お前のためではないからな
放課後、メアリは園芸部の部室に向かっていた。
二階の渡り廊下からは外の花壇が見え、マリーゴールドがオレンジ色の絨毯のように咲き誇っているのを見てメアリは眦を下げた。
よそ見をしていたため真正面から来ていた人の影に気付くのが遅れ、ぶつかるかのように近くに寄っていた人物に思わず身構えた。
目の前にはルカ・ハニエルが微妙な顔つきで突っ立っている。
その表情からはなんの感情が渦巻いているのか判別しづらい。
無表情といったほうがいいのか、動かない表情筋に、瞳のほうは何やら怪しげな陰りもある。
まじまじとみるとルカの瞳が一瞬、昏く光を落としたかのように見えた。
「邪魔だ」
そっけない口調にメアリは思わず詫びそうになったが、よくよく考えるとここは渡り廊下の中央ではなく端である。
横を通り過ぎたらいいのではないだろうか。
逡巡した瞳で視線を巡らすと、彼の隣の茶髪、黒目の青年が何やらルカ・ハニエルの服を引き、その耳元に囁きかけている。
そんなルカとジョーの仲睦まじい様子を見て、向かいの校舎の窓に張り付いた女生徒がばたばたと失神し始めた。
この二人の睦まじさは一部で多大なる人気があると聞いている。
「お前のためではないからな」
ルカの声にはっと視線を戻した。ルカは茶髪の友人から押し付けられていた物を強引にメアリに突きつけていた。
思わず受け取ったものを見ると学園第三食堂の招待券だ。
確か今キャンペーンで、期間中友人を呼び込むと呼んだ人にも呼ばれた人にもカードにポイントが追加で貰えるといったものだ。
つまりは茶髪の友人がルカに渡し、ポイントがいらないルカがたまたま目の前にいたメアリに渡したのだろうか。
メアリが顔を上げると目も合わしたくないといった様子でルカはそっぽを向いた。
さすがに傷つく。
「……勘違いするな」
念を押すように、甘い見た目に似合わぬ重い声で威圧するとルカは踵を返した。
ルカの横の友人は目でごめんねーと伝えるとルカについていった。
一人取り残されたメアリは周囲の視線を痛いほど感じていた。
(あんなに綺麗な容姿だからちょっとしたことでも令嬢に舞い上がられて迷惑してきたんだわ、きっと)
メアリの周囲では人波がざわざわしていた。
あの誰にでも笑顔の王子様に嫌われているなんて可哀そうとこれ見よがしに囁く令嬢もいるくらいだ。
メアリは惨めな気持ちを振りはらって部室に急いだのだった。




