066 かくして、ラナート平原に平穏は訪れ(平原動乱編エピローグ)
ラナート平原動乱編 これにて完結!
ちょっとボリューム増です。
アキネルの戦争終結から二日後。アキネル太守フォラスは書類仕事に殴殺されている。
アキネルの街は復興に賑わっていた。壊された西門は扉自体は全壊していない為、裏側と蝶番の修繕程度で城壁に戻すことが出来、再びラナート平原の西の玄関口としての偉容を取り戻している。
昨日は宴の後の完全休養日であったが、今日からは戻ってきた住民が日常の生活を取り戻し始め、街のあちこちで復興の槌音が聞こえていた。
冒険者ギルドには街の修繕に関連した依頼が殺到しており、その中には、太守府からの依頼内容も沢山ある。城壁の修繕や食料、装備品の確保などだ。
それらは全てフォラスの決裁が必要な書類であり、また、周辺耕作地の被害状況把握とこれから収穫期を迎えるにあたり農作物の収穫予想と対策、今回の敵の死骸処理、戦った者達への報酬をどうするかなど細かな仕事は山積みである。
フォラスにはまだまだ休む暇も無い。しかし、引き続きモニカやナドリスも手伝ってくれており、こっそり帰ろうとしたガロウドの首根っこを捕まえて王国への報告書作成と提出を丸投げする事にも成功した為、この分では9月には平常業務に戻れそうな様子である。
西の玄関口アキネルとして訪問客を受け入れるためにも、一刻も早く通常の状態に戻さなければならない。ラナエスト王国の4年に一度の武闘祭は後一ヶ月で開催されるのだ。
フォラスは今回の戦いで出会った強者達を思い出した。彼らが参加してくれれば武闘祭は盛り上がらない訳がない。公務を片付けて武闘祭期間中は王都へ行く予定を立てるべく、フォラスは書類仕事に再び取り組み始めた。
シュナイエン帝国魔導将軍ロウゼルによって仕掛けられた今回の戦争は、その犯人がロウゼルである証拠を残していない。唯一の手がかりはナギス村及びハギスフォートで確認された魔導艇であるが、それを確認したのも古代から復活した生体人形、大鷹のアイズのみであり、魔導艇の乗り手達まで確認している訳ではない。
それゆえに、ラナエスト王国においてもオルフェル経由でハギスフォート太守クロッゼに魔導艇の存在が伝えられただけであり、後にシュナイエン帝国の魔導艇のお披露目によって疑いは濃くなるのだが。テオストラ露天鉱床事件と合わせても正面から帝国に詰問するだけの証拠も戦端を開くつもりも無く、この時点では戦争の黒幕は不明なままとしている。
ロウゼルの策謀の結果は、ラナエスト王国の強さを世界に再認識させ、同時に翌月に控えた武闘祭を盛り上げる大きな話題を提供したことと、ラナエスト王国の国庫に少なからず打撃を与えた事であろうか。
戦犯が不明な為に賠償金を請求する事も出来ず、ラナエスト王国は騎士団や冒険者への報償、各地の復興に伴う費用の出費を強いられる事になる。結局これらは宝物庫のある程度の武具の放出、観光客向けの道具類の若干の値上げへと繫がることになる。
また、王都の騎士団が試練の迷宮に潜り、迷宮産の道具を収集して冒険者ギルドを通して売る事も増えるのだが、これはラナエスト王国の冒険者達が武装等を充実させることにつながるのであった。
特に、ブルフォス村においては魔竜兵の残した槍や魔竜トシュレペの切り落とされた尾、剥げ落ちた鱗等が解呪され、飛竜の素材などと共に高値で取引される事になる。
ここまで、一連の結果、ほとんどシュナイエン帝国及びロウゼルには得る物がないように見えるが、ロウゼルが得る予定のものはいくつかの情報だ。
曰く、ラナエスト王国騎士の強さ。剣聖ゴードの実力。巨人殺しコームと魔槍ピアシーレや死君主のサーシャやシナギー族の精霊導師の厄介さ。
アキネルで確認された数々の戦士の強さとその武器、トリスタン王子の魔剣デュランダル、砂漠の獅子王バルフィードの魔剣ロックマスター、銀の剣匠シャティルのルイン・ブリンガーと少女剣士レティシアの持つ光の剣等々。
これらの情報がやがてロウゼルの元に入るだけでもこの戦争は充分意味があったのだが、現時点ではまだ、それら全ての情報はロウゼルに届いていない。
一方、直近で得られる成果はハギスフォート戦終了の翌日に判明していたのであった。
ナギス村南東の丘陵地帯。山間に、景色としては不釣り合いなことに船が浮かんでいる。
シュナイエン帝国の魔導艇タービュランスがザカエラによって導かれ、旧鉱山入り口へ漂泊しているのだ。
魔導将軍ロウゼルは調査隊を組み、旧鉱山内へ侵入していた。ザカエラを先頭にして案内させ、旧鉱山奥で古代秘宝の大剣を見つけたと言う広間まで辿り着く。情報どおりであればここには巨大ムカデが現れると言う事で警戒もしているのだが。
予想に反してもぬけの殻である。
「ザカエラ、ここで間違いないのかい?」
「探知に引っかからないのでもしやと思っていましたが・・・・・・マーカー結晶を置いたのに失われています。周辺の壁に巨大ムカデの爪痕が残っていますのでここで間違いありません。しかし、本来はここまで来る通路は埋まっていたはずですし、この場に無数に転がっていた丸石もない。この広間中央にあった遺物も、残念ですが無くなっています」
「ふむ、何者かがここに入ったか」
「ダルスティン隊長とダイン、私がここを去るとき、この地で出会ったドワーフのギルビーという者を置き去りにせざるを得ませんでした。しかし、その死体もない。あの後、冒険者が調査に入ったか、それとも・・・・・・」
ザカエラは思い悩む。通路で生き埋めにすべく戦った冒険者達は、かなりの腕利きであった。銀髪の剣士にエルフの弓使い、若い魔道士にシナギーの女。さらにはザカエラが見放したアイーシャの僧侶ミスティ。もし、彼らが生き延びてその後、ギルビーを救出したのだとすれば・・・・・・
その懸念をザカエラが伝えると、ロウゼルはふうむと唸り・・・・・・おもむろに呪文を唱え始める。その魔法は、地面に魔方陣を描くものであった。
『霊魂召喚!? この場で一体何を・・・・・・ギルビーが死んでいるとすればその魂を呼び出しての確認か?」
魔方陣を描いたロウゼルは続けて、霊魂召喚の魔法を唱える。呪文を唱え終わったロウゼルの前には、半透明の男が出現した。革鎧の軽装で首の上の頭を支えるべく、両手が側頭部を支えている。無理もない。その男は頭が胴体から切り離されていたのだ。ザカエラはその顔に見覚えがあった。
「ウッツ!?」
巨大ムカデによって首を切り離された密偵。かつてシュナイエン帝国騎士ダルスティンが率いた調査隊で偵察偵役を担っていた同僚、密偵ウッツが霊魂となってザカエラ達の前に現れたのである。
「報告は受けていたからね。無念の死を遂げた彼の霊魂ならば未練を抱えてここに留まっていると思ったのさ。さて、ウッツ。ここでザカエラ達が去った後のことを教えてくれないか。語り終えたら君は僕の使い魔としてここから連れ出す事を約束しよう」
ウッツはロウゼルに礼を言うと、ザカエラ達の去った後の出来事を語り出した。
銀髪の剣匠シャティルとその仲間達がギルビーを助け出した事。
古代遺産が鎧の巨人であり、その内部から少女が現れた事。
喋る猫が出現し、鎧の巨人は何処かへ消え去り、自分やムカデの骸は焼かれた事。
その後、冒険者や魔法使い達が調査に訪れ、広場内の丸石は全て持ち去られた事。
「素晴らしい! ウッツ! 君は貴重な情報をもたらしてくれた! 死後も偵察偵で成果を修めるなんて、偵察偵の模範だね! 君の魂を悪いようにはしない。今はここで休んでくれたまえ」
ロウゼルが水晶を懐から取り出すと、ウッツの魂がそこに吸い込まれていく。
「ザカエラ、平原周辺の探索が終わったら、しばらくはラナエスト観光としゃれ込もう。剣匠シャティルやギルビー、魔法使いレドもそうだが、喋る猫と古代遺産から現れた少女。これは重大な情報だ。これは、休暇中のダルスティンらにも手伝ってもらわないとならないかもね」
屈託無く喜ぶロウゼル。遂に古代遺産の有力な手がかりが得られたのだ。その喜びはザカエラも例外ではない。長年の研究成果の手がかりが、情報がようやく入手できたのだ。
一行は旧鉱山の調査を切り上げると、タービュランスで周辺にさらなる埋設物がないか、探索を始めるのであった。
ブルフォス村と王都ラナエストを結ぶ北街道を南進する一団がいた。二頭立て馬車が2台に騎馬が4騎。
一台にはラナエスト王子ウィルフリードと魔戦士イアン、アイーシャの僧侶ミスティとドワーフの彫金師ギルビー、吟遊詩人ラサヤの5名。
もう一台にはソルスレート帝国地竜騎士団団長ガイアットとその副官サレイア、7本槍のうちの2人、クラーオとアイカー、踊り子リンネと魔術師スフィの6名。
ウィルフリード王子の護衛騎士4名は騎馬にて追従しており、彼らはブルフォス村における話し合いの結果を携えて王都入りし、そこで調印式を行う予定なのだ。
イアンやギルビー達が王子達と一緒に居るのは事情があった。本来であれば王子の馬車に民間人が一緒に乗る等あってはならない事であるが。
ギルビーとミスティ、イアンとリンネは調印式は全く関係がない。しかし、帰るタイミングが一緒である事、吟遊詩人のラサヤがギルビーの仲間であるシャティル達に会って冒険の話を聞きたがっており行動をしばらく共にしたがったと言う事。
その一方で調印式にラサヤが立ち会いを望まれており、それはスフィも同様である事。旅の道程において余所者であるガイアット達を持て成す役割が必要であり、一方で警備上ウィルフリード王子は別の馬車にする必要があり、一番の理由は王子が馬車に独りだと退屈だと渋った為である。
これらの事情が複雑に絡み合い、ギルビーやイアンはウィルフリード王子と共に馬車に乗ることになったのである。
ウィルフリードも元々気さくで形式に拘るよりは実利を好む性質であり、ギルビーがシャティルの仲間であると知ってテオストラの冒険譚を聞きたがったところもある。ラサヤが聞き上手なところもあり、馬車の中でギルビーはテオストラ露天鉱床の冒険譚を語るのであった。
車窓から平原の様子を眺めるガイアット達は、真夏のラナート平原の日差しと爽やかな風を感じ、異国情緒に浸っていた。ずっと穴蔵の中にいた彼らであったが、これからは暖かい異国と地上に居られる事を思うと心が軽い。
会談の結果、どうやらラナエスト王国はトンネルの存在を許し、それどころか地竜騎士団の逗留とトンネル利用料の徴収を全て認めてくれる事となった。一方で、利用料の金額決定はソルスレート帝国一国に好きにはさせず、しかも警備目的で他国の騎士団まで逗留させる案だという。揉めるようであれば、最終的にはブルフォス村を都市国家として独立させラナエスト王国の権益から外してまで他国との外交バランスに配慮するつもりであるとウィルフリード王子から明かされた時には流石に驚いたものであったが。
調印式が終わったらしばらくは王都に逗留し、武闘祭を是非見てみたいものだとガイアットは思う。なんなら出場するのも良いか、とニヤついた途端に、サレイアが声を掛けてきた。
「団長、ラナエストに着いたら大人しくしてて下さいよ? なんか悪巧みしてるみたいですけど」
「何を言っとるか。別に悪巧みなどしとらんわい」
「どうだか・・・・・・とにかく、王城では失礼の無いようにお願いしますよ」
信用ねえな、と言ったガイアットに、温泉でセクハラした人が何言ってますか! と答えるサレイア。クラーオとアイカーどころかリンネまで笑い出す中、ガイアットが風景の変化に声を上げる。
「お! もしかしてあれが、テオストラ露天鉱床か?!」
右前方に、大地にぽっかりと穴を空けた巨大な空間が見えてくる。中央部には巨大な岩石の山があり、その周りが掘り下げられているのだ。
近づくにつれ、その奇景の全容が見えてくる。街道に平行したその光景が終わりを告げる頃には、往来の人数も増え始め、テオストラと王都間の交流が盛んな事が伺えた。
「この前まで閉鎖されていたって聞いたが」
「なんでも、銀の剣匠とその仲間達が冒険をして、問題を解決したって話ですが」
ガイアットとサレイアの会話に口を挟んだのはスフィであった。
「その仲間達のうち、2人が向こうの馬車に乗っているドワーフのギルビーと僧侶のミスティだ。死霊やコボルドと戦い、コボルド王国まで乗り込んでコボルド王と悪巧みをしていたナシュタイン神を破ったのだとか」
スフィの説明に興味を持ったガイアットとサレイアであったが、詳細はスフィも詳しくはない。結果、ガイアットが騒ぎ出し、馬車を止めてまでしてリンネとラサヤを交代させてラサヤに話をせがむ事になるのであった。
ラナエスト王国工房街の一角、ギルビー宅。
まだ家主は戻ってきていないが、同居させてもらっているエルフのオルフェルは、攻防を借りてハギスフォートで入手したヌエの皮の加工を行っていた。ミーナやシフォン、ジーナロッテ達はアイズと共に、試練の迷宮に潜っている。精霊導師としての新しい力に慣れるため、また、ハギスフォートで道具類に散在したジーナロッテの懐事情の為だそうだ。オルフェルとしてはシャティルの鎧製作が最優先であるため、今回は別行動の方が邪魔も入らないし好都合であった。
軽さと頑丈さ、対腐食性を両立させた新素材レダルミウム合金の枠に加工中のヌエの皮を張り付ける。薬液で煮込み、まだ軟らかいうちに枠に固定して枠のない部分も含めて立体的な造形を手早く行い、今度は反応液に漬ける。
色が変わるくらい染み込んだら鍋から上げて今度は乾燥、これを各部位毎に行うのだ。形状は動きやすさを考慮して胸から肩と首周りを防護する軽鎧に腹当て、脇腹当て、腰当て、腕当てと足当てだ。
乾いて硬化したものは、コンコンと硬質な音を弾き返す。この裏に今度は鞣したヌエの革を貼り合わせ、さらに巨大ムカデ《ジャイアント・センチピーデ》の甲殻を薬品処理し薄く引き延ばしてた素材を貼り合わせる。
ヌエの持つ本来の暗藍色が薬液と反応して鮮やかな藍色に変わり、その表面にミスリル銀の粉末を散らして擦り込む。胸部は革が二重ばりで、あらかじめギルビーに託されたミスリル銀細工の胸飾りが左胸に埋め込まれて、革鎧とは思えない豪奢な作りとなっていた。
その胸飾りはレドが込めた魔法により、耐火、耐水、耐腐食、対寒、対電、強度増の魔法が込められており、光り輝く新星の意匠となっている。
作業を始めてから二日後、ようやくオルフェルのイメージどおりに、剣匠の銀髪に映える、澄み切った夏の夜の星空、夜藍色に銀の星々が散ったデザインの軽鎧がようやく完成したのであった。
『星雲の鎧と言ったところかな』
オルフェルは、自作の鎧が無事に完成した事に満足いく溜息をついたのであった。
ラナエスト魔法学院院長室。
宮廷魔術師ノキアと王国騎士団副団長コーム、そしてコーム家小間使いのサーシャは、魔法学院長ウォルスの私室を訪れていた。目的はサーシャの死君主の解除の方法について、相談するためである。
「結論から言うと、死君主を解除するためにはまず、魂を浄化しなければならない。変質した魂を元に戻さないと、身体を正常に戻しても何度でも死君主に戻ってしまうのだ」
ウォルスは秘蔵の文献を広げながら、3人に説明を続ける。
「身体は神聖魔法高位の解呪によって、元に戻せそうじゃ。しかし、魂を元に戻すのが難しい」
「一体、何をすればいいのですか? 方法があるのなら、私は諦めたくありません!」
食い下がるサーシャに、ウォルスは難しい顔で告げる。
「一度仮死状態になり、魂の状態で霊界に行かなければならん。そして、霊界のとある場所で魂から余計な力を剥がれ落としてもらわなければならないのだ。これは、霊界に独りで冒険に行くと言うことになるのじゃよ」
「そんな事が出来るのですか!? それに、一人で行くなんて危険すぎます!」
コームが声を荒げるが、ウォルスによれば方法はそれしか無いと言うことであった。
「良く考えるが良い。どうしてもやるという覚悟があるのなら、ワシが霊界へ送り込んでその身体を保護しておこう」
「行くのであれば霊界で活動するためのサポートも付けなければなりませんね。時にお師匠様、レディアネスはどこへ行ったのです? こう言うときこそ、あの子は役に立つでしょうに」
ノキアの問いに、ウォルスはニヤリとして答える。
「奴はルモンズのヴィンセントのところへ行っておる。探索行ということじゃが、意外と霊界に向かってると思うがの」
悪戯めいたウォルスの表情にノキアは驚き、コームとサーシャはさっぱり訳が分からない。しかし、霊界に行こうとしている人物がタイミング良くサーシャ以外にも居ると言うことに、運命めいたものをサーシャは感じ、霊界行きの覚悟をより強く決めるのであった。
王都ラナエスト冒険者ギルド併設の食堂、暴風亭。
散り散りになっていたシャティル達は、久々に再会していた。
北に行っていたギルビーとミスティ。
東に行っていたオルフェルとミーナ、ジーナロッテにシフォン。
西に行っていたシャティルとレティシア。
レドだけはまだ戻っていないが、一行は互いの土産話を持ち寄り再会を祝した宴会を行っているのだ。そこにはさらにゲストとして、アルティレイオン、バルフィード、ラサヤ、リンネが加わっている。特にラサヤは吟遊詩人だけに「良い話の臭いがする」と言って一行の話を強く聞きたがっていた。
もちろん、レティシアの出自や古代王国に関連したものは伏せざるを得ず、光の剣レイタックは試練の迷宮で手に入れた事にし、アイズやクアンの事は隠して話すしかなかったのだが。
「なんか物語が変なのよねぇ・・・・・・何かしっくりと来ない。ねぇ、なんか隠してることあるでしょ」
「いやいや、何も隠してないぜぇ? それよりも、銀の剣匠の冒険譚、売り物になるだろ? どうよ? これから更に武闘祭で頑張っちゃうからなぁ! もっと話は大きくなるぜぇ!」
「シャティルさん、貴方、酔っぱらってる?」
「いやいや、俺はまだまだ充分素面でっす。あ、そうだ、それで、今度からアルティも俺達と一緒に行動するって事でよろしくぅ!」
シャティルが酔った振りをしつつオルフェル達に説明すると、皆も各々挨拶を返し、アルティもこれから一緒に行動することになった。しかし、実はこれだけでは済まなかった。
「面白そうだから、俺も暫く行動を共にさせてもらっても良いか?」
なんとバルフィードまで同行を申し出てきたのだ。
「お、おっちゃん・・・・・・暇なのか?」
アルティは元々再会したら行動を共にしようと思っており、シャティル達が抱えている秘密も打ち明けるつもりであったが、バルフィードに至っては全くの想定外である。どうしたものかとシャティルは考えるが、そこに助け船を出したのは意外にもレティシアであった。
「僕は、良いと思うよ。バルフィードさんなら信用出来るし」
「あたしも賛成。このパーティはシャティルに戦闘面でしっかり釘させる人が必要だと思う」
「なんだよそれは! 相変わらずの毒舌幼女め!」
「幼女って言うなっ!」
「ミーナ、聞いて! アキネルに行ったとき、ミーナが居なくてシャティルへの突っ込み役が大変だったんだ!」
「そうでしょ! 大体こいつはね・・・・・・」
思わぬ展開に話は脱線していくが、こいつらは本当に面白い、と思うバルフィードである。
『しかし、俺は仲間に入れてもらえるんだろうか?』
明確な返答がないバルフィードは、やがてアルティがその件を皆に指摘して回答を得るまで、落ち着かない宴会となり、アルティは早速パーティの良心と言う立ち位置を担ったのであった。
暴風亭の外。夜空に半月が登り屋根の上の一匹と一羽を月明かりが照らしていた。
一方は猫型の自動人形。もう一方は鷹型の生体人形。
「まさかNo.Ⅸアイズ、君が生き延びているとは思わなかったニャ」
「ハッハー! それはこちらの台詞よ、No.Ⅹクアン。しかしこうして再会出来るとは、あの時身を挺して守った甲斐があったと言うものだ」
「・・・・・・それに関しては礼を言わなきゃならないニャ。ありがとうニャ。しかし、ボクとしてはあの時生き残ることと死ぬことと、どちらが正解か未だに分からないニャ」
「そんなものであろうよ。我が主クルエストは死んだ。しかし我は主に生き延びて欲しかった。一方で今の形だからこそ、我はクアンに再会出来たと思うし、レティシアを三千年の刻の先へ送り込んだ結果とも言える。クアンよ、果たしてこの運命は我らに新たな使命をもたらすと思うか?」
「まだ分からないニャ。でも、シャティルやレド達には可能性が感じられる。昔の、連合軍の戦士達と同じ雰囲気がある。もし、彼らが偽神と戦う決意をしてくれるのであれば、ボクは全ての知識を授けても構わないと思っているニャ」
「我もオルフェルやミーナ達を見てそう思ったものだ。ならば、今暫く様子を見るとしようか」
「それでいいと思うニャ。この世界では今、シュナイエン帝国が古代王国の遺産を集め始めている。やがてそれは、否応なくシャティル達に牙を剥いてくると思うニャ。偽神が関与してこなければ問題ニャいけど、関与してきたときには間違いなく、戦わねばならないニャ」
「ホッホー! なるほど、それでは情報交換は有線で後ほど頼む。それと、ソウルチェックであるが、一人だけ問題有りではないか。あの女性は良いのか?」
アイズの指摘にクアンはどうしたものかと思案する。現状、パーティ内で一番危ない、要注意人物はあの娘なのだ。しかし、簡単に切り捨てたくもない。
「今暫く、様子を見るのニャ。それは、偽神の動きがあるのかどうかにも関連するからニャ」
夏の夜に半月が煌々《こうこう》と月光を降り注ぐ中、一匹と一羽の密談は、暴風亭の屋根上に細長い影を落とすのであった。
―ラナート平原動乱編、完―
宜しければブクマ登録、感想、レビュー等、応援よろしくお願いします!
平原動乱編はこれで完結です!
長々と書きましたが、ようやく、予定どおり完結できてホッとしております。
伏線の回収忘れ、無ければ良いんですけど^^;
なお、今回の話の中に、第0部に当たる旧鉱山編に関わる話が出てきますが、元々第一部であった旧鉱山編(レティシアとの出会い編)を切り離して全面改訂を行い、前日譚として別途投稿しています。
「借金確定の武器無しソードマスター ~ルイン・ブリンガーズ前日譚~」
未読で興味の出た方は是非そちらもお読み頂ければと思います。
今後の予定は、いくつかの幕間劇の後、レドの霊界探索編を経て、武闘祭編へと続きます。
ただし、コンテスト応募と修行を兼ねて、一端、別作品を書くつもりで居ます。
しばらく、ルイン・ブリンガーズはお休みさせて頂きます。
また、再開の前には、申し訳ありませんが改善箇所があれば最初から見直そうと思っています。この作品はライフワーク的に続けていきたいと思っておりますもので・・・・・・
今後とも、引き続きよろしくお願いします。




