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人生の退職代行会社〜新しい人生へようこそ〜  作者: 地野千塩


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人生の退職代行会社と神様の仕事(4)

 結局、退職代行を使ってバイトを辞めた。もう二十一回もこのサービスを使っている亜由子は、だんだん転職活動自体も面倒になり、家のベッドの上でゴロゴロとしていた。


 幸いなのは、一人暮らしだという事だ。これが実家暮らしだったら、両親が絶望し、妹の綺咲は小馬鹿にし、もっと酷かったかもしれない。現在、部屋の掃除のやる気もなくなり、散らかり始めていたが、亜由子は満足だった。


 それにバイト先の呪縛霊お局にも会わなくてすむ。低賃金で非正規の地獄のような場所から逃げられたのは良かった。異世界転生アニメも思う存分視聴中。


 ブラック企業勤めだったヒロインだが、トラックに跳ねられて死亡。転生先は中世ヨーロッパ風の異世界で日本料理で王子様の胃袋をつかみ、騎士や魔術師からも溺愛がスタートし、逆ハーレム展開に目が離せない。


「ははは、やっぱりこのアニメ面白いわ」


 絵も声優もよく、亜由子はついつい身を乗り出して視聴。どうせ仕事も辞め、次の転生先の職場も決まっていない。思う存分異世界転生アニメを見ていた。


 気づくとヒロインと一緒になり、喜怒哀楽も共にしている。フィクションだとわかっているのに、感情移入してしまう。それぐらいよく出来たアニメなのだろう。


 異世界転生も一種の宗教かもしれない。死後の世界の幸せを謳い、今世を生きる人々に希望を与える点では、宗教と共通点がある。


 現代は親ガチャで色々と決まってしまう。どんなに綺麗事を並べても親が金持ちだったり、地主だったり、容姿が良い方が有利だ。一方、親ガチャ失敗すると、人生の初期の方から地獄化した低賃金重労働の仕事が決定し、呪縛霊お局や上司にドヤされる未来がある。現在「正社員になって人生安定」宗教から離れている亜由子は、親ガチャ外れ人生ルートの行先がよく見える。


 そんな「正社員になって一生安泰」宗教以外救いのない日本社会。その救いから溢れ落ちるのは案外簡単。あっという間。うっかりしていると非正規地獄で呪縛霊化する。亜由子は楽しくアニメを見ながらも、異世界転生アニメも宗教になっている理由がわかっていた。


「ははは、私も死んだら転生して、逆ハーレムとかならないかな?」


 そんな独り言は虚しい。「正社員になって一生安泰」宗教にこのままずっと入信し続けるか、呪縛霊になるか、地獄へ向かうかわからない。退職代行を使い短期離職というカルマを、一体どうやって解消したらわからない。このカルマをチャラにしてくえる神様がいて欲しいものだが、異世界転生アニメを見ていても、そこに救いがあるかわからない。宗教っぽいとはいえ、所詮フィクションだ。


 涙が出てきた。短期離職というカルマを思い出す度、テレビ画面の異世界が急に色褪せてくる。異世界転生なんて作りものだ。輪廻転生も本当にあるのか何の証拠もない。


 また亜由子の目から涙が溢れる。一体どういう涙かは不明だが、自分が犯したカルマが重すぎて負いきれない。カルマの重みに潰されそう。おそらく次の転職先はもっと辛くなる。逃げれば逃げるほど、仕事の輪廻転生のループ&ループはさらにきつくなっていく。その事だけは理解でき、亜由子の目から涙が止まらない。


「わぁ、日本食すごーい!」

「日本食さいこぉー!」


 テレビから聞こえてくる異世界転生アニメの声を聞きながら、余計に辛くなってきた。現実逃避しようとしていたのに、さらにカルマが重くなってしまった気がする。


「ははは、もうどうしようかね? もう神頼みしかない?」


 もう泣いていいのか、笑っていいのかもわからないぐらいだ。


 ちょうどその時だった。宅配便業者がやってきた。印鑑を押し、小包を受け取る。


「うん? 出エジプト社から? あの退職代行サービス会社から何?」


 不審に思いつつも小包を開けると、書類が何枚か入っていた。ヘビィユーザー会員として特典を送ってきたらしい。終活サービスの案内や申し込み用紙、特典のエンディングノートも入っていた。


「何これ、エンディングノートなんて書かないし」


 意外と分厚いエンディングノートで、表紙には十字架のロゴもデザインしてあった。それが墓や死を連想させ、とても特典グッズに見えない。嫌がらせにも見える。特に今の亜由子の精神状態では、素直に喜べるものは何一つ入っていないように見えたが。


「あれ? 何これ?」


 書類をまとめて捨てようと思ったが、なぜか求人票も入っていた。あの退職代行サービスでは広報を一人募集中らしい。しかもこの求人票は会員限定の特典という。


「求人票?」


 休みは少ない。金曜日の夜から土曜日しか休みじゃない。その代わり六年勤続すると、七年目は丸ごと一年休みになるという。他は一般的な会社と似たような条件の契約社員。副業も可能らしく、給料もそこそこ。本社も近く、通えない距離ではなかった。リモートでの仕事も多い。


「うーん、でも少し気になるかも……」


 思えば終活と就活は同じ音。シュウカツだ。単なる偶然だろうが、どうせ成仏できない呪縛霊になると思えば、いろんな意味でシュウカツしても良い気がしてきた。


「まあ、昔は広報もやってたしな……」


 そう、今は成仏できないのなら。


 どうせ異世界転生もフィクションなのだから。最期にここに応募して悪くない気がしてきた。


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