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董卓の孫娘はお爺ちゃんを救いたい!〜悪役令嬢、竹簡の予言で滅亡回避〜大悪党の董卓ファミリーが闇堕ちする前に、私が全部救います!  作者: 雨咲 しゆみ
第一章──破滅の予言と滲む未来

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#2 小紅はお嬢さまに生まれ変わってしまいました

 ***


仲穎(ちゅうえい)さま?」


 その名前──聞いたことがある。多分、なんか三国志で有名な武将が同じ名前だったと思うけど、たくさん居るから思い出せない。というか、何? ここどこ? わたし、誰?


「お爺さまのお名前まで!? ああ、ダメだダメだ。もう私はお終いだ……この“蔡邕(さいよう)”。仲穎さまの信にお応えできませんでした。かくなる上はこの命……」


 蔡邕(さいよう)はブツブツと何やら物騒な独り言をいっているが、その名前──知ってる。


 『蔡邕』。三国志の物語序盤で登場する、漢の学者であり文豪だ。数々の著書を執筆して世に名を轟かせたけれど、その功績を妬んだ者たちに諮られて僻地に追いやられた──と、講談社の三国志入門書には書いてあった。

 そんな彼を救ったのが、確か……。


「──董卓(とうたく)

 自然と、その名が口を吐く。


「いま、なんと!?」

 蔡邕がばっとこちらに向き直る。その眼は恐々として輝き、涙さえ浮かんでいる。


「え。えと……わたしのお爺ちゃんは、董卓……さんですか?」

 恐る恐る、私はその名を口にする。


 『董卓仲穎(とうたく ちゅうえい)』、時の皇帝を毒殺し、擁立した幼い帝を補佐する名目で自ら相国(そうこく)(当時の官職の最高位)に就くと、その私利私欲を満たすためにあらゆる暴政を敷いた。


 殷の時代の愚帝、紂王を真似て『酒池肉林(しゅちにくりん)』の宴を何日も催したなんて逸話もある。

 その全盛は僅か数年ほどだったが、それでも二千年先の現代にまでその悪名が轟く……三国志にして最狂最悪(さいきょうさいあく)、稀代の大悪党だ。


「はい! ええ、そうですとも。小紅さまのお爺さまは董卓さまでございます。そしてわたくしは──」


蔡邕(さいよう)


 被せ気味に答えると、今度こそ蔡邕は安心しきったように大息を吐いた。


「ぶっはあ〜〜。あっぶねぇぇぇ! いやいやいやいや、焦りますよ小紅さま! ダメです五徹(ごてつ)なんて! まだ五歳なんです、五歳!! どこの世界に徹夜で文字を書き続ける五歳児がいますか!? ええ、居ませんよ!! 養育係の私の身にもなってください!! あやうく責任者として処罰されるところでしたよ!!」


 めちゃくちゃ怒ってる。え、キャラ変わり過ぎじゃね?

 っていうか五徹……? いや、覚えはあるけど。でも私がやってたのはゲームで、書き物をしていたのは“この娘”だろう。いったい、それだけ熱心に何を書いていたのか。


 そういえば、さっきの少女が必死に読んでいた竹簡。……もしかして、あれがそうなの?


「まあ! お父様いけませんわ! 小紅さまはまだ病み上がりなのですから、大きな声を出さないで下さい!」


 そこで、水をとりに行った少女が帰ってくる。名前は確か──


「小紅さま。この文姫、もっと強くお止めするべきでございました。ここ数日の小紅さまのご様子は、確かにおかしかったのです。それに気がついておきながら……どうか私を叱って下さい」


 ふるふると、頭を下げて謝る少女。文姫、この名にも覚えがある。


 『蔡琰(さいえん)』、またの名を『蔡文姫(さいぶんき)』。蔡邕の娘で、女性ながら数々の著書を残した文学者。

 確かに賢そうな顔をしている……っていうか、思い出した! この娘、幼馴染の『文姫(ふみき)』の小さい頃に瓜二つだ! “読み方”は違うけど名前も同じだし、これってどういうこと? でもとにかく、こんな小さな子が謝る必要なんてない。っていうか、勝手に夜更かししたの小紅(コイツ)だろ。


文姫(ぶんき)ちゃん。いいのよ。いまは少し記憶が曖昧だけれど、休めばよくなるわ。その時のこと、後でまたお話を聞かせてもらえないかしら」


 そう言って、私は差し出された頭をそっと撫でる。サラサラとした水色の髪が気持ちいい。私の手も小さかったが、幼稚園児ほどの相手に対して、こうする他に接し方がわからなかった。


「ええっ!?」


 びくりと文姫が顔を上げ、私を見る。


「お父様! やっぱり小紅さまが、変!」


「こら文姫!」


 蔡邕は文姫の頭をぽかりと叩いた。でも文姫の話は止まらなかった。


「だって、いつもの小紅さまなら私を蹴っ飛ばして『この愚図、もういいからあっち行って!』って言うわ! 蹴飛ばされても良いように、お水は少なめに入れてきたのに!」


「だ……こら、ほんとダメ! それ以上はいけない!」


 蔡邕と文姫は揉み合いながら、何やら言い合っている。この二人、仲が良いのか悪いのか……。でも、そんな様子を見ていると、なんだかおかしくなって笑ってしまった。


 ──くすっ


「ええっ!?」


 私の笑い声に、今度は二人揃ってこっちを見た。あまりに揃った動きとよく似た驚き顔に、私はまた可笑しくなって──


 あははは!


 ついに声を出して笑ってしまった。

 

「小紅さまが──むぐっ! むむむ〜〜」


「さあ小紅さま、今日はもうお疲れでしょう。夜分ゆえ、このままお休みになって下さい。お水はこちらに置いておきます。また明日の朝、起こしに参ります」


 蔡邕はその身体に似合わぬ機敏さで文姫の口を塞ぐと、その身を抱えたまま入り口まで下がる。


「ええ、そうさせてもらうわ。蔡邕、文姫──」


「はい」


「お休みなさい。貴方たちもゆっくり休んで」


 そう声をかける。すると一瞬、蔡邕の眼が今日一番大きく見開かれ、すぐに優しく細まった。


「ありがたきお言葉」


 そう言って、蔡邕は文姫を連れて部屋を出る。

 静かに扉が閉じられると、またふわりと風が吹いた。月明かりが照らし出す鏡には、やはり見知らぬ金髪赤眼の少女が映り込んでいる。


「って、結局私は誰よ!?」


 わからない。私の知っている三国志列伝にこの娘はいない。董卓(とうたく)の──孫娘!?


 ***

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まだまだお付き合いくださいね☆

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