起死回生
なろう初投稿です。ハーメルン等でいくらか二次創作を投稿した事はありますが、オリジナル小説は初めてです。誤字脱字などがありましたら、報告等をお願いします。あとなろうのシステムがどういうものかあまりわかっていません。(´・ω・`)
「ふぅ……」
今までの疲れをすべて吐き出すかのように、一息つく。これで終わりだ。何もかも。
私は……いや、俺は死に、すべて忘れ、消える。
解放されるんだ。
……この世界から。
「ようやく……ようやく終わったんだ」
――噛み締める。最高の自由を。誰にも邪魔されない、この瞬間を。
「今思えば、馬鹿みたいだな。父親からの愛を求めたり……家出をしたり」
過去の出来事をひとつひとつ思い浮かべ、笑い飛ばす。それは懺悔に近いものだった。
「あぁ……」
齢十四で、俺は終わるのか。ばぁばに読ませてもらった恋愛小説みたいな青春やドキドキもなく。ましてや異世界モノみたいな冒険やワクワクもない。
大人たちに振り回されて終わる……か。
「嫌だなぁ」
これまでの日々を思い出すように、部屋を眺める。
数分ほど眺め続け、視線が一箇所に収束する。机の上に置かれた鏡。そこに映る自分を見る。
「後悔先に立たず、とはよく言ったものだな。でも、そうだろう? 人は後悔し続けるものだ。生まれた時から、人は罪人なんだ。それをどうこうなんて、できるはずがない。でも……でも俺は、別の道も選べたと思うんだ」
鏡に映る自分からの返事はない。その呼びかけは、自問自答のような、再度の後悔だった。
「……だよな。分かるよ。それは選べない。選んじゃいけないんだ」
馬鹿みたいなやり取りのあと、目の前の箱に収められたものを見る。
注射器と薬。それは某国で考案された安楽死用のもの。この時のために特別に取り寄せた。注入すれば、三十分ほどで眠るように死に至る。
それを、彼は自身に注入した。
「……案外長いもんだな。あと……三分くらいか」
やがて止まるはずの頭で、考えてしまう。
もし、あの時父に正直に気持ちを打ち明けていたら。
もしかしたら、抱きしめてくれたかもしれない。
もし、あの時あの子の想いを受け入れていたなら。
もしかしたら、そのまま一緒にいられたかもしれない。
もし、あの時即位しなければ。
もしかしたら、青春を謳歌できたかもしれない。
「我ながら馬鹿みたいだな。そんなこと、できるはずもないのに……あぁ、きた」
このまま死ぬのか。誰にも看取られず、誰にも理解されずに。
重いものが、意識にのしかかる。
それはゆっくりと身体全体に広がっていく。
座り心地の良い椅子に沈み込み、瞼を閉じる。
――遠のく意識の中で、願いのようなものが浮かぶ。
あぁ……でも。もしこのまま死ぬのなら、それで罪を償おう。
でも、生まれ変わることがあるのなら――
新しい自分を、始めよう。
瞼を閉じ、すべてが消えようとした、その時。
沈んだ。
――何が起きている?
消えるはずの意識が、消えない。
それどころか、失われたはずの感覚が戻ってくる。
冷たい。
苦しい。
瞼を開ける。
まさか、本当に生まれ変わった?
いや、それよりも――苦しい。何も見えない。
全身が冷たい。
周囲を見渡そうとするが、視界は塞がれている。
目隠しのようなものに気づき、慌てて外す。
その先に広がっていたのは、歪み、揺れる世界。
――水の中だった。
「カボッ!? ゴボボボボッ!! ミ、ミズッ!?」
喉に水が流れ込み、言葉にならない悲鳴が漏れる。
必死に手足を動かすが、水を吸った服が重く、身体は沈んでいく。
なんで俺、水の中なんだよ!? 意味わかんねぇ! 死ぬ!
揺れる視界の先、かすかな光を見つける。
それだけを頼りに、必死に上へと進む。
肺が焼ける。頭が痺れる。それでも止まれない。
生まれ変わっていきなり溺死とか、冗談じゃねぇ……!
伸ばした手が水面を突き破る。
続いて顔が空気に触れた瞬間、肺の奥の水が一気に逆流した。
「ゲホッ!! はっ……はぁ……ッ!」
激しく咳き込みながら、水を吐き出す。
ようやく肺に空気が入り、生きている実感が押し寄せる。
必死に岸を探し、もがくように泳ぎ着く。
泥に手を突き立て、這い上がる。
そのまま倒れ込み、全身から力が抜けた。
「……っざけんな……! 生まれ変わったら水の中とか、どうなってんだよ……!」
荒い呼吸のまま吐き捨てる。
返事はない。ただ、自分の声だけが虚しく響いた。
……落ち着け。とりあえず、生きてる。
最後の記憶は、薬を注入して意識を失ったところ。
それがなぜ、水の中からの再スタートに繋がるのか。
意味が分からない。
周囲を見渡す。
湖と、それを囲む木々。そして背後には細い道。
「…………どこだよここ!!」
少年の叫びは森に吸い込まれるように消えた。
何度か叫び、暴れたあと。
このままでは埒が明かないと判断し、前に進むことにした。
一本道を進む。
小一時間ほど歩いたところで、川に出た。流れは緩やかで、澄んでいる。
「……飲むか」
道中に文句を言ったり、突然走りだしたりしたからだろうか。喉が焼けるように渇いている。
危険だとは分かっている。それでも、渇きがそれを上回っていた。
手で水をすくい、口に含む。
冷たい。
それだけで、身体の奥まで染み渡る。
「……っは……生き返る……」
顔を上げ、改めて周囲を見る。
人の気配がない。人工物も、音も、何もない。
本来なら遠くにでも見えるはずの高層ビルも、空を横切る飛行機も、衛星の光も何一つ存在しない。
……ここ、どこだよ。
明らかに、最後にいた場所とはかけ離れている。
そもそも俺が死んだのは十二月。雪が降り積もる季節だった。
……なのに、ここには雪の気配すらない。むしろ暖かい。
それに――空が、静かすぎる。
飛行機も飛んでいない。衛星の光すら見えない。
……あり得ない。
思考を巡らせながら、ふと今更自分の服に違和感を覚える。
なんだ、これ……。
身に纏っていたのは、白を基調とした長衣だった。
装飾はほとんどなく、足元まで垂れる布が水を含み、重く張り付いている。
湖から這い出たまま歩いたせいで、土や枯葉がこびりついていた。
よく見ればそれは――まるで、死者に着せる衣のようだった。
……死装束?
なんでこんなの着てんだよ。
俺、火葬してくれって言ったはずなんだけどな……。
生まれ変わるって、もっとこう……赤ん坊からじゃないのか?
顔も体も、何も変わってない。
湖で確認した時も、間違いなく自分だった。
……意味が分からない。
考えても仕方がない。
そう判断し、川に沿って下ることにした。
しばらく進むと、視界が開けた。
平原。
その中央を、明らかに人工的な道が横切っている。
「……人、いるかもな」
そう思った瞬間――
ガサリ、と背後で音がした。
風はない。
音は、確実に近づいている。
……動物か?
そう思い、振り返る。
草木をかき分けて現れたのは――
緑色の、小鬼だった。
「……は?」
理解が追いつかない。
一体だけではない。
気づけば、数が増えている。
「グガァァァァ!!」
咆哮。
「……あ、これ無理なやつだ」
心臓が跳ね上がる。
最初に出会ったのは、熊でも猪でもなかった。
――明らかに、“元の世界のものではない何か”だった。




