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神に祈るより肉を焼け。追放シスターの屋台改革!  作者: 灰猫さんきち
第6章

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89:タコのタコ殴り

「タコの下ごしらえは、大根が大事です! ……でもまぁ、大根の出番はもうちょっと後なので置いておいて」


 私が大根を埠頭の地面に置くと、漁師たちが呆れたような顔になった。

 バーバラが言う。


「思わせぶりに大根を出しておいて、それかよ」


「後で本当に使うんですよ! まずは塩もみをします」


 本当はボウルにタコを入れたいところだが、何せ巨大な足だ。こんなものを入れられるボウルはない。

 仕方なく、埠頭の一角で塩もみをすることにした。


「フィン、ミア。手伝ってね」


「はぁい!」


 タコの表面はヌメヌメとしている。まずはこのヌメリと汚れを落とさなければならない。

 どさーっ!

 私は倉庫から大量の塩を出した。

 この世界の塩は前世のそれよりだいぶ高価だが、ここはケチっていられない。たっぷり出した。


「この塩をぶっかけて、揉み込むの。ヌメリと汚れを落とすのよ」


 手本を見せる。両手に塩をたくさん持って、タコの表面にゴシゴシと擦り付けた。

 塩とヌメリが混じり合うと、泡が立ってくる。塩のじゃりじゃり感がなくなれば、水をかけて洗い流す。

 これをヌメリがなくなるまで繰り返すのである。


「うひゃー、べとべと」


「なまぐさい。……けど、食べられるにおい」


 フィンとミアが塩まみれになりながら、頑張っている。後でお風呂に入れてあげないとね。


「……」


 クラウスは無言で塩を揉み込んでいる。クラーケンと戦った時すら汚れなかったのに、さすがにヌメリと泡で服が汚れてきている。

 なんかすまん。後でまとめて洗濯するので許してほしい。

 なおラテはまだ船酔いが治らないらしく、港のなるべく海から離れた場所でぐったりとしていた。


「皮がキュッっとなったら終わりだから。大変だけど、ここを手抜きすると美味しくならないの。頑張ろう!」


 私自身も生臭い泡まみれになりながら、塩もみを続けた。

 バーバラと漁師たちが手伝ってくれたおかげで、進み方は早い。


「吸盤の周りは汚れが溜まりやすいから、念入りにね」


「おうよ」


 そういえば前世では、タコのヌメリ取りと洗浄に洗濯機を使うケースもあった。普通の洗濯機に塩水とタコをぶち込んで、ぐるぐる洗っちゃうの。

 とある漁港で見かけてびっくりしたのを覚えている。

 この国に洗濯機はないし、たとえあってもこの超ビックサイズのタコ足が入るとは思えない。地道に、地道に。


 やがてタコ足全体に塩が行き渡り、洗い流してすっきりとした。


「よし! 次はついに、大根の出番ですよ!」


 私は大根を改めて掲げてみせた。きちんと皮を剥く。


「クラウスさん、あのタコ足を輪切りにしてください。全部じゃなくて半分くらいでいいです。厚さはそうですね、指二本分くらいで」


「承知した」


 クラウスがタコ足の前に立つ。漁師たちが見守る中で、神速の抜刀!

 目にも留まらぬ早業で、タコ足の半分ほどがスライスされた。


「いい感じ。ありがとうございます!」


 私は切られていないタコ足を倉庫に格納した。ヒュン、と小さな音と共に巨大タコ足が消える。

 それからスライスされたタコ足を一枚広げて、まな板代わりの大きな木板の上に広げた。


「行きますよ――えいっ! ていっ! ちょえいぁっ!」


 私は大根を大きく振りかぶって、タコ足を殴りつけた。


「ル、ルシル……?」


 バーバラがドン引きしている。


「とうっ! ……何ですか? たあっ!」


 タコ足をタコ殴りにする(タコだけに)私を、漁師たちは遠巻きに見ている。明らかに引いている様子だ。

 失礼な。これは奇行じゃなくて、必要な措置なのだ。

 タコは全身が筋肉の塊。そのままでは筋組織が固くて食べられない。そこで、こうやって叩いてほぐしていく。

 棒ではなくて大根なのは、木の棒では固すぎて繊維を傷つけてしまうから。

 それに大根に含まれる酵素が、筋肉繊維に含まれるタンパク質を分解する効果もあるという。しらんけど。


「その気迫は……まさか噂に聞く東方の剣術!?」


 クラウスが混乱するあまり妙なことを言っている。

 大根はただの生活の知恵だっての。


「さあみなさん、ご一緒に!」


「えぇ~……」


 漁師たちはドン引きだったが、フィンとミアは面白がって大根を手に取った。皮を剥いて両手で持つ。


「えいえいっ!」


「やわらかく、なーれ!」


 それを見ていた町の子供たちが、おっかなびっくり前に出てきた。


「ぼくもやってみていい?」


「あたしも」


「もちろん! 手伝ってくれるの大歓迎よ。待ってね、今、大根の皮剥きするから」


 それぞれ大根を手渡すと、最初は遠慮がちに、次は思いっきりタコを叩き始める。


「えいっ! クラーケンなんか、やっつけちゃうぞ!」


「大根をくらえ!」


 子供たちは実に楽しそうだ。昨日、怯えていた様子が嘘のよう。

 その様子を見て、バーバラが目を細めた。


「ガキどもがあんなに生き生きしているのは、久しぶりだよ。シスターはさすがだな」


「子供たちは遊びの達人ですからね。大根とタコ足でクラーケン退治ごっこをやっているのでしょう」


 大根を剣に見立てて必殺技(?)を放つ子や、大根の魔法の杖で魔法を使うつもりの子もいる。

 大人はまだちょっと巨大タコ足を怖がっているのに、子供たちの心は自由だ。


 そうしてみんなでタコ殴りにしまくったおかげで、タコ足スライスはずいぶんと柔らかくなった。


「よーしみんな、そこまで! あとは私に任せてね!」


 ここからはいよいよ、タコ足クッキングだ。





 私は港の埠頭に、持ち運びできるかまどを出した。

 火を入れて大鍋を乗せる。


 一品目は「タコの柔らか煮」。

 昆布でダシを取り、醤油と砂糖、みりん、日本酒を入れる。

 煮立ったらタコを投入し、落し蓋をして弱めの中火で一時間ほど煮る。

 殴る用の大根ももったいないので、改めて洗って一緒に煮ることにする。


 煮る時間が長めなので、その間に他の料理を作る。

 二品目は「タコのカルパッチョ」。

 かまどにもう一つ鍋を乗せて、こちらはさっと煮る。

 玉ねぎをいくつか取り出し、スライス。水にさらしておく。

 ドレッシングとして、オリーブオイル、醤油、レモン汁、胡椒少々を混ぜる。

 茹でダコを薄いそぎ切りにする。

 お皿に玉ねぎを敷き、タコはその上に重ねる。ドレッシングをかければ出来上がり!


 三品目は「タコの唐揚げ」。

 カルパッチョの鍋を下ろした後、揚げ物用の鍋を乗せた。

 レシピは鶏肉の唐揚げと一緒である。醤油とニンニク、ショウガのタレにタコを漬け込んでおく。

 漬け込む時間は、カルパッチョの作業に当てれば無駄がない。

 片栗粉代わりのデンプンをまぶし、油で揚げれば出来上がり。


 唐揚げは王都では時々メニューに出していたが、この港町では初めて見る人が多い。

 ジュウジュウと美味しそうな音と匂いが漂えば、みんな目を輝かせて鍋に見入っていた。


 最後は「タコのお刺身」だ。

 お刺身は軽く茹でる場合が多いけど、このタコ足はまだ動いているくらいの鮮度。

 塩もみでしっかり洗ったし、皮を全部剥けば生でも食べられるだろう。

 皮を剥いた後の身の部分を薄切りにする。

 器に盛り付ければ、美しく身が輝いている!


 そうしているうちに、タコの柔らか煮が完成した。

 落し蓋を取れば、良く煮えたタコの香りがふんわりと広がっていった。


「完成です! さあみなさん、並んで。深海の魔物クラーケン、食べ尽くしちゃいましょう!」


 わあっと大きな歓声が上がった。



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