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神に祈るより肉を焼け。追放シスターの屋台改革!  作者: 灰猫さんきち
第6章

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91:助けを求める夢

 ――不思議な夢を見た。

 暗い、とても暗い場所に私はいる。夜の暗さとはまた違う、星明りすらない真の暗闇だ。

 それなのに私は周囲の様子が何となく分かる。

 少し先に何かがうずくまっていた。


『くるしい……』


 声が響いた。泥のような奇妙な淀みが、その体にまとわりついている。


『誰か、たすけて。ワタシの声に気づいて』


 あまりに悲痛な声に、私の胸は痛んだ。


「待って、今行くわ。私にできることなら、力を貸すから――」


 うずくまる何かに手を伸ばす。それがゆっくりと顔を上げる。

 見えたのは大きな目玉だった。


(これは)


 脳裏に昼間の記憶がフラッシュバックする。

 波間に見えた、クラーケンの両目。船を攻撃してきたけれど、どこか本気ではなかった。

 攻撃というよりも、あれは助けを求めていた? 気づいて欲しくて必死に手を伸ばしていたの?

 いや、手っていうか足だけど。

 あと、伸ばされた手(足)をさんざん食べちゃったけど!


 クラーケンの目に凶暴さはない。子供のような頼りなさが灯っている。


「話を聞かせて。あなたは何を求めているの?」


『このままでは、仲間たちが死んでしまう……』


 声が遠ざかる。暗闇が濃くなって、何も見えなくなる。


「……はっ!」


 私はガバッと跳ね起きた。心臓がバクバク言っている。全身にかいた汗が寝間着に貼り付いて気持ち悪い。

 窓を見れば、外はまだ暗かった。

 同じベッドではフィンとミア、それからラテがすやすやと眠っている。


「何だろう、今の夢」


 夢にしては妙に迫力があった。あれだろうか、タコ足三昧をされたクラーケンがいよいよ怒ったのだろうか……?


(いいや、違う)


 クラーケンはずっと悲しげで、怒りは感じられなかった。

 私はお腹を押さえる。

 昼間、タコパ・タコ三昧でさんざん食べまくったタコ足が、何だか熱を持っている気がした。





 明けて翌朝。

 私は昨晩の夢を思い出していた。

 今でもしっかりと覚えている、あのクラーケンの悲しげな様子。

 昨日食べたタコ足はもう消化されたはずなのに、どこかでまだあの魔物の気配を感じていた。


「……まさかね」


 私は絶対倉庫の内部に感覚を伸ばす。

 このほとんど無限の亜空間は、私だけの特別な領域だ。どれだけたくさんの物を放り込んでも、どこに何があるか手に取るように分かる。

 今も少し心を向ければ、半分だけ残った巨大タコ足の様子が鮮明に脳裏に浮かんできた。


 私の絶対倉庫は時間停止の強力オプション付きである。だからタコ足も今は動きを止めている。取り出せばまたウネウネすることだろう。


 だが。

 完全に時が止まっているはずなのに、タコ足からは魔力が感じられた。こんなことは初めてだ。

 クラーケンは伝説と呼ばれるほどに珍しく強大な魔物。しかも本体はまだ生きていて、足は切り離しても元気にうねっている。

 こういう特殊な条件が倉庫に影響を及ぼしているのかもしれない??


「うーん……」


 私は考えた。

 クラーケン。タコ足。タコの柔らか煮おいしい。


「ま、いっか!」


 考えても分からないものは仕方ない。

 クラーケンは私たちに、とっても美味しいタコ足を分け与えてくれた。

 いや与えてくれたわけじゃないだろうが、結果的にとても美味しかったので。

 なら今度もう一度出会うことがあったら、お礼を言わないと。あと何か言いたげだったから、話を聞かないと。


「ルシル、おはよぉ……」


 寝ぼけ眼のミアが、寝グセだらけで起き上がった。フィンとラテはまだ眠っている。

 私は彼らを起こして、宿屋の食堂へ向かった。


「おはよー、みんな」


「おはよう、ルシル」


 アルフォンス、クラウス、ギルはもう食堂に揃っている。

 食堂で出されたパンとチーズを食べながら、今日の作戦会議だ。

 私はまず、昨日の夢の話をした。ただの夢と片付けるには、色々と関連性があったからだ。


「クラーケンが助けを求めているって? 夢で?」


 ギルがうーんと唸った。

 彼は朝っぱらからしっかり髪型を整えている。ズボラな私には真似できない芸当だ。


「ちょっと信じられないけど、ルシルの勘は割と当たるからなぁ。ラテちゃんはどう思う?」


『おぬし、まだちゃん付けを……もういいわ。まあ、クラーケンが伝説と呼ばれるほどの魔獣であるならば、吾輩のように念話を使っても不思議ではない。しかし問題は何故ルシルにだけ声が届いたかだ』


「私が昨日、誰よりもたくさんタコ足を食べたからとか」


『それはどうなんだ』


 ラテは呆れた顔である。


「じゃあ、絶対倉庫にタコ足を半分入れているから、とか。あのタコ足、時間停止しているはずなのに魔力が漏れているのよ」


『む』


 ラテは顔を上げた。


『あり得るかもしれんな。人間の能力は吾輩はよく知らんが、ルシルの倉庫に関しては、思い当たるふしがある。あれはおぬしの概念的領域であろう。いわば身の内だ。それに取り込んだのであれば……』


「ちょ、ちょっと待って! 何そのなんとか領域って!」


 急に難しいことを言い出したラテに、私だけでなく他のみんなも首を傾げている。


『亜空間使いの定番だろうが。魔獣にも亜空間を操るものはそれなりにいる。亜空間は既に存在するものに接続するタイプと、自ら新たに作り出すものがあり――』


「ごめん。ぜんぜんわかんない」


『愚か者が! 自分の能力なのに、研究一つせんとは!』


 ラテは怒りの猫パンチを繰り出した。痛い。

 アルフォンスが顎に手を当てた。


「なるほど……興味深いね。人間は小や中であれば倉庫の能力者はけっこういるんだ。でも原理は不明とされてきた。ラテは本当に賢い。後で話を聞かせてくれ」


『フン。別に吾輩も詳しくはないぞ。能力は本来、本能で使うものだからな。しかし吾輩が微生物の本質を理解した時に、能力の本領が発揮できたように、研究による伸びしろはある。まあ、タコの唐揚げを寄越すなら話してやらんでもない』


 めんどくさ。私は研究は料理だけで手一杯よ。

 顔に出ていたのだろう、ラテは私をじろりと睨んだ。


「話を戻すけど」


 と、ギル。


「クラーケンが住む深海まで汚染が広がっているとしたら、相当深刻な話だ。早急に原因を突き止めないといけないね」


「……船から見た限りでは、川が怪しかった」


 ここで初めてクラウスが口を開いた。気配が消えていて気づかなかったわ。

 私は頷いた。


「川は怪しいわね。けど一応、他の地域も確認しておきましょう」


『何? また船に乗るのか?』


 ラテが後ずさる。


「いいえ、バーバラさんの船はボロボロになっちゃったからね。他にも確認する方法はあるわ。……ミア、出番よ」


 ミアの頭を撫でると、彼女はきょとんとして私を見上げてきた。


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