20.閉店後の招かれざる客
「はぁ…」
ようやく狭い室内が静かになり、あたしは深いため息をついた。
「ク〜ロ〜エ〜」
そして部屋の隅でお菓子を食べてる彼女を睨みつける。
「大盛況だったねぇ。アタシの宣伝の効果、ばっちり」
本人は悪びれずに小首を傾げて微笑んだ。
この部屋はデスクとソファがある、シンプルなあたしの『事務所』だ。
城内のはずれにルウが用意してくれた。
彼の忠告通り、あまり目立たないように、ひっそりと魔界を移動し、良さそうなカップルを誕生させようと思ってたんだけど。
クロエが『天界からキューピッドがやってきた!あなたの恋を叶えます(はーと)』みたいな広告を出したもんだから…
天使の物珍しさもあって、今日は一日中、いろんな魔族がこの小さい部屋へやってきた。
半分以上は冷やかし。
それと多かったのが…このリクエスト。
「女性陣はほとんど、セスやルウのハートを射止めてほしい、だったんだけど」
「マジで〜ウケる。お兄ちゃんなんて、女だったら誰でもいいし、ルウくんにはゴミを見るような目つきをされるだけなのにねぇ」
クロエは兄たちを酷評する。
「2人と結婚して、王家の家族になりたいってひともいたし、『セスさまかっこいい!』『ルウさま素敵!』ってひとも多かったよ」
「見る目ないねぇ。あっ!クロエちゃんと結婚したいってやつはいた?」
「…今日はいなかった気がする」
思い出しながら小声で答えると、
「見る目ないなぁ、ほんとに」
眉間の皺が深くなる。
「あ、でも、そんなやつがいても引き受けたらダメだからね!アタシは理想が高いんだから!」
「わかってる。安易に王族のひとたちとくっつけたりできないよ」
前のめりになる彼女をなだめて、考える。
今日の訪問者のうち、1割、たった1割程度だけど、真剣に恋愛してるひとがいたから、まず彼らの仕事を引き受けようかな。
「ちゃんと広告には王族の紋章入れといたからさぁ。アタシたちのお墨付きってことも宣伝できたからいいと思うんだけど。フリーのキューピッドより、王家所属の方がシャロのためだよ」
あたしが黙り込んだからか、クロエは甘えるような口調になる。
「ありがと、色々考えてくれて」
お礼を言うと、にっこりと微笑む。
「じゃあ、アタシ、先に食堂に行ってるね。一緒に夕飯食べよう。お腹すいちゃった〜」
「さっきから菓子食ってるだろうが」
メルのツッコミに手をひらひら振ると、そのままクロエは出て行った。
さて。
1割の人たちの名前や思いをメモした資料をまとめ、引き出しにしまう。
部屋が狭くなってしまうほどの大きなひと、反対に凄く小さなひとなど、今日は様々な魔族の姿を見た。
皆、直接的な物言いで自分がどうしたいのか、何が欲しいのかハッキリしている。
それは天界の者より、人間界の者にどこか似ていた。
コンコンコン。
その時、ノックの音がした。
「はい!あ、あの、今日はもう閉店なんで…」
あたしが言い終わるより早く、ドアが開いた。
そこには1人の男性の姿があった。
癖のある、金茶色の髪に、片目は緑。もう片方は銀色の…オッドアイ。
オッドアイは上級魔族の証だってクロエが言ってた。
今日は沢山の魔族を見たけど、1人もオッドアイを持つ者はいなかった。
この男性の冷たいオーラもあって、あたしの身体は一瞬にして緊張感に包まれる。
「本当に天使が魔界に来てるんだな」
男性は呆れてるような口ぶりだった。




