#35 変化の術
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バレるな。
その一言に、心臓を鷲掴みにされたような感覚を覚える。
母になり変わって大会に出場するのだ。正体が知れれば不敬罪に無断侵入罪……他にも色々と罪に問われるかもしれない。だからもちろん、バレる気なんてさらさらない。
でも、もしバレたら……。
考えただけで背筋が凍った。
そうなったら当然、私は誰に教わったのかを尋問されることになるだろう。言えば、劉辯だって何かしらの責任を取らされるかもしれない。
「そもそも、何で『変化の術』を教わりたい?」
硬直した私に、劉辯が尋ねる。
「ええと……この前誘拐された時に思ったの。ほら、私の髪と目って目立つでしょ? だから、普通に変装するんじゃなくてもっと別人になっちゃえば、こんなことにならなかったのになって」
この言い訳は事前に用意していたものだ。もし問われれば、最初からこう返す予定だった。
“お願いハートショット”に乗せた、『じゃあ、私がまた攫われたっていいの!?』まで見せる覚悟はあった。
先ほどの様子から見るに、いまの劉辯ではとても心臓がもたなかったろう。
ふふ……陛下、命拾いしましたね。
「なるほど確かに……。王家でもそうした暗殺や誘拐から身を守る手段として最初に教わる仙術だ。その使い方は正しい」
劉辯はほっとしたように胸を撫で下ろす。
「それなら大丈夫だろう。公の場に出るわけでもないのだからな。そうそう正体がバレることはあるまい」
「あはは……そうだね」
……すみません。本当はガッツリ公の場に出る気満々です。
「しかし使いこなせるようになるにはコツが要るぞ? それに……多少の仙力もな」
劉辯は手を握ったり開いたりしてから軽く振った。
「……せんりき?」
「ああ。“五行”を知っているか? 木・火・土・金・水……この世を成す五つの元素のことだ」
指を一つずつ立てるようにして、彼は言う。
「それらは“陰”と“陽”。すなわち打ち消し合い。高め合う。世界はその循環によって保たれている」
さらに両手で印を組めば、その手の周りが薄く光った。
「仙術は、それら自然の理を解することによって初めて成せる術だ。そして仙力とは、五行に働きかけるための声の大きさのことだ。単純な声ではない。言い換えれば──心の声」
なるほど、五行の概念は何となく理解した。でも……心の声? ちょっと想像できない。
「ええっと……それはどうやって鍛えればいいの? それとも、生まれつき備わっているもの?」
「血筋は関係あると聞いたことがある。それに、人によって得手・不得手があるようだ。だが、王家には仙力を磨く修行法も伝えられているし……まあ、数年もあれば……」
ちょ、数年!?
私は劉辯から告げられた修行期間の長さに愕然とする。
無理だ──とても一ヶ月でどうにか習得できるようには思えない。しかもそれを、文姫に教えないといけないのだから。
「ん? どうした?」
落胆が顔に出てしまったのだろう。劉辯は気になったように声をかけてくる。
「いいえ、何でもないわ。結構かかるんだなってびっくりしただけ」
私は咄嗟に誤魔化すが、劉辯は笑って返した。
「はは。まあ、血統が良ければ案外すぐに使えるようになるかもしれん。それに其方の目は炎のように赤いから、火とは相性がいいかもしれんな」
「……どういう意味?」
「一口に『変化の術』と言っても、実際に骨格を変えてしまうものから、光の調整で見え方だけを変えるものまで様々だ。前者は五行全てが噛み合わねば使えない上級のものだが、火だけ使いこなせれば後者は使える。もっとも、そっちは触れられればすぐにバレてしまうがな」
そんな裏技が……でも、触れられたらバレる? なら、とても公の場では使いものにならない。
「うん、分かった。けど、バレるのは極力避けるに越した事ないもの。最初から上級を目指すわ。で、まずは何から教えてくれるの?」
私は覚悟を決める。
何とかして一ヶ月で上級まで辿り着かないと、お母さまを助けられない。
「そうだな……。ではまず心で唱える術言と、印の組み方から教えよう」
意気込む私につられたのか、劉辯は嬉しそうに身を乗り出した。
上級仙術……面白い。やってやろうじゃないの!!
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