ごじゅうさん
本作にしては珍しく、重々シリアスです。モヤッともするかも??
苦手な人はご注意を。読めないと思ったら、ブラウザバック! よろしくお願いしますm(_ _)m
詳しくは後書きにて。
「お前はっ……! お前は何をしているのだっ!!」
どれくらいの日にちが経ったのだろうか……?
王宮の貴族牢に囚われていたジェンナは、現れた父親──ジェイコブ・ロッシェータ公爵から叱責を受けていた。
「……お前は、自らわたしに離縁したことを報告することもなく。我がロッシェータ公爵家の血を引く一員としての誇りもなく淫蕩な生活を送りっ……! ミラベル王女殿下の茶会に乱入し、ミランダ王太子妃を暗殺しようとしたそうだな……!」
「ち、違うわっ……! わたくしじゃない! わたくしがやったんじゃないわ!」
「例えそうだとしても! お前と言い争いをしている最中に王太子妃はお倒れになったのは事実だ!」
確かな、それは間違いではないけれど。でも本当に、犯人はジェンナではないのだ。
どれだけミランダが嫌いだろうが。暗殺を考えるほどに、暗殺を実行するほどに憎んでいる訳ではない。
「疑わしきは罰せよ、だ。お前はよく、ミランダ王太子妃と諍いを起こしていたからな。人々はお前が犯人だろうと、噂している。それこそ王都中にそう、知れ渡っている。ここまで広まってしまえば……流石のわたしでもどうしようもできない。ゆえに此度は、お前が犯人ということで、処罰を与えることとなる」
「冤罪だわ! なんて酷い!」
「……恨むなら、今まで散々王太子妃と敵対するような行動を取ってきた自分を恨め。本来であればお前は、王族を害した罪で斬首が相当となる。しかし、お前はシャーワット王国の王家の血を引く娘だ。彼の国の信仰対象……《天神の瞳》の持ち主だ。……この国の法に則った処罰を与えたくても。お前に重い罰を課せば、シャーワット王国からの非難は免れない」
「…………」
「ゆえに、ジェンナ。お前をロッシェータ公爵家から完全に勘当し、二度とセヴェール王国の地を踏むことを禁じる。そして、お前の身柄はシャーワット王国の預かりとなる。それが……お前に与える処罰だ」
もう二度と、この地には戻れないとはいえ……それは、殆ど無罪同然の処罰であった。
ジェンナは思ったよりも軽い罰に、驚いたように目を丸くする。
「…………てっきり、処刑されるのかと、思ったわ」
「……言っただろう。お前はシャーワット王国の信仰対象だと。そんなことをしたら、彼の国がどんなことをしてくるか分からないだろう」
「そう……そうね。えぇ。わたくしはシャーワットの神子、《天神の神子》だもの。当然よね」
「…………」
ジェイコブはそっと目線を伏せる。
白金色の髪に幾何学模様が浮かんだ空色の瞳。鮮やかな若葉色の髪に、淡い黄色の瞳を有した自分とは全然似なかった……否、似るはずがなかった娘に向けて、最後の言葉を口にした。
「…………例え、お前がシャーワットの神子であったとしても、妻の要望に答えず。わたしが、きちんとこの国のやり方で、お前を育ててやればよかった」
「…………? お父様……?」
「悪かった……。さよならだ、ジェンナ」
「…………ぁ」
顔を上げたジェイコブは、酷く後悔しているような顔をしていた。
それが何故か、とても胸に突き刺さって。ジェンナは言葉に詰まり、去っていく父に何も告げることができない。
「…………お父、様……」
一人、貴族牢に残されたジェンナは、去っていった父のことを思う。
物心つく頃から、ジェンナは母のオデットとシャーワット王国から母について来ていた双子に育てられた。
だから、公爵として忙しくしていた父とは殆ど交流がなくて。気づいた時にはもう、ただただ令嬢らしくない振る舞いをするなと怒られ、それを煩わしく感じるだけの関係になっていた。
けれど、ロッシェータ公爵家から勘当されるということは、もう父の小言を聞くこともないのだ。もう、〝お父様〟と呼ぶことも叶わないのだ。
「…………」
「「神子様」」
どれほどその場に立ち尽くしていただろうか……?
王宮で働く文官に連れられた双子──リーノとミーノが、ジェンナに声をかけてくる。
「我々が、神子様をシャーワット王国までお送りする役目を負いました」
「大変申し訳ありませんが、早速出立しましょう。シャーワットは神子様のご帰還を、心よりお待ちしておりますゆえ」
「…………えぇ。そうね。行きましょうか、リーノ。ミーノ」
ジェンナはほんの少しだけ後ろ髪を引かれるような思いをしたが、シャーワット王国が。祖国が自分を待っていると聞き、ゆっくりと歩き出す。
その先に待っているのは光か、闇か──……。
何故かは分からないけれど……ジェンナは言いようのない不安を、抱かずにはいられなかった。
◇◇◇◇
屋敷に戻り、執務室で一人酒を飲んでいたジェイコブは……苦悩の表情で息を溢した。
娘であるジェンナがセヴェール王国の貴族令嬢ではなく。シャーワットの神子として育ってしまったのは、間違いようもなく妻オデットの教育が原因であった。
妻のオデットはシャーワットの王族として、歪んだ教育を施されていた。
ジェイコブは夫として、その歪んだ知識を正す必要があったけれど。嫁いできた時点で既に妊娠し、妊婦ゆえの情緒不安定に陥っていたオデットは些細なことでヒステリックを起こしていたものだから。ひとまずは子が産まれるまで……と先送りにしてしまったのが、悪手だった。
生まれた子供は、幾何学模様が浮かんだ瞳──シャーワット王国が信仰する《天神の瞳》と呼ばれる、神子の証を持って生まれてきてしまったのだ。歪んだ教育を正されていないままであったオデットが、それを見て。シャーワット王家の血を引く者の義務として、神子を守らねばとジェンナを滅多に表に出そうとせず。その間に自分の知識をそのまま伝えようとして、実際にそうしたのは、ある意味仕方のない部分があったのかもしれない。
というか、ジェンナをシャーワットの神子として育てさせなければ自死も辞さないと脅されたことに、ジェイコブも怯んでしまったのだ。
けれど……オデットの望むままに。彼女にジェンナを育てさせたことは、間違いだった。
《天神の神子》……そう、ジェンナは呼ばれていたけれど。詳しく調べればそれが、幾何学模様の瞳を持つ者が神の子であるという意味ではないことが分かった。
《天神の神子》という渾名はいわば、隠れ蓑。近親結婚によって生じた、血の濃さが原因で起こる遺伝性の疾患を抱えている象徴がその瞳であることが、ジェイコブの調べでは分かっていた。
祝福を与えるためと称して、《天神の神子》に不特定多数の異性に身体を許すように教育するのは、シャーワット王家の血を薄めるため。神子に血縁以外の血を取り入れさせるため。
逆に、神子が血縁者との間に子供を作ると……その子供は必ず、致命的な欠陥──臓器不全や知能障害、身体的な欠落など。その種類は様々であるようだ──を抱えて生まれてしまうようであった。
シャーワット王国であれば。ジェンナの神子としての振る舞いは罷り通ったのだろう。
しかし、ここはセヴェール王国。貴族令嬢は婚姻を結ぶまで貞淑である子供重んじる風習の国であった。ゆえにジェンナの行動は、ただただ問題でしかなかった。
「…………わたしが、もっとあの子のことを気にかけてやれば……」
例え、オデットが嫁いできた時に既に妊娠していたことを、知らされていなかったとしても。《天神の瞳》を有して生まれた時点で、オデットと彼女の血縁──シャーワットには国王と兄王子、弟王子、それと血の近い公爵家があるそうだから、その誰かの子なのであろう──の子供だと、自分とは一切血の繋がりがなかったとしても。
生まれてくる子には罪がないからと。この婚姻は政略結婚……シャーワット王国の国民の命がかかっているから妊娠していても構わないと、そう思ってオデットと腹の子を受け入れたのは自分だったのだから。何かしてやれることがあったのではないかと、そう思わずにはいられない。
「はぁ……」
…………ロッシェータ公爵家は二代前に、セヴェール王家の姫君を娶っている。彼がこんなにも自分に不利な選択をしたのは……きっと。彼もまた、お人好しなこの国の王族の血を引く人間であったから。
普通であれば不誠実な妻を糾弾してもおかしくないというのに。裏切られていたと言っても過言ではないのに、こんなことを考えてしまうのだから、本当に可哀想な人である。
「…………はぁ」
シャーワットに引き取られた神子は、これからもふしだらな生活を送るのだろう。
それが良いことなのか悪いことなのか。それは当人にしか分からない。
しかし願わくば……。
(……どうか、元気でいてくれるといい)
自分の血を引く娘ではなくても。彼女は間違いなく、このロッシェータ公爵家で育ったのだから。
ジェイコブは後悔をその顔に滲ませながら……ジェンナの幸せを、願うのだった。
ジェンナの処分はモヤッとするかもしれませんが、実際に冤罪ですし。
本作のなるべく、人が死なないがテーマなので。このような感じになりました。
でも、まさか、書いてる本人ながらにジェンナがこんな設定になるとは思ってもなかったので……(プロットの時点では、神子とかシャーワット王国の暗黒面とか存在なかったんだ……)。
本書きした結果こうなって、大変ビックリしました。うん。




