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重陽の節句

多少脚色していますので、鵜呑みになさらぬようお願いいたします。

また多少のBL的表現がございますので、ご注意ください。

備品が少なくなり、手持ち無沙汰な状態だったので手伝いを申し出た買い物帰りのこと。

西へずっと行った、もうここは西の果てなんだと思えるくらいずっとずっと先にある島國から来たという、下町の子供たちをいっぱいに引き連れた商人から聞いた話だ。



「重陽の節句、うちの國では陰陽思想があってな 陽が重なるということで陽の気が強くなりすぎるのを逆に払う日なんやって。過ぎたるは猶及ばざるが如しってやつやな!まぁ、そんな日や。今は陽が重なるからめでたいなぁと逆に祝い事になっとるけど。」



この商人はマイナスからプラスへ移り変わる気軽さに呆れている様な口調でそう言った。

それに続けて、



「またこの日は別名菊の節句とも呼ばれててな。菊の朝露で体を清め、邪気を払い菊酒を飲んで、不老長寿を願う日なんよ。」



まぁ、要するに今日はそういう日らしい。

私が『前』に聞いた話とそう違いはないみたいだ。



「重陽の節句、ですか。」


「はいな、今ならうちが本國から持ってきた菊酒を特別価格………えーと、このくらいで、兄ちゃんどうや、買っていかんか!!」



こちらではワインやエール等しか見たことが無かったから、もう飲むこともないだろうと思っていた米の酒、これを逃したらもう飲めないかもしれないな。



「……これは清酒、ですよね?」


「当たり前や、お猪口の底の模様まできっちり見えるくらい透明やわ!!」


「よし、買った。」


「毎度ありー♪」



どうやってこの大陸まで枯らさずに持ってきたのか、流石に露までは無さそうだが菊の花もおまけとして付けてもらった。商人トークというか、押しが強いというか。僅かな郷愁に負けてつい買ってしまったが少なくとも私から見て損な買い物はしていないと思うので良しとする。

1人ホクホク顔で酒の入った小ぶりな瓶と白黄2色の菊を持って城へと帰った。




* * * * * * * * * * *



その夜……。



「ジル、今いいですか?」


「その声は、クレイか。入れ。」



ノックをしてわざと名前呼びにする。それが 『友人』として接する時、二人の間の暗黙の了解だった。



「失礼します。」


「あぁ、こんな時間にどうしたんだ?」



普段この時間に無断で寝室に訪れることのない私を不思議がっているようだった。その証拠に首をかしげながら訊ねてくるのだから。

そんなジルを酒の入った瓶を掲げてみせて、少し飲みませんか? とテラスを指差し誘った。

今宵は丁度綺麗な月が出ている。月見酒、には早いがいい頃合いだろう。



「へぇ、今日がそんな日だったとはな。」



昼間商人に聞いた話をそのまま伝え、補足として私の知識にある話を少し聞かせたのだが、どうやらこの話はジルの興味を引いたらしい。



「まぁ彼の島國と『前』にあった行事が似ているというだけですが、ここにもあるんですねそんな習わしが。」


「俺もこの話は初耳だ。不老長寿、か。」


「興味がおありで?」


「だって、不老に長寿なんだぞ?いつまでも健康で長生きしたいじゃないか 王なら尚更な!」


「善王なら、が前につきますけどね。」


「言うなコイツめ。」


『……っふふふ / っははは。』



軽口を叩き合いつつ、月の光を受けて輝く無色の透明な酒に菊の花弁を浮かせ飲み干す。その美しさ、儚さを感じつつ美しい月を花を愛でた。

今宵は本当にいい夜だ。



「なぁ、クレイ」


「はい?」



宴もたけなわ、突然ジルが真剣な表情でこちらを見た なんだろうと思い返答する。



「死すまで俺はこの国を守ると自分自身に誓っている。だから俺はこの国を捨てられない、捨てたくなどない。 お前はずっと……。」



隣にいてくれるか、だろうか。

王としては王妃以外に寵愛する者がいるということはあまり歓迎されていない。この国では王族以外の者が権力を持ちすぎないように制限をかけられているからだ。

ずっとそうされてきた、今更それを変えることは出来ない。上に立つ者はそれ故に孤独を強いられ、悩まされるだろう。

ならば、せめて「対等としての友人」なら許されるだろうか。側にいると、共にいると答えればこの人を安心させてあげられるだろうか。




❮分岐点 (A or B)❯


〜A part〜


「えぇ、ジル。許してくれるのならばずっと、私は貴方の隣にいますよ。」



私からは頼まない、頼めない。ずっと一緒にいさせて欲しいなんて図々しいことは言わない、『命令』されてからでないと不安で動けないのだ。

もし、断られたら もしも───



「そうか、……そっか!」



私のどこまでも受身な回答を聞いて少し不満そうな顔をしたが、どうやら納得はしてくれたらしい。

本当はずっと前から気付いてた、ジルの気持ちも向けられている感情の名も知っていた。だから私は「忠誠」に紛れ込ませた本心を貴方に返す。



「クレイ……。」



ほら、名を呼ばれるだけでこのちっぽけな心は忙しく動き出す。貴方が名だけでは飽き足らず一歩、また一歩と近づいてくる、もうおかしくなりそうだ。



命令()」されれば「忠誠()」で返すから私を必要として欲しい。

捨てないで、と 声にならない声はジルの唇に吸い込まれた。





〜B part〜



しかし、私の答えは。


「お側にいますとも、我が主様。」



「そう、か。」



膝をつけ頭を垂れ、手の甲へ口付けた。もう友人としてのジルはいない。私は王としてのジルを選んだのだ、後悔など出来るはずもない。



卑怯な私を許してください、ジル。


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