20 コンラッド様は病んでいる
翌日から、本格的に部屋に鍵がかけられた。
あれだけ、大丈夫ですよ、言うこと聞いておとなしくしてます、といったのに、鎖を巻いての南京錠とはどういうことだろう。
コンラッド様が、メリアが、レイナが、入ってくるたびにそれは仰々しくも門兵(女性)によって開けられる。24時間体制で、兵は入れ替わりで私の部屋を見張っている。
無駄なことに人員とお金を割かないでほしい……、勿体無い癖が出てしまう。この程度で傾く公爵家でないことは理解しているけれど。
思えば、最初から過保護だった。甘やかしすぎだったし、私のこととなると仕事まで放り投げる。
今思えば色んなところで抱き上げられすぎだし、あの夜会からもしばらく経っているのに、屋敷の中ですら出歩けないとはどういうことだろう。
コンラッド様の考えていることが分からない。あれだけ、ちゃんと部屋にいます、って言ったのに、警備が厳重になる始末だ。
信用されて……無いのだろう。それは確かだ。でも、なんだかそれを言ったら泣いてしまいそうな気がする。
なんというか……大事にしてくれているのは分かる。とても。危ない何もかもから遠ざけて、私には甘くて幸せなものだけを与えたい、というか。
私はコンラッド様と並んで歩きたい。色んな意味で。
でもコンラッド様のこれは、ちょっと異常だ。
最初から私のことを甘やかして、甘やかして、結婚したらもっと甘やかして、着飾って見せびらかしたかったけれど、ちょっと目を離した隙に強姦されそうになっていたら……、それは、まぁ、ここまでしたくなるのも分からなくも無いけれど。
「メリア、コンラッド様って昔からこうなの?」
する事も出歩く事もないが、生活のメリハリを付けるために毎日男装をして化粧をされている。
メリアかレイナは必ずそばにいて、メリアと二人きりの今、そろそろ飽きてきた読書を切り上げて尋ねてみた。
「コンラッド様は、完璧な貴族と呼ばれていますが……、何事も負けず嫌いと言いますか、激しいところがある方ではありますね。奥様の扱いについては……私も困惑しております。心を病んでらっしゃるのではないかと心配になるほどに」
「そうよね、やりすぎだと思う。昨日、コンラッド様とお茶をした時に、屋敷の中を歩きたいと言ったのは……失敗だった」
メリアも困ったように頰に手を当てて溜息をついた。
「むかしから……気に入ったものは誰の手にも触れさせないのです。奥様は、たぶん、ご自分が感じられているよりもコンラッド様に執着されておりますよ」
一体何がそんなによかったのだろう。
やはり男装だろうか? 女装も褒めてくれるけれど、コンラッド様は男装がお好きなのかもしれない。
やはり、そっちの趣味がおありなのか……、私みたいな令嬢は中々いない事だろう。気に入った令嬢に髪を切れ、と言ったら絶対に拒否されるだろうし。
私の髪も少し伸びてきた。
「メリア、よければ髪を切ってくれない? 少し伸びてきたし、外には出られないし、……もしかしたらコンラッド様は髪が短いのがお好みかもしれないから」
女性の髪が私ほど短いのは、中々いない。巻き髪で生まれてきた方でも、肩くらいまでは伸ばす。
メリアは、せっかく外に出ない今が伸ばし時ですのに、と言いながらも、私の髪を短く綺麗に切り揃えてくれた。
これでコンラッド様の機嫌が少しでもよくなるといいのだけれど。




