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董卓の孫娘はお爺ちゃんを救いたい!〜悪役令嬢、竹簡の予言で滅亡回避〜大悪党の董卓ファミリーが闇堕ちする前に、私が全部救います!  作者: 雨咲 しゆみ
第二章──毒の予言と夜宴の蝶

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#44 透過の術

 ***


 なんとか文姫を落ち着かせてから、ごほんと一つ咳払い。

 顔はまだ赤いけど、これならなんとか話くらい聞いてくれるだろう。


「と、いうわけよ。陛下と私はそんな関係じゃないの? わかった?」


 もう一度最後に念押しをすれば、文姫はこくりと頷いた。


「なあ董白……。聞いてもいいか?」


 隣から陛下の声がかかる。振り向けば、何やらご機嫌ななめのご様子。それもそうか……まさかこんな紹介の仕方になるとはね。


「はい陛下」


「なぜ連れてきた? このことは、余と其方を除き他言無用と言ったであろう」


 う……。そうだった。陛下は、仙術を教わっていることは他の誰にも漏らすなと言っていた。

 文姫が、膝の上できゅっと拳を握ったのがわかる。私は彼女を落ち着かせるように、そっと手を重ねた。


 これから私たちの作戦を成功させる上で、文姫に仙術を隠しておくのは到底不可能だ。

 そもそも私は、文姫をお母さまに“変化”させるつもりで仙術を学んでいたのだから──


 ……って、あれ? もしかして、いま劉辯に会わせるくらいなら、最初から文姫にも仙術を教えて貰えばよかったのかな? 文姫なら、まだ“変化の術”を使える可能性がないわけじゃない。


 でも、ん〜〜。いやいや、劉辯の性格上、そのあたりのライン引きはしっかりしてそうだ。

 それに、ここまできてまた全部誰かに背負わせるなんて、もう私はしたくない。


 昨夜、文姫と手を取り合った瞬間に“繋がった感覚”。

 あれはきっと間違ってない。試してみる価値は、きっとある。私はそれを信じたい。


「ごめんなさい陛下。でも、もしかして閃いたかもしれないの……。『反転の手相』の、克服方法を」


「な、なに!? それは本当か!?」


 私の言葉に、劉辯は目を見開いた。


「ええ。けどその方法を試すには、協力がいる。貴方と、この娘の」


「本当に……その娘もか?」

 

 試すような眼差し。睨まれたわけでもないのに、文姫がひゅっと息を呑む。

 拳がまた、ぎゅっと握り締められたのがわかった。

 やっぱりまだ、皇子と話すのは気後れしてしまうようだ。


「……ええ。一人じゃできないことなの。それにこの娘は──」


 その時──言いかけた私の言葉を継ぐように、文姫が立ち上がる。え、大丈夫? そう思って文姫を見た。けど、その心配はなさそう。

 だってもうその瞳には、覚悟が宿っていたから。


「絶対に、秘密を守ります。それに、守りたいんです。小紅さまのことを」


 沈黙が落ちる。文姫の膝はまだ、小さく震えている。でも、目だけは逸らさなかった。

 劉辯はしばらくその眼差しをじっと見つめていたが、やがてふわりと微笑んだ。


「わかった。其方たちの言葉、信じよう」


 ***


「いい? まずは貴方と」


 そう言って、私は左手で劉辯の右手を強く握る。私は逆手、劉辯は順手──これで、五行は繋がった。


「ああ。できるかどうか保証はないが、其方の語ったやり方は理にかなっている」


 劉辯には、昨夜思いついた方法を話した。二人で輪を作り、そこに五行を循環させる。

 私の左手が反転していても、劉辯の左手を借りてしまえば、これまで習ってきた通りの印の組み方で術は成るはず。


「じゃあ──行くぞ」


 劉辯の合図とともに、私たちは呼吸を合わせた。


『木・火・土・金・水』


 劉辯と合わせた右手が薄く光を帯びる。目を閉じれば、身体の中をこれまで感じたことのないような温かさが満たしていく。

 これが、劉辯の……。


「いいか董白」


 呼びかけられてはっとする。劉辯の銀の瞳が、真っ直ぐにこちらを見ていた。


「わかってる……教わったことは、全部」


「術言は余が先に。其方は心の中で繰り返すようについて来い」


 目だけで返すと、劉辯は薄く目を閉じる。


『光で紡がれし糸──陽炎(かげろう)の羽織』


 術言を唱え始めた瞬間、人差し指に熱を感じた。

 丁寧に、でも素早く、私は空に印を切る。


静謐(せいひつ)を満つ檻──(なぎ)揺籠(ゆりかご)


 今度は親指に柔らかい風。今度は空に置くように。ゆっくりと印を描いていく。

 

『汝らの真名(まな)──朱雀(すざく)青龍(せいりゅう)の導きに従いて』


 劉辯の左手が、私の右手と合わさる。


『我を(いだ)け──我が身を隠せ──』


 両手が熱い。力が流れ込む。


『──透過の術』



 ────────。



 …………。



 一瞬、光が溢れかえり、音が消えた。肌に触れていた風が、ふっと途切れた。



 何も見えない。何も聞こえない。でも……どこか、温かい。



 あれ……? ここは……どこ?



小紅(こべに)──」

 


 それは劉辯の声じゃない。文姫でもない。けれど、懐かしい。

 耳の奥で、誰かが昔の名前で私を呼んだような……そんな気がした。


「おい──」


 その声に、私の意識は覚醒する。


「やったな。成功だ」


 隣で疲れたような笑みを見せる劉辯。

 その姿は薄く透けている。そして……私も。


「えっ!? えっ!? 小紅さま!?」


 側にいる文姫には、私たちのことが見えていない。

 キョロキョロと辺りを見渡して、私の名前を呼んでいる。


 どうやら本当に、成功したらしい。


「や、やった! やったわ! 私たち!!」


 ついにやった。ついに、仙術を身につけた。

 気がつけば、私は劉辯に抱きついていた。感謝と、嬉しさと、言い表せない気持ちが胸に満ちる。


「お、おい!! さすがに不敬だぞ……それはっ!!」


 焦ったように口にする劉辯。言葉とは裏腹に、その表情は満更でもない。


「だって嬉しいんだもの! それに──」


「それに?」

 

 劉辯が尋ねる。

 言わないでおこうかと、一瞬ためらった。でも、ごめん。これ以上に合う言葉を、私は知らないや。


「いいじゃない! 誰にも見られてないんだから!」


 私は満面の笑みでそれに答えた。


 ***

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