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末路

 シャームは自分の雇ったハンターが殺されたというのに、邪悪な笑みを浮かべて肩を揺らしていた。

 そして大仰に両手を広げ、バケモノへ向かって叫ぶ。


「さあ、邪魔者を蹴散らしてしまいなさい。完全に体が溶ける前に!」


 ウィルムは確信する。

 このバケモノは、ギルドの研究の失敗作、言わばアビスの不完全体だ。

 おそらく素体が竜人でなかったことで、こんな姿になってしまったのだろう。

 シャームの言葉から察するに、獣人族では注入した薬の副作用に耐え切れず、体の崩壊が止められないようだ。

 それなら勝ち目はある。

 あの爛れた皮膚では斬撃を受けれないはずだ。

 ウィルムが瞬時に頭を回転させて攻略法を思案していると、バケモノは次の行動に出た。

 

「……?」


 ウィルムは困惑する。

 アビスもどきは、背後を振り向いていたのだ。

 おそらくシャームの声に反応したのだろうが、なにがしたいのか分からない。

 バケモノがシャームへ向かってのっそり歩き出すと、シャームは浮かべていた笑みを凍りつかせ後ずさる。


「ど、どうしたのです? 敵は後ろ――」


「――ヴヲォォォォォッ!」


「ぐわぁっ!」


 バケモノ、シャームの言葉を遮りその細い体を片手で掴み上げた。

 シャームは恐怖で歯をガチガチと鳴らし、顔面蒼白で「や、やめろ!」と必死に叫びながら体をよじるがビクともしない。

 握力は想像以上に強いようで、ギチギチと締め付け、シャームはうめき声しか上げられなくなった。

 そして――


「――ぎゃぁぁぁぁぁっ!」


 バケモノに喰われてしまうのだった。

 悪役らしく呆気ない末路。

 ウィルムは凄惨な光景に呆気にとられるが、すぐに首を横へ振って我に返る。

 これは絶好の機会だと思った。

 バケモノがシャームを喰っている隙に攻撃すれば、確実に倒せる。

 ウィルムはすぐに、先ほど気絶させた獣人の剣を拾い駆け出そうとしたが、


「――待て」


「ジャック?」


 ジャックの声に止められた。

 彼はウィルムを見ておらず、茫然とバケモノの後ろ姿を眺めているだけだ。


「もう終わりだ」

 

「え?」


 それ以上なにも言わないジャックの視線を辿ってみると、ようやく異変に気付く。

 バケモノの体の崩壊が早まっていたのだ。

 既に左腕は膝から先が落ち、元々細かった足も小枝のようになってしまっていた。

 彼らがなにもせずとも、シャームを喰い終わるとすぐにバケモノの体は溶け落ち、濁ったドロドロの液体の上に骨だけが散乱していた。


「酷い姿だ……」


 ジャックは悲しげに呟き、ウィルムへ振り向いた。

 そして装束の内側に手を入れ一本の注射器を取り出す。それは先ほどシャームが打っていたのと同じもの。

 ゾクリとウィルムの背筋に悪寒が走る。


「なっ、まさか!?」


 しかしジャックは、内包された透明な液体を不気味そうに怪訝な表情で見回した後、横へ放り投げる。

 注射器は岩に当たって砕け、中の液体が飛び散った。

 液体は空気に触れると煙を発生させ、いかに危険なものであるかを物語っていた。

 彼の意外な行動にウィルムは目を丸くする。

 

「……薬、使わなくて良かったのか?」


「バカ言うな。俺は騎士とは違って、誰かに忠誠を誓ったわけじゃない。だから、刺し違えてでも標的を殺すってのはごめんだ。それに、そこまでしてあんたに勝って、仮に元の姿に戻れたとしても、依頼主が死んだんじゃ、タダ働きにしかならないしな」


「そうか、それは安心した」


 ウィルムはホッと息を吐く。

 ジャックの言葉に嘘はないようで、彼が先ほどまで発していた鋭利な殺気は消え失せていた。

 しかし、状況は決して良くない。

 目の前の危機はなんとか去ったものの、既にかなりの時間が経ってしまっている。

 今頃、ルークは領主選で苦境に立たされているはずだ。

 カエデの手掛かりも得られなかった今、ウィルムの次の一手は既に決まっていた。


「ジャック、君に依頼があるんだ」


 ウィルムは表情を引き締め告げた。今まで敵対していた相手に協力を求めようとする。

 その転身の早さに、ジャックは飽きれたようにケラケラと笑うが、


「まいどどうも」


 ただ当たり前のように仕事を引き受けたのだった。

気に入って頂けましたら、ブックマークや評価をよろしくお願い致します。

みなさまの応援が創作活動の糧になりますのでm(__)m


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