28.空気を読むパンダ
城の正門前に着くと、メルがすぐさま飛んできた。
「手を怪我してるのと、魔力を使い果たしたようだ」
ルウはあたしを支えつつ地面に降ろす。
「わかった。俺も多少は回復魔法を使えるんだ」
メルは前足をあたしの右手にかざした。
暖かい光に包まれる。
「城の様子は?」
「2匹ほど賊が侵入しようとしてた。クロエが撃退に成功した。セスは留守だったようだ」
「わかった」
メルの報告に頷くと、ルウはあたしを見た。
「シャーロット」
初めて、そう名前を呼んだ。
「オレは色々と雑用をしてくる。お前は安静にしてろ」
「う、うん」
動揺してそれだけ返事をすると、あっという間に姿が見えなくなった。
名前…名前で呼んでくれた。
それだけで、なんだか心臓が早鐘のように打つ。
「メルさ、すぐ戻ってきてくれるって言ったのに」
その気持ちを誤魔化すように、相棒に微笑みかける。
「…クロエに報告してすぐ戻ったぞ」
「え?そうなの?じゃあどうして城にいるの?」
「…俺は空気を読めるんだよ」
「え?」
…え?つまり、それって、あたしとルウの様子を見て帰ったってこと??
「あの、メル…」
「大人しくしてろ」
あたしの中に言い訳めいたものや反論したい気持ちが渦巻いたけど、そのまま押し込めて治療を続けてもらった。
数日後。
新しくなったビニールハウスにて。
「はぁ、完了!」
土を耕し、種を蒔き、水やりも終了した。
「この中の温度も天界の気温と同じくらいだし。うん、大丈夫そう」
あたしは温度計もチェックして頷く。
「…お前はいつも一生懸命だな」
外で部下と話をしていたルウが戻ってきて、大きな声で独り言を言ってるあたしに苦笑した。
「そう?ルウだって魔界のためにいつも一生懸命でしょ。ポーカーフェイスだからそれが表に出てないだけで」
あたしが言い返すと、ルウの動きがピタリと止まった。
切れ長の瞳をほんの少し見開いて、驚いたような表情をする。
そんな顔を見たのは初めてだった。
「…ルウ?」
あたし、変なこと言ったかな。
「いや」
すぐに拭ったようにその表情は消え、いつものクールな雰囲気を身に纏う。
「あのサイ男はまだ地下牢に置いてるが、すっかり穏和な性質になってるらしい」
「そうなんだ…。あんな全力で撃ったことないから、その効果の持続があたしもよくわからない」
「天使が人間にその力を使うのと、天使が魔族にその力を使うのとでは効果に違いが出るのかも知れない。
真逆な性質だからな、我々とお前たちとでは」
う…。
そう言われると、なんだか突き放されたようで寂しくなる。
凄く遠い存在になってしまいそうで…。
「2人で仲良く作業中なんて、羨ましいなぁ。妬けるなぁ」
そこへ明るい声の持ち主がやってきた。
セスだ。
「珍しいね、あの小パンダと一緒じゃないんだ?」
「うん…別にやることがあるからって」
「ふぅ〜ん」
セスは意味ありげに微笑む。
「いいなぁ。オレも小パンダなしで、シャロたんと2人きりになりたいなぁ〜」
「近い近い」
いわゆる壁ドンをされて、美しい顔が間近に迫る。
「いいじゃん、今度さぁ、痛っ!」
セスはルウに資料で頭をどつかれた。
「…報告に来たんだろう?」
「…そんな怖い顔しないでよ、ルウちゃん。人使いが荒いんだから」
「趣味と実益を兼ねて丁度いいだろう」
軽くため息をついて、セスはあたしに笑顔を向けた。
「女の子たち相手にグランツの情報を探って来たんだ。女の子たちは噂好きで情報網を持ってる。おまけに可愛くていい匂い。最高だね」




