第4話 友を探して異世界へ
※
「あそこが城下町よん」
「ありがとう、助かったよ」
俺はドラゴンの頭上から立ち上がって地上を見下ろした。
舗装された道の先に城下町が見える。
あそこなら何か情報を得られそうだ。
(……転移で移動できたら楽なんだがなぁ)
実は便利に思える転移にも欠点がある。
たとえば転移座標に壁があったとしたら……転移直後の身体はどうなるのか?
結果を目にしたことがあるが、知人の賢者は壁と融合してしまった。
が、それはまだいいほうだ。
誤って地面の中に転移してしまった馬鹿な魔法使いの話を聞いたこともあるが、結局帰ってはこれなかったらしい。
このように転移は便利な力ではあるがリスクも付き纏う。
その為、移動手段が多いに越したことはなかった。
「そうだ……お互いにまだ名前を知らないよな。
俺は狭間 巡だ。」
「あら、これは失礼しちゃったわね。
あたしはエンシェントドラゴンのミッシェルよん!」
この異世界に長居するつもりはないが、互いの名前は知っておいても損はないだろう。
「ありがとうな、ミッシェル」
「何かあったらまた呼んでねん!
呼んでくれたら直ぐに駆け付けるから」
ドラゴンは聴力もいいので、大声で名前を呼べばどこにいても声が届くだろう。
もし力が必要になるなら遠慮なく頼らせてもらうとしよう。
「その時はよろしくな」
「は~い!」
返事を聞いてから、俺はミッシェルの頭上から飛び降りた。
パラシュートのないスカイダイビンをしながら、俺は世界を見渡す。
どこまでも広がる緑の草原、紺碧の海はどこまでも広がっている。
小さな湖や、大森林――大きな塔なども見える。
城下町に繋がる道を、馬車を走らせる商人や冒険者たちが歩いてるのが見えた。
それは賑わっている証拠だろう。
『おお! これもまた面白いな……急速に地面が近付いていくぞ!』
『このまま激突したら地面に穴が開いてしまうな。
通行人の迷惑になる』
自分で言っておいてなんだが、心配するのはそっちか? という声が聞こえそうだ。
風の魔法で落下の速度を抑えて俺は着地した。
『巡よ、管理局の女神からの大まかな情報になるが、この大陸に麗花 恋が転移してから半年以内といったところのようだ』
転移したばかりなのか、半年経過しているのかで状況は全く異なってくるだろう。
それにより恋の行動範囲もかなり変わってくるはずだ。
『時間の調整、もう少しなんとかならないか?
できれば転移先だけじゃなくて現在地もわかるといいんだが?』
『管理局の女神もそこまで正確には把握しておらぬよ』
転移先では当然、異世界転移者も歳は取る。
が、通常は元の世界に戻るのと同時に、転移直前の年齢に戻るそうだ。
ただ、異世界で寿命を迎えてしまった場合は例外ということらしい。
『とにかくこの世界にいるのは間違いない』
『それがわかってるだけ気が軽いか』
同じ世界にいるならあとは探すだけなのだから。
「まずは町で恋の情報を集める」
『それがいいだろうな。
我も知っているぞ。
情報収集は冒険の基本なのだろ?』
神は声を弾ませて俺に尋ねた。
『お前、冒険をしたことないのか?』
『天界から様子を眺めていたことはあるが、現地に立ち世界を見て回るのは初めてだ』
つまり、アルにとっても初めての冒険なのか。
今のアルは遠足でテンションの上がった小学生みたいなものかもしれない。
『悪いが、のんびり世界を見て回るつもりはないぞ?』
『優先順位くらいわかっておるわ!』
『そっか。
ならいいんだけどな』
最速で目的を達成する。
そう決めて俺は移動を開始した。
※
「おいお前……通行証はどうした?
なんだか見慣れぬ服を着ているようだが、どこの町から来た?」
門を素通りしようとすると、立っていた衛兵の女に止められた。
当然、通行証なんて持っていない。
『この雑兵……分を弁えておらんな……。
巡、やってしまうか?』
『あのな……そんなことしたら騒ぎになるだろ』
しかもこの人、自分の仕事をしてるだけだから。
『ふざけたことを口にするなら、この星を消滅させてしまえばよい』
『そんなことしたら恋を助けられなくなるだろうがっ!』
『むっ……そうであったな。
転生者といえど、人とは脆いものだった……貴様が例外すぎて人類の弱さを忘れていたぞ』
神々ってのはなんでこう常識がない奴が多いのか。
念話をやめて、俺は衛兵に伝えた。
「顔パスでいいか?」
「……?」
一瞬、俺の発言に対して訝しそうに首を傾げたが、直ぐにその場で衛兵は恭しく一礼した。
「ししししし失礼しました! 勿論でございます!」
「そうか。
ありがとう」
俺は堂々と城門を通った。
『精神操作の魔法を使ったようだな』
『惜しい。
それと幻惑の魔法をセットだ』
精神操作と幻惑を同時に使うことで、あの衛兵には俺がこの国の王に見えるよう幻覚を施したのだ。
『ほう? この我を謀るように魔法を使うとは流石ではないか』
俺は瞬間的に魔法を発動できる。
超大規模魔法でも使用しない限りは、魔力の波動を抑えることも簡単だ。
つまり、他者に魔法を使用したと気付かせることなく、魔法を使うことができる。
この程度のことは神々なら簡単に可能だと思うが、人間でそれができるとしたら、超高レベルの勇者か数万年に一度の才能を持った賢者、もしくは何らかの固有技能を持った異世界転生(転移)者くらいだ。
『ま、これで好きに町の中を散策できる』
『情報収集というわけだな』
その通りだ。
俺はポケットからスマホを取り出して一枚の写真を画面に移した。
『なんだそのアイテムは?』
『超便利アイテム――スマートフォンだ』
アルの質問に答えてから俺は町の住民に適当に声を掛けてみた。
「すみません。
この町で、この子を見たことないですか?」
「うん……?」
言って町人にスマホを見せた。
そこには友人たちと撮った写真が写っていた。
恋もバッチリ映っている。
「!? なんだこれは!? 恋さまが小さな箱の中に!?」
この反応、いきなり当たりだ。
恋はこの町の住人には知れ渡っている存在らしい。
「相手の姿を映す特殊な魔法なんです」
「そ、そうなのか。
ならあなたさまは恋さまのお仲間なのですね」
いい感じに話を進めてくれた。
仲間というのも事実だから嘘を吐いたことにもならない。
「ええ。
それで今、彼女を探してるのですが……」
「恋さまなら勇者の教室にいらっしゃると思いますよ」
「勇者の教室?」
「あっちに城が見えますよね?
城のほうに進んでいただくと、綺麗な装飾が施された建物があります。
そこは騎士学校になっているのですが、その中の一室が勇者の教室です」
そんな場所があるのか?
教室ということは、他の勇者もいるというか?
だとしたらこの異世界には数名の転移者、もしくは転生者がいる可能性がある。
「……ありがとうございます」
「いえ、お役立ちできたなら光栄でございます」
町人は礼儀正しく頭を下げると、この場を去っていった。
『幸先がいいではないか』
『ああ、早速行ってみるとするか』
そこに恋がいてくれるなら、ここの異世界の旅は早くも終わりを迎えられそうだ。
俺は意気揚々と駆け出していた。