表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人生の退職代行会社〜新しい人生へようこそ〜  作者: 地野千塩


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/60

人生の退職代行会社と神様の仕事(2)

 ・人生に成功する法則その三


 人生に成功する為には、元々生まれ持った性質を活かす事が大切です。それは元々、神様が作ってくれたDNAに従う事だ。


 鳥は空へ。魚は海へ。モグラは地下へ。そんな風に自分のDNA通りに生きましょう。これに反する事をしたら、人間は鬱病になるように出来ているんだ。


 漫画で例えたら分かるだろう。せっかく良い原作でも、ドラマ化や映画で全く違うどころか劣化した物語になるのを、読者の皆様も知っているだろう。そうしたドラマや漫画は高確率で面白くない。なんか違和感がある。要するに原作クラッシャーというやつだ。


 向いていない仕事をして鬱病になるのは、原作クラッシャーみたいなものだ。


 どうか、読者の皆さんは原作通りに生きてくれ。神様が作ったDNA通りに生き、神様の仕事をしてくれ。


 どうやってDNAが分かるって?


 それは幼少期に遡れば分かる。幼少期に夢中になり、好きな事をした記憶を思い出せ。それが読者の皆さんに刻まれたDNAであり、神様の仕事をする上でのヒントになるだろう。


(「人生の絶対成功十戒〜退職代行会社が教える十の法則〜」百瀬亜論 より引用)


「つまんね……」


 あの後、亜由子は自宅に帰り、例の自己啓発を読んでいたが、退屈だった。好きな事をして成功しようとは、自己啓発で何度も何度も読んできた。幼少期の頃に遡り、好きな事を見つけようというワークも自己啓発でやった事がある。何番煎じかわからないほどの陳腐な自己啓発ネタが満載で、亜由子はあくびが出てきた。


 この本を読んでも、大した実りはなさそう。今まで読み漁った自己啓発書でもそうだった。子供の頃は歌が好きでアイドルになりたかったが、すぐに現実的な解決策ではないと打ち消した記憶ある。


 亜由子は欠伸を噛み殺しつつ、こも本に栞を挟み、自室の本棚にしまう。


 隣の部屋では妹がいる。大学生の綺咲という妹で、最近はSNSで生配信するのが好きらしい。フォロワーもそこそこいるようで、今も配信しているらしく、声が漏れ響く。


「いいな、大学生って」


 綺咲はまだ就活生ではない。「正社員になって安泰一生教」の洗礼はまだらしく、実に羨ましい。もっとも、モラトリアムは今だけ。あと一年たらずで、あの宗教に無理矢理入信させられ、他の信者と同じスーツ、髪型で嘘くさい志望動機や自己PRを読経し、一日八時間以上の修行に強制参加させられると思うと、綺咲は全く羨ましくなかったが。


「実家で暮らすのなー。もう辞めよっかな」


 亜由子は特に理由もなく実家暮らしだ。実家は比較的都心へアクセスしやすい郊外にあり、一人暮らしのチャンスを逃し続けていたというのもある。


 退職代行のおかげで辞め癖がついている亜由子は、実家暮らしも辞め、家も転々とするか、ホテル暮らしでも良いと考えている所だった。


 そして翌日。


 また転職活動中だったが、あまりにも短期離職が多い為か、面接官が怪しんできた。今まではにっこり笑顔で「キャリアアップするためです」等と誤魔化してきたが、とうとう詰みか。


「キャリアアップとは?」

「自分の能力を最大限に発揮したいんです」


 面接官は白けた反応。


「山下さん、あなた三十歳でしょう。今更自分探しとか、自己啓発とか言っている場合ではないのでは?」

「え、ええ」


 だんだん面接官はイライラしているようだった。


「異世界転生みたいに死んだら極楽浄土とかないから。現世でチート俺tueeeなんてないよ。しっかり地に足をつけないと、浮遊霊になるぞ」

「え、ええ」

「では最後の質問です。山下さんにとって、仕事とは?」

「え?」


 すぐに答えられない。まさかこんな直球な質問が来るとは思えず、亜由子の目が泳ぎ、しろどもどろ。


「そうですね。お金稼ぎと、保険料の支払い。老後のためですかね。正社員になったら色々と安泰で、結婚もしやすいと思いますし。私、日曜日の夜に高確率で憂鬱になりすいので、できれば楽な修行で幸せな老後を送りたいですね!」


 あの宗教の教義を忠実に話したつもりだった。二十歳そこそこから強制的に入信させられる宗教。日本人は例外なく全員入信しているものだと思ったが、なぜか面接官はキレてきた。


「仕事を舐めるなよ。よくそんな意識で十年も社会人やってるな。我々の仕事は顧客のためなんだよ」


 なぜか面接で説教も始まってしまい、亜由子が得意な愛嬌も作り笑いも全く通用しなかった。


 結局、この会社で内定は出なかったが、メールではなく、わざわざ文書でのお祈りと自社製品を送ってきた。


「へえ、お姉ちゃん。その会社、ブラックではなかったでは? むしろ、ちゃんと面接に時間をかけて本質的な事を聞いてくれるのは、親切だったんでは?」


 妹の綺咲に話すと、亜由子の方が責められた。今は日曜日の夕方。テレビ画面には、昭和時代に家族にアニメが流れ、亜由子の表情は明るくはない。


「お姉ちゃんは結局、心の底から仕事なんてしたくないんだよ。その面接官、お姉ちゃんのそんな内面を見抜いていたんじゃない? 落としてくれて良かった。返ってラッキーだったんでは?」


 綺咲の発言は全くの正論。亜由子は何も反論できず、黙り込む。


「それに退職代行も辞めたら。あれがあるからお姉ちゃんは辞め癖がついて、ちゃんと定職につけないんだよ」

「そうだけど……」


 所詮、宗教感覚で仕事をしていた。教義を守るため、修行のための修行で、心なんてどうでも良くて。仕事なんて心底どうでも良くて戒律を守る事自体が目的で……。


 亜由子の表情は曇り、妹の綺咲に反論もできない。しかも友達とカラオケに遊びに行っていた母も帰ってきた。


「本当、どうして亜由子はまともに仕事につけないのよ。子供の頃は優等生だったでしょ?」


 母親の小言が始まり、食卓の雰囲気は最悪だ。綺咲はその空気をいち早く察知し、一足早く自室へ逃げていく。


「ちゃんと正社員にならないとダメじゃないの。老後はどうするの? 保険料は? 年金は? 税金も収めないでダメじゃないの。いいから、もうちゃんと正社員になって安定してよ」


 母の小言はしつこい。もはやカルト教団の勧誘のようだった。


 だんだんと我慢に限界がきていた。このまま母から宗教勧誘をされ続けたら、心が壊れてしまいそうだった。


 逃げるしかないのかも知れない。幸か不幸か、今の亜由子には逃げ癖がついている。とりあえず誰でも就職できそうな飲食店のアルバイトにつき、実家を出る事にした。


 事故物件の安アパートを借り、なんとか一人暮らしをスタートさせた。もう親や綺咲と顔を合わせる事はなくなった。母から強制的に宗教勧誘される事もない。自由な一人暮らし。


 ふと、ハンガーラックにかかっているスーツを見る。転職活動用に使っている真っ暗なスーツだった。夜闇より黒く見えるスーツは、もう着たくない。


「宗教の服ってもう捨てていいんだっけ?」


 あの「正社員になって一生安泰」宗教から脱退したいが、出来るだろうか。


 逃げ癖がついている今は、このスーツも黒いカバンも黒いパンプスもストッキングも捨ててしまいたい。


「人生から退職ってできないかな?」


 そんな事まで考えるようになってしまった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ