060 流星乱舞
カクヨムにも試験的に投稿しておりますが、なろうが先行しております。
向こうは章立ての変更とそれに伴った微調整のみです。
横向きに抱きかかえられているサーシャの状態は、所謂、騎士道物語において囚われの姫を助ける際に、騎士が姫を横抱きにすると言う、お姫様抱っこの状態だ。この体制は男性の腕と胸の温もり、汗や体臭を感じやすく、そして顔が近いこともあり、慣れていないサーシャは顔が赤らんで心拍数が上がるのを感じた。
と、そこへ、オレアナの元から戻った魔槍が・・・・・・
ズガッと垂直に、コーム達の前に付き刺さるピアシーレ。
なんとなく只ならぬ雰囲気を感じ思わず焦るコームとサーシャであるが、そこへ声が掛かる。
「やはり巨人殺しの次は女性殺し、かな?」
「混ざって巨人女殺しならまだ良いんだろうけどね」
コームの後方から近づく者達をサーシャは見た。サーシャは面識がなかったが、最初に声を掛けてきたのはクロッゼだ。一緒に居るのは剣聖ゴードとジーナロッテ。エルフの男女2人とシナギー女性は城壁で挨拶したジーナロッテの仲間、オルフェルとシフォンとミーナだった。
オルフェルの冗談に、巨人に雌はいないのよっ、とミーナが突っ込みを入れている。大分息が切れているようで、サーシャはそれが、飛び出した自分を追ってきてくれたせいであることに気付き、申し訳無く思った。
「あらあら、随分とお客様が来たわねぇ」
「お前だな?巨人どもの黒幕は!色々と道具を提供し、あげくには呪いまで振りまくとは!」
クロッゼが宙にいるオレアナに指摘すると、ケラケラと笑い出すオレアナ。
「私は途中参加なのよぅ。全てはフォーリナム様の作戦なの!」
オレアナが後方を見やるとそこには、魔方陣のそばに立つ悪魔フォーリナムの姿が。そこへ、ゴウッと大気が震えた。
「え!?」
それは、声を発したオレアナだけではなく、その場の全ての者が思ったであろう。皆の視線の先には、白い燐光に身を包んで長包丁斥鉄を振り、立体魔文字を表している剣聖ゴードの姿。そして。
左右に両断されて地に落ちるオレアナの姿。
「敵に背を向けるとは温い!隙あらば斬る!悪党に口上や悪巧みの間を与える義理はないのじゃ」
強炎、神罰の青い炎を太刀に纏わせたゴードが長包丁斥鉄を一振りすると、伸びた炎はオレアナを包む。長く断末魔を上げるまもなく、オレアナは焼き尽くされて消えていった。
「これでやっと終わったの?・・・・・・」
サーシャが呟くのも無理はない。あれほど苦しめられ、止めを刺したと思っても生きていたオレアナが、あまりにもあっさりと倒されたのだ。
「終わったのよ。今度こそね」
頷くジーナロッテに、ようやく実感が頷くサーシャ。苦楽をともにした2人は手を取り合い、その目には涙を浮かべていた。
一方、コームを冷やかして半ば弛緩しかけていたオルフェルは、剣聖の苛烈さに目が覚めた思いだった。まだ敵はいるのだ。すかさず弓を構える。
騎士魔法を発動し青白い燐光を竜の左籠手に浸食させたオルフェルは、赤く変化した燐光を矢に込めて、悪魔目掛けて一撃を放った。
『秘弓術竜穿矢』
迫り来るオルフェルの矢を、フォーリナムは躱すまでもないと思っている。悪魔である自分が常時展開している結界を、そう簡単に貫ける攻撃はない。その驕りは期せずしてブルフォス村を攻めたランサルムと同様であり、結果もまた同様であった。
オルフェルの放った矢は障壁をすり抜け、フォーリナムの右眼を貫く。
「バ、バカナァ、この俺がっ・・・・・・!?」
続けてオルフェルの2撃目が、そして結界も切れた為にシフォンの放った矢も胴に刺さり、ミーナの氷弾銃がフォーリナムの翼に穴を開けて凍り付かせる。
自分が人間如きに痛手を与えられていると言う事実に驚愕していたフォーリナムは、いつのまにか自分の右側に立っていたゴードに気がついた。既に首筋には太刀が添えられている。
「答えよ!お前は誰に命令された?」
「フフ、俺が口を割ると思うなよ」
次の瞬間、太刀が首筋にスッと切れ込む。神罰の青い強炎が周囲を焼き始め、フォーリナムは悲鳴を上げた。
「もう一度問う。お前は誰に命令された?」
「お、お前・・・・・・まさか剣聖なのか・・・・・・こ、この炎は・・・・・・」
フォーリナムは、この白髪の老剣士の容赦なさと青い炎から、ゴードが剣聖であるとようやく悟ったのだ。そして、自分の完全なる敗北も。かくなる上は。
「フハハハハッ、既に魔方陣は起動している。召喚したのは巨人族の魔神女王ヘカティレシアよ!いかな剣聖とて勝てはすまい!」
「ほう、確かに厄介な奴を呼んでくれたものだ。それはそれとして、お主の主は答える気になったか?」
「ヒャハハハハ、語らぬっ!悪魔はっ」
フォーリナムの首が宙に飛び、青い炎に首も、残された身体も燃え上がる。
「人間の、思い、ド、オ、リ・・・・・・」
「語らぬなら斬るっ!戯れ言も最後まで言えずに悔しがっておれっ!」
ゴードが納刀すると同時に、フォーリナムは燃え尽きた。その苛烈さに、そこに居た者達は絶句する者もいれば、呆れる者も。
「うわぁ、容赦なし。と言うか斬ってから「斬るっ」って、凄いわぁ」
「ゴード殿っ!もう少し手がかりを聞いて貰えてもっ!」
ミーナが呆れ、クロッゼがゴードに苦言をするが、当のゴードは何処吹く風だ。
「悪党の思い通りに事を運ばせないのがワシのストレス解消法じゃい」
なおも喰って掛かるクロッゼとゴードのやりとりのそばで、魔方陣が赤黒い光を放ち出す。
明け方の、白み始めた爽快な大気の中に場違いな邪悪な赤黒い光が広がり、魔方陣からは、ずずずと迫り上がるように異形の存在が現れ始める。
それは、褐色の肌に黒い髪をしていた。
長髪を頭部の両側で丸めてから房のように垂らしており、流麗で面長な顔には四つの瞳がついている。上半身は裸で二つ並んだ乳房が上下3段の6つ。腰から下は黒い薄衣のような腰巻きを纏っており、人間との差違はあれど、ここまではまだ美しい女神とも言えた。
決定的とも言える違いは。
全長およそ10マトル。森巨人の5倍。膝下だけでハギスフォート城壁と同じくらいだ。そして、その両腕は、無数の腕が生えていた。すなわち、百手。
百の手を持つと言われている魔人女王、ヘカティレシアが出現したのである。
「巨人女出たなぁ」
「アンタが余計な事言うからぁ!」
巨大な女魔人でありしかも双子房の髪型であることからオルフェルは興味深げに観察するが、ミーナは残念エルフに罵倒する。
オルフェル達を睥睨したヘカティレシアは、無数にある腕のうち、左右の手一組を身体の前で組んで印を結び始めた。すかさずゴードが白い燐光の立体魔文字を描くと、ヘカティレシアの印を結んだ指先から雷光が辺りに降り注ぐ。ゴードを含め周囲の者達は、雷光が当たる間際に半球状の結界に包まれて難を逃れた。
「ちょっと!こんなのと戦えるの!?」
「判らんが、やらなきゃやられるだけだ!」
ミーナの叫びにオルフェルが答え、弓矢を構える。
「ゴード卿!この結界は内部からの攻撃は?」
「ワシは防戦一方になるが大丈夫じゃ!」
ゴードの答えを聞いたオルフェルは、再び騎士魔法を使い、竜穿矢を放った。その隣ではシフォンが騎士魔法を使い、光縛矢を放つ。
2本の矢はそれぞれヘカティレシア目掛けて飛んでいったが、光縛矢は体表で弾かれ、竜穿矢は脚に刺さりはしたが何事もなかったかのように抜け落ちる。
「なんだと!?」
「全然効かないっ」
エルフ二人が驚愕するのを見て、コームもピアシーレを右肩上に構え、騎士魔法を発現して魔槍に力を込めていく。魔槍が紫の光を纏い、太く、大きくなっていく。
「ピアシーレ最大火力、魔槍術、“極流星”!受けて見よ!」
コームはピアシーレをヘカティレシア目掛けて投擲した。
極太の紫光がヘカティレシアを貫くかのように見え・・・・・・しかしそれは残光でしかない。ピアシーレは刺さりはしたものの、オルフェルの矢と同様にボトリと落下し、魔神女王の身体には傷跡も残らなかった。
「馬鹿な!? あの攻撃が効かないだと!?」
愕然とするコーム達の元へ、風斬り音と共に上空から声が掛かる。
「ハッハー! 伝承のとおり、今のままでは倒せんよ!」
バサバサと羽をばたつかせた大鷹が、オルフェルの左籠手に降り留まった。
鷹が喋ったことに事情を知らないクロッゼ達は驚くが、そこにオルフェルが、事情は後で説明するが仲間だと言って安心させる。
「ちょっと、アイズ! あれの倒し方、知ってるの!?」
「直接戦ったことはないが、伝承は知っている。あれは魔界に棲む魔神、巨人族の主神でもある女神ヘカティレシアだ。百の掌にそれぞれ目を持っており、それを潰さないと攻撃が通じないらしい。掌の目には攻撃が通じると言われている」
「ならば、まずは掌の目を狙うのが先か!」
「でも、どうやってよっ!?」
地団駄を踏むミーナがオルフェルに喰って掛かり、シフォンがそれを宥める。そんな二人を見据えつつアイズは指示をだした。
「シフォンとミーナは大地の精霊に働きかけて土で網の目のような半球を造れ。敵の攻撃が電撃ならばそれで防御できる。後はオルフェルの弓技、それから剣聖の技ならば攻撃出来るだろう。掌がこちらに向いている時であれば、その魔槍でも攻撃は出来るはずだ」
早速、ミーナとシフォンが大地の精霊に働きかけて言われた通りの半球を構築する。ゴードが試しに結界を解くと、降り続ける雷撃は土の半球に吸い寄せられて効果が発揮された。
そこで、可能な者は攻撃に転じる。
オルフェルの竜穿矢は敵の防御をすり抜けるために最適な攻撃であるが、流石に百の標的相手には厳しい。それでも撃たなければ始まらないため、オルフェルは連射を始めた。
ゴードは神罰の青い強炎を振りかざし、まとめて掌を焼こうと長包丁斥鉄を振り下ろす。
「ウォオオオオオオンッ!」
攻撃が通用したのか、ヘカティレシアが叫び始める。しかし、これまで出現位置から動いていなかったヘカティレシアは、ミーナ達を踏みつぶそうと足を踏み出した。
クロッゼは攻撃手段を持たないため、ヘカティレシアの動向を観察しながら戦局を見ることにしていたのだが、その分反応が早く、皆に指示を出す。
「散れっ!」
クロッゼの叫びに、一堂が待避する。大地の精霊によって構築された半球が破壊されてしまうが、シフォンが思いついた。
「そうだ!こうすればっ!」
シフォンが精霊を働かせると、今度はそこかしこに土の柱がそびえ立つ。それは、雷撃を吸い寄せると共に、ヘカティレシアの足の踏み場がないようにするものであった。ミーナも真似して、辺り一面に同様の環境を作り出す。
ヘカティレシアは雷撃が効かないと知ると、印の形を変える。それによって今度は炎や氷がばらまかれる。しかし、炎は精霊導師であるミーナとシフォンの二人が確実に水膜で防ぎ、氷の礫はそれぞれが土柱を遮蔽物として回避した。
コームはサーシャとジーナロッテと共に回避行動を取っていたが、その間にもずっと考え事をしていた。しかし、ようやく決心し、サーシャに向かって話しかける。
「サーシャ、私は君がピアシーレを何故使えるのか、ずっと考えていたのだが・・・・・・レイアという人を知っているかね?」
「いえ、私には覚えがありません。ただ・・・・・・」
「ただ?」
「私が槍を使えるようになったのは、騎士魔法を使える女性戦士の魂が込められた、魂の宝石と言うものを飲み込んだからなのです」
まさか、とコームは思う。その魂の宝石に封じられていたのがレイアである可能性は・・・・・・
「少し手伝ってくれないか。この技は、二人で騎士魔法をピアシーレに込める技なのだ」
「出来るかどうか判りませんがお手伝いします。どうすれば?」
コームは、自分の前に背を向けて立ち、右肩上方に両手を広げて構えるようにサーシャに頼んだ。サーシャが準備出来ると、その掌にピアシーレの先を乗せる。
騎士魔法を使うと魔槍ピアシーレが標的を見せてくれるはずだと言うコーム。
二人が騎士魔法を使うと、ピアシーレがサーシャに狙うべき敵の部位を脳裏に見せ始める。その一つ一つをサーシャが確認すると、その都度、脳裏の画像が紫の円と十字によって固定され、総勢30以上の標的情報がサーシャに伝えられた。
「標的が見えます」
「紫の円と十字で標的が固定されているかい?」
「はい。同じ状態のものが30くらい」
「そのままでいてくれ」
コームはピアシーレに騎士魔力を込めて準備を終えると、ピアシーレを握る手に力を込めて命令を下した。
「ピアシーレ!最大出力!“流星乱舞!”」
複雑な曲線を描く無数の紫光が、ヘカティレシアの無数の掌を狙い撃った。
掌にわずかでも隙間があれば、紫光は曲がりくねって飛び込んでいく。
「これならやれますね!」
「喋っている暇はない。第二射撃いくぞ!」
「は、はい!」
再び、ピアシーレに二人が騎士魔力を込め、ピアシーレで流星乱舞を行う。
コームは確信していた。この娘の中には、レイアの魂があると。
この技が使えるのはピアシーレに認められた証拠であり、ただの小間使いがいきなり使えるものではないのだ。また、コームでさえピアシーレに認められるのに時間を要したのである。流星乱舞はレイアと二人で、一緒に練習した技であり、槍の得意な者が誰でもいきなり使えるものではない。
ヘカティレシアは痛撃を与えたコーム達を標的にし、周りの土柱毎、蹴り飛ばそうと足を繰り出す。しかしそれは、ゴードが「魔盾の構え」で真正面から蹴撃を受け止めた。巨大な質量攻撃に、踏ん張る剣聖の両足が地面に沈み込むが、それでもゴードの構えは崩れない。
ジーナロッテが強炎油をヘカティレシアの足にぶちまけると、神罰の青い強炎が引火して右足に広がっていく。掌の目が大分減ったために、痛みを感じ始めたのか、ヘカティレシアは足を引き戻した。
シフォンが、弓を構えて集中している。騎士魔法を集中し、オルフェルを見様見真似で同じ事に挑戦していたのだ。
『騎士魔力を最大限に高め、矢先の一点に集中させる。その一点を、さらに先へ、もっと絞って・・・・・・』
やり方は以前、エルダーウッドに居た時に教えて貰っていたが、これまでは何度やっても成功はしなかった。しかし、今回は竜穿矢しか敵に通用しないのだ。追い込まれた状況で、シフォンは少しでも皆の役に立とうと一心に手中する。
ふいに、小さな緑色の少女姿の風の精霊が現れた。鏃の先に向けて指先を水平に振る仕草をする。それに誘われるようにシフォンの意識が鏃のもっと先へと向けられた。
鏃の先の空間が歪み始めた。これならばいける!
シフォンはまだ無傷の掌に狙いを定め、弦を引き絞る。
「行けっ!竜穿矢!」
放たれた矢は、狙い通りに掌をすり抜け、内部の目玉を直接撃ち抜いた!
「やった!?」
「遂にものにしたな、シフォン。良くやった!」
オルフェルが褒めてくれたので、シフォンは顔を真っ赤にして照れ始める。
ミーナはそんな様子を見て、戦闘中の高揚感が冷めるのを感じた。ふと視線を彷徨わせると、ジーナロッテもコーム達のそばで自分と同じような顔をしている。二人の視線が交錯し、ミーナとジーナロッテは互いに理解しあった。
こんな戦闘はさっさと終わらせよう。
「「ゴードおじ様、そろそろ倒しちゃって!」」
二人は異口同音に、ゴードに早く倒すように呼びかけた。
宜しければ感想、ブクマ登録、レビュー等、応援よろしくお願いします!
全面改訂に伴い、旧第一部を、前日譚として別途投稿しています。
「借金確定の武器無しソードマスター ~ルイン・ブリンガーズ前日譚~」
http://ncode.syosetu.com/n5867cl/
挿入エピソードの大幅加筆、導入も終わりも全面改修して以前とは違った、なおかつ本筋は押さえた形式に。今まで隠していた話も新たに加わっており、本編とは独立して読める一本としてあります。旧第一部をお読み頂いた方も是非、こちらをご覧下さい。




