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董卓の孫娘はお爺ちゃんを救いたい!〜悪役令嬢、竹簡の予言で滅亡回避〜大悪党の董卓ファミリーが闇堕ちする前に、私が全部救います!  作者: 雨咲 しゆみ
第一章──破滅の予言と滲む未来

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#1 さすがに五徹はやり過ぎた

 ***


「ん〜〜、めっちゃ良かったぁ〜〜!!」


 劇場を出てすぐ、私は両手を組んで伸びをした。

 

 やっぱりシアターで観る舞台は違う。

 カーテンコールが終わってだいぶ経つのに、まだ胸が高鳴ったまま。

 紅潮した頬に夜風が当たって、ちょうどいい具合に熱をさらっていく。


「だね! “萌え剣”最高! シアター上演も最高! 全部ぜんぶ最高! これもう、二・五次元沼るわぁ〜〜」


 隣を歩く親友──文姫(ふみき)が応える。

 私たちは幼馴染。二人して恋愛ゲーム“萌え剣”こと『萌えよ剣──三国に舞い散る桃の花』にどハマりし、今日は一緒に劇場公演を観にきた。


 “萌え剣”は、()()(しょく)っていう三国が、中国で覇権を競った時代──

 いわゆる“三国志”の世界を舞台に、小喬(しょうきょう)大喬(だいきょう)という美しい姉妹が、その三国のさまざまな英雄たちと恋に落ちる恋愛ゲームだ。

 シナリオは史実とはだいぶ違うみたいだけど……そんなことはどうでもいいの。だって尊いから!


伯符(はくふ)公瑾(こうきん)、かっこよかったね〜。

 役者さんは知らない人だったけど、ありゃ絶対売れるね」


「だよね。公式カップリングだけあって、あそこは鉄板だった。

 でも私は孟徳(もうとく)推すけどなぁ〜〜。あの危険な香り……たまらんべ」


 伯符と公瑾っていうのは、孫策(そんさく)周瑜(しゅうゆ)っていう『呉』の王子様とその親友。

 孟徳(もうとく)っていうのは、敵国『魏』の王である曹操(そうそう)(あざな)別名(べつめい))だ。

 うちら“オタ女”の界隈(かいわい)じゃ、“推し”はこっちの“別名”で呼ぶのが当たり前になってる。

 “普通に”三国志好きな人でも、別名まではあんまり知らないよね。

 でもまぁ、それがうちらの“推し”に対する“愛”ってわけ。


「出たよ〜! 小紅(こべに)ちゃんの孟徳推しが」


 文姫(ふみき)があきれ笑いでそう返す。小紅(こべに)っていうのは私の名前。

 昔の人っぽいってよくいじられるけど、逆に今風じゃない? って私は思う。……え、違う?

 続けて文姫が言う。


「確かに孟徳はカッコいいけどさ〜、性格は完全に鬼畜(きちく)だからね?」


「え〜、あの強引さがいいんじゃん。欲しいものは何でも手に入れてきたっていう自信と、それでも届かないからってヤキモキしてさ。自暴自棄(じぼうじき)からどんどん苛烈になっていく、あの感じが可愛くって……」


「あーなるほど。ここにもっと鬼畜いたわ(笑)」


 二人して笑った、そのときだ。


 ふっと、足元から力が抜けた。


「えっ、なに!? 小紅(こべに)ちゃん、大丈夫!?」


 文姫があわてて肩を支えてくれたおかげで、なんとか倒れずにはすんだ。


「あー、はは。昨日ちょっと予習しすぎたかなー。“萌え剣”夜中に二周したから……」


「も〜〜。やめてよ、ビックリするじゃん!」


 『嘘』だ。

 この一週間、私はこの舞台を楽しみにしすぎて、ほとんど寝ていない。


「だいじょぶだいじょぶ。こんなの、いつものことで──」


 軽口を叩きながら瞬きをする。けれど、目の前の景色はじわじわと暗くなっていく。


 ……あれ?

 いつもの立ちくらみと、なにか違う。


 足元から、すうっと、体が抜けていく。

 夜風の感触も、文姫(ふみき)の手の温もりも、遠ざかっていく。


 ──あ。


 ***


 目を開ければ、暗い部屋。

 天蓋(てんがい)付きの大きなベッドの上に私はいた。

 柑橘(かんきつ)の香りが薄く漂う部屋を、小さな蝋燭(ろうそく)の灯りだけが薄く照らしている。


 すぐ側には、そんな暗がりで一心不乱に何かを読みふける少女。

 歳は、小学生になるかならないか……ってところかな?


 だけど、どこかで会った覚えがある。そんな気がした。


「あの……」


 声をかけようとして気がついた。

 なんだか、喉の調子がおかしい。私は何度か咳をする。


 その音で私が目覚めたことに気がついた少女は、持っていたものを放り投げてこちらに駆け寄ってきた。


小紅(しょうこう)さま! よかった。意識が戻られたのですね!」


 その顔には、恐れと不安が浮かんでいる。 

 でもそんなことよりも、私が気になったのは彼女が呼んだ私の名前。


「……しょうこう?」


 聞き慣れない呼び方に、私は首を傾げる。それに、そもそも初対面だ。


「……!? 小紅(しょうこう)さま……まさか、自分の名前をお忘れに!? 少々お待ちください。父を呼んできます」


 青ざめた顔をして、少女はすぐに誰かを呼びにいった。

 蝋燭がゆらゆら揺れる。部屋に一人残された私は、少女が読んでいたものに目を落とす。


「これって……“竹簡(ちくかん)”?」


 竹簡というのは、竹札(たけふだ)に文字を書いて麻紐(あさひも)で綴った巻物だ。

 昔の中国ではよく使われていたみたいだけれど、当然、今の時代じゃ全く目にする機会はない。

 いや、さっきの演劇では見たけどさ。


「あ……え? もしかして、劇場の人に助けてもらった?」


 演劇? あ、そっか。じゃあ目の前の道具はセットか。

 あのまま気を失っちゃったみたいだ。たしかに、劇場を出てからすぐにぶっ倒れたもんな。

 いくら楽しみにしていたからって、さすがに五日徹夜(ごてつ)はやり過ぎた。


 そんなふうに反省をしていたころ──


「小紅さま」


 部屋の入り口に、先程の少女ともう一人、男が立っていた。

 歳は二十代後半くらい? 後ろで束ねた髪に布が巻かれている。あ、こんな髪型の人……さっきも見たね。

 きっと役者さんかな。


「お手間をお掛けしてしまってすみません。少し疲れていたみたいで……けどもう大丈夫です。帰り道なら分かりますので、荷物を……」


 そう言ってベッドから降りようとした私は、どういうわけかバランスを崩した──あれ?


「小紅さま!」


 少女が駆け出す。まさか、私を支えるつもり?

 そんな小さな体で?


 危ないよ!? 私こう見えても結構体重あるから!!

 なんとか身体を戻そうとしたけれど無理だった。ごめん!


 ──ぽすん。


 そんな軽い音が聞こえ、私の身体は少女の腕に抱き止められる。


 ──え?


 思わず自分の足元に目がいった。

 裾の先からのぞいているのは、小さな足に白い指。

 続いて見た、手と腕も。何もかも全部が小さくて、短い。どう見ても、私の知っているそれじゃない。


 え……身体が、縮んでる?

 これじゃあまるで──幼女じゃないか。


 その時、窓からふわりと風が吹いた。

 それは壁に立てかけてあった“鏡”の布を攫い、蝋燭の炎を吹き消す。

 ボボという、寂しげな音だけを残して。


 思わず鏡に目をやった。

 でも、暗い。鏡の中の私は、影の輪郭だけを残して沈黙していた。


 雲間から差し込む月明かりが、ゆっくりと足元から伸びてくる。

 それは私の姿を徐々に、でもはっきりと鏡の前に照らし出していく。

 

 映っていたのは、目を開いて固まる一人の少女。

 その眼は深紅── 長い睫毛(まつげ)に縁取られたルビーのような赤い瞳が、私を見つめていた。

 髪は金糸のようにサラサラとして、月光を反射して黄金に輝く。

 これ……もしかして、わたし? 

 

「うひゃあ! なんで!?」


 思わず変な声が出た。もちろんその声も、いつもの私の声じゃない。

 見た目も声も、誰か全く別の人間になってしまっていた。


「やっぱり! お父様、小紅さまがなんだか変!」


 少女が男を振り返って言う。


「ううーん、そうだね。記憶が少し混乱しているみたいだ」

 

「失礼します」


 男は少女から私の身を預かると、ベッドの上に戻して毛布をかけてくれた。

 彼はそのまま、私の額に手を当てて顔を覗き込んでくる。


「熱は下がったようですが……。文姫(ぶんき)、お水を持ってきてくれるかい?」


「わかりました!」


 文姫(ぶんき)と呼ばれた少女は、またぱたぱたと走り去っていった。

 部屋に残ったのは、私と男の二人だけ。


小紅(しょうこう)さま、私がわかりますか?」

 小さく、男が尋ねる。


「……いいえ」

 私は正直に答えた。


「そうですか……」

 答えを聞いてうんうんと頷く男。

 でもやがて天井を見上げ、小さく呟く。


「ああ……、こりゃ私。仲穎(ちゅうえい)さまにこっぴどく絞られるなぁ」


 その顔には諦めにも似た、薄い笑みが乗っていた。


 ***

面白かったらブクマ&★評価をもらえると

明日の更新の励みになります( ๑❛ᴗ❛๑ )♪

まだまだお付き合いくださいね☆

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