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じゅーなな


第二章スタートです。

多少のシリアスはあれど、基本はほのぼのです。

ではでは、よろしくどーぞ!


 




 エキセア王国の聖女であったマリアが、隣国セヴェールの王都で子守役として暮らし始めて……早くも二ヶ月が経った。


「まってー!」

『こっちっすよ〜! 坊ちゃん!』


 庭でキャッキャと、巨大な馬──スレイと共に追いかけっこをするホープを見つめながら……マリアはここまでのことを思い返す。





 神殿に監禁され、酷使されていた日々。

 しかし、唐突に神官に連れ出されたかと思えば、ほんの数回しか会ったことがない婚約者──エキセア王国の王太子ネイトから横領やら不貞、公爵令嬢の暗殺未遂といった冤罪で断罪され、王都から追放されることになった。

 追放先は深い深い森の中。なんだかんだで箱入りであったマリアを追放するには、相応しい場所であった。

 だが……ここで彼女は、思わぬ出会いを果たす。

 そう──……今、馬と追いかけっこをしている黒髪紅目の幼児、ホープとの出会いだ。

 巨大な魔力を制御できずに暴走させてしまい、あんな場所に転移してしまったホープは大号泣していた。それはそうだろう。あんな場所で一人っきりだ。心細くて当然である。

 けれど、あの出会い……というか、ホープの泣き声は招かれざる出会いも招くことに。

 ……マリア達は幼子の泣き声を聞きつけた盗賊達に囲まれてしまったのだ。

 流石にあの時ばかりは絶体絶命の危機に陥ったかと思ったが……女神はマリア達を見捨てていなかったらしい。

 転移してしまったホープの後を追ってきた彼の叔父──ロキによって、マリア達は盗賊達から助けられた。

 そうしてなんだかんだあってロキにホープの子守役として雇われ……王都で暮らし始めることに。

 かくして、早くも二ヶ月が経った。その間にも色々とあった。

 例えば、この国で暮らすにあって戸籍登録というもの──これを登録することで、何かあった時に国が国民を守れるようになるらしい──をしたり。後見人になってくれたミランダ王太子妃が女性の暮らしについて教えてくれた──知らないことばかりで、如何に自分が無知であったかを知ったマリアであった──り。初めてばかりの生活にアタフタしたり。初めての子守体験に、やっぱりアタフタとしたり。ホープが精神的にも魔力的にも安定し、喋り方も年相応になった──どうやら、若干の幼児退行化をしていたらしい──り……。本当に、色々とあった。

 けれど、できることが少なく、当たり前のことに慣れていないばかりのマリアだったというのに……ロキやホープ、周りの人達は優しく、丁寧に助けてくれた。支えてくれた。

 そのおかげで……少しはこの暮らしにも慣れてきたんじゃないかと思うマリアだったりする。

 ……とはいえ、まだまだ未熟なところは多いのだが。



「マリア様。お茶が入りました」


 裏庭のガーデンチェアに腰掛けていたマリアは背後からかけられた声に振り向く。

 そこにいたのは小さな、妖精。橙色の瞳を持った、焦茶色の髪を左右に三つ編みにした小さな小さなメイド服の妖精──家事妖精のデイジーがお盆の上にティーセットを準備して微笑んでいた。


「ありがとうございます。よろしかったら、ご一緒にどうですか?」

「ふふふっ。お誘い、ありがとうございます。ですが、まだ屋敷の掃除がありますので……またお時間がある時に」

「あ……ごめんなさい。デイジー。お掃除、手伝いますね」

「いえいえ。大丈夫ですよ、マリア様。平素より皆様が綺麗に屋敷を使ってくださっていますから、そんなに時間はかかりませんし。マリア様はこのまま、ホープ様に付いていて差し上げてくださいませ」

「でも……」

「それに……家事を担うのがわたくしの務めですので。どうかお気になさらずに」


 ここまで固辞されてしまえば、流石に無理に手伝うのはよくないだろう。

 マリアは感謝の気持ちを込めて──無意識に癒しの力を使って──、デイジーに声をかけた。


「親しき隣人。愛すべき隣人。共に生きる隣人よ。家事妖精あなたに感謝の意を表して。本当に、ありがとうございます。デイジー」

「……! ふふ、ふふふふっ……。そのお言葉だけで充分です。こちらこそ、ありがとうございます。親しき隣人。愛すべき隣人。共に生きる隣人。では、失礼いたしますね」


 デイジーは満面の笑みを浮かべて、深々と頭を下げて屋敷の中へと戻っていく。

 マリアはその後ろ姿を見送ってから、彼女が淹れてくれたお茶に口をつけた。



 彼女──デイジーはつい一週間前に押しかけてきた(!?)家事妖精だ。

 どうやら、国王夫妻に付いている家事妖精のマーガレットにロキが〝古き伝統ある言の葉〟を紡いだのがかなり家事妖精界隈で噂になったらしく。

 家事妖精は仕える家主を選ぶ──どうやら、彼女達は独自の情報網を有しているらしく……仕えるに相応しい相手が現れたら、自ら挨拶に伺い、仕えるようになるそうだ。若干、押し売り感が強い……。なお、彼女が仕えるに値すると評価された人間はそれだけ信頼に値するという証左でもあるそうなので、家事妖精に仕えてもらっているというのは一種のステータスであるらしい──そうで……此度、めでたく(??)ロキが仕えるに値する相手と認められたようであった。

 とはいえ、《魔王の卵》やら何やらと、諸々の事情を抱えるロキ達に仕えることは、デイジーに迷惑を及ぼす可能性があることも無きにしも非ず。

 ゆえに、ロキは彼女のことを思って断ろうとしたのだが……。


『ご安心を。ロキ様御一家の事情は全て承知した上で、お仕えいたしますので。それに……折角、〝古き伝統ある言の葉〟を紡げるような家主にお仕えできる機会を他の家事妖精達から勝ち取っ──ごほん。得ましたので。是非、わたくしがお仕えすることをお許しくださいませ』

『……お、おぉ……押しが強い……』


 ……と、デイジーの押しの強さに負け。ホープが受け入れたら採用することに。

 そしてホープと面談した結果──……。


『…………ねぇね?』

『ふぐっ!!』


 ホープの〝ねぇね〟呼びがデイジーの心に的中(にクリーンヒット)。ホープの方も彼女には一瞬で懐いてしまったので。

 かくして、より積極的になった家事妖精デイジーが仕えてくれることになったのだった……。



 そんな経由で仕えるようにデイジーだったが……たった一週間であるというよに、彼女はその実力を遺憾なく発揮してくれていた。

 家事妖精の存在意義は家主の代わりに家事を担うことらしい。つまり、慣れない家事を彼女が担ってくれるようになったおかげで、マリア達はかなり楽ができるようになったのだ。

 その反面、家事妖精が家事をやってくれることに慣れてしまったら大変だな、と思うところもある。

 家事妖精が仕えてくれていた人達は、彼女達が家事をすることが当たり前になってしまったから……報酬のクッキーとミルクは忘れなくても、感謝の言の葉の方は(気持ちが)忘れて(薄れて)いったのかもしれない。

 だから、感謝の気持ちを口にするだけで……デイジーもマーガレットもあんなに嬉しそうだったのではないだろうか?


家事妖精デイジーへの感謝を忘れないように注意しませんと……後は時々、彼女が許してくれそうな家事も手伝って……)

「パパ! おかえり!」


 そんな風に色々と考えていたら、ホープの元気な声が響き渡った。

 ハッと顔を上げると、ホープが走っていく姿が目に入る。その後を追って視線を動かせば……正面玄関の方から回ってきたらしいロキがいて。彼は「ただいま、ホープ」と言いながら、その小さな身体を抱き上げた。


「マリィ、ただいま」

「お帰りなさい、ロキ」


 ロキはゆっくりと歩いて、ガーデンテーブルを挟んだ向かいのチェアーに座る。

 彼は騎士団長に呼び出され、王宮敷地内にある騎士団の詰所に顔を出していた。大事な話があるからと呼び出されたようだったが……なんだったのだろうか?

 そんな疑問が顔に出ていたのだろう。ロキが苦笑を溢す。


「どーやら、団長に呼び出された内容が気になるみたいだな?」

「……まぁ、はい。ロキが騎士団長様に呼び出されるなんて……王都に来た日だけだったので。何か、悪いことでもあったのかと思いまして」

「……うーん……悪くもないし、よくもない?」

「…………」


 その微妙な返答に、思わずマリアも微妙な顔になってしまう。

 するとロキは頭を掻きながら……詳細を口にする。


「簡単に言っちまえば……そろそろ職場復帰しろって言われたんだわ」

「…………職場」

「ふっきぃ?」

「そう。職場復帰。騎士としてまた、働き始めるってこと」

「「…………」」



 王都で暮らし始めて早くも二ヶ月。

 どうやらマリアのこの国での暮らしは、一つの転機を迎えることになるらしかった……。





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