久しぶりに緊張した
メアリが渡り廊下を歩いていた時間を正確に算出したのはルカだった。
毎週の統計を取った結果、メアリは部活の始まる五分前には部室に到着するので、そこから経路と時間を逆算してのことだった。
おまけに、ジョーにツンデレにはデレがないといけないとの指摘を受けて、贈り物を追加してみたのだ。
学園の食堂はいくつもあり、その中でいつも行っている食堂をわざわざ伝えるというのは大胆すぎるアプローチだと顔を赤らめたい気持ちで一杯だが、ルカのポーカーフェイスは悪意渦巻く社交界に適応できるくらい分厚く、内心の乱れなど一切人に気取らせることはなかったのだ。
「久しぶりに緊張した」
「ええ、私もですよ……」
ジョーは困惑した。
なぜここまでお膳立てしておいてツンデレに見えないのだろうか。
そもそも前提条件として、ルカが一般的に微笑天使だと思われているものだから、ツンツンした態度をとったところで嫌われていると噂になるだけなのだ。
現にすでに噂になっている。
メアリ・ジェーンがルカ・ハニエルの地雷を踏みぬいて嫌われていると!
「なぜもっと早くになんとかしようと思わなかったのですか。初めての出会いが幼少の時なのならば学園に入る前になんとかできそうなものですけどね」
ジョーはあきらめの境地だった。
もう無理なのではないか。
そんな気がする。
何事も用意周到なルカにしては行動に移すのが遅すぎるくらいだ。
「したぞ?メアリは気づいていない様子だが親を通じて婚約を結んである」
「は?」
なんということだろう。
外堀を先にきっちり埋めてくるところはさすがというべきか、怖すぎる。
本人たちはこんなにもすれ違っているというのに。