27.愛をぶっ放す
ビニールハウスは青い炎に飲み込まれ、あっという間に崩れ落ちていった。
あたしも、サイ男もあっけにとられてしまった。
「こんなことしなくても、ルウの力ならあんな斧くらいどうにか出来たでしょうっ?」
「あれ如きを弱点認定されるのが気に食わない」
「でも、せっかく育ててたのに…」
「…そうだな。そのせいでお前に少し無理をさせたな」
ルウの視線があたしの右手に移り、思わず自分の背中の後ろに隠す。
イテテッ。
電気が走ったような痛みがする。
「くそッ!」
半ばヤケクソ気味に男はあたしたちめがけて、巨大な斧を投げつけた。
瞬間、あたしの視界はルウの背中に現れた黒い翼で遮られる。
ドォォン!という耳をつんざくような轟音に吹き荒れる風。
髪と服がはためき、あたしは目を閉じる。
そして音と風が止んだのを感じ、ルウの背中ごしにそっと様子を伺う。
サイ男は大の字に地面に倒れ、その四肢には青い炎が矢のように刺さっていた。
「さて、どうしてくれようか」
ルウは魔王らしい、ひんやりとした声で言った。
「殺すんならさっさと殺せ!」
「…それじゃ面白くないだろう?」
吠える男に静かに返す。
「ちょっと待って」
あたしは左手に銃を構えた。
「あたし、撃ち込んで見る。『愛』を」
恋愛を司る愛の魔法しか、今まで撃ち込んだしかないけど。
最大限の愛の魔法を放ってみたら、悪い心を消し飛ばせるかも知れない。
これが上手くいけば、グランツにだって有効かも知れない。
ルウはあたしの意図を理解し、小さく頷いた。
気持ちを集中させ、引き金を引く。
愛の力をぶっ放す!!
ピンク色の光線がサイ男の胸に当たり、身体中を包んだ。
「あっ…」
その瞬間、身体から力が抜け足元がふらついた。
でもそこで、ルウにガシッと受け止められた。
「あ、ありがと…」
「なかなか良さそうだな」
ルウの言う通り、サイ男はニコニコと幸せそうな笑顔を見せて、ぼおっと夢見心地の様子だ。
「この状態がどれくらい続くかわからんが、しばらく地下牢に入れておく。…お前、1人で立てるか?」
あたしは身体に力が入らず、ルウに寄りかかってる状態だ。
「今、魔法を最大限に使っちゃったから…」
足にも翼にもうまく力が入らない。
痛めた手に回復魔法もかけたいのに、それも今は無理そうだ。
「城へ送る。あの男は部下に回収させよう」
ルウはあたしをいわゆる『お姫様抱っこ』すると、空へと舞い上がった。
「…な、なんかごめんなさい」
あたしは恥ずかしくなり、頰が熱くなるのを感じながら謝罪する。
「ビニールハウスを守ろうとしてくれた礼だ」
「…せっかく育ってたのに」
「まだ言うか」
半ば呆れたようにルウが言う。
「あの土と種は元々天界から譲ってもらったものだ。それを魔界に合うよう、改良しながら育てていた。データもとってあるし、大丈夫だ。この間より、もっと良い物が出来る」
「天界のなんだ…。あたしも手伝っていいですか?学校で園芸の授業もやったし」
「…勝手にしろ」
ルウは苦笑を浮かべる。
そして、眼下の街の灯りに目をやった。
「クロエから聞いてるかも知れないが、オレは跡継ぎとして城に迎え入れられるまでは、下級魔族たちの住む土地にいた。そこでの暮らしがどんなものか、幼い時に味わった。オッドアイがばれたらややこしいことになるから、母親に眼帯をつけさせられてたが」
「そうなんだ…。今、お母様は…?」
「モーチアストが勢力をふるってる時に死んだ」
「あっ、ごめんなさい」
「構わない」
失言を詫びると、ルウは即座に首を振る。
「上級魔族でも下級魔族でもある自分だから、魔界に対して出来ることがまだ沢山あるとそう思ってる。…お喋りが過ぎたな。天使への懺悔か、これは?」
「ううん、聞けてよかった」
自嘲気味に零す彼に今度はあたしが首を振る。
そのまま2人は無言で暗い夜空を横切っていく。




