君が好きだ。これからも、ずっと
景色の良い高台の木の下でメアリは待っていた。
空はオレンジから薄紫の美しいグラデーションを描き、日暮れ前の幻想的な空にマーブル色の雲が細くたなびいている。
(ここで待っててほしいって言われたけれど、随分遅いなあ)
もうかれこれ三十分近く待たされている。
もう帰ってしまおうかと眼下の街並みを眺めていると小さく足音が聞こえてきた。
メアリがぱっと振り返ると、そこにいたのは、ルカ・ハニエルだ。
殴られた腫れによって赤く染まった頬に、若干潤んだ目、メアリが帰る前にと全力で走ったせいで息は切らせ、髪の毛はぼさぼさ、服はしわしわである。
意外と体格のあるレオとの戦いで満身創痍だったせいなのだが、そうとは知らないメアリにはルカの甘い顔立ちもあいまって可愛らしく映っていた。
(か……可愛い……!)
ルカが一生かかってもできないような赤面照れ顔が奇跡的に演出できていたのである。
「君が好きだ。これからも、ずっと」
走ったせいで若干かすれた声には熱が込められていた。
普段の彼からは想像もできない様子にメアリはきゅんとした。
ルカは膝を折ると手にしていた赤い薔薇の花束をかかげる。
その十二本の薔薇の本数は「付き合ってください」という愛の告白を意味していた。
夢見心地でメアリが受け取るとルカはごそごそと上着の内側から小箱を取り出してぱかっと開いた。
無言でルカはメアリの薬指にエンゲージリングをはめる。
運命のようにぴったりとはまった。
「幸せにする」
思いもがけない情熱的なプロポーズにメアリの目から熱いものがこみ上げる。
いつの間にか空には早めの星が小さく瞬き、紫のほの明るい空が二人を包み込んでいた。
そんな二人を草葉の陰から見守っていたジョーは心の中でツッコミがとまらなかった。
(レオ・ギルベルトに待ち合わせ場所、吐かせてましたよね、口止めしたあと花束強奪してましたよね、指輪は常日頃からポケットに入れて持ち歩いてましたよね、指輪のサイズはいつの間に測ってたんですかね……!)