選ばれなかったはずの者
この世に、失われていい命など――
おそらく、存在しない。
命は生あるもの全てに等しく与えられたものだ。
それが神によるものか、世界の理かは分からない。
だが少なくとも、そこに優劣があっていいはずがない。
……本来ならば。
とある古い書には、こう記されている。
「生あるもの全てに始まりがあり、終わりがある。それは平等であり、不平等でもある」
要するに、始まりと終わりは平等
だが、その過程は決して平等ではないと言うことだ。
そしてこの世界には――
その“過程”を歪める場所が存在する。
《エデン》
あるいは《楽園》とも呼ばれるその場所は、この世に存在する生物全ての始まりとされている、そしてそこへ辿り着いた者は、神へと昇格する、とされている。
世界【ポリモルフィア】。
数多の種族が存在するこの世界において、
それは疑う余地のない“事実”とされている。
そのため、過去数え切れないほどの生物が神に昇格すべくそこを目指した、がそのほとんどは帰らなかった。
だが過去にただ一体、そこへ辿り着いた者がいる。
竜族の英雄――ファフニール。
約2000年前、彼はたった一人でエデンを
目指し
辿り着き
そして全生物初の神への昇格を成功させた。
そして神となった今は竜族を天界より見守っていると語られている。
まぁよくあるおとぎ話にすぎない。
事実だという保証もどこにもない。
だが世界最強の種族と謳われる竜族なら完全に否定できないのもそれまた事実だった。
「……またこの時期か…」
掲示板に貼られた選定日時のポスターの前で、レインは小さく呟いた。
東の島国群【ミズガルズ】。
今年もまた、“選定の時”が訪れていた。
エデンへ向かう資格を持つ者を決める儀式。
ここミズガルズでの選定の条件は満15~25歳の男女、それ以外の条件はない。
表向きは、完全なる抽選。
だが実際は貴族や軍幹部の家の名を広げるためだけの儀式だ。
「どうしたんだレイン、そんな顔して」
隣にいた友人のカイルがそう問いかけた。
「顔は普通だよ……いやだってさ、誰も戻って来たことがないんだろ?」
「……まぁ、辿り着いたとしても神になるんだし、神になれたかどうかを確認するすべはないし、戻ってこないのが自然なんじゃないのか、それにたどり着けずに死んじまうパターンがほとんどだろう」
「……それは、そうなんだけど…」
言われればそうなのだが、どうも納得できなかった。
数日後。
中央都市【アスガリア•選定の広場】
「今から選定者を決める!この選定は、完全なる平等のもと執り行われる、では、始める」
(なにが完全なる平等だよ、どうせ貴族だろ)
そして――
「選定者、カシム!」
拍手と祝福の声が響く
「おお!」
「あのエルドレッド家の」
「がんばって欲しいわね!」
(なんだ、結局貴族じゃないか、まぁでもこんなの死刑宣告と同じだよ、どうせ生きては帰れないんだ)
「……静粛に、静粛に!」
選定は終わったのに急に神官が観衆を黙らせる
軽く咳払いをしてから続ける
「え~~、選定者であるカシムは現在、ミズカルズ国内にいないとのことなので、もう一度抽選を行うことにする、これもまた、厳正なる平等の元執り行われる」
会場がザワつく
(うん?再抽選なんて、今まで聞いたことがないぞ)
そして
「選定者――レイン!」
会場がどよめき立つ
「……誰だ?」
「聞いたことがない」
「まさか一般人……?」
「……は?」
「選定者レイン!前へ」
「あれが?」
「普通の子どもみたいだけど」
「弱そうな顔つきだ」
当然の反応、どよめきと共に罵倒の声が飛ぶ。
レインは状況を理解できないまま、言われるがままに前に出る。
「選定者レイン、其方は人間族代表として、エデンへと向かい、神になった暁には、このミズガルズと、人間族に永遠の繁栄をもたらしてもらいたい、よいな?」
「え?………はい」
力なく返事をした、これが人間を代表した過酷な旅の始まりだった
Character profile1
レイン
種族 人間
性別 男
年齢 16
特徴 適応能力が高い。
備考:本来選ばれるはずのない存在だったが、再抽選によって代表に選ばれる。
“選ばれたこと”そのものに疑問を抱いている。




