34.約束
セスとクロエ、そして「儀式」に詳しいシェルダンが現場へと向かっていった。
あたしとメルは緊張感に包まれ、体が固まってしまった。
指のない死体…?
「指切りの儀式」…?
その恐ろしい響きに。
運ばれてきたお茶を優雅に口に運んでいたルウは、そんなあたしたちの様子を見て、小さく息を吐く。
「天界の者たちについては良くわからないが…魔界の者は死んだら死者の世界へと行く」
ティーカップをソーサーに戻し、口を開いた。
「この魔界とは異なる世界だ。もちろん行き来も出来ないし、どういう世界なのかオレも知らない」
「指切りの儀式は死後の世界と繋がることができるのか?」
ますます声を低くして、メルが問う。
「指切りの儀式は禁術とされてきたものだ。魔族たちの指を生きたまま切り落とし…何十本か何百本か忘れたが、それを使って死後の世界の扉を開く。非常に複雑で時間のかかる儀式だ。グランツが先日、生身の体でシャーロットの元にこなかったのもその為だろう。屋敷を出てくる訳にはいかなかった」
沢山の指を想像して、ゾッとした。
一気に体温が低くなる思いがする。
「恐らくグランツは自分の一族を死者の世界から召喚しようと考えてるのだろう。それで魔界を攻め落とす」
「死者を?そんなことは可能なのか?」
「わからないが…」
ルウは窓の外に一度目をやり、再びメルを見つめる。
「禁術にしてあるのは、死者への冒涜だから、という他にも理由があるだろう。扉を無理やりこじ開けるんだ、その代償はかなり大きいものになる」
「だ、代償?」
あたしの声はかすかに震えていた。
「魔界全体がなくなるかもな」
ルウの言葉にあたしはそのまま黙り込む。
「魔界がダメになったら、天界もやばいかもなぁ」
わざと明るくメルがあたしに声をかけた。
「俺たちはさぁ、キューピッド活動にきたんだけど。魔族のカップルを応援、てな。なぁ、シャロ?」
…。
…。
「メル!」
あたしは決意して相棒の腕をつかんだ。
「魔界を助けるのが、愛の力なら。愛の力で魔界を助けられるなら。あたしはやっぱり、その為に魔界にきたんだよ。その為に銃を授かっんだよ。あたし…やらなきゃ」
目をパチクリさせたメルは、長いため息をついてルウに向き直った。
「こいつは…シャーロットはこういうやつなんだ。魔界のために怖い気持ちを抑えて、めちゃくちゃ頑張ると思うよ。守護獣として、それは辛いことでもある。俺は本当は平和なところで、のほほんと暮らしてもらいたいって思ってるからな。だけど、シャロの決めたことは俺は全力でサポートする。そこでだ、ルウナリィ。魔界の魔王。お前に頼みがある。いや、頼みじゃない、約束してもらいたい」
メル?
あたしには彼の白と黒の背中しか見えない。
「シャーロットを守ってやってくれ。絶対に守ると約束してくれ」
「メル!」
あたしはメルのふかふかの体に抱きついた。
「バカ!まだ返事を聞いてないだろ!」
「ありがと、メル!」
「はーなーせっ」
「…約束する、必ず」
あたしたちがドタバタしてる中、静かにルウが言った。
「必ず、シャーロットを守る。だから、力を貸してほしい」
そう言って少し微笑んだ。
あたしは思わずその微笑に見惚れてしまいそうになる。
バタンッ!
そこへ大きな音を立ててドアを開け、クロエが戻ってきた。
「クロエ!早かったねっ」
音に驚いたあたしはメルに抱きついたまま、振り返る。
「…なによ、あれ。最っ低」
彼女は両手を強く握り、自分の足元を見つめながら吐き捨てた。




