■76.鋼の季節。
季節外れ、鋼鉄の入梅。
台湾本島に再度吹き荒れた砲弾の襲雨。台湾に拠る人々はただ息を押し殺している。息を押し殺しながら、虎視眈々とその怒りをぶつける瞬間を待っている。
J-20A戦闘機やJ-35艦上戦闘機が全軍の目となり、中国人民解放軍南部戦区空軍第8爆撃機師団・中国人民解放軍中部戦区空軍第36爆撃機師団が、友軍の防空網によって守られた大陸沿岸部周辺空域から次々と空対地ミサイルを発射して、台湾本島の防御陣地をずたずたに引き裂いていく。
(圧倒的じゃないか――)
台湾海峡上空にて艦隊防空に就いたJ-15艦上戦闘機やJ-35、電子戦に臨むJ-15D電子戦機の操縦士らはそう思ったことだろう。1発たりとも台湾本島から発される敵弾はない。地対空ミサイルによる迎撃さえも。
台湾本島強襲上陸作戦の中核を担うのは広東省湛江市を発した、中国人民解放軍南部戦区海軍所属の第6上陸支隊であった。
すでに中華民国陸海軍によって撃破されたり、故障で作戦に参加出来なかったりした艦艇を除いても、075型強襲揚陸艦『海南』・『安徽』を筆頭に、071型ドック型揚陸艦『祁連山』・『長白山』・『井岡山』、072A型戦車揚陸艦『華頂山』・『老鉄山』など、満載排水量約5000トンを超える揚陸艦が、海軍陸戦隊や物資を満載してこの台湾海峡に進入した。
これに中国人民解放軍東部戦区海軍第5上陸支隊の071型ドック型揚陸艦『龍虎山』や072A型戦車揚陸艦『八仙山』が合流している。
彼ら“本命”の強襲上陸よりも先に、エアボーン部隊・ヘリボーン部隊が先行する。
前者の空降兵第133旅団をはじめとする空降兵旅団は高雄市南部の湿地帯・田園地帯に空挺降下する。目的は幹線道路や橋梁の確保だ。
また後者の中国人民解放軍東部戦区陸軍第73集団軍・第3軽型合成旅団がZ-9輸送ヘリを用いたヘリボーンを敢行、同時に露払いとして第17護衛支隊と掃海大隊が台湾本島西海岸に接近して後続のための路を拓くことになっていた。
真っ先に敵地に赴く第3軽型合成旅団の面々は、武者震いとともにZ-9輸送ヘリに乗りこんだ。
大陸沿岸部から台南市・高雄市までは300km程度であるから、澎湖諸島を経由する必要もなく、2時間程度で到着してしまう。
緊張と不安がないまぜになる2時間――そして彼らは2時間後に激しい反撃の最中にいた。
先に中国人民解放軍が経験した与那国島や金門島、馬祖列島、澎湖諸島と異なるのは、台湾本島には綿密に擬装され、防護された野戦防空が存在しているということであった。
山林や市街地の一角に隠された陸剣2型地対空ミサイルが瞬く間に先頭、2機目、3機目とZ-9ヘリを叩き落とす。
火球となったZ-9の後ろを飛んでいた操縦士はパニックに陥った。
計画していた目的地まではとても辿り着けないと思いこみ、彼はとにかく遮蔽があり、着陸出来る場所を探し、海岸沿いにある国立大学の運動場に着陸した。
それを見ていた後続機も同様に国立大学の敷地内や隣接する海水浴場に、第3軽型合成旅団の隊員らを降ろした。
「どこだここ――」と第3軽型合成旅団の面々は呆然としたが、すぐに集結してこの国立大学周辺を押さえ、南方に広がる高雄港へ進出する準備を固めることを決意した。
その姿を、空舞う機械仕掛けの鳥が見ている。
続いて国立大学一帯に、ロケット砲の斉射が襲いかかった。
空降兵第133旅団もまた悲惨である。
台湾海峡上空の航空優勢はともかく、台湾本島上空となれば話は別だ。前述の通り、空軍の中距離地対空ミサイルシステムが息を殺したまま潜んでいるし、そして無限に広がる高空には、より危険な猛禽類が隠れている。
J-20Aの護衛が就いていたにもかかわらず、複数の輸送機が撃墜の憂き目に遭い、空挺降下に成功出来たのは7割ほどであった。
他方、海軍陸戦隊の上陸先となる海水浴場沖に近づいていった第17護衛支隊と掃海大隊はさしたる抵抗を受けず、陸軍第3軽型合成旅団や空降兵第133旅団の苦戦もすぐには伝わらなかったため、司令部レベルではすべてが計画どおりにうまくいっていると判断された。
そして内陸からは観測されづらい水平線の向こう側から、第5・第6上陸支隊はあらゆる手段を以て陸戦旅団の強襲上陸を敢行した。Z-8C輸送ヘリが、05式水陸両用歩兵戦闘車が、エアクッション揚陸艇が、砂浜海岸目掛けて殺到し――そこへ中華民国陸軍の227mmロケット弾が降り注ぐ。
殷々(いんいん)、台湾本島のあらゆる場所から響き渡った甲高い咆哮。台南市・高雄市外に配されたM142HIMARSから放たれた複数の227mmロケット弾は、陸戦旅団の頭上で炸裂し、無数の子弾を撒き散らした。




