24 男装公爵夫人の幸せな政略結婚
コンラッド様と私は泣き笑いのような顔で暫く抱きしめ合うと、やっと心音が落ち着いてきた。
「そう、君のもう一つの部屋……そこに行こう。君の好みはわからなかったけど……揃えてみたんだ」
何をだろう? と、思いながらついていく。
私の寝室の隣、衣装部屋の分扉は離れているが、そこを開けるととんでもなく可愛い執務室があった。
白を基調にした家具と飾り彫の執務机に、白い革の椅子。広々として、片面の壁はこれまた白の書棚になっている。金色の模様が家具や書棚全てに入っている。
暖炉があり、いつでもお茶を淹れられて、飾りのチェストに花も飾ってある。
応接用のテーブルは金の縁と猫足に、赤い天鵞絨のソファの縁も金だ。
敷かれた絨毯も赤で、なんとも女性らしい、可愛くて美しい執務室。
「これは……」
「メリアから、君が公爵夫人として仕事をしたいと、勉強していると聞いたから……書棚の本は、半分は君好みの娯楽の本だけどね」
「私の……執務室」
「君に、この家を、取り仕切って欲しい。私は君がこの家を守ってくれるなら、安心して仕事に打ち込める。ただそうなると、どうしても男の使用人と二人になる時もある。……怖くないかい?」
怖いどころか、気持ちが高揚して先ほどとは違うときめきに胸が高鳴った。
ここで、私は仕事をする。公爵夫人として。
「コンラッド様、ありがとうございます!」
思わず飛びつくようにして抱き締めた。
嬉しくてたまらない。彼は、ちゃんと私の場所を用意してくれた。
一緒に歩けるようにと、任せてくれようとした。
私が怖がらないかだけが唯一の心配事で、私のことは疑ってない。それがとても嬉しかった。誤解も解けた。いや、やりすぎだとは思うけれど。
「私は、コンラッド様の妻として、恥じない公爵夫人になります」
「君に恥ずかしいところなんて何もない」
「……さすがにそろそろ、まともに自分の足で外に出て、自分の足で帰ってきたいのです。コンラッド様と並んで」
その言葉に少し考えたコンラッド様は、確かに、と笑った。
「思えばキャロルは私がいつも運んで帰ってきていたね」
「えぇ。——でも、結婚したので。並んで歩いて、行って、帰ってきたいと思います」
「……でもあと1年は夜会はやめない?」
「コンラッド様、それは構いませんけど……、お茶会を催す位は構いませんよね?」
だって、相手は女性だけだし。
「その時の君は男装? 女装?」
そこが気になるのか、と私は笑ってしまった。
「もちろん女装です。男装でいるのは、貴方の……この家の中だけの話」
「女装の君も見たいから、お茶会の時はそのままで待っていてね」
「欲張りですね……」
「男装の公爵夫人は、私だけの特権にしたいからね。でも、だからといって君の女装も見たくないわけがない」
ワガママな旦那様だ、と私は笑った。
「覚悟してくださいね。私は、女装するととっても甘えたになるみたいですから」
「……そうだね、覚悟……、君もね? 私は君の前では、とても理性などもたないから」
ここに誰もいなくてよかった。
私は甘ったるいほどの多幸感に包まれて、コンラッド様にそっと寄り添う。
「……私、コンラッド様と結婚できて、本当に幸せです」
「私もだよ、キャロル。本当に、ありがとう」
——ショートヘアやボブヘアが貴族の女性の間で流行ったり、時には男装をして茶会を楽しむ女性が増えたのは、この後2年程先の話。
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