カトレアとエリアスの2人飲み
時系列:高潔な聖女ですが、愛する聖騎士さまと永遠を誓います → https://novel18.syosetu.com/n4341ml/
あたり
「聖女様。ちょっとお時間ございますか?」
明日が休息日な、とある日の午後。大司教さまがちょいちょいと私を手招きする。
「どうかなさいましたか?」
「寄進していただいた中に、こちらがございまして……」
彼がそう言って差し出したのは、ちょっといいシードルだった。小さな瓶に入っていて、一人分か二人分といったところだ。
「確かお好きだった記憶がございまして」
「はい。好きですけど……。でも、いいんですか?」
「小さめの瓶のものをそれなりの量いただきましたので、頑張っている聖女様に、と。他のものにも配っております」
大司教さまはそう言って慈愛溢れる表情を浮かべる。
「えっと、じゃあ……いただきます」
「どうぞ。節度を持ってお楽しみください」
「はい、ありがとうございます」
彼の手から瓶を受け取る。ちょうど明日は休息日だし、今日飲んでしまおうかな。エリアスさまにも声をかけなくては。
エリアスさまに「お酒、一緒に飲みませんか? いいシードルをもらったので……」とお誘いをかけたところ、「構いませんよ。食堂で軽食になりそうなものを持ってまいります」と微笑んでくれた。
お風呂とかも全部終わらせて、グラスを二つ準備して。お部屋でわくわくしながらエリアスさまを待つ。こんこん、とノックの音が響いたので、「今開けますね」とドアを開けた。
「ありがとうございます」
エリアスさまはそう言って部屋に入ってくる。その手にはおつまみになりそうな軽食と、そして、自分用なのだろう、小さめの瓶に入ったエールが一瓶だけ握られていた。
「もらったお酒は……」
「これです。教会に寄進されたものを、大司教さまがくださって」
そう言いながらシードルを見せる。エリアスさまはラベルを確認して口を開いた。
「……普段お飲みになるものよりお強いので、割りますね。紅茶とジュース、炭酸水のどれがよろしいでしょうか?」
「じゃあ、紅茶でお願いします」
「すぐにお作りしますね」
エリアスさまは紅茶を淹れ、魔法で手早く氷を作る。グラスに氷が入っていく音を聞いていれば、あっという間にシードルの紅茶割りが完成した。
「エリアスさまの分も注ぎますね」
「はい。お願いいたします」
栓抜きで栓を開けようと必死で力を入れていれば、彼は何も言わず手伝ってくれる。開いた瓶を傾けてエールをグラスに注ぐ。こぼさないように慎重に。グラスに八分目まで入れて「どうぞ」と渡した。
「ありがとうございます。乾杯いたしましょうか」
「そうですね!」
グラスを持ち上げる。
「光を司りし御方が、今日の糧をお与えくださったことに感謝して、乾杯」
グラスを合わせる。そのまま口をつければ、紅茶の香りとりんごの風味が口いっぱいに広がった。
「おいしいですか?」
「はい。リンゴの風味で甘くて、でもさっぱりしてるのでごくごくいけちゃいます」
「あまりハイペースで飲まれると酔いやすくなりますから。適宜こちらもお飲みください」
エリアスさまはそう言ってお水を差し出してくれる。
「えっと、お酒を一口飲んだら、こっちも一口飲む、くらいでしたよね」
「それくらいのペースでお願いいたします」
こくりと頷いて、お水のグラスに口をつけた。
「最近、あったかくなってきましたね」
「そうですね。着込まなくても過ごしやすい季節になりました。ですが、一日の気温変化が激しい季節でもありますから、体調にはお気をつけください。おなかを出して寝ると、お風邪を召されます」
「分かってます。もう大人なんですから」
孤児院でもシスターから口を酸っぱくして言われ続けていたから、ちゃんと気をつけてる。
そんなふうに穏やかな話をしながらグラスを傾ける。ちょっとぽかぽかしてきた。ふと、エリアスさまが飲んでいるエールが気になった。
「……エールってどんな味なんですか?」
「少々辛口で苦みが強いですね」
「……一口、飲んでみたいです」
私がそう言うと、彼は少しだけ難しい顔をした。
「カトレア様には、少々度数が高いかと……」
「……そう……ですか?」
「はい。……ですので、本当に一口だけですよ」
エリアスさまはそう言って、一口だけ飲ませてくれる。口のなかに苦みとアルコールの熱さが広がった。思わず顔をしかめ、口を押さえる。
「大丈夫ですか?」
彼は苦笑しながらも、そっと水を差し出してくれた。
グラスが半分くらいになってくると、ちょっと楽しくなってきた。
「エリアスさまって、どんな魔法が使えるんですか?」
「光魔法がメインで、生活魔法も基本的なものは、といった程度ですね」
「ずるいです。こっちは聖魔法しか使えないのに」
唇を尖らせると、エリアスさまはちょっと苦笑した。
「聖魔法にも大切な役割がございますよ。……それに、聖魔法を行使されるカトレア様は、神々しくて目を奪われてしまいます」
「……そうやって褒めてくださるのなら、うれしいです」
笑い声を漏らすと、エリアスさまも安心したように微笑んだ。
更にお酒を飲み進め、グラスが残り四分の一になった頃のことだった。
「……えりあすしゃま……」
なんだかとっても楽しい。机に突っ伏してくふくふ笑っていれば、エリアスさまは「今日はこれくらいでやめておきましょうか」と私のグラスを自分の方に引き寄せる。
「……まだ……のみましゅ……」
「いけませんよ」
「……でも……のこすのは……」
「大丈夫ですよ」
彼はそう言って、グラスの残りを一気に呷る。あんなふうに飲んでもケロッとしてるのすごいな。
「すご〜い」
「危ない飲み方ですから、真似はしないように」
「は~い」
くふくふ笑う。笑い声がおかしくて、また笑う。楽しいな。
「えりあしゅさま」
「どうかなさいましたか」
「よんだだけでしゅ」
返事をしてくれた。うれしい。
「もうお休みになられますか?」
「や」
「嫌ですか」
エリアスさまはそう言って頭を撫でてくれる。楽しくなって、また笑い声を漏らした。
「いっしょがいい」
「お側におりますよ」
「うん……」
楽しい。
「こちらをお飲みください」
「のましぇて」
「かしこまりました」
彼はそう言ってお水を飲ませてくれる。冷たくておいしい。
「楽しいですか?」
「はい」
笑い声が止まらない。エリアスさまが机の上を片付けているのが見える。
「おかたづけ」
「はい。やっておきますので、ご安心ください」
「ありがと」
彼はさっと魔法を使い、机の上をきれいにしていく。
「きれい」
「はい。きれいになりました」
「まほう。すごくきれい」
お褒めいただき光栄です、と彼は笑う。
「えりあすしゃま」
「はい」
「しゅき」
一瞬、アクアマリンが丸く見開かれた。彼はその後ふわりとした笑みを浮かべる。
「……ありがとうございます」
眠くなってきた。エリアスさまがす、と抱き上げてベッドに連れて行ってくれる。私は彼の服をつかんだまま、甘えるように頭をぐりぐりとしてから目を閉じた。
翌朝。目を覚ますとエリアスさまが同じベッドで横になっていた。昨日の痴態はバッチリ覚えていて、ちょっと恥ずかしい。ごまかすように「朝のお祈りをしなくては」とごそごそしていると、朝の日差しのような目が開く。
「お目覚めですか?」
「はい。……ちょっと、酔っぱらいすぎました。ご迷惑でしたか?」
「いえ。役得ですのでお気になさらないでください」
彼はそう言って笑う。私は恥ずかしくなって、思わず目を伏せた。
読んでくださりありがとうございました。評価、いいね、ブックマークをしてくださると励みになります。
次作(2026/7/15投稿)→https://ncode.syosetu.com/n5871ml/




