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覇王の誕生  作者: Seisei
第二章 異界の神々の正体
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第二十 大戦争

いつも読んで頂きありがとうございます。


第二十話 大戦争


です。更新に時間がかかりすみません。

第二十 大戦争


 エルシア魔神帝は、準備完了の報告を聞いて出陣の準備を始めた何度もシュミレーションと訓練を実施した成果で、集合時間は、当初の予定よりも八時間も短縮されていた。


 彼女は支度を終えると、騎乗用の魔獣に乗り既に用意を整えていた近衛兵と一緒に宮殿の大広場に向かった。


 大広場には、見渡す限りの兵が整然と整列していた。兵達は美しいホルムの鎧に身を包み、登場したエルシアにたいして地鳴りのような歓声を上げて出迎えた。


 エルシアは、彼女が騎乗してきた巨大な魔獣の背に立ち上がり片手を上げて軍団の歓呼に答えた


「皆!」そこで声を切る。広場が一瞬で静まり返った。「勇気ある我が民よ! よくぞ本日この場に参集した。


 さて、二万年ものいにしえの時代、我々は三界で最も優れ進化し繁栄した偉大な種族だった。しかし今はどうだ? 答はノーだ! 今では地下に隠れ種族の数も少なく領土もわずかだ。


 一万五千年もの長きにわたり地下に小さくなって生き長らえてきた。何故だ? それは、卑劣極まりないマセランティア共が我らを欺き無限の民を奴隷におとしめるだけで飽き足らず。マセランティアは、我らの文明を崩壊させ、退化させて夢ある未来を奪い続けたからだ。


 そして今、我らは三界の盟友達と共に立ち上がり、異界の傲慢で思い上がった奴らを退治するために大連合するためにここに参集している


 思えば、今我らがこうして、奴等に戦いを挑む事ができるのも、今は亡き盟友であり、世界の英雄である、アールティンカー・マキシミリアン王の偉業が有ったからである。彼の他にはできない偉業を讃えよ。


 我らは必ず彼の遺志いしを継いで、盟友と協力し合い、マセランティアに正義の鉄槌を下すであろう。


 一万五千年の時を超えて、エデンビラーゴの栄光を取り戻す! 聖霊アザニエル様もご照覧くださっているぞ!」


 エルシアの宣言に大歓呼が応じた。


「行くぞ!」


 エルシアが号令した。エルシアに付き従うのは、エデンビラーゴ帝国の中心兵力である。戦場ではサーリの従えるマキシミリアン王国本軍の左翼さよくに布陣する事が決まっている。


 エルシアの大号令に従って今回の大戦に出陣する者は三千二百十八万人に及んだ。数が多いだけではない、天眼と魔眼の両眼を持っている魔神種は、元素魔法でも素晴らしい適応を示していた。


 エデンビラーゴ帝国の全ての国民はキンデンブルドラゴンハイツ王国の大虐殺の記憶を鮮明に持っていた。今度の大戦で負ける事は悲惨な未来に繋がっていると分かっているのだ。


 だから、この戦いにかける意識の高さは、非常なもので、ここに集まった軍団は、国民の三分の一にも及んだのだ。


 エルシアは、魔神種の精鋭を引き連れて天界のテーランダーの入り口付近に人工的に作られた巨大な駐屯地に向けて転移して行った。





 ヨロンドン悪魔上皇の玉座の前には、八人の大悪魔が座していた三人の悪魔玉皇あくまぎょくこうと五人の悪魔上帝あくまじょうていの八大悪魔だ。彼等はマセランティア討征とうせいの各軍団の司令官である。


「皆。ご苦労である。本日は最高の日だ。我ら悪魔種は、長きにわたり魔界の覇者を目指した栄光の種族だった。しかし、マセランティアの卑劣な陰謀により、多くの同胞が拉致されただけでなく繁栄していた文明を退化され、みじめなコロニーの生活を余儀なくされた。同胞のほとんどは動物並みの知能しかなく、生きているだけで悲惨な暮らし向きだ。


 あれからわずか八年しか経たないのに、何もかも全て変わった。アールティンカー陛下のおかげで、我らは誇りを取り戻した。我々にかけられたコロニー生活の呪縛は陛下の御力添えで排除していただいた。


 そして、更には元素魔法という新たな魔法を授けてくださり我らは史上初めてと言っても良いほど自由で独創的で賢く強くなった。


 さらにアールティンカー陛下は、いにしえよりマセランティアに虜にされた無数の同胞を救っていただいた。


 我々はこれ程多くの恩恵を受けたのに、もはや陛下はこの世の人ではない。この恩をほうじなければ種としての恥である。


 陛下は亡くなられたが幸い陛下には忘形見わすれがたみと王妃がおられる。我らは、陛下にご恩を返すことの代りに陛下のご子息と王妃殿下に忠誠を誓い、今度のマセランティア討征とうせいに全力で応じたい。


 この戦は世界の命運をかけた重大な戦いだ。持てる全ての戦力を結集し全力で戦って欲しい。


 全軍に進発の号令を!」


 ヨロンドン悪魔上皇あくまじょうこうの号令に八人の大悪魔達は大きく頷いてヨロンドン玉座の間から出て行った。


 悪魔種は、そもそも種族そのものが一つの軍隊みたいな社会だった。今では、アールの影響で随分と民主主義になったがそれでも戦時徴収ともなれば全員が何を置いても駆けつけてくる種族だ。


 逆に戦いたくって仕方がない、そんな者達から優秀な者を選抜して今回の軍容ぐんようを整えた。


 悪魔種の軍団は、全部で三千九百二十六万人に及んだ。





 ラーサイオン白帝は、妻のシリアに胸当をつけてもらっていた。


「白帝様の胸板に合わなくなったようです」


 シリアが笑いながら言った。


「余り鍛えすぎるからですわ」


「我らは、実態を持たない魔法生命なのにな鍛えると胸板が厚くなるのは不思議だ」


「外見は気のせいなのでしょうが、白帝様の蓄えられたエネルギー量が格段に増大したからでしょう」


「では行こうか」


 選帝宮は、竜種の王族から選ばれた選帝が住む宮殿だ。ラーサイオンは、初代の竜種の統一帝となり白帝と称していた。


 竜種最大のキンデンブルドラゴンハイツ王国の崩壊で竜種の人口は、激減した。そこでラーサイオン白帝は、量より質を高めることに専心した。さらに、青姫のドラゴンライダー軍団のためのドラゴンの育成にも尽力した。


 少ないとは言え、世界の命運をかけた大戦なので、ほとんどの竜種は、戦いに参加する事となった。


 その数は、竜種による軍団、八百六十三万頭、ドラゴンライダー軍団は、一千六百七十三万組の陣容となった。


 ドラゴンライダーは、伝説の黒曜青姫ブループリンセスオブシディアンの元に馳せ参じる事になっている。


 もちろん、青姫と彼女の軍団は、先鋒せんぽうに布陣する事は言うまでもない。





 冒険者ギルドの本部マスター、パルナー・ファンは、広場を埋め尽くす冒険者達を見回した。


 それらの一群を見たとき、パルナー・ファンは、自分のしてきた事が報われた事を知った。


 パルナーの横から「老師」、「老師」と声をかけてくれた感じの良い青年の姿が最近見られなくなった事を女性職員が悲しんでいるとパルナーは聞かされた。


 一番悲しんでいるのはパルナー自身だった。水晶迷宮で、出会った感じの良い青年は、皇太子だと知ったあの驚きも昔の事になった。アールは世界中に達人を大勢育て上げるというパルナーの夢物語を真剣に聞いてくれ、賛同してくれ、様々の援助してくれた。


 あまりにも大きな痛手だ。


「年寄りを置いて行くなよ」


 マスターパルナー老師が小さな声で呟いた。


「未来に光が見えんじゃないか」


 彼の声は、冒険者達の群衆の歓声にかき消された。


 世界の剣聖とよばれるロンハードが壇上に現れたのだ。


「老師。お久しゅう」


「本に。サッサと順番通り安心してい行きたいものじゃな」


 その一言でアールの事と分かったロンハードは、顔を曇らせて頷いた。


「陛下がこの世にいないなどは有っては成らんのです。私は陛下こそは不死身だと信じておりました」


 目に薄っすらと涙が滲む。


「ロンハード卿は、陛下の指南役でしたからな。思い出も多いじゃろう。羨ましくもあります」


 マスターパルナー老師が優しく言った。


「陛下の弔い合戦と参りましょう。陛下は我々にも骨が擦り切れるまで働けと言う意味で新しい力を授けて下さったのでしょう」


 パルナー・ファンが頷いた。


 パルナー・ファンが、両手を掲げ冒険者の一群を黙らせた。彼はそれからしばし、偉大な王の献身の伝説を話をした。そして、彼は最後にこう話を締括しめくくった。


「王は、我ら冒険者を身をもって守護し援護し援助してくださったのだ。冒険者達よ。我らはこの恩人に一番望んでいた勝利を送りとむらおうではないか」


 冒険者ギルドの七つの支部で同じような出陣式が執り行われている。冒険者は、全世界で新基準のAA級以上が戦いに参加できる。


 総数五百七十八万人。驚くべきはAA級に達した冒険者が登録した冒険者の八割に達した事だ。





 テーランダーのマセランティアでは、長老会議が開かれていた。


 マセランティアは、バーナディクシンを破りその戦力を取り込んで勢力を拡大させた。


 戦後の整備も済んだという事で、懸案の三界の攻略に取り掛かる事になった。


 長老会議では、最近になって軍事総監レトの発言力が増していて、序列もミサ審議官とどちらが上位か分からない状況になりつつある。


「三界の事は一度大きな失敗をしているのですから、もう少し慎重になっても良いのではないでしょうか? 私も三界には暫く行っておりませんし、三界に放っていた魔獣共は駆逐されたようで、情報も入ってきません」


 ミサ審議官が言った。


「戦後の整理も必要でしょうしね」


 サキ執政官もそう言った。


「三界のバックに付いていたバーナディクシン共は制御下に入った。バーナディクシンの首謀者は分からないが、何も証拠が上がらないのがかえって怪しい。


 とにかく下等種族の外界の下神しもがみなどに恐れて何とします。三界は、豊かで大きな国土を持つ、我々の支配下にある世界でも最も大きな世界の一つです。三界から数多神あたまかみなどの端神はしたがみを創造しないと我らの生活もままならぬ事に。早々に攻略し二度と反乱など起こさぬよう念入りに歴史改ざんすべきです」


 レト軍事総監の言う通りなのだ。しかし、ミサ審議官は、軍部が力を持ちすぎるのは反対だった。


「レト軍事総監。議会の承認もなく既に軍事行動に出ているのではありませんか?」


 現在、マセランティアが保有する十六の軍団の内、十三軍団もの軍団が三界と接する軍事施設に移動したという情報がミサ審議官の元に届いていた。


「戦時上の軍事行動です。敵性国である三界の軍が動いたという知らせがあったのです」


 白々しいレト軍事総監の説明に、ミサ審議官は、イライラと机を指で小突いた。しかし口から出まかせのレトの言い分が正に現実になっているとは長老会議のメンバーは思ってもいなかった。


「レト軍事総監。三界如き下等種族の討伐如きは、お主の好きにするが良いのだ。しかし、キンデンブルドラゴンハイツの二の舞だけは許さぬぞ」


 アキ最高議長が釘をさした。レト軍事総監は、神妙そうな顔をしてアキの言葉を聞いたが、心底から心配などはしていない。所詮は下等種族でバーナディクシンの支援もなくなったのだ。二度とあんな事になるはずが無い。


 しかし、ミサ審議官は、バーナディクシンとの戦争は、どこかの別の長神おさめしんが何らかの陰謀で仕組んだ事だと半ば信じている。悪い事が起こらないか心配でならないのだ。


 その時、長老会議の部屋に慌しく会議執務長官の何某なにがしが走って入ってきた。そんな珍事は有ってはならない事だった。


「何だ?」


 長老会議序列第十二位マキ調整官が怒声で叱咤しったした。それは、この会議執務長官が序列で第十三位だからだ。お前には入る資格がないと言いたいのだ。


「はっ。会議中に申し訳ありません。しかし緊急事態です。第四方面軍の軍事施設が何者かに攻撃されています」


「何? また第四方面軍の軍事施設か?」


「あそこは、三界との接合部の近く。三界方面の攻撃拠点ではないか。またあそこなのか?」


 ミサ審議官が叫んだ。


「三界の王の追悼の戦などと申しております」


「三界から攻撃してきたと?」


 ミサ審議官が衝撃で驚きの声を上げる。彼女の頭に三界の王の顔が思い浮かぶ。何年も会ってないが、三界をテーランダーに参加させようと様々な革新を行っていた。


 ミサ審議官は、あの美しい顔の男を思い出した。外見だけなら、レト軍事総監などよりもよほどマセランティアらしいとさえ言える外見。


 しかも、下等とはいえ魔法の制御も他のものとは比較にならないほどの制御力を見せていた。下手な四諦神したいのかみなどよりもよほど強そうに感じた。


 ミサ審議官は、そう考えてふと違和感に気付く。そもそも眷属神達よりもずっと下等なはずの外界の下神しもがみが眷属神で最も優れている四諦神したいのかみよりも強く感じるはずがあるのだ。四諦神したいのかみ以外の他の眷属神どもからそんな感覚を感じた事などないではないか。


 もし、あの時、既にあの王が長神おさめしんの神通力を持っていたとしたら? そしてその神通力を広めようとしていたら? しかし直ぐには神通力は広められないだろうと思い。ハッとある事に気付いた。時間だ。そう。時間が全てのキーワードだったのだ。


 ミサ審議官の物思いの間にレト軍事総監が発言していた。


「長老会議の皆さん。しかし、安心して欲しい。我らは第四方面の軍事施設に国力の八割に及ぶ戦力を集中させています」


 レト軍事総監はここぞとばかりに自身の先見の明を宣伝するかのように言った。


 アキ最高議長を始めミサ達は、その言葉に一先ず安心しているようだ。三界を攻撃する目的で兵力を集中させていたのが幸いしたと思っているのだ。ミサ審議官も心ならずも胸をなでおろす。


 マセランティアの軍事力の八割といえば、数億に登る兵力だ。バーナディクシンを討伐するために集中させていたとはいえ異常な数だ。


「そうか。それは敵にとって気の毒な事だな」


 サキ執政官がため息混じりに言った。


「いいえ。近年の三界の者達は何から何までおかしいです。他の外界の者達と一緒にしては」


 ミサ審議官が思い浮かんだ仮説を披露しようとしたがレト軍事総監がさえぎった。


「何を三界好きのミサ殿は、そんなに三界を贔屓ひいきにするのはなぜでしょうか?」


 レト軍事総監の目指しは厳しい。ミサが反論しようとしたが最高議長が割って入る。


「今はくだらぬ権力闘争などしておる時か? ミサ審議官の申すように外界から攻撃してくるなどは前代未聞じゃ。しかし、レト軍事総監の申す通り国力の八割もの戦力があれば直ぐにひねりつぶせるじゃろう。長老会議メンバーとしての誇りをわすれるな」


 アキ最高議長は、ミサ審議官の擁護のつもりで割って入ったのだが、見通しが甘いのは自分であることにはさすがに気づいていない。三界の専門家はミサであり、ここはミサの意見を聞くべきだった。


「最高議長様。申し訳ありません。万が一のとこを考えてしまいました。聖神様に援助を請うとともに、他のテーランダーの長神おさめしんと共闘する手筈を整えるべきかと」


 それでもミサ審議官は自分の意見を述べた。


「何と腰抜けな。バーナディクシンですら破った我らマセランティアが外界の攻撃にそこまでする必要が有ると本気で考えているのか?」


 レト軍事総監が言いつのる。確かにレト軍事総監の意見は正論だ。ミサの杞憂きゆうなのかもしれない。


「とにかく、只今から戦時戒厳令を発布します。今後は長老会議の下に軍事最高評議会を置き、軍事の事は評議会で決定されます」


 ミサ審議官は、作戦に対する発言の機会を失った。





 アサラム・カクシンは、剣を構えて、真っ先に飛び出していた。彼は志願して最前線の一番前にしてもらいたい申し出ていた。


「アサラム。徒士かちでよく付いてくるな」


 アサラム・カクシンに話しかけたのは青姫マリアージュ・サースランだった。


「お前は、剣士隊のアルテミシアの麾下きかに付けばよかったのだ。我らドラゴンライダー隊に付いて来ても邪魔なだけだぞ」


「マリアージュ様。私は、とにかく殺された村の人達のために、一秒でも早く奴らに一撃を打ち込みたいだけです」


「そうか。私怨しえんも良かろう。復讐は時には生きる糧になるぞ。精々頑張るのだな」


 マリアージュは、そう言うとアッと言う間にアサラム・カクシンを通り越して遥かな彼方に飛んで行った。その後をアサラムやマリアージュ以外のドラゴンライダーが追いかける形で飛んで行く。


 見ると、軍事施設は当初の解説とは違い、超巨大な神乱流かむらんに取り囲まれているようだ。


 しかし、青姫は全く速度を落とすことなく神乱流かむらんに飛び込んで行く。マリアージュが飛び込んで行った方向にアサラムも飛び込んで行った。


 神乱流かむらんを突き抜ける衝撃に顔をしかめ、アサラムは、青姫と黒曜竜の姿を探す。


 前方のかなり向こうで、黒曜竜がプラズマの超高温のブレスを吐いた。普通のドラゴンの炎でも相当に高温だが、八大元素魔法を頭脳印刷ブレインプリンティングしている黒曜竜の吐くプラズマの炎は一億度に達する。瞬く間に辺りを溶岩に変える。


「凄い!」


 アサラム・カクシンは、ロンハードの兄弟子である青姫の攻撃の凄さに目を白黒させている。


 ところが、驚きはそれでは収まらなかった。青姫がドラゴンランスを軽く横にいだところ、強烈な斬風が生じ辺り一面を大きく吹き飛ばした。


 地面に大きな穴が空いている。これはもう天災級の攻撃だ。


 アサラム・カクシンは、大笑いしながら、数多神あまたがみの身の毛もよだつような恐ろしい巨大虫の群れに飛び込んで行った。


 地上に降りるなり、剣を横薙ぎに一回転させる。アサラムは、斬撃ざんげきの威力を青姫と同様に魔法で最強に強化し、魔法による衝撃波を作り刀身から思いっきり爆発させる。


 アサラム・カクシンを中心に半径数十メートルの虫の群れが全て一刀両断されて吹き飛んで行く。


「見たか! 虫共!」


 アサラム・カクシンは、大声で叫んだ。その叫び声に向けてさらに無数の数多神あまたがみが群がって行くが、アサラム・カクシンは、少しも怖気付く事なく、剣を左右に振り続けた。


 彼の脳裏には死んで行った両親、妹、村の友達や知り合い達の笑い顔が浮かんでいた。





 シリア・フュラスは、白い鎧を付けてラーサイオン白帝の横にいたが、青姫が黒曜竜にまたがって飛び出して行ったのをみたラーサイオンが落ち着きをなくした事に直ぐに気がついた。


「白帝様。直ぐに追いかけになられたらいかがですか?」


 シリアが言った。


「我慢されるのは体に良くありませんわ」


 ラーサイオン白帝が恐ろしい笑を口に広げた。こんな顔を見るのは初めてだとシリアは思ったが何も言わなかった。


 ラーサイオンは、身を一振りして空に飛び上がった。次の瞬間には巨大な竜に変身していた。


 その後を多くの家臣達が皆巨竜に変身して追ってゆく。物凄い数の竜の軍団だ。


 ラーサイオンは、火炎を作る器官にありったけの魔力を注ぐ。体が赤く燃え上がる。


 目の前に、軍事施設を覆う巨大な神乱流かむらんの膜が広がったところで、胸に溜まった、恐ろしいほどのエネルギーを解放した。


 ラーサイオンの吐き出した炎も黒曜竜と同じく超高温のプラズマの炎だったが規模が違う。大きく膨れ上がった炎が神乱流かむらんに広がった。神乱流かむらんに大きな穴が開く。


 ラーサイオンを真似て、臣下のドラゴンの軍団全てが炎を吐く。何百万ものドラゴンが炎を吐き出す。高温のプラズマの炎で辺りが煉獄れんごく地獄のようなありまさまになる。


 神乱流かむらんが広範囲で弾け飛んだ。中から雲霞のように数多神あまたがみ大神おおかみが溢れ出してきた。


 再度、ドラゴン達は、プラズマの炎を吐き出し溢れ出してきた虫共を焼き殺した。


 戦況は、そんな感じで過ぎて行った。マセランティア軍は、膨大な数であったが、三界連合軍は、数の上でも質の上でも完全に凌駕りょうがしていた。


 マセランティアの軍団は、三界連合軍に包囲され、次第に潰走かいそうし始めた。


 逃げるものは追うな。というのがサーリ王妃の命令だった。


 特にサーリからは特別にバーナディクシン神は、殺さず逃がすようにとの厳命が、出されていた。これは、自分達の時間稼ぎのためにバーナディクシン神を犠牲にした事への些細なお詫びの気持ちだった。





 マセランティアの軍事最高評議会が開催され、第四方面軍を神乱流かむらんおおい防護壁とするとの報告であった。敵の陣容は現在不明であるものの、大規模な陣容であるとの報告であった。


 軍事最高評議会からは、戒厳令が施行され、軍事特例が適用されるように軍令が発布された。最前線の司令官に軍事作戦の指揮権が委譲された。


 特命は、状況を綿密に報告せよとした。


 それで、一先ず軍事最高評議会の仕事は終わり評議会メンバーは、退出した。


 レト軍事総監は、テールランプ種の長神おさめしんである序列第六位のカイ統括官に小さな声で耳打ちした。


「余計な邪魔が入ったな。クーデターの計画は一時棚上げだ。アキ、サキ、ミサ三人の捕獲作戦は中止しろ」


「戒厳令が欲しかった我々には好機ですね。三界の奴らも最悪のタイミングで攻めてきたものです。我等がクーデターの為に軍を集めているところに遭遇するなどお笑いです」


 カイ統括官が嘲笑を漏らしながら言った。


「三界の神々は、ミサではないが不気味な奴らだが、今回は我々は圧勝するだろう。奇襲を受けた場合のセオリーとは言え、神乱流かむらんなどで守りに入らずさっさと攻撃すれば良いのだ」


 レトは計画を部外者に邪魔されて機嫌が悪いようだった。





 文官であるミサ審議官は、軍事最高評議会では、テクニカルな軍事の事には介入できない事になっている。専門家に任せろということなのだ。


 今回の軍事最高評議会の決議は妥当なところであったが、ミサ審議官は一度も発言を求められなかった。


 ミサ審議官は、今回もレト軍事総監に全てのイニシアティブを取られて悔しい思いをした。しかし、そんな事よりも本当に三界の神々の攻撃は大した事がないのだろうか。


 ミサ審議官は、興味本位で第四方面軍の軍事施設の近くの山に転移して様子をることとした。


 転移先は軍事施設がよく見える山だ。軍事施設からはかなり離れたところにあるので詳細は分からないだろうがあまり近くでは危険だろうと判断したのだ。


 転移して軍事施設を見てミサ審議官は愕然とした。


「これは何だ? 奴らの軍容ぐんようは何なんだ?」


 広大な大平原の彼方まで広がる第四方面軍駐屯所が雲霞のように群がる敵軍に包囲され攻撃されている。


 ミサ審議官は、驚愕の面持ちでその様子を見ていた。かなり広範囲に火の手が上がっている。


 事態は、ミサの予感の最悪のビジョンよりもずっと深刻な様だった。


 ミサは、三界の王が死んだと聞いたが、その弔い合戦とはどういうことか良く分からなかったが、しかし、これまで三界を騙していたことが完全にバレていると確信した。


 ミサ審議官は、直ぐに取って返して評議会でこの現状を説明しようのして、ふと考えを変えた。


 このまま帰っても戦いの主導権は、レト軍事総監にある。ミサの忠告など聞くはずもない。それよりも確実な方法を考えるのだ。


 そこでミサは独断で聖神に助けを求めることを決意した。それがどのような恐ろしい結果に結びつくのか彼女は想像もしていなかった。






「一旦、軍を退いてください。勝ちすぎてはいけません」


 戦況を見ていたサーリが命じた。撤退を命じる思念波が各所で発信される。


「一旦、軍を退却させ、使者を送ってください。和平交渉を行います」


 サーリが命じた。





 マセランティア軍令部から、評議会に詳報が入った。しかし最前線の状況は、信じられないものだった。


 あまりにも、荒唐無稽なので軍令部から直ちに観察が急遽派遣された。その観察が戻って報告した内容はさらに信じられない内容だった。


 敵軍は、外界の下等種族の神々である。ところが、彼らは長神おさめしんの精鋭よりも強く、しかも数でも、マセランティアを遥かに上回るとの報告だったのだ。


 何もかも信じられない報告ばかりだった。


「レト軍事総監。第四方面軍はあまりにも多大な被害を受けており、防戦の手立ても無いとの事です。救援を求めておりますが」


 軍令部からの連絡に慌てたようにカイ統括官が報告した。声が震えている。


「何を馬鹿な。援軍なぞあるか。あそこには全軍を集めているだぞ」


「しかし、戦況からすると、相手の強さは尋常ではありません。長神おさめしんの精鋭部隊でも全く相手にならないとか。もはや、聖神せいしん様の軍団だとしか思えません」


聖神せいしん様は、恐ろしい方々だが、それほど数はおられん。これはミサ審議官の申すように聖神せいしん様に援助を求める必要があるか」


 レト軍事総監がそう行った時。新たな、連絡が入る。


「三界連合軍から和平交渉を行いたいと申し入れが入りました」


 レト軍事総監は、何が起こっているのかと目を白黒させている。





「サーリ王妃様。マセランティアのアキ最高議長が会うと申しております」


 伝令が、サーリの前にひざまずいて報告する。


 サーリが安堵のため息をついた。これで最悪の方向にはいかないだろう。


 これは、アールがモドキにことづけた作戦だった。アールは、様々な戦略を考えていて、マセランティアとの戦いについても勝ちすぎてはいけないと念を押していた。


 聖神せいしんは、テーランダーに興味はなく、外界には更に興味はない。だから、短期の戦争で和平に持ち込み決して聖神せいしんと闘ってはならない。と言うのがアールの遺言だ。更に言うなら、聖神せいしん以上に『原始の全てを統べる皇帝』とは決して事を構えるなと言うのがアールの遺言だった。


 ただ、アールは、もし『原始の全てを統べる皇帝』と闘う羽目になった場合の作戦も授けてはいたのだが、アールは、その作戦は成功しないかもしれないので何とかテーランダーとは和平に持ち込む事が最善だと言い残していた。


 マセランティアとの和解が叶うなら、それに越したことはないのだ。


「直ぐに会いましょう。こちらから出向いても構いません」


 サーリは立ち上がって言った。




 ミサ審議官は、ハイランダーの入り口でラルカを呼んだ。


 ラルカは直ぐに現れた。


「どうしたの?」


 ラルカは、前に会った時のように気安く尋ねた。


 ミサはマセランティアが外界の下等種族に襲われて破滅状態にある事を伝え、助けて欲しいと訴えた。


 ラルカは、爽やかな笑顔で、ミサの話を聞いていた。


「ミサ君。良く分かった。私に任せて」


 ラルカがキッパリと宣言した。


「ありがとうございます」


 必死のミサ審議官は、顔を上気させて目には薄っすらと泪が溜まっている。ホッと息をついていた。


 ラルカが柔らかく笑っている。


「ミサ君。直ぐに手はうつので、悪いがハイランダーの近くであまり転移はしないでくれ、転移は周りの空間に影響をあたえるからね。


 三十分程、歩いてから、転移してくれるかい」


「分かりました」


 ミサがそのまま君主にするように体を折って礼をした。そして、踵を返すと去って行った。


 ミサが見えなくなると、ラルカの顔がうつろになる。転移してはダメだと言った癖に、ラルカはその場で転移して消えた。





 ラルカが現れたのは、三界連合軍の司令部のテントの中だった。司令部には、悪魔上皇ヨロンドン、魔神女帝エルシア、メイア公妃、フリンツ大将軍の面々がいた。


 いきなり現れたラルカに驚きもせずにフリンツが近づいてゆく。


「何だ?」


 うつろな表情のラルカがうなずく。


「今、マセランティアの審議官ミサが私のところに来て、支援を要請してきました」


 その報告にフリンツは、驚愕した。


「王妃は、今マセランティアの最高議長に会いに行ってんだぞ。やはり、騙し打ちするつもりだったのか」


 フリンツが虚ろな表情のラルカに説明してやる。


「いえ。ミサ審議官は、先の総攻撃の現場から、直ぐに飛んで来たようでした。今の停戦後の状況は知らなかったようです」


 ラルカは、アールに洗脳されてフリンツの使役神になっているのだ。


 テーランダーやハイランダーの情報は、ラルカから漏らされていたのだ。


「怪しまれない様に直ぐに帰ってくれ。もし、聖神せいしん達に気づかれたら、陛下がかけられた暗示を全て開放し命令は全て忘れろ」


「承知しました。ミサがマセランティアに戻るのに少しだけ時間をかけるように言いつけております。もし、必要なら始末しますが」


「いや、放っておけ。あの女も、和平が進めば、下手に聖神せいしん達を動かすのは危険だとぐらい分かっているだろう。戻っていいぞ」


「分かりました」


 ラルカは虚ろな目をしたままボンヤリと答えた後、転移して消えた。





 ミサが、そろそろ転移しようかと考えている時だった。


「まて!」


 冷たい声とともに体が吹き飛びそうな鬼気が背中に浴びせられた。


 ミサは飛び上がらんばかりにして声の方を見る。声の主は聖神せいしんナンバースリーの降魔ごうまキタイだった。


 ミサは降魔ごうまキタイに会うのは初めてだが、一目でその聖神せいしんは、今までに見た聖神せいしんとは違う恐ろしい存在だと直感した。直ぐにその場にひざまずいた。


 そのまま、ラルカに伝えた話をもう一度繰り返して説明した。


「外界の下等種族が我々のように強いと言うのか?」


 降魔ごうまキタイが怪訝な顔でミサ審議官を見つめた。


「そいつらはどこの何者なのだ。そもそもの話を聞かせろ」


 それから降魔ごうまキタイは、三界の事、バーナディクシンとの戦い、それらが三界の計略であると考えている事などを話した。


 その話を全て聞いた降魔ごうまキタイの顔は少しばかり険しくなっていた。


 たしか、ラルカが捕らえてきたゴミのような捕虜がいたはずだった。そいつは、蛇足だそくハカヤが変態的なほど隅から隅まで調べ上げて情報を絞り出した末に本物のゴミになって捨てられたはずだ。


 あの男は何者だったのだろう。降魔ごうまキタイは、頭をひねった、とにかく三界の下等種族共はそのままにはしておけない。


 そのような事を思いながら、降魔ごうまキタイは、転移して、ジーズス宮に戻った。


 聖神せいしん達が思い思いの格好でくつろいでいたが降魔ごうまキタイが入ると緊張したように立ち上がり姿勢を正した。


「ラルカはいないか?」


 降魔ごうまキタイが尋ねた。


「ラルカ様は、奥の間に入られています」


 聖神せいしん一人礼賛らいさんヒョウが答えた。


「ちょうど良い」


 降魔ごうまキタイは、そう言いながら奥の間に入っていった。


 そこには、光陰こういんラルカ、憤怒ふんぬアビヌ、蛇足だそくハカヤの三人がいた。


 部屋に入ってきた降魔ごうまキタイに三人が視線を移す。


「マセランティアがまた戦争を始めたらしい」


 憤怒ふんぬアビヌが帰ってきた降魔ごうまキタイに伝えた。


「そこで、マセランティアの女に会って、いろいろ聞いた。ラルカどうなっている?」


 降魔ごうまキタイが厳しい顔で尋ねた。


「三界の奴らは明らかに異常だぞ」


 ラルカは、一瞬痴呆のような顔になる。


「キタイ様。私は、マセランティアに偵察に行っていたのです。三界の者達は、和平を申し込み直ぐにテーランダーより去るようです。放っておいても害は無いものと判断しました。しかし、私の一存ではと思い相談に参った次第です」


 降魔ごうまキタイは、強い違和感を持った。


「マセランティアの女の話を聞いて奴らが無害とはどんな判断力だ」


 降魔ごうまキタイが厳しく問い詰める。


 その強い調子にラルカは、一瞬表情が凍りついた。次の瞬間、ラルカは痙攣けいれんしたみたいな調子になり普通の顔に戻った。


 その様子を見ていた蛇足だそくハカヤが物凄い形相になってラルカに飛びつくと額に手を当てた。


「こいつ、精神支配を受けていたようだぞ」


 ラルカがハカヤの頭脳操作に対して悲痛な声で叫んだ。ひどいダメージを受けているようだ。


「ダメだな。何も記憶が無い」


 しばらくして、蛇足だそくハカヤが大きな息を吐き出しながら言った。


 次の瞬間だった。ハカヤは何のためらいもなくラルカの首を引きちぎっていた。その時の蛇足だそくハカヤの顔は鬼のようだった。しかし、誰も驚きの声すら出さない。ハカヤは汚い物を触っていたと言わんばかりにラルカの生首を投げ捨てた。


「このタイミングだ、こいつの精神支配をしたのは三界の奴らに違いないな」


 憤怒ふんぬアビヌがぼそりと言った。


「マセランティア以外の長神議おさかむはかりを開かせろ」




 サーリは、マセランティアのアキ議長と会見していた。ミサ審議官の姿は無い。


「アキ最高議長。我々は、完全な独立と不可侵の確約をいただければ、直ちに撤退し、テーランダーとの通路を完全に破棄して二度とテーランダーには参りません。いかがでしょうか?」


 サーリが提案した。アキは少し驚いた。


「それだけで良いと?」


 アキが信じられないというように聞く。


「貴方は、ご存知無いと思いますが、聖神せいしん達は、『原始の全てを統べる皇帝』と言う、恐るべき破壊神を封印しています。彼らは、自惚れた挑戦者が現れて何度も世界が破壊される事を経験し、ついには世界の全ての者の成長を抑制しようと考えたのです。


 私達は、強くなりすぎたのです。彼らは、私達の存在を知れば我々を滅ぼしにかかるでしょう。そうすれば私達は全力で戦わねばなりません。そうなれば、テーランダーは多大な戦渦せんかに見舞われるでしょう。


 我々は、聖神せいしん達を恐れていませんが、『原始の全てを統べる皇帝』を目覚めさせるのを恐れているのです」


 それから、サーリは、聖神せいしん達の悲惨な歴史を説明した。それを聞き終わったアキ最高議長は、目を大きくしてサーリの顔を見た。それからレト軍事総監に視線を送った。レト軍事総監も相当驚いているようだが彼は黙ってうなずいた。申し出を受けろと言っているのだ。横のサキ執政官も同じように頷いている。


 この重大な時にミサ審議官はと、見るとドアの側で突っ立っている。彼女はそっと入ってきてそこでサーリの説明を聞いていたのであろう。しかし、よく見るとミサ審議官の驚き様は尋常では無いようだ。


「ミサ審議官。何か意見があるのか?」


 アキ最高議長の問いにミサ審議官は、目を大きく見開いたままその場に崩れ折れた。


「済みません。独断で、聖神せいしんのラルカ様とキタイ様のお二人に、三界の皆さんの事を何もかも説明しました。特にキタイ様は、三界の皆さんの事をそもそものから聞かれていました」


 サーリは、ミサにすべて説明するよう要請した。そこでミサ審議官がキタイに説明した内容を詳しく説明した。それを聞き終わったサーリは険しい顔をして聞いていたがうなずいた。


「マセランティアの皆さんには、直ちにテーランダーから避難される事をお勧めします。テーランダーは大変な事になるでしょう」


 彼女は、それだけで言うと、同道してきていた、青姫、紫姫、ヨランダードの三人に目配せした。その場で転移する。


 サーリ達三人が消えた後を見ながらマセランティアの長老達は誰も何も言えなかった。





 無限の大きさのテーランダーは、無限の軍団で埋め尽くされたかのようだった。


 数えられない、長神おさめしんの軍団が招集され、テーランダーのマセランティアの陣地に向けて押し寄せてきていた。


 サーリは、三界連合軍を集合させて布陣した。魚のうろこの様な形から魚鱗ぎょりんじんと言われる形である。しかし、空中にも布陣できるため円錐形えんすいけいの陣形だ。


 対するのは、聖神せいしんに指揮されたテーランダーの連合軍である。もはや数えるのも無駄と言えるほどの大軍団だ。


 憤怒ふんぬアビヌは、空中高くに司令部を置いて指揮していた。三万年ぶりの大戦おおいくさだった。久しぶりの事にさすがに興奮している。


「たまには、こう言うのも良いものだな」


 憤怒ふんぬアビヌが尊大な態度で笑いながら言った。


「そうですな」


 蛇足だそくハカヤが答える。両軍の戦力差は明らかだ。


「そろそろ、奴らの殲滅せんめつ戦をはじめるか」





「ついに、このような事になってしまいましたなぁ」


 ロンハードだった。


「済みません。作戦は全て裏目に出ています」


 サーリが申し訳なさそうに答えた。


「王妃。魔法師軍団の用意が整いました」


 ヨランダード公爵が伝えた。


 発明家のアールが考案した巨大な装置が数えられないぐらい用意させていた。


 レールのようなものが巨大な大砲のように突き出てている。


「あれは、なんですか?」


 ロンハードがサーリに聞いた。


「あれは、亡き陛下が発明された、レイルガンという武器です。実際に使われるのは私も見るのは初めてです。大軍撃退用の兵器だとの事です」


 敵軍が遥か彼方から怒涛のように攻めてきているのが見える。見渡す限り敵軍で埋め尽くされている。


 その敵軍を見回すと、ヨランダードが手を振った。レールガンを発射せよと言う意味だ。


 レイルガンの周りにいた五十人程の魔法師が、ヨランダードの命令で、全力で電撃の魔法を発動した。それをレイルガンに注入する。レイルガンに仕込まれた大きさが数十メートルもある鉄球が恐ろしい速度で動き出し発射された。


 弾丸よりも早い恐ろしい速度で飛翔していった。


 鉄球が敵の陣地に激突すると地面が大爆発する。単純な攻撃だが、巨大な物理力は神通力では全く防ぐすべが無いようだ。


 錬金術で作成された鉄球が次々にレールガンから発射される。


「この武器の優れているところは射程が無限だという事です。鉄球を無数に打ち込めば、どのような大軍であろうと撃退できるでしょう」


「恐ろしい武器ですな。あんなものが飛んできたら私も助かりますまい」


 ロンハードが恐ろしそうに言った。


 レールガンの巨大鉄球は無数に打ち出される。敵陣地では鉄球の飛んでくるピューと言う音は恐ろしい音に聞こえる事だろう。鉄球は、地面に当たると恐ろしい大爆発を起こす。あまりにも超高速であるため巨大隕石が落ちたような爆発を起こすのだ。


 そして、敵軍のうち、鉄球の攻撃をすり抜けてやってきたもの達は、今度はドラゴンライダー達が空から迎え撃った。


 先頭の青姫の斬撃は、レールガンの鉄球よりも威力がある。恐ろしい大爆発の斬撃を大量に生産している。


 その他のドラゴンライダーも規模は違うがどんどん敵をやっつけた。


 フリンツも、錬金術で作った様々の武器で敵をなぎ倒して行った。フリンツは、一度に千もの武器を操る事ができる。一度の攻撃で数十万人を葬った。


 魔神帝エルシラの軍団も巨大な鞭のような戦鞭せんべんを振るい敵をなぎ倒してゆく。


 悪魔上皇ヨロンドンは、八大悪魔を先頭にして大爆発の衝撃波魔法を放って敵をなぎ倒して行った。


 ラーサイオン白帝は、巨大竜に変身し、プラズマの炎を吐いた。


 紫姫は、ロンハードの弟子達を、含む剣士ばかりを集めた軍団の指揮をしていた。彼女達は目にも留まらぬ速さで敵を斬り伏せて行った彼女は無人の野原で剣舞を舞うかのように無敵の剣を振るった。





 憤怒ふんぬアビヌは、驚愕で言葉も出なかった。この三界の軍団の強さは何なのだろうか。


 確かに、聖神せいしんは、たった十二人で、テーランダーを滅ぼす程の力がある。しかし、この三界の軍団を相手にしてはとても十二人では対抗できそうにない。


 特に、三界の先頭で戦う指揮官達の強さはもはや聖神せいしんレベルすら超えているかもしれない。


 テーランダーの常識を覆す出来事が起こっていた。この何百万年もの間、ついにアビヌを超える戦士を見た事が無かったのに、正に彼らはそれを達成したのかもしれない。


 しかも、この軍団のレベルは、多くの者が聖神せいしんレベルに達しているだけではない。明らかにほとんどの者達が長神おさめしんでもトップクラスの達人を遥かに凌駕するほどにレベルの高い者がほとんどの驚愕の軍団なのだ。


「皆。どうやら時代が変わったようだな。決着をつけよう。ラルカが先に行って待っているぞ。我々はもはや長生きしすぎた」


 アビヌがそう言うと、聖神せいしん達は何だか清々しいような顔色でアビヌの元に集まってきた。


 アビヌは、精神波を送りテーランダー連合軍を撤退させた。


《三界の戦士達よ!》


 アビヌが思念波で呼びかけた。


《我々と正々堂々と戦い勝利せよ》


 ラルカを除く十一人がしずしずと空を飛んで行った。


 サーリ達も彼らの前に飛んで行く。


 ジェットの速さで、聖神せいしんの序列第一位の憤怒ふんぬアビヌの前に飛び込んで行ったのは言うまでもない青姫だ。


 序列第二位の蛇足だそくハカヤの前に飛んで行ったのはヨランダードだった。


 三位の降魔ごうまキタイの前には紫姫、ラルカが亡き今第四位になった怒濤どうとうアサイには魔神女帝エルシア、爆炎ばくえんカサムの前には悪魔上皇ヨロンドン、疾風しっぷうサリムの前には大将軍フリンツ、美麗びれいアミスにはメイア公妃、友愛ゆうあいナガルの前にはラーサイオン、邪気じゃきイェビスの前には大祭神たいさいしんツウラ、豪胆ごうたんジエンの前にはサーリそして最後の礼賛らいさんヒョウの前には黒帝こくていクロが並んだ。


 ここに、達人達の最終決戦が行われようとしていた。


次回は、ティーパーティーの丘

です。


頑張って更新しますのでお待ちください。

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