#37 朱雀
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「それって……いいこと?」
私は素直に思っていることを口にした。
“朱雀”というのは、南方を守護する火の聖獣……って、未来では言われている。さっき唱えた術言にもその名が出てきたし、この時代でもそれは変わらないはずだ。
でも、劉辯は複雑な顔をして私の問いに答えた。
「単純に、大変稀なことだ。だが……これは良いとも悪いとも言える」
はっきりしない言い方だが、まだ続きがありそうだ。
「其方は火と木の加護が強すぎる。唸り声のようなものも聞こえたろう。あれは青龍のものだ」
「朱雀と……青龍」
「そうだ。朱雀は火、青龍は木。木は火を強める。結果として、この水晶が割れるほどの熱を生んだ。本来なら、たとえ少々仙力強かったとしてもこれが割れることはない……なぜなら、五行は互いに陰と陽の関係。どこかが強まっても力が一巡するだけだ」
劉辯は残った大水晶に手を当てて力を込める。五つの光は大きくなり、同じ方向に回り始めた。
「だが、其方の力は水晶を割った。これが、どういうことかわかるか?」
その問いに私は頭を捻ったが、わからない。小さく首を振って続きを待つ。
劉辯は慎重に、言葉を選ぶように言った。
「この水晶玉は、世界を映す小さな鏡だと思って貰えばいい。大きくても小さくても結果は同じだ。其方が本気で仙術を使えば……例えばこの長雨も一瞬で止ませることができるだろう。でもそれは……川を干上がらせ、木を枯らし、土を痩せさせ、金さえ錆びさせる。自然の一巡を──世界の“理”すら曲げる程の力になり得る」
劉辯の答えは、私の想像を超えていた。
はっきり言って、“災厄級”の力だ。背を刺すように注ぐ夕陽が痛い。
──やめて。そんな力は欲しくない。
俯いて黙り込んでしまった私の肩に、劉辯はそっと手をのせた。
「すまない……だが、最初にはっきり伝えた方がいいと思ってな」
「じゃあ、私に“仙術”は……」
決まってる。教えられない。
「ああ。『変化の術』は諦めろ」
劉辯は、冷酷にもそう告げた。
膝から崩れ落ちそうになった私を、一瞬早く劉辯が支える。
「どうした、大丈夫か!?」
「え、ええ。日が眩しかったから、ちょっと眩暈がしただけよ……」
なんとかそう返したが、たぶん落胆は隠しきれてなかった。
いや、挫けちゃダメだ。
そうだ。仙術がダメでも、まだ打つ手はある。誓ったじゃないか、必ずお母さまを救うと。
近道がなくなっただけ。これで終わらせるわけにはいかない。
なんとか自分に言い聞かせていると、劉辯が口を開く。
「そんなに落ち込むな。代わりに、『透過の術』を教えよう」
「……え?」
「ん?」
どういうこと? え、私……仙術使ってもいいの?
「いや、私が仙術を使うと危ないんでしょ? だったら……」
「なぜだ? 透過の術では雨は止まんぞ?」
「……?」
劉辯の目は冗談を言っているようには見えない。
「なんだ。わからないのか? 火と木が強すぎるから、五行全てを一巡させるような『変化の術』は使えないと言ったんだ。逆に、光と空間に相性の良い『透過の術』は直ぐに覚えられる。これなら、誰にもばれずに姿を消せるぞ? 多分、其方が使えば『音』すら自在に消せるだろう。身を隠すのにはもってこいだろう?」
「で、でもそれじゃあ……」
お母さまを救えない。そう言いそうになったけど、なんとか言葉を飲み込んだ。
「なんだ? まさか、とびっきりの美女にでも化けたかったのか?」
ドキリと胸が鳴る。
「ま、まさか……」
……そうですなんて言えない。
「はは、すまない冗談だ。もう其方は美しい。将来は、余の妃に迎えたいくらいだ。そんな使い方なら最初から必要ないな」
この皇子……さらっととんでもない事言いやがる。手の早さは親父譲りか?
ふう。一瞬焦ったけど、劉辯のくだらない冗談でちょっと気持ちが軽くなった気がする。サンキュ、劉辯。
ん? でも待てよ……『透過の術』で姿を消せる? つまり、それは──
「ねえ、陛下。それって、この前陛下がやったみたいに誰か他の人も一緒に消してしまえるの?」
「ああ、もちろん。其方くらいの仙力があるなら、手を繋げば大人一人くらいはいけるんじゃないか?」
使える。
文姫と二人でお母さまの隣に近づき──詩を渡せる! 誰にも見られずに!!
「ねえ、陛下──」
「なんだ?」
「『透過の術』を教えて……お願い」
本日二度目の“お願いハートショット”が炸裂し、劉辯が悶絶したのは言うまでもない。
あ、なんか癖で自然にやっちゃた。ごめん。
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