#45 感謝の意味
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あの後少し冷静になり、私たちはすぐに離れた。
いや、だって嬉しかったんだもん。身体が勝手に動いたんだよ! あ、言っとくけど……私はショタの趣味はないからね。
陛下は恥ずかしかったのか、私に背を向けたまま眉根をほぐしている。まだ、耳が赤い。
やっぱり少し、やりすぎたかな?
「あの……陛下?」
劉辯の身体がびくりと跳ねる。
「うわっ、今度はなんだ?」
そっと肩に手を伸ばしただけで警戒されてしまった。
なによその態度……。さっきはちょっと大げさに感謝してあげただけじゃない。
謝ろうかなって思ったけれど、今のですっかりその気が失せた。
「いいえ。なんでもありません」
私はふいと顔を背けた。だってなんかむかつくんだもん。
こんなの子供っぽい。わかってる。でも、何だかもやもやする。
「……」
沈黙が痛い。ちょっと、何か話したら? こっちの方が恥ずかしいじゃん。
「……董白」
「……なんですか?」
「……ありがとう」
振り向いたけれど、その顔はこちらを向いてない。
小さな声。でも確かに、彼の感謝の声が聞こえた。
「それ、何に対してですか?」
「いや、それは……」
劉辯は一瞬だけ、言いづらそうに口ごもった。
「余に、約束を守らせてくれて」
彼はまだこっちを見ない。でも、どんな顔をしているかはわかってる。
耳が、また真っ赤になっていたから。
***
劉辯との会話が終わると、私たちは再び印を結んで『透過の術』を解いた。
少しずつ、身体に色が戻っていく。その色が完全に戻りきる前に、私たちはお互いに握っていた両手を離し、静かに距離をとった。
「ああ! やっと戻ってきてくださいましたか! まさか、ほんとに消えちゃったのかと……って、あれ?」
姿を現した私と劉辯に、すぐに駆け寄って来ようとした文姫。でも、何かに気づいたのか、不意にその足がピタリと止まる。
文姫は劉辯の方を見て、少し不思議そうな顔をした。
「どうかしたの?」
「いえ……なんか、陛下の顔色が少し良くなっていらっしゃるような……」
劉辯に振り返れば、彼は目を逸らしつつ指で眉の辺りをかいている。
それを見た文姫はにやりと口を歪めて笑った。
「もしかして……さっき消えてる間に、なんかあったんじゃないですか?」
「ない!」「ないわ!」
劉辯と声が重なる。
この侍女……。もう陛下にまでこんな口を叩くなんて……。
口が悪いのは可愛いけれど、相手は皇子よ? 一歩間違ったら大変なことになるんだから。
はあ、またあとでしっかり教育しておかないとね……。
少しの沈黙を挟んでから、劉辯が話しかけてくる。
「ともかく……これで其方の推察が正しいことは証明できたな。……で、次はどうする?」
その視線はやや鋭い。彼の言う通り、これはまだ第一段階だ。
ここからは、少し無理なお願いになる。
「お願い、文姫にも……この娘にも仙術を教えてくれないかしら」
私はしっかりと頭を下げる。続けて文姫もぺこりとお辞儀した。
「……やっぱりそう来るか。だが、其方たちは少し勘違いをしている」
「……?」
私と文姫は顔を見合わせて考える。何かまずいことを言ったろうか?
でも帰ってきた言葉はそうではなかった。
「教えるのはいい。覚悟も受け取った。だが、“教われば誰でも使える”と思ってるんじゃないか?」
その言葉にはっとする。そうだ。私は“朱雀”との相性が良すぎて、本来誰もが時間をかけて行うはずの工程──“仙力を高める修行”をしていない。
「だからいいか、その文姫とやらに仙術が使えるかどうかは……」
そこまで言って劉辯は、部屋の隅にあった棚からあの水晶玉を取り出した。
「その娘の──素質次第だ」
机に置かれた水晶がごとりと音をたてる。
銀の瞳が、また文姫を射抜く。
こくりと喉を鳴らし、彼女は小さく頷いた。
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