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董卓の孫娘はお爺ちゃんを救いたい!〜悪役令嬢、竹簡の予言で滅亡回避〜大悪党の董卓ファミリーが闇堕ちする前に、私が全部救います!  作者: 雨咲 しゆみ
第三章──聖者の奇跡と黒い雲

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#77 第三巻・聖者

 ***


 急いで部屋に戻った私たち。

 戸棚を開けると、まだ新しい墨の匂いがした。

 積まれた竹簡(ちくかん)のうちの一本が、まだぼんやりと赤く輝いている。


 その外側の表題にはこう書かれていた。


「第三巻……“聖者(せいじゃ)”?」


 文姫(ぶんき)が目を細める。一見、これまでの不穏な表題とは違う。


「聖者……」


 私には、ただ一人だけこの言葉に思い当たる男がいる。

 でも、彼は……


 恐る恐る、竹簡の紐を解く。


 ***


『光和四年──

 冷夏は稲穗(いなほ)を細らせ、山果(さんか)の実りを阻んだ。

 食べるものを求めて山を降った獣が、村々に聞いた事もない病を流行らせる。


 続いて訪れた厳冬は、飢えと病に苦しむ多くの無辜(むこ)の民の命を奪った。


 そんな時、どこからか中原に現れた“聖者”──張角(ちょうかく)が、奇跡の術で民を救う。


 彼の祈りは不治の病をたちまち癒やし、凍った川に魚を浮かばせすらした。


 もう何年も前から、彼は道教の新しい宗派を唱えていた。

 それを──“太平道(たいへいどう)”という。


 彼の教えである“太平道”は、彼の起こした奇跡の逸話と共に瞬く間に世に広まっていく』



 やっぱり──“張角(ちょうかく)”、三国志の超・有名人物だ。それに……。


「“太平道(たいへいどう)”……? 小紅さま、これってもしかして、さっきの……」


 文姫が何かに気がついたようにこちらを見る。私はそれにゆっくりと頷いた。

 なぜこのタイミングで竹簡が更新されたのか、わかった気がする。それはたぶん、歴史が動き始めたからだ。


 “太平道”──馬元義(ばげんぎ)は、張角の“信者”だった。

 彼は皇室主催の行事で司会まで任されていた。宮廷に仕える役人の中でも中堅以上の地位にいるのは間違いない。

 もうそんな者にまで……張角の教えは広まりつつある。


 私たちは予言の続きに目を戻す。



『光和五年──

 再びの冷夏。

 不作と重税に苦しめられた民が土地を捨て、各地で流民となる。


 奇跡を求めた流民たちは、中華全土で“張角”の名を呼ぶ。

 その声に応えるように、彼はどこにでも現れた。ついに“太平道”の信徒は、中華全土で数十万人にも至る。


 光和六年──

 三度目の冷夏。

 逃げた住民の土地まで耕すことを求められた農民たちの疲弊は、完全に限界を迎える。


 中央政府はこれをわかっていながらも、何も有効な処置を取れないまま徴税(ちょうぜい)敢行(かんこう)する。

 多くの者が病や飢えに倒れた。その多くは老人、そして、生命力の弱い子供たち。

 春を待つことすらできず、小さな骸は土の下に埋められていった。

 子供の数は、この10年で最も少なくなる。


 そして、光和七年──


 「蒼天(そうてん)既に死す。黄天(こうてん)まさに立つべし。年は甲子(こうし)にあり。天下は大いに吉なり」


 義憤(ぎふん)が、張角を突き動かす。

 中華を蝕む毒を祓うべく、ついに信者たちに号令を掛けたのだ。


 彼らの目標は、首都“洛陽(らくよう)”──腐敗した政治の中枢、漢王朝の打倒。

 時代に搾取(さくしゅ)され、明日を生きることすら諦めざるを得なかった民衆。彼らの思いは一つ。


 “悲しみを終わらせる──明日を生きる我が子たちの平和のために”。

 

 その怒りと決意を体現するかの様に──彼らは皆一様に頭に“黄”の布を巻いた。

 “金糸梅(きんしばい)の黄”で染め上げた布を。


 “黄巾(こうきん)の乱”──後に、この大反乱はそう呼ばれることになる。

 

 乱は中華全体に波及し、霊帝さまは諸侯に号令した。


 「武器を掲げ、叛逆者(はんぎゃくしゃ)“張角”と、彼の信者“黄巾賊(こうきんぞく)”を討て」


 でも、“張角を死なせてはだめ”。

 彼は心から、この中華の未来を案じて立ち上がった人。


 本当の“()”を探して。でないと、歴史は“また”繰り返す』


 ***


「しょ、小紅さま。今回の予言……とても私たちの力だけじゃどうやったって……」


 文姫が顔を真っ青にして狼狽(うろた)えている。

 その反応も当然だと思う。国家規模の大反乱なんて、これまでの予言とは全然スケールが違いすぎる。


「……ええ。これはちょっと、厳しいわね」


 私の額を嫌な汗が伝う。

 文姫もその答えに肩を落とした。


 私は歴史を知っている。

 張角も、黄巾の乱も。そしてそれがどういう“()()”を迎えたのかも。

 “黄巾の乱”は、三国志の始まりとなった民衆の大反乱。

 張角は、その首謀者。

 

 その張角を救う? 国家の大叛逆者を?


 たとえ時間が三年あったって無茶だ。


「でも……“策”なら一つだけあるわ」


「……え?」


 独り言のように呟いた私の声に、文姫が目を見開いてこちらを振り向く。

 

 私たちは、まだただの子供だ。

 いくら鍛えたって、本気の大人の戦いになんて参加する資格さえない。

 だからもし一度反乱が起きてしまえば、彼を救うことは実質不可能になる。

 

 そうならないためには、なんとかして“黄巾の乱そのもの”を回避する必要がある。


「つまり……“冷夏を、終わらせればいい”のよ」

 

 そんなこと、普通に考えたらとてもできることじゃない。

 でも、私が“その答え”に辿り着くのは、必然だった。


 いつか劉辯(りゅうべん)は言った。

 私の仙力は──“世界の(ことわり)すら曲げる”ほどの力になり得ると。


 そして実際、私は見てしまった。

 あの日、梅雨の分厚い雲を割いて覗き込むように現れた“太陽”を── “朱雀(すざく)”の目を。


 朱雀は炎と太陽の化身。

 私なら、歴史の悲劇を──冷夏を止めることができるかもしれない。


 ***

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まだまだお付き合いくださいね☆

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