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【受賞書籍化コミカライズ】神に祈るより肉を焼け。追放シスターの屋台改革!  作者: 灰猫さんきち
第6章

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90:タコパ

 タコパならぬタコ料理三昧が始まった。

 タコの柔らか煮は、しっかりと醤油の味が染み込んで、口の中でとろけるような柔らかさ。

 大根もタレとタコのエキスを吸い込んで、旨味たっぷりだ。


「あの銛も通らねえクラーケンが、こんなに柔らかくなるのか!」


 バーバラが驚きで目を見開いた。

 漁師や町の人々も、それぞれに器を手にして満面の笑みを浮かべている。


「味がしみしみで美味しい!」


「この昆布ダシ、本当にクセになる」


 タコのカルパッチョは反対に、さっぱりとした味わいだ。濃厚な醤油味の柔らか煮の後に口に入れると、爽やかな後味が気分をリセットしてくれる。


「いくらでも食べられちまうぜ」


 漁師たちは先を争うようにカルパッチョを皿に取っていた。


「レモン味がすっきりしていていいわねえ。それに、盛り付けの見た目もきれい」


 カルパッチョは女性たちに特に好評だ。やっぱりおしゃれ料理は、見た目も大事。


「この唐揚げ、すっごい美味しい!」


「おしょうゆ? の味がしみこんでいて、カリッとして、もう美味しい!」


 唐揚げは子供たちが群がっている。大人も食べたさそうにしていたが、さすがに子供を押しのける人はいない。


「おい、父ちゃんにも一口くれよ」


「やだよ! 後でシスターからもらえばいいじゃん」


 そんなやり取りがあちこちで聞こえる。

 たくさん揚げた唐揚げは、みるみるうちになくなっていった。


 そして最後にタコのお刺身。

 港町の人といえど、クラーケンを生で食べるのは勇気のいる行為らしい。他の品に比べて人が寄ってこなかった。


「なあ、シスター。あんたの料理の腕前を疑うわけじゃねえけどよ。本当に生で食えるのか?」


 バーバラが不安そうに言う。


「大丈夫ですよ。塩でしっかり洗って、皮は全部剥きましたから。まだちょっと動いているくらいの新鮮さですもの。平気です。ね、ミア?」


「うん。美味しそうな匂いがする」


 ミアのお墨付きがあれば安心だ。

 私は小皿に醤油を垂らし、ワサビ(いわゆる前世の和ワサビじゃなく、ホースラディッシュみたいなやつ)をすり下ろしたものを添えた。お箸で刺し身をつまんで、醤油をちょっとつけていただく。


「んー! 美味しい! 新鮮な身がぷりぷりしていて、噛むほどに甘い!」


「俺ももらおう」


 他のタコ料理を堪能していたクラウスが、素早くやって来た。食べ物に関しては抜け目のない人である。

 タコの刺し身を数切れ皿に乗せてやる。クラウスは箸を器用に使って口に入れた。


「……」


 無言で頷いている。いつもの無愛想さはどこへやら、口角が上がって笑みを浮かべていた。


「よ、よし。あたしも食うぞ!」


 それを見たバーバラが、皿を突き出してきた。刺し身と醤油をのっけてやる。

 最初の一切れを口に入れると、彼女は大きく目を見開いた。


「なんだこりゃ……。煮タコも、揚げタコも美味かったが、これはまた別次元の味じゃねえか! 醤油をちょっとつけただけなのに、この甘みはなんだ。噛み応えがあって、噛むたびに旨味が出てきやがる。生のタコはこんなに美味かったのか!」


「素材の味ですよ。これだけ新鮮な海の幸は、港町ならではですね」


 バーバラの様子を見ていた漁師たちが、次は刺し身に殺到した。

 大人はワサビありで、子供はサビ抜きで次々と平らげていく。


「美味い! タコがこれほど美味い魚だとは知らなかったぜ」


「特に刺し身な。生とは恐れ入った」


「揚げ物と煮物も美味しいよ! こんな味、初めて」


「カルパッチョもね!」


 大人も子供も男性も女性も、みんなが笑顔になっている。私の料理を食べて、元気になってくれた。

 それがとても嬉しい。


 賑やかなタコ三昧の埠頭を、私は充実した気持ちで眺めていた。





 あらかたの料理を食べ尽くして片付けをしていると、アルフォンスとギルが戻ってきた。


「ただいま、ルシル。また何か面白いことをやっていたのかい?」


「おかえりなさい、アルフォンス、ギル、護衛さん。海に出たらクラーケンに出くわしたので、タコ料理パーティーをしていたんですよ」


「うん、ちょっと何を言っているか分からないな」


 私が詳しく説明すると、別行動組の三人は残念そうな顔をした。


「ルシルの新作料理を食べそこねるなんて! 僕、絶望のあまり海に落ちてしまいそうだよ」


 ギルが大げさに嘆いてみせる。


「ちゃんとみなさんの分を取り分けていますよ。はい、どうぞ」


 倉庫に格納していた余りの料理を振る舞うと、とても喜んでもらえた。

 私もついでにもう一度、柔らか煮を口に入れる。うん、美味しい。とろけるようなタコの身が、口全体に広がっていく。

 お腹はもういっぱいなのに、ついもう一口食べちゃうんだよね。


「大根でタコ足を殴りつけるルシルは、生半可な気迫ではなかった」


 クラウスが余計なことを言った。


「……大根?」


 アルフォンスが何とも言えない顔で、柔らか煮の大根をフォークで突いている。


「平民の料理とは、そこまでの気迫が必要なのかい?」


「王子様、そうなんだよ。庶民の料理はとにかく気合が要る。王子様も今度やってみるといい」


 ギルがニヤニヤ笑って嘘を吹き込んでいる。やめなさい。

 アルフォンスは「いやしかし、大根で殴るのか……」と真剣に悩んでいた。やめなさい。


『で、お前たちの調査はどうだった』


 タコの唐揚げを食べて、やっと復活したラテが言う。アルフォンスは首を振った。


「特に収穫なしだった。代官バルダスの屋敷と衛兵の詰め所を探ってみたが、捕らわれているはずの漁師たちの姿がない。どうやら別の場所に移されたみたいだ」


「町の人もだいぶ警戒を解いてくれたが、まだしこりを感じるね。本音で話し合えるほどじゃない」


 ギルも続けた。私は言う。


「船で沖から海を見たら、町の北にある川から汚染の元が流れてきているみたいだったの。明日はあちらを調べてみたい」


「川か……。上流に何かあるのかもしれないな。了解、明日はそちらへ向かおう」


『明日は船に乗らずに済むのか! やったぞ!』


 ラテが本心から喜んでいる。船酔い、ひどかったものね。

 それから私たちはかまどを片付けて、お風呂に入ることにした。タコ調理のおかげでべとべとになってしまっている。

 宿でお風呂を頼み、洗濯板を借りて自前で洗濯をする。着替えの服は最低限しか持ってきていないので、こまめな洗濯が必須なのである。


「うわー、なまぐさい!」


 洗濯の泡が真っ黒だ。フィンが楽しそうにケラケラと笑った。

 泡まみれの小さなおでこをちょんと突いてやる。


「さっさと終わらせちゃおうね。また明日も調査だから」


「はーい」


 今日はさすがに疲れた。慣れない船に乗って酔いまくって、あげくクラーケンと乱闘。

 さらにはでっかいタコ足を調理した。

 疲れたけど、楽しかった!

 お風呂と洗濯を済ませてベッドに入ると、私はあっという間に眠りに落ちていった。



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