第5話 フィナーレ
約3年の時を経て偶然にも再会した2人。
ついに感動のフィナーレへ
今まで必死に抑えてきた彼への想いが溢れ出た。会いたかった、それこそ夢にまで見るほどに。まさかこんな形で再会するとは思わなかったけど。
「泣かないで」
ウーヴェがそっと涙を拭った。だが、本当に彼がそこにいるという感動でもっと涙が溢れそうになる。
「ママー! この人だれー?」
ウーベの可愛い声で現実に引き戻された。どうしよう、この子になんて説明しよう。いきなり父親であることを明かしたら混乱するかもしれない。それに、正式に認知してもらったわけでもない。とりあえず、この場は誤魔化すことにした。
「この人はママの昔のお友達よ。」
「ふーん」
そう言うとウーベは納得したのか、興味がなさそうにまた遊びに戻ってしまった。
「…結婚したんだね。…正直に言うと君の夫が羨ましい」
今のやりとりを見ていたウーヴェが複雑な表情で呟いた。
「違う、結婚してないわ。」
私が即座に否定すると、彼は驚愕の表情を浮かべた。
「じゃあこの子は…?」
私は戸惑った。ここで彼に真実を伝えるべきか否か。
「この子は…」
彼の反応が怖い。もし反論されたらどうしよう。でも、この子の未来のためにはここできちんとしておくべきだ。
「あなたと私の子供よ」
ああ、言ってしまった。私は俯いた。彼の表情を見るのが怖い。
「本当!?」
「ええ。だってそっくりじゃない」
事実、ウーヴェとウーベはそっくりだった。髪の色こそ私の色を継いで金髪だが、目は彼と同じ翡翠色だ。
「信じられない…」
「本当よ」
「いや、そういうわけじゃなくて…まさかあの時に…」
「ウーヴェ」
「でも、どうして知らせてくれなかったの?」
「それは…」
私は言葉に詰まった。本当は、彼のことを信じ切れなかった。言ったところで認知してくれたかどうかは分からなかったからだ。でもそれを正直には言えなかった。
「あなたに迷惑をかけないためよ」
「だからこの3年間村にも帰らずに失踪したの?」
事実、私は村を出てから一度も帰ってなかった。そして、親とも連絡を取っていなかった。住居を転々としていたし、失踪扱いになっていてもおかしくない。
「…そうよ」
「ずっと探してた。村を出てから初めてレーネに会うために帰省した時、君が出稼ぎに出たと知ってラストックまで行った。なのに君はもう仕事を辞めたことを君の同僚だったディアナから聞いた。」
「ディアナに会ったのね」
「うん。でも君の居場所は教えてくれなかった。何度聞いても本人に聞けの一点張り。結局村まで戻ってレーネの親御さんに報告して、必ず君を見つけると約束した。その時に…」
「?」
「いや、なんでもない。とにかくあれからずっと君を探した」
そんなこと、知らなかった。まさかウーヴェが一度村に帰っていたなんて。しかも私を探していたとは。
「でも、見つからなかった。」
「…」
「今までレーネがどこで何をしていたか詳しく聞きたいけど、もうそろそろ仕事に戻らなきゃいけない」
「そうなのね」
「今はこれしか持ってないからとりあえず渡しておく。一人で子供を育てるのは大変だっただろう。今まで苦労をかけさせてしまって、それに何もできなくて本当にごめん。こんなもので償えるとは思ってないけど…」
ウーヴェは言い終わらないうちに懐を探ってお金を取り出した。
「いらないわ」
私は突き返した。確かにお金があれば楽になるけど、それを受け取るのは私の矜持が許さなかった。
「わかった。でも必ず責任は取るから」
「うん」
「じゃあ、そろそろ行くね」
ウーヴェがベンチから立ち上がったので、私も立った。
「元気でね。さようなら」
今度こそ別れの挨拶を告げたら、突然彼に抱きしめられた。
「レーネ、もうどこにも行かないで」
「…うん」
数秒ハグを交わした後、彼は名残惜しそうに離れていった。
「また、会おうね」
彼は最後にそう告げると、去っていった。
結局、行ってしまうのはあなたの方なのに。
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次の日の夜、ウーベを寝かしつけた後、うちに来訪者がやってきた。
「はい」
ドアを開けると美青年、もといウーヴェが立っていた。私は予想外の人物に驚いた。
「ウーヴェ!? どうしたの?」
「レーネ、大事な話がある。とりあえず場所を変えるから急いで見支度して。もちろん子供も一緒に」
「わかったわ」
私は彼の真剣な表情を見て只事ではないと判断してすぐに支度を始めた。
数分も経たないうちに支度を終えると、私はウーベと共に馬車に乗せられた。馬車はすぐに出発した。
「ねぇ、これからどこに行くの?」
私は心配になってウーヴェに尋ねた。
「僕の実家」
「えっ」
私は予想外の返答に驚いた。まさか、これからヴレーメン村に行くのか…?だとしたらここから数日はかかるだろう。
「ヴレーメン村じゃなくて、王都にある方の」
「そうなんだ」
私はほっと胸を撫で下ろした。そして、違和感を感じた。王都に彼の実家なんてあったっけ…? てっきりあの村だけかと思ってた。それにしても、あまりに急なことだったので何の支度もしていない。
「私、何も準備してないわ。」
「問題ない」
彼は言い切った。だが、不安は払拭されない。むしろ募るばかりだ。急にウーベを連れて行ってどんな反応をされるだろうか。やはりあまりよく思われないのではないか。私たちはいわゆる普通のプロセスを踏んでいない。なによりまだ未婚だ。未婚で子供を産むことに寛容であるとは言えないほど世間の目は厳しい。でも、それでも彼を育てると決めたし、例え彼の実家の人にいい顔をされなくても、私たちは生きるしかない。
しばらく経ったあと、馬車は止まった。馬車から降りると目の前に立派な貴族の屋敷があった。ウーベは目を輝かせ、私は固まった。
「レーネ、ここが僕の実家だ。着いてきて」
「ちょっとまって。聞いてないわ、こんなの」
私は彼に小さな声で言った。
「あとで説明するから」
とりあえずその場は頷かざるを得なかった。彼についてそのまま屋敷の中に入った。
屋敷の中は、別世界だった。隅々まで行き届いた空間に、召使いが並んでいる。
私はこの時点でもう帰りたかった。
そのまま応接間に通され、彼と対面した。ちなみにウーベはもう夜遅いので、メイドさんに引き取られた。
「何も知らせずに君を連れてきてしまってごめん」
彼は開口一番に謝った。
「実は、色々あって僕がゾルガー伯爵家を継ぐことになった。今の当主はまだ祖父だけど、いずれ僕が継いで伯爵になる」
私は彼の言葉を聞きながら、ああ、やっぱりこの世界はどこまでも、ゲームの世界なんだなと実感した。なぜなら、ファンディスクにウーヴェルートのその後みたいな映像があって、その中でヒロインはゾルガー家を継いだウーヴェと結婚して伯爵夫人になっていたから。そんな重要なことを今思い出すなんて。
「貴族に、なるのね」
私は小さな声で呟いた。もう、ウーヴェはただの幼馴染ではなくなってしまうんだ。貴族になってしまったら、こうして平民の私と言葉を交わすこともなくなるのだろう。それくらい、貴族と平民では身分差がありすぎるし、住む世界が違う。
いよいよウーヴェが遠い存在になってしまった。
「レーネ、結婚しよう」
だから、彼のこの言葉は想定外だった。
「無理よ。私とあなたじゃ身分差が…」
「子供はどうするの? 結婚しないと私生児になるけど、あの子は間違いなく僕の血を引いた、つまり貴族の血統を持った子なんだ。億が1ありえないけど、もし僕がこの先ほかの娘と結婚したとして、彼女は私生児だとしても僕の血を引いたあの子を見てどう思うかな」
私は青ざめた。彼は将来あの子が後継者争いに巻き込まれる危険性を示唆していた。
「だめよ。あの子を危険に晒したくない」
「だったら結婚して」
「でもまだ親の許可が…」
「もう君の親御さんの許可はもらったから」
私は驚きのあまりウーヴェを見つめた。
「いつ?」
「村を出る前に一度。帰ってきたらレーネをくださいって頼みに行ったんだ。そしたら快く許可をもらったよ。二度目は、レーネが失踪した時。レーネが見つかったら結婚していいか聞いたらいいと言ってくれた。それで、無事にレーネが見つかったから結婚するのに何の問題もない」
知らなかった。まさか、ウーヴェが水面下で動いていたなんて。それに、親公認だったとは。
「でも、ウーヴェは…?」
「それも問題ない。家を継ぐとなった時に身分に関わらず好きな人と結婚することを条件にした」
「…」
もはや絶句。あまりに用意周到だった。
「わかったわ…」
「じゃあ、ここにサインして」
目の前に一枚の紙、婚姻届が差し出される。ご丁寧にペンを添えて。
「あの子のためよ」
そう、ウーベを守るためにはここにサインするしかない。あの子の未来のためには、やはりこのままではいけない。やっぱり、父親と母親両方に愛されて育ってほしい。
「ねぇ、ウーベを愛してくれる?」
彼は驚愕に目を見開いた。
「あの子の名前、ウーベっていうの。父親の名前をつけたのよ。 私は蔑ろにされたってどうだっていいけど、ウーベのことだけは愛して大切にしてほしいの。」
私はありのまま自分の本心を伝えた。
「レーネを蔑ろになんてしない。僕はずっと、あの村にいた頃から今までずっと、レーネを愛してる。片時も忘れたことはない。一生レーネを大切にするし、僕たちの子であるウーベも愛してるし、絶対に大切にする。」
私は、ウーヴェの言葉に心を動かされた。
「ありがとう」
だから、私は彼に向かって微笑み、ペンを取ってサインした。全ては彼のために。
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「今日はもう遅いから泊まっていきな」
「でも何も持ってきてないわ」
「大丈夫。全部メイドに用意させるから。そもそも、もう正式に結婚して夫婦になったんだから一緒に暮らすべき」
「確かに書類は書いたけどまだ出してないわ」
「明日の朝一で出すから。お願い、レーネともう二度と離れたくないんだ」
そこまで言われてしまったら仕方がない。
「わかったわ」
私は一晩だけのつもりで了承した。
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「夫婦になるんだから同じ寝室で寝るべきだよね」
「えっ」
私たちは3年前のあの晩の続きをした。
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その後、無事に婚姻届は受理された。ウーヴェの父親であるゾルガー伯爵と伯爵夫人も結婚を認めてくれ、ウーベの存在も無事認知されて正式な後継になった。
村にいる両親にも手紙で結婚を報告し、落ち着いたらそのうち帰省することにした。
そして、ささやかながら身内だけの式も挙げることができた。




