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バイト先は異世界転生斡旋業 ~えっ、スタッフにはチートも魔法も無いんですか!?~  作者: 笠本
第二章 神様にもらったスキル鑑定・奪取・譲渡のチート3点セットで異世界でスキル屋さんやってます
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第19話 解体所

 住宅地から離れ、奥まった場所にあった解体所はちょうど地元商店の肉屋と同じような店構えだった。当然ガラスのショーウィンドーはなかったけど、小さな店内でカウンター越しに肉を購入する造りは同じ。

 店に到着した所で数時間前のゴブリンの死体を思い出して青くなったけど、そういった解体は店の裏側で行われていて客が見ることがないという。


 そういえばオークってよく異世界小説で豚肉扱いされてるけど、この世界普通に豚がいるんだよな。その辺どういう扱いになってるんだろうとミシェルさんに尋ねると「オークはね、豚肉より筋張ってるけど、豚と違って一年中狩れるから生肉で手に入るのがいいのよね」とのこと。

 街から離れた森で定期的に少量が狩猟されて、味が落ちるけど下手に塩漬けされる豚肉よりずっと調理しがいのある高級品扱いだそうだ。どうもこの世界では冒険者はいないみたい。

 

 ここまで持ち込んだ鍋を店主に渡す。ミシェルさんが値段交渉の末にブロック状態のオーク肉が鍋に収められ、防腐効果のあるという何かの葉っぱで覆って提供される。持ち込み容器に量り売りという映画で見た昔の豆腐屋さんみたいで面白い。


「へい、まいどあり」

 ミシェルさんが支払いをするのを待つ間、店内を眺めているとカウンターの隅に魔石が積まれているのに気づく。そばの木札を見つめるとオーク魔石と表示される。

 魔石か……お金があればまた藤沢さんのお土産に、とも思うが昨日のゴブリンの魔石と外観は似ているが、大きさはこちらの方がやや小ぶりだ。どうせならもっと立派な奴をプレゼントしたい。


「あら、魔石ってこんなにしたかしら」

 財布を仕舞いながらミシェルさんが首をかしげる。

「最近隣の帝国の方で高く買ってくれるそうでしてね。あっちの商人が帰りにまとめ買いしてくんですよ」

「やだわ、またあそこ戦争したりしないでしょうね」

「武器が値上がってるとは聞きませんから大丈夫でしょう。どの道、喧嘩売るならこの辺境伯様以外でしょうからね」

 何やら物騒な話。少し不安顔になったミシェルさんと共に帰路を急ぐ。


「僕実はオーク肉って食べたことないんです。普段どんな料理にしてるんですか」

「あら、それは責任重大ね。主人が好きなのはリンゴ酢に漬けといて玉ねぎと一緒に蒸し焼きにするんだけど、始めてならシンプルなのがいいわね。蒸し焼き用は明日までじっくり漬け込んで、今日は軽く炙ってキャベツと合わせてスープにしましょう」

 そうして初めてのオーク料理に思いを馳せていると、突然背後から声をかけられる。


「おい、そこのガキ」

「はい?」

 威圧的な声に振り返るとそこには揃いの服を着た四人の男達。ボタンで止めた上着に羽根が飾られた帽子。腰にはこれも揃いの長剣。


 何事かと思っていると一人だけ帽子の羽根が赤く塗られている男が動く。右目の前で手を裏表へ――――石川さんが行っていた鑑定の仕草の簡易版といった風。


「なるほど、確かに怪しい奴だな」

 怪しい? いったい何を言ってるんだ? 


「おい」

 赤羽根の男に顎で指示された残りの三人が僕を取り囲む。内の一人は抜刀すらしている。

「なっ!」

 男達の睨みつける視線に、僕の方に向けられた剣先が反射する鈍い光に、僕は身を固める。

「お前、どこかの商会に所属しているか? 証書はあるか?」

 何を問われているかすら分からない。反射的に「いえ……」と答えると、男が軽く手を上げて宣言した。


「よし、引っ捕らえろ」


 いきなり腕を取られ、とっさに抵抗すると足を払われ、地面に転がった所を上から三人がかりで抑えつけられる 。

「何をっ!」

 叫んだ拍子に土が口の中に入る。苦さを吐き出す間もなく、無理矢理に後ろ手に捕縛される。


 ミシェルさんが叫ぶように問いただす。

「隊長さん、何をなさるのですか!? この方は主人の客人です!」

警吏(けいり)として不審者を捕まえたまでだ。こいつは間諜の疑いがある」

 隊長? 警吏? 警察……治安維持組織みたいなものか?

 間諜? スパイのことか? なぜ僕が? 脳内にいくつもの疑問符が浮かぶ。

「何のことですか! 僕はスパイなんかじゃありません!」

「そ、そうです。主人に聞いていただければ分かります」


 隊長と呼ばれた男がミシェルさんを睨みつける。

「女、お前はスキル屋(挿し木屋)石川の妻であったな。つまりお前の亭主が他国と通じていたと、そう主張するわけだな」

「そんな……」

 警吏の一人が背後にすっと移動した事でミシェルさんは顔を不安に曇らせ、押し黙った。

「お前の亭主にも後で尋問に行くからな。よし、こいつを駐屯所に連れていけ」

 周りの部下達に乱暴に引き起こされる。


「おら、とっとと歩け!」

 僕はそのまま力づくに連行されていく。じきに大通りへと合流したところで、多くの歩行者が騒ぎ出す。訝しげな顔、晒される好奇の目。少し進みが遅れただけで背後の警吏が僕を蹴り飛ばし、その度に歓声さえ上がる。「縛り首だ」などと野次を飛ばす奴もいる。

 僕が何をしたっていうんだ。無遠慮な視線に、理不尽な暴力に抵抗出来ない無力さに思わず涙が(こぼ)れそうになったその時、救いの声が。


「真上さん! いったい何事ですか!」

「あなた!」

「石川さん!」

 気づけば場所は石川さんの自宅の前。ちょうど家主が戻ってきたところだった。強引に僕と連行する警吏の間に割って入り、隊長へと抗議の声を上げてくれる。

「この方は私の客人です。何のおつもりか」


「石川さんよ、あんたやらかしたな。通報があってな、あんたがこの帝国の間諜と繋がりがあるとな」

「間諜? 真上さんが? 御冗談でしょう」

「こいつのスキルだよ。見てみろよ。いや、あんたが手配したのか」

「…………誤解でありましょう」

 隊長の言葉に石川さんが押された風に表情が陰る。


 スキル……いったい僕のスキルに何があるんだ。そう思ったその瞬間、石川家の二階―――開かれていた木戸窓から青白い光がバチバチという大きな音を立てて走った。かぶさる様に甲高い悲鳴が上がる。


「今の声……ファム?」

 周囲の人間も何事かと見上げている。すると窓の戸板にもたれかかるように藤沢さんがよろよろと顔を出した。その髪が数本逆だっている。


 背後からはファムの悲痛な声が。

「何で魔方陣展開しとるんじゃあ! 妾がようやく更新したハイスコアが消えてしもうたでないかー!」

 藤沢さんが振り返って叫び返す。

「ファムちゃんが刺殺は床汚して迷惑になるから電気ショックにしとけって言うからですー!」


「何で既に稼働しとるんじゃあ! 圭一はまだ帰って来とらんじゃろうがー!」

「改良中だったんですよ! より威力を上げる変換式を思いついたんです。なのにファムちゃんが突然部屋の中で小躍りしだすからですよー!」

「情け無用の残虐格闘ゲーム『魍魂(モーコン)』シリーズ最新作はアクティベーションユニット対応なんじゃあ! 妾の動きをトレースし、忠実に動く戦士はまさに神のしもべ。こいつで殺戮の宴を制するんじゃあ!」

「はい!? ゲームなのになんでリアルに戦おうとしてるんですか!?」

「時代はE-スポーツ!」


 どうも設置作業中の魔法陣をファムがゲームに興奮して誤作動させてしまったようだが……何やってんだあの二人。というか僕はあれを食らわされる所だったのか?

 背後の警吏達も周囲の街の住人もあっけに取られた顔で二階を見上げている。


 その無数の視線を感じたらしい藤沢さんが階下を見下ろし僕に気づく。

「あれ、真上さん何やってるんです?」

 

 君たちが何やってんだよ。

「情け無用の残虐格闘ゲーム『魍魂(モーコン)』」――――

 MD他、多数の機種に移植された実写取り込みの海外産格闘ゲーム「モータル・コンバット」。略称のモーコンに漢字を当て字してますが間違ってないはず。アメリカで対象年齢を指定するレーティング機構を生む切っ掛けになったという残虐描写が売り。

 動きをトレース云々はアクティベーターという海外MD用の入力デバイスが元。プレイヤーを囲む八角形リングに八つの赤外線センサーが設置されていて、それを反応させることで十字ボタン・ABCボタンに対応させていました。DDR系統のコナミのダンスゲームで波動拳コマンドを入力するような難易度。

 広告なんかではアメリカのゲームキッズ達がそれでモーコンをプレイしている姿が流れてきましたが、やっぱ彼らレベル高いなと当時恐れおののいたものです。

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