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1.終わりと始まり 1

 魔王との戦いは熾烈を極めていた。

 両者は傷だらけであったが魔王にはまだ余力が残っているように見えた。

「くっ、ここまで来て!」

 姫勇者・シーダは女神より与えられた聖剣を支えにしてようやく立っていた。

 その横では同じく女騎士・アーデが大盾に寄りかかるようにして何とか膝をつかぬよう踏み止まっていた。

 未だ幼さを残した顔つきの姫巫女・ソフィスティア(愛称・ソフィ)はもはや立つ事もかなわず膝をつき、後方に控えていた女魔道士・ウルザは立とうとしても既に足が力に入らない有様だった。

「このまま負けるというの?ここまで来たのに!」

 シーダの顔に絶望が浮かぶ。その時だった。

「諦めるな!」

 誰もが満身創痍の中でただ一人、最後方で守られながら無傷の道化師・ルディが勇者パーティを叱咤する。

「諦めたらダメだ!あと少しだから頑張れ!」

 女四人に守られたおかげで無傷の男が満身創痍の女達に戦えと叫ぶ姿は傍から見れば本当に最低の絵面であろう。

 当然、戦えと言われた側のシーダは魔王にではなく仲間であるはずのルディに対して殺気を向けた!

「何も出来ない役だ立たずのくせに無茶な事を言わないで!もう誰も体力も魔力も残っていないのにこれ以上何が出来るというのよ!」

(あんた以外はね・・・)

 シーダは心の中だけでそう毒づく。他の3人もまた、声にこそ出さないが視線は同じ事を訴えていた。

 魔力も底をつき、体のあちこちから血が流れて体力も奪われていく。

 未だ魔力も体力も残した魔王に対して出来る事など最後に一太刀浴びせられるかどうかぐらいしかない。

 勇者パーティの女達はそう思い、最後の力を振り絞ろうとしていた。だが

「・・・出来るよ。君たちなら、ね」

 その言葉に何か気になる物を感じて振り向くと、ルディは護身用と言って持ち歩いていた短剣を腰から引き抜いていた。

「そんな短剣で魔王に敵う訳が・・・」

「戦うのは僕じゃない。戦うのはあくまで君達だ。魔王に勝つための力を・・・僕が与える」

「何を言って・・・」

「僕の命と引き換えにね」

 そう言うとルディは短剣を持ちかえて己が胸へと突き刺した!

『!!』

 その場にいた誰もが目を奪われた。決して絶望の果てに自決したのではない!彼の眼は最後まで希望を見つめていた。

「女神よ・・・今こそ我が命と引き換えに彼の者達に御身の加護と祝福を・・・」

 パーティの全員が目の前の光景を信じられぬものを見るように見ていた。


 そもそも魔王討伐の旅になんの力も持たない一介の道化師が加わっていたのは勇者であるシーダの父である国王から旅に出る条件として最後までこの男を連れていく事を厳命されていたからだった。

 確かに戦闘では役に立たない道化師ではあったが総じて世慣れていない娘達四人を含む旅の道中では旅慣れた彼の存在は大きかったとは言える。

 だからこそ、死ぬかもしれない魔王城での戦いには連れて行くつもりはなかったのだがいくら言っても脅しても勝手について来た為に仕方なく彼を守りながら戦ってきた。

 正直単なる荷物持ちか小間使いくらいに考えていた彼が、魔王を倒す為の何らかのスキルを使う為に自らの命を捧げた事に一同は衝撃を受けていた。


 ルディが祈りの聖句を口にすると、暖かな光が勇者たち4人の体を優しく包み込んでいった。

「これは!?」

「女神の御加護が・・・私達に新たな力をお与えに・・・」

 ソフィはその奇跡に涙を流していた。

 ソフィがこぼした言葉の通りに4人の怪我はみるみる回復していった。それどころか失った筈の体力や魔力も回復し、万全どころか元の状態よりもより多くの力で満たされるのであった。

「なんと、これは!」

「これなら・・・いけるわ!」

 アーデもウルザも自分に起きた出来事に戸惑いながらも調子を確かめて確信する。

「おのれ、女神め・・・!!」

 魔王は勇者パーティ一行に何が起こったのかを正確に把握していた。

 女神の加護により傷ついた体は万全の状態に戻り、女神の祝福により通常以上の力を発揮できるようになっている。

 それはすなわち、形勢が逆転された事を意味していた。

「まさかあの道化師風情にこのような力があったとは・・・。道化師と侮る事無く真っ先に殺しておくべきだったわ!」

 それは勇者一行も同じ気持ちだった。

 ルディは今、短剣を胸に突き刺したまま体を横たえていた。もう、彼が助かる事は無い。

「さぁ・・・戦って。世界の平和は・・・希望は・・・君達の手に・・・」

 そう言い残すとルディはそのまま息絶えた。

 勇者一行は突然の事態に未だ困惑気味であったが、気持ちを入れ替えると再び魔王と対峙する。

「さぁ、終わりにしましょうか、魔王!!」


 かくして姫勇者シーダ姫率いる一行は魔王を討ち滅ぼしたのだった。

 魔王討伐後、ソフィが神官魔法の最高位である蘇生魔法を用いてルディを甦らせようと試みたが結果的にはルディは甦る事は無かった。

 ソフィが蘇生魔法を唱えた後、ルディの亡骸は光に包まれて消えていった。女神の御許に召されたのだとソフィは神託により教えられた。

 4人は亡くなったルディに祈りを捧げると国許に帰り、国王へと魔王討伐の報告を行った。

 国王は大いに喜んだがシーダ達は素直に喜べなかった。

 最終決戦で魔王に勝てたのは紛れもなくルディの使ったスキルのおかげであり、彼がいたからこそ魔王を倒す事が出来た事も王に報告すると、王から彼の真実を告げられるのであった。

次回は2月2日(日曜日)の予定です。

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