍らせて見ろよ、経理屋。それがお前らの仕事だろうが? ああ?」
殆ど泣きそうな程に潤んだ瞳でアントニオを睨みつけるエンリケ。その視線を受け、アントニオは思いっきり小馬鹿にした風に胸に手を当てて。
「……イイ大人が半泣きとか止めろよ、きもちわりぃ」
ご丁寧に吐くマネまで。そんな仕草に、エンリケがキレた。
「表出ろ、このクソ兄貴!」
「お? 上等じゃねえか、この青びょうたん。ギッタンギッタンにしてやんぜ!」
「ストップ! 話が進みません! 進みませんから!」
立ち上がり、腕まくりをして見せるエンリケと、余裕綽々、腕を組んでエンリケを見下ろすアントニオの間に浩太が割って入る。エンリケはともかくアントニオとの体格差は一目瞭然、命の危険すら感じながらの浩太の決死の行動にエンリケははっとした顔を浮かべて慌てて頭を下げた。
「た、大変申し訳御座いません! その……つ、つい……」
見ているこちらが申し訳なくなるほどに狼狽するエンリケと、憮然とした表情を浮かべたまま椅子に腰かけるアントニオ。そんな対照的な二人に、浩太が深く溜息を吐いて見せた。
「……本当に、申し訳ない。最近、少しばかり情緒が不安定になっておりまして」
「いえ、構いません。構いませんが……」
『でしょうねぇ』とも言えず、何とも曖昧に言い淀む浩太に何かを察したか、エンリケが疲れ切った顔に小さく苦笑の色を浮かばせる。
「まあ有名な話ですし、既にご存知かも知れませんが……私の甥でこのアントニオの息子が少し『ヤラカシ』まして」
「駆け落ち、ですね?」
「その通りです。駆け落ち騒動以降、村八分……とまではいかないまでも中々ロート商会への風当たりも厳しいのは事実です」
「……」
「当然、今までと同様にアクセサリー類が売れる訳ではありません。今ではすっかり『駆け落ちの呪いが掛かったアクセサリー』なんて名前が付くぐらいでして……こう、人気がガタ落ちです」
そう言って疲れた様に溜息一つ。
「本当に先程は申し訳御座いませんでした、聖女様。現状打破の為に何とかしなければと走り回っていた所、今、ラルキア王城内で貴族のご令嬢に人気の聖女様のご尊顔を拝しましたので……つい、先走って怯えさせてしまいました。大変申し訳ございません、聖女様」
頭を下げるエンリケに、綾乃が若干むず痒そうに顔を背け――背けた先、半眼でジトーっとした目を向ける浩太の視線とかち合った。
「……なによ、その眼」
「いや……貴族のご令嬢に人気の聖女様と来ましたか、と思って。まさかこれ狙ったのか?」
「狙った訳じゃないんでちょっと微妙だけど。まあそれはともかく……ええっと、エンリケさん? その、聖女様はちょっと……オオカワかアヤノで結構ですので」
「それではオオカワ様。お許しを」
もう一度、丁寧に頭を下げるエンリケに慌てた様に綾乃が手を振って見せ、その後困ったような瞳を浩太に向けた。
「……日を改めようと思いましたが、丁度良いですね。アントニオさん、エンリケさん。少しお話、宜しいでしょうか?」
にこやかな笑みを浮かべる浩太に対し、エンリケとアントニオが顔を見合わせ、その後、どちらからともなく頷き合って見せる。
「私は構いませんが……」
「俺も別に良いぜ?」
「ありがとうございます。今日お邪魔した……のは顔合わせのつもりでしたが、お時間が頂けるのであれば幸いです。単刀直入に申しますと、どうでしょう? 先程エンリケさんが仰られた通り、現状ロート商会はお世辞にも隆々で経営を行っている、という訳ではないのですよね?」
遠慮の欠片もない不躾な浩太の言葉に、アントニオが苦々しく顔を顰めて鼻を鳴らして見せる。どうでもイイが、逆立ちしても『優しい顔立ち』なんて言えないアントニオの苦々しい表情はそれだけで結構怖い。
「随分な言い草だな、魔王様?」
「嘘を吐いても仕方ありませんので」
そう言って視線をアントニオ、エンリケに順繰りに向ける。相変わらず憮然としたアントニオとは対照的、エンリケが頷いて見せた。
「仰る通りです、魔王様」
「……魔王様は止めて下さい。大川同様、松代で結構です」
「仰る通りです、マツシロ様」
「続けます。ロート商会の凋落は偏にニーザ氏の駆け落ち騒動に端を発します。言ってみれば商いで使われている商品に不備があった訳ではない。そうですね?」
「そう……ですね。アクセサリー自体には何の問題も無いでしょう。デザインも品質も、何一つクオリティを落としてはおりません」
少しだけ考え、口を開いたエンリケの言葉に浩太も大きく頷くと言葉を続けた。
「商品自体に問題があれば、そちらを改善しなければならないでしょう。ですが今回に関しては商品品質とは全く関係ないところ、つまり『信用』の問題ですね。風評被害……とまでは言いませんが、いわば場外乱闘みたいなモノでしょう?」
「まあ……言ってしまえば、そうですね」
曖昧に頷いて見せるエンリケの答えに、我が意を得たりと言わんばかりに浩太は頷いて。
「何をしに来たか、という問いに答えていませんでしたね。私共は……あなた方の失った『信用』を取り戻して差し上げようと」
そう、言いに来たんですよ、と。
「「……は?」」
ポカンとした表情を浮かべる二人に、満面の笑みを浮かべてそう言った。
◇◆◇◆
「……なるほど。王家による新事業に当ロート商会も一口噛むと……そういう事ですか」
浩太による『海上保険』レクチャーを受けたエンリケが腕を組んで唸る。提案自体は魅力的であったのであろう、難しい表情とは裏腹に瞳は輝いていた。
「そうです。商品内容は先程言った通り、海上保険という分野になります。ロート商会では商品を海上輸送する事はありますか?」
「顧客層にはソルバニアやローレントなどの遠方の王侯貴族もおられます。陸路を取る事もありますが、海上の方が早いですので何隻か自前の船も御座います」
「航海はリスクが大きいです。そちらに対する対策などは?」
「万全を期している……つもりではありますが、文字通り水物ですので。航路別、季節別、船の大きさ別に事故のデータは取ってあります。そちらをお渡ししろ、と?」
「それもお願いしたい所ですが、一番は保険の『引受』です。無論、手数料はお支払致します。陛下やロッテ閣下、それにカール閣下にもお願いするつもりです」
「肩を並べて、と申しても宜しいのですかな?」
「ええ。どうです? 王侯貴族と肩を並べて仕事をするんです。名誉回復の良い機会だと思いますが?」
浩太の言葉にエンリケが首を縦に振る。その表情は興奮に包まれ、その表情のまま視線をアントニオに向けた。
「兄上!」
「でっけー声出すな。聞こえてるよ」
「兄上、これはチャンスです! 陛下やロッテ閣下と共に我らの商会の名前が並べば名誉回復になります!」
「んな事分かってるよ」
興奮しきりのエンリケを『分かった、分かった』と手で制し、アントニオは面倒くさそうに左手の小指を耳の穴に突っ込む。しばしコリコリと耳の穴をかいた後、耳の穴から小指を引っこ抜くとふーっと小指の先に息を吹きかけた。
「あー……なんだ? 要はお前さん方は俺らに都合の良い話を持ってきてくれたって事だよな? 陛下や、ロッテのおっさん達と絡めて俺らの立場を良くしてくれようっつう……まあ、そんな話だよな?」
「有体に言えば。悪い話では無いかと思いますが?」
「ああ。悪い話じゃねーよ。どころか、スゲーいい話だと思うさ。でもな?」
一息。訝しんだ視線を浩太に向けた。
「なんでだ?」
「……なんで、とは?」
「良い話には裏があるっつうだろう? わりぃが俺は、人が人を助けるには理由が要るって思うタイプなんだよ」
「私がそういうタイプではないかも知れませんが?」
「そういうタイプじゃねー奴は魔王なんて呼ばれねーと思うけどな?」
アントニオの言葉に肩を竦めて見せる浩太。全く、正論である。
「隠すつもりはありませんでしたが……無論、我々にもメリットがあってのご提案ですよ、アントニオさん。現在、王都商業連盟では通貨の発行権をお持ちですよね?」
「らしいな。俺は詳しい話は良く知らねーけどよ。そういう帳簿と睨めっこするのはエンリケの仕事だ」
「エンリケさん?」
「ええ。商業連盟では通貨発行権を持っておりますが……」
それが何か、と問うエンリケに浩太は一つ頷いてなんでもない様に言葉を継ぐ。
「私共が依頼するのは通貨発行権の王府への譲渡です。次回の九人委員会で提案されるこの議案の、その賛成をお願いしたい」
浩太の言葉に、エンリケが息を呑んだのが分かった。酸欠の金魚の様に口をパクパク開けるエンリケに、再び浩太が言葉を継ぐ。
「どうでしょうか?」
「どう……と申されましても……」
「我々が提案するのは白金貨や金貨、所謂コインを主とする貨幣経済の変革です。紙幣による流通経済の新たな確立を目指しております」
「それは……アレですか? テラの様な引渡証書の流通を目指す、と?」
「ご存じなので?」
「出店自体は二の足を踏んでおりましたが、お話自体は聞き及んでいます。そして、それが便利な代物である事も。ですのでそれ自体、『紙幣経済』については理解できます。出来ますが……通貨発行権の移譲ですか」
そう言ってしばし考え込むようにエンリケが顎に手を置き、しばし。
「……分かりました。九人委員会でその議案が上がった場合、賛成致しましょう」
「……こちらから提案しておいて何ですが……宜しいので?」
余りにも簡単なオッケーのサインに、今度は浩太が訝しむ番。そんな浩太の表情の変化に、先程まで険しい顔をしていたエンリケの表情も緩む。
「我々としても、コインに頼りきりの商売には限界を感じていた所もありますので」
「ですが、通貨の発行権ですよ? 商業連盟に与えられた、最大限の既得権益では?」
「仰る通り、商業連盟の既得権益です。ですが……まあ、これも色々手間がかかるモノでして」
「手間、ですか?」
「我々は貴金属を生業としている商会です。無論、貴金属以外のモノも取扱いしておりますが、やはり本業は貴金属の加工になります」
「それが?」
「九人委員会で貴金属をメインで取り扱うのは当商会だけ、という事ですよ」
「つま――ああ、なるほど」
喋りかけ、何かに納得したように浩太が手をポンッと打って見せる。その仕草に、エンリケが薄く笑んで見せた。
「貴金属の取扱いに慣れた私共がコインの精製に関しては大きな権限と……それに責任を持っております。硬貨の質のチェックや偽造硬貨の取り締まりなども、王府と分担ではありますがやっておりますので。無論、その業務に関しての手数料はありますし、その収入は決してバカに出来ないモノではありますが……」
「旨味としては少ない?」
「どんな仕事も疎かには出来ませんし、しているつもりはありませんが、こと通貨発行については細心の注意を払っております。自身のみで完結する『品質』でなく、国家の浮沈に関わると言っても決して言い過ぎではないですからね。貴族の娘を誑かした大罪人を抱えながら、それでも我らが爪弾きにされていないのはこの分野での突出した能力があるからと言うのも、まあ理由に一つとしてあります」
「なるほど」
「硬貨の管理はある程度熟練した職人でなければ任せられない仕事でもありますし、その責務から逃れられるのであれば、商会の本業部門での量産も可能です。そういう点では我々にも十二分にメリットのある提案です。まあ……後は『既得権益を侵される』というプライドの問題も残るのでしょうが」
そう言って、溜息。
「……今更、そんな所で見栄を張っても仕方ありませんしね。通貨発行に代わる、新たな我らの存在意義が出来るのであればそちらの方が良いでしょう。但し、議案についての賛成は致しますが、それが承認されるかどうかはまた別の話です。そこまでの責任はとれませんが、それでも構わないでしょうか?」
「ええ、構いません。結果に対する報酬ではなく、行動に対する報酬と考えて頂ければ結構です」
「であれば、私共が反対する理由は御座いません。マツシロ様、ありがとうございます。是非、よろしくお願いいたし――」
「おい。ちょっと待てよ」
言いかけたエンリケの言葉を遮る様、アントニオの声が響く。エンリケの、綾乃の、そして浩太の視線が注がれる中、アントニオは心底詰まらなそうに腕を組みエンリケの言を止めた。
「……兄上?」
「そりゃ、まあ……うん、俺にだってわりぃー所はあるだろうよ。俺は小難しい数字の事なんか苦手だしよ? そういう面倒くさい事をぜーんぶお前に放り投げてるんだからな。その辺りは俺も反省するところだとは思うけどよ?」
そう言ってじっとエンリケを見つめるアントニオ。何を言っているか分からない、そんな表情を浮かべるエンリケに、呆れた様にアントニオは溜息を吐いた。
「――帳簿ばっかり睨めっこしてるから、こんな大事な事も忘れてんのか? このバカ」
「兄上、一体何を――」
「ああ、もういい」
面倒くさそうに手を振ってエンリケの言葉を止める。その姿勢のまま、アントニオは視線を浩太に向けた。
「おい、コータ……って言ったか? なんだ? さっきの話、良い話だと思うけどよ?」
そう言って、左右に二度程手を振って見せて。
「わりぃーな。その話、受けれねーや」




