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神に祈るより肉を焼け。追放シスターの屋台改革!  作者: 灰猫さんきち
第8章

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122/122

122:秘伝予定のタレ

 今の季節は秋の初め。

 地球のウナギであれば、春から夏にかけて川に住んでいる。秋から冬になると川を下っていく。

 五年から十年くらいは川の上流や河口で過ごし、その後は海に出て産卵する。

 ウナギは川魚の印象が強いが、実は長く海を泳いで産卵場所まで行く。泳ぐ距離は二千キロメートルにもなるのだそうだ。


 さて、この世界のウナギはどうだろう。

 ウナギという魚がいるのは、ルシル自身の知識として知っていた。


「ウナギは今も川にいるでしょうか? 秋になったら川を下ると聞いたことがあったので」


 私が言うと、ギルが軽く手を挙げた。


「いると思うよ。子供の頃、今くらいの季節にウナギ捕りをしたことがある。近くの森の川でね」


 この国ではウナギを食べる習慣がない。

 それでも姿形を知られているのは、特徴的だからだ。


「わざわざウナギを捕ってどうするんだ? ルシルのように食うわけでもあるまいし」


 と、クラウス。

 ギルはにんまりと笑った。


「そりゃあ面白いからだよ! ぬるぬる、にょろにょろしていてなかなか捕まえられない。だから楽しいんだ。というかクラウス、君はそういう遊びをしなかったわけ?」


「していないな。俺は子供の頃、傭兵団で旅暮らしをしていた。子供らしい遊びはほとんどしていない」


「じゃあクラウス、わたしたちと一緒にウナギを捕まえようよ!」


 ミアが無邪気に彼の手を取ったので、クラウスは軽く感動している。


「ぼくも捕まえるもんね! みんなでやろうよ! ねえルシル、ウナギ捕り、いつ行くの?」


 フィンがもう片方のクラウスの手を握ったため、彼はもう感極まっている。

 とりあえずクラウスはスルーしつつ、私は答えた。


「寒くなったら川に入れなくなるから。なるべく急ぎましょう」


「明後日なら公務が空いているよ」


 すかさずアルフォンスが口を挟んだ。


「エレオノーラも多分来られると思う」


「いいですね! それじゃあウナギ捕り兼、ピクニックにしましょうか。雨天だったら中止で」


 私がにっこり笑うと、足元でラテが見上げてきた。


『ウナギというのは魚なんだな? 美味いのか?』


「美味しいよ! 蒲焼なんてもうサイコーで」


『そうか……。よし、明後日だな。当日は朝飯を抜いておかねば』


 ラテは舌なめずりをした。

 ウナギを知らなければ蒲焼も知らないだろうに、美味しいものだと決めつけているのが何だか可笑しい。


「では、明後日の朝に割れ鍋亭の前で集合しましょう」


「分かった。馬車を出すよ」


 アルフォンスが笑顔で頷いた。

 持つべきものはお金持ちの友人である。


 明後日の再会を約束して、解散になった。





 割れ鍋亭のキッチンに戻った私は、絶対倉庫からいくつかのものを取り出した。

 まずは日本酒。

 これは市場で売っていたお米を元に、ラテが生み出した米麹を加えて作った。

 私は日本酒造りに関しては全くのド素人だが、ラテいわく『酒にしたいと語りかければ、細菌どもは応えてくれる』だそうで。

 なかなか良いお酒になっている。まったくチートな猫である。


 次に醤油と砂糖。

 砂糖は酒に加えて即席のみりんにする。

 そのうち本格的なみりんも作りたいと考えているが、うちの店はあくまでB級グルメメインだ。そこまで本格的でなくても、砂糖で代用できるならまあいいかと思っている。


『吾輩の傑作の酒と醤油で、何を作るんだ?』


「まあ、見てのお楽しみ」


 足元にまとわりついてくるラテをかわしながら、まずは即席みりんを作る。


「みりん作りの割合は、お酒三対お砂糖一っと」


 酒に砂糖を加えようとして、ふと思った。せっかくなのでコクがほしい。

 急遽砂糖を引っ込めて、ハツミツを出した。


「ハチミツはずっしり重くて甘いから、お砂糖よりも控えめで」


 ボウルに日本酒を入れ、さらにハチミツを加える。しっかりと溶けるまで混ぜた。

 さらに鍋を用意する。


「蒲焼のタレの黄金比は、お醤油・六、みりん・六、砂糖・五、お酒・二!」


 蒲焼と言えばウナギだが、それ以外でも幅広く使える。

 私はサンマの蒲焼なんかが好きだ。この世界にもあるといいな、サンマ。


 まずは鍋に酒とみりんを入れ、ひと煮立ちしてアルコールを飛ばす。

 さらに砂糖と醤油を混ぜ合わせる。

 本当はここで隠し味、ウナギの骨を焼いたものを加えるとなお良いのだが、あいにく今は在庫がない。ウナギを捕ったら骨も確保しておこう。


 すべての材料を混ぜ合わせて煮込んでいくと、食欲を刺激される匂いが立ち上ってきた。日本人なら誰もが唾を飲み込む、お醤油とお酒の匂いだ。

 アクをすくっていると、クラウスが隣から覗き込んでくる。


「既に美味そうだな」


「まだ駄目ですよ。これはウナギに塗ってこそ真価を発揮するタレですから」


「味見も駄目か?」


「駄目です。明後日ですから、楽しみにしていてください」


「うむ……」


 クラウスは名残惜しそうに振り返りながら、キッチンを出ていった。

 そうしているうちに鍋は煮詰まって、だんだんととろみがついてくる。

 元の量の半分以下になったので、私は鍋を火から下ろした。

 粗熱を取った後、壺に移し替えておく。


「よーし、完成! 旅するキッチン印の秘伝のタレ!」


「おー」


 フィンとミアがパチパチと拍手をしてくれた。

 私は絶対倉庫に壺をしまいつつ、苦笑する。


「といってもまあ、まだ『秘伝』じゃないけどね」


 隠し味を工夫したり、継ぎ足したりしてその店独自の味を作っていくのだ。


「サンマにイワシ、ブリ。魚以外ならナスとかもいいな。麺文化の他に、蒲焼文化も作っちゃいたい」


 野望は広がるばかりである。

 とはいえ、この国はパンと小麦の国。あとじゃがいも。

 お米は輸入品で売っているとはいえ、メジャーな主食ではない。割高でもある。


「いっそのこと、お米文化も根付かせたいよね。農業政策とか、アルフォンスに相談したら何とかなるかしら」


『美味いもののためにこそ、権力は使うべきだろう。やれ、やるんだ』


 ラテが無責任に煽った。


「権力はともかく、この国のことをもっと知っておきたいよね。小麦の生産量や品種の分布とか、じゃがいもの作付け面積とか。他にはどんな農作物が採れるのかとか」


 特にじゃがいも。

 この世界は前世と違って、中世風だけどじゃがいもが存在する。

 建国神話によると、建国王エリオットと聖竜エルドランドは神の国からいくつかの作物を持ってきた。

 海の向こうには別の大陸があり、そこに神の国があるという。

 じゃがいもは、神の国からもたらされた作物の一つということになっている。

 じゃがいもは優れた食材で、カロリーも栄養も豊富。前世ではじゃがいもの普及のおかげで、西側世界の人口がかなり増えたと言われている。


 それ以外にも特定の地方の名産品など、知っておきたいことはたくさんある。

 食材を使いこなしてこそ料理だもの。

 前世のように運輸網が発達していないせいで、全国の食べ物が手に入るわけではない。

 けれど私の絶対倉庫があれば、現地に買付に行けばいつでも新鮮なまま取り出せる。


 食の基本は農業にあり。

 明後日アルフォンスと会ったら、その辺りのことを聞いてみようと思った。


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