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バイト先は異世界転生斡旋業 ~えっ、スタッフにはチートも魔法も無いんですか!?~  作者: 笠本
第一章 【募集】異世界転生斡旋業(現地派遣スタッフ) 勤務地:ファンタジー世界◎ チート・魔法スキル不要! 愉快な仲間が待ってます♪
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第5話 SPEC

 異世界転生の斡旋業。藤沢さんの言葉に僕は口を開けたまま固まった。


「正確に言うとここはSPEC日本支部の本部なんですけどね。SPECってのは分枝世界含む異世界に絡む全てを管轄する異世界専門の何でも屋です」


 藤沢さんの説明、それとそばの棚に置いてあったパンフレットによれば、そもそもの始まりは1990年にイギリスで異世界へ通じる穴が発見されたことだという。

 僕が通過したのとは違い、固着していて規模も大きい往還が可能というタイプ。


 偶然迷い込んで向こうの世界を覗いてきた地元住人達の証言と証拠映像から、直ちに国連主導で調査が行われることになり、異世界調査団-PIC(Paraverse Inquiry Commission)が組織され、各界の実力者百余名が送り込まれる。

 二ヶ月後に穴が消滅するまでに調査団が持ち帰った報告と物品から、穴の先が物理法則の違う別の宇宙であり、魔法やモンスターの存在、いわゆるファンタジー的な世界の実在が証明され、世界中を騒がせた。


 だが最大の衝撃はその五年後に公表された異世界の管理者、通称天使(エンジェル)と呼ばれる存在。

 調査団がその任務の過程で異世界を創造したと語る彼らと接触。そこでのやり取りは極秘とされているが、結果的に以後、彼らの要請に応える形で地球から異世界へ要望される条件を満たす人材を派遣することとなった。


「それで転生の斡旋業なんて組織ができたんですか」

 たしかに異世界物で管理者から何かしらの任務を課せられて転生するってパターンはよく見かける。

 管理者が適任者を自分で探すんでなく、人間側に審査させるってのは効率いいのかもしれない。


 パンフレットに目を落とすと、『あなたが培った技能を異世界で活かそう』『第二の人生を異世界で』など、青年海外協力隊やシルバー人材センターめいたキャッチコピーが並んでいる。


「そうよ。正確にはそのPICを前身として、世界中で発生してると思われる穴の発見とその先の異世界の調査や管理を目的として異世界調査議会、SPEC(Survey of Para-Earth Council)っていう国際機関が作られたの。そこがその後の天使や……同じタイミングで公表された分枝世界の諸々も管轄することになって。およそここ以外の世界の全てと関わる組織」


 早百合さんはそこで僕に手のひらを向ける。

「つまり分枝世界から漂着したあなたの保護もその業務の一つ。とはいえ世間的には一番関わりがあるのが転生の斡旋の方だから、そういう裏方仕事は無視されてSPEC自体がざっくり異世界転生の斡旋業でくくられてるのよね」


「隣のビルにその転生斡旋部門が入ってますけど、連日お客さんで大賑わいですよ」

 そりゃあ……今まで夢物語だった異世界ライフが実現するなら誰だって興味持つだろう。藤沢さんの口ぶりからすると、異世界側で要望される人材を派遣するという名目にしても、ある程度金銭で融通がきくみたい。

 でもチーレムとかお高いんでしょう? そこんところ詰めたい所だけど、今はそれより気になる点が。


「あれ、でもさっき早百合さんは勇者として派遣されるっていってましたよね。派遣って、戻ってこれるんですか?」


「ああそれね。民間から募集してる派遣員は転生ルート限定なの。行ったら戻ってこれないわ。私が異世界へ"渡界"するのはこの身のままで転移ってルートで、こっちは往還できるけど、軍人や専門職の公人に限定されてるわね。異世界の管理者にすれば目的が完全に違うから、一般人が転移ルートで異世界に行くことは無いのよ」


「そうだ、その異世界の管理者って、僕のイメージだと天使っていうより神様って感じですけど、その方達なら僕のいた世界の座標も知ってるんじゃないでしょうか」

 そこで早百合さんが「神様ねえ」と半笑い。


「たしかにあいつら自分で神を名乗ってはいたのよね。でも実際は大して権限も力もないから。キリスト教や仏教なんかで観念されてる人の上位的存在、超越的存在としての神様はまた別よ。それでも天地創造っていう神っぽいことはしてるから、宗教界からの要請で信者が受け入れやすいようにあえて天使って扱いに留めてるのよ」


 気軽に神様をこき下ろす形の早百合さん。どうも面識もあるみたいだけど。

「テロとかありましたからねえ」と藤沢さんが不穏なことをつぶやく。


「残念だけど分枝世界はそいつらの管理外。関係無しに自然派生してるし、ついでに言えば距離の問題で転移コストが異世界よりも莫大で、座標を取るのも難しいのよ」

「そんな……でも実際にコンタクトとれてる分枝世界もあるんですよね?」


「ええ。但し詳細はトップシークレットだけどね。そこはゴシップ雑誌やネットの噂で想像してもらうしかないわね」

 少なくともそれらコンタクト済みの世界も僕の居た日本でないのは確かだそうだ。


「ネットの噂っていうと他所の世界では男女比が1:30になってたり、貞操観念が逆転してるとかですかね……?」

 藤沢さんがスマホを見ながらおかしな事を言い出した。それネットの極秘情報とかじゃなくてエッチな漫画の話じゃない? ネット小説サイトとか覗いてるとよく広告が出てくるんだよね。

 いやまて、現に異世界も分枝世界(平行世界)も存在してたんだ。そういう夢みたいな世界が実在する可能性だって充分にありえるぞ。


 そう思い直して早百合さんの顔を伺うと、この子変な事言い出したわ――な表情。残念、期待薄か。

「そうしょげないの。可能性はまだあるんだから」

「おお、そんなけしからん世界の望みが――」

「「はあ?」」

 ハモる女性陣。あれ、失敗した。いや、藤沢さんは自分で言い出したんだからそんなジト目で見なくても。


 早百合さんは一度指でこめかみを押さえ、ふうと息をつくと「まあいいわ……気を取り直して」と僕の目を見据える。

「まだまだ聞きたいことはあるでしょうけど、その前にお願いがあるの」


 そして分枝世界(平行世界)へ飛んできたばかりの僕へ告げられた意外な要請。発せられた驚きの一言。


「圭一君。あなたに一度異世界に飛んでみてほしいのよ」

 さあ楽しくなるわよ――――そう言いたげな悪戯っぽい笑顔と共に。


「ちょっと確認したいことがあってね。本来は人が通れないはずの穴をどうしてあなたがくぐり抜けられたのか、それが知りたいの」

 早百合さんは背後に振り返り、いつのまにか机に向かってた幼女を呼ぶ。


「ファム!」

「ほいほい。準備できたぞい」


 寄ってきた幼女が手にしているのは古めかしい鈍い金色の鍵。

「僕に?」

 それを差し出され、訳も分からずに受け取る。小さいながらも結構な重量感。アンティーク調で、柄の部分に埋め込まれた赤い宝石が天井の光を反射し輝いている。

 

「どうぞ」

 藤沢さんが部屋の壁に据えられた鉄扉を開く。

 災害時の非常口的なものかと思いきや、中から現れたのはまた扉。こちらも古めかしい茶けた木製の両開き型で、四隅に金属の装飾が施された教会の入り口にあるようなタイプ。


「何ですかこの扉?」

「扉というよりも、肝はこっちの鍵の方ね。これを差し込んだドアは異世界へのゲートとして機能するの」


 あっさりとファンタジーめいた発言がされ、浮ついたまま指示された通りに動く。

 鍵穴に差込んだ鍵をひねる。カチッという音がなぜか耳の奥の方で聞こえる。ドアノブを引き寄せて開かれた扉の先は――――光一色。


「これは……?」

 扉の先は光り輝く世界。そんな比喩表現みたいな光景。


「これで今この扉は異世界へと繋がったわ」

 あっさりと現実味のないセリフ。だがその光の奥はどこかへと通じている、不思議とそう確信させられる何かがあった。


「国際組織がバックで異世界行きっていうから、もっとハリウッド映画的なのかと思ってましたよ。もっとこうメカメカしい感じの」

 SF映画でブィーンって感じでワープゲートが展開されるようなのかと。


「映画は知らないけど、電子機器に囲まれてって意味なら正規ルートがそのとおりよ。これは私がプライベートで持ってるゲートよ。PICだなんだが出来る前から私はこれで異世界飛び回ってたのよね」

 早百合さんはなぜか幼女の頭を掴みながら言う。「むう」


「ほんとはこれも秘密なんだけど、さっきゆづちゃんが説明してた1990年のイギリスの件も、あれ向こうからスライムとかのモンスターが漏れてきちゃったから騒ぎになっただけで、それ以前から私みたいに異世界を行き来してた人間は結構いたの。各国政府も存在くらいはそれなりに掴んでたしね。多分圭一君のいた所も事情は同じだったはずよ」

 それはまた陰謀というか妄想が捗りそうですね。


「ほれ」

 目の前の映画のワンシーンみたいな光景にしばらく呆けていた僕に、幼女が差し出してきたのはミネラルウォーターのボトル。それと、ビー玉サイズの黒い珠。

「ん? これは何?」

「魔法薬よ。異世界に行くに当たって危険な病原菌に備えなきゃいけないからね」と早百合さん。

「なるほど」

 日本から外国に行くだけで、場所によってはワクチンだ何だ対処しなきゃいけないのだから言われてみれば当然だが、これ一つで対処できるものだろうか。

 そう思いながらも言われるがままにビー玉サイズの丸薬を飲み込む。


 と、藤沢さんがうわあと言いたげな顔を向けてきた。

「どうしたの?」

「いえ、まあ痛いのは一瞬ですから……」


 いったい何のこと、と疑問に思った所で早百合さんが幼女を押し付けてくる。

「むう」

 なぜか幼女を抱っこさせられた僕に、早百合さんが背後から肩を掴む。


「じゃあさくっと行っちゃいましょ」

 言うや僕を光面に向けて押し出してきた。

「えっ、待って下さい、心の準備が」

「大丈夫よ、圭一君初めてじゃないでしょ」

 早百合さんは歯医者を嫌がる子供をあやすような調子で、「よいしょっと」と勢いよく僕を光面に押し出した。


「ちょっ!」

 半身を捻って肩で身体を支えようとするも、光面は支えにならずに、肩が空を切って僕は体勢を崩して光の中へ。

「うわあ!」

「はあ……」

「いってらっしゃ~い」

 幼女のため息と、どこか呑気な藤沢さんの声がかすかに聞こえ、僕の視界は光で覆われていった――――――――

『SPEC』――――

 セガのメガドライブ時代のファンクラブ会報誌、SPEC(SEGA PLAYERS ENJOY CLUB)が元ネタ。作者は入会してなかったですが。それでも同社とそのゲーム機に青春を捧げた身ですので、本作においては直接的、間接的にセガネタを織り込んでいます。


ParaverseやPara-Earthは造語。どちらも日本語に翻訳したらざっくり異世界でひとまとめにされてしまっているということでお願いします。

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