表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界冒険戦記 ルイン・ブリンガーズ  作者: 都島 周
第二部 ラナート平原動乱編
64/73

058 剣聖の技

「サーシャ、と言ったか。あの娘もすごいがあの槍も凄いな」

「まるで“巨人殺し”の魔槍じゃないか」


 もはや戦う必要がなくなったシグマとディーガが感心していると、後方から複数の馬の足音が聞こえてくる。振り向いた彼らの前に10人程の小部隊が接近してきた。


「おう、この辺りは巨人の屍がすごいな」

「ここで食い止めていたからここまでは何も無かったようですね・・・・・・あれはっ!?」


 白髭の老人剣士と騎士が先頭で話し合っていたが、騎士がシグマ達の前に立つサーシャに気がつく。丁度、サーシャが魔槍を投擲したところであった。


「ピアシーレ!こんなところに!」


 魔槍が次に戻って来るタイミングで自分の手元には来なかった事で、サーシャはようやく攻撃の手を止めて振り向いた。魔槍の名前を知っている人物が誰なのか、その人物の手元に槍が出現したのを見て、彼が本来の持ち主であるのだと理解する。


 一方、騎士の発したその言葉に、冒険者達がざわつき始める。“ピアシーレ”の名称を小間使い(メイド)であったサーシャが知らなかったのも無理はないが、冒険者や騎士であれば魔槍と共にある使い手の名を知らぬ者はいない。


「その魔槍ピアシーレは貴方が遣わしたのですか?私はサーシャです。おかげで助かりました」


 白子アルビノのように白い肌に紅い瞳の娘が礼をする。初めて見る者にとっては驚く風貌のサーシャであるが、コームは驚きを表に出さずに話しかけた。


「珍しい事にこの魔槍が自分で行きたがったのだ。私はコーム・ノフィアス。ラナエスト王国騎士団副団長だ」

「「やっぱり“巨人殺し”コーム!!」」


 シグマとディーガの驚愕の叫びに、コームが頷く。


「如何にも、“巨人殺し”だ。しかし、私だけでは無い。こちらは“剣聖”ゴード・ヴァンフォート殿だ。私達が来たからには、もう安心してくれていい」


 巨人殺しと剣聖。この2人の登場に冒険者達は驚くばかりであった。


「ゴードおじ様」

「おう、ジーナロッテではないか」


 進み出るジーナロッテにゴードが挨拶を交わす。暴風亭で一緒に飲んだ折に、お酌をするジーナロッテは「おじ様」とゴードの事を呼び、ゴード自身は鼻の下を伸ばしていたと言う関係の2人である。ちなみに、調子に乗ったゴードが他の女性陣にも「おじ様」と呼んでくれて構わないと言ったのだが、そこは皆聞こえないふりをしてやり過ごし、ジーナロッテだけがそれ以降、この呼び方を続けるようになっていた。


 ジーナロッテが剣聖と知り合いである事に再び冒険者達はざわつくが、当の2人は周りを無視して会話する。


「オルフェル達は一緒じゃ無いのか?」

「遠距離組は城壁に行ってますよ。私はこっちで戦う羽目になっちゃいました」

「なるほどのう。西門からここまでは全く敵が居らなんだ。かなりの激戦だったようじゃのう。ここから東は巨人の骸だらけではないか」


 ゴードと共に改めて東方を見ると、確かに通路を埋めるかの如く巨人達の死体が累々としている。


「改めてよくもまぁ、私達戦えたわねぇ。最後はサーシャに助けられたけど」


 ジーナロッテの言葉にサーシャは顔を赤らめ、また、他の冒険者達は誇らしげに笑みを浮かべる。


「誰が欠けてもこの結果には成らなかっただろうよ。俺達は自分を褒めて良いと思うぞ」


 重騎士ディーガの言葉にシグマ達も頷く。


「問題は、これだと東門へは回り道をするしかないか」


 コーム達は騎馬とエベラードの荷馬車があるため、屍で埋まっているこの道は通れそうに無いのだ。結局、コーム達は別の道を迂回して東門へ向かう事とした。巨人殺しと剣聖の生の戦いが見られるということもあり、シグマ達は勢いでこのまま城壁防衛に参加する事に決めたらしい。ジーナロッテとサーシャは冒険者達に、これからどうするか尋ねられた。


 サーシャはせっかく得た力で防衛戦を手伝うと言う。ナクトの事を聞くと、冒険者ギルドに一応頼んで来たと言う事であったため、ジーナロッテもそれならばと同行することとし、冒険者達は巨人の屍を超えて真っ直ぐに東進することにした。



 オルフェル達は東側城壁の北側に位置し、進入を試みる巨人達をひたすら狙撃していた。巨人達は2体を踏み台にした跳躍による進入方法を繰り返していたが、次第に防衛側に対応されてそれが通用しないようになってくると、仲間の死体を積み重ねてそれを踏み台にし始めた。

 一方防衛側は、死体が悪用されないよう、油を撒いてたいまつを落とし着火させる。あちこちに炎の壁が生み出され、結果、戦闘場所は東門正面へと移りつつありオルフェル達も東門側へと移動し始めた。


 東門付近の城壁上では巨大な石弩が取り付けられていた。両手を広げた位の弦張りに、大小の円盤状の器具を介して弦が張られている。その構成に見覚えのあったオルフェルは、周囲を見回すと目的の人物を見つける。


「エベラードっ!来てたのか!」

「おお!オルフェル!」


 2人の鍛冶師は近寄ってお互いの二の腕を軽く叩き挨拶する。エベラードはこれまでの経緯をオルフェルに説明し、今は巨大投槍機ジャイアントバリスタの設置をしているところだと説明した。東門の向こう側に2機、こちら側に3機設置中であるらしい。傍らには今も簡素な木槍が次々と運び始められており、5機の投槍機に配られているところであった。兵士や冒険者達が木槍を運び込む中、見知った姿もいた。それは、木槍の束を担いだジーナロッテと、10束もの木槍を宙に浮かせているサーシャである。


「2人とも、休んで無くて良いの?」

「市内に入り込んだ巨人のおかげで休むどころじゃ無かったわよ。その勢いのまま来たの。これから、“巨人殺し”コームとゴードおじ様が参戦するからその見物も兼ねてね」


 ミーナとジーナロッテが会話していると、エベラードが城壁下に向かって両手で大きく丸を表現する。そのまま、何かやりとりをすると、エベラードは巨大投槍機ジャイアントバリスタのそばに立つ騎士達に向かって大声で報告した。


「ロイさん、フラウスさん、準備良しです!攻撃開始許可でました!」


 東門の手前と向こう側に立つ騎士2人が大きく頷き、周囲に指示を出した。巨大投槍機ジャイアントバリスタを操作する兵士が、木槍を据え付けて照準を付ける。騎士が手を振り下ろすと、5機の投槍機が一斉に木槍を射出した。


 5本の木槍は狙い過たずに巨人の頭部を貫く。何が起こったのかも判らず一瞬にして倒れる巨人。その光景に兵士達は沸き立ち、投槍機を扱う者達は俄然、次の木槍を据え付けて撃ち始めた。

 負けじと、オルフェルとシフォンが弓を撃ち始める。こうして、東門付近は巨人の屍が加速して増えていくこととなった。



 東門の外、8本の石の柱の内側にクロッゼは1人で陣取っていた。重騎士達は巨人が初めて使って見せた槍により、間合いの外からの攻撃に傷ついて運び出されていたのである。その為、クロッゼはたった1人で東門を守っていた。

 騎士魔法ナイトルーンで身体を強化したクロッゼは、長剣を左腰の鞘に納め、右足を前に半身で構える。柄に右手を添えて呼吸を整えたクロッゼは、剣身まで騎士魔力を込めて素早く抜き放つ。


『アルヴィオン流剣技、飛空斬ボルシエッラ


 剣圧に乗って撃ち出された青い魔力の刃が、上段斬りの軌跡で残心するクロッゼの前方を、石柱の向こうにいる巨人達を槍毎切り裂いていく。

 既に何度も使っているこの剣技は、魔力を直接撃ち出す為に魔力消費が激しい。クロッゼは自身の体調から、あと2回撃てるかどうかと睨んでいた。そこから先はひたすら防戦となるだろう。

 クロッゼがそんな現実的な覚悟を決めた時。


 ゴオオォォッ!!


 空をつんざく紫電が傍らを通り過ぎて前方へ走り、巨人達を貫いた。

 その一撃だけで後方に誰が来たのかを悟るクロッゼ。


「久しいな。そしてよく来てくれた、“巨人殺し”」

「ご無沙汰しております。クロッゼ卿」


 近づく足音に振り向かずに語ったクロッゼに、予想通りの人物の声が答えた。

傍らに並んだコームの手元に、魔槍ピアシーレが再び出現する。コームはそれを、騎士魔法ナイトルーンを用いて再び投擲した。

 相性というものもあるが、これまで苦戦していた巨人相手に瞬く間に屍を量産していくコーム。その戦いぶりに武人としては嫉妬も覚えるが、太守としてはそれでも、この増援はありがたかった。


「コーム卿が到着したからには、ようやくこの戦いを終結出来そうだな」

「ご謙遜を。私が来ずともハギスフォートは持ちこたえたでしょう。どちらかというと兵士達への士気高揚のつもりだったのですよ」

「それでもありがたいさ。それに、今回は敵の背後が怪しい。巨人達が大盾や破城槌、槍など、あり得ない道具を使い、これまで見たことも無い戦術を使うのだ」


 昨夜の会議では聞こえてこなかった新情報に、コームが納得する。東門が破られることなどそうそうないはずが、クロッゼが前線まで出る羽目になっていることに、意外に思えていたのだ。


 2人がそんな会話をしている内に、城壁からは木槍が何本も投擲されて巨人達が倒れ始める。投擲名人がそんなに居たかと怪訝に思ったクロッゼが振り返ると、そこには巨大な石弩が木槍を撃ち出していたのであった。

巨大投槍機ジャイアントバリスタの説明を聞いたクロッゼ。


「ハギスフォートにぴったりの武器じゃないか。良い拾いものをしてきてくれたな」

「何か運命のようなものを感じますよ。ダムフレスをもたらしたオルフェルとエベラードの縁やナギス村の件を考えると、全てが1人の人物に繋がっていくのです」

「それは誰だ?」


 コームの意外な言葉にクロッゼは興味をそそられたが、その答は新たな人物が口にした。


銀の剣匠シルバー・ソードマスター、シャティル。ワシの弟子にして孫じゃ」


 後ろから歩み寄ってきたのは剣聖ゴード・ヴァンフォート。

 クロッゼは姿勢を正して一礼する。


「ようこそおいでくださいました、ゴード様。なるほど、最近、噂が聞こえてきておりますよ。テオストラの解放者、銀の剣匠と」

「直接上げた手柄ならまだしも、東部の出来事については単なる偶然じゃろう。オルフェル達が頑張っただけじゃよ」


 それはともかく、とゴードは2人の前に立ち、腰の太刀を抜いた。


「ちょっと休んでおれ。ここからはワシに任せて貰おう。剣聖が戦場に来て何もしないわけにはいかないからな」


 ゴードの持つ太刀は、飾り気の無い無骨な太刀だ。鍔元から刃先まで暗銀色のほぼ同一幅で、反りが少なく、切っ先に向かうほど身幅が狭く、刃が広くなっている。


「おおっ!あれが名刀“長包丁斥鉄ナガボウチョウセキテツ”か!もっと近くで見たかった!」


 城壁上で眺めていたシグマが思わず感嘆の声を上げる。ラナエストの誇る五本指鍛冶師、セキテツが打った傑作と言われている“長包丁斥鉄ナガボウチョウセキテツ”。剣聖の使用に耐える頑丈さと凄まじい切れ味、STR+2の効果と「斥力」の力を秘めた、類い稀れなる業物である。


 ゴードは長包丁斥鉄ナガボウチョウセキテツを中段青眼に構えた。途端に、先程までの好々爺然とした雰囲気が消え去り、静謐な雰囲気に空気までもが固まったかのような印象を周囲に与える。周りの者は誰1人動くことも物音を発することも出来ずにゴードをじっと見つめることとなった。


 次の瞬間、白い燐光に身を包み、太刀を振るうゴード。水平と斜めに太刀を振りつつ何かの構えを取ったゴードの身体をなぞるように、白い魔光が立体文字となって空間に固定される。剣神ヴァルフィンとの盟約により使用可能となる剣聖技は、通常の魔印ルーンよりも情報量の多い立体魔文字ボディルーンを表すことが可能となり、それによって剣神の魔力を引き込んで奇跡を起こすのだ。


 長包丁斥鉄ナガボウチョウセキテツから吹き上がった青い炎は、剣神ヴァルフィンの魔力によって生み出された強炎、神罰ジファムの炎。


 その燃えさかる炎を律したのか、炎が収まり刀身が白熱した状態でゴードは太刀を鞘に納める。腰を落とし左手は鞘を、右手は柄に掛けた姿は先程のクロッゼの構えにも似た、居合い斬りの構え。


 次の瞬間、その戦場にいる誰もが眩しい発光に目を奪われた。敵味方問わず、何が起こったのかは判らない中で地響きが聞こえてくる。ようやく、視力が戻った者が見た光景は。


 棒立ちで巨大な松明と化した巨人の下半身と、分断されて地に落ち燃えている上半身。それが、ゴードから前方全ての範囲に広がっている。その全容は、むしろ城壁上に居る者達のほうが判りやすい。


「敵、全部斬っちゃった・・・・・・!?」


 ミーナの眼下では東門から東に掛けてのかなり広範囲に、かがり火が広がっているように見えていた。夜明けが近づきつつもまだ夜の闇が深い中で、地上付近だけはおよそ数千の数の多さからむしろ明るくなってしまっている。

 南北の城壁近くに居た巨人は免れていたが、それ以外は要の位置のゴードから、剣圧と共に扇状に伸びた神罰ジファムの炎によって、両断されると同時に燃え上がったのだ。


「なんという・・・・・・!!」

「流石は剣聖!!」


 クロッゼとコームも驚く中、ゴードは騎士魔法ナイトルーンを解いて2人に言う。


「残敵掃討としようぞ。夜明け前だが灯りは不要じゃ」



 剣聖技を生で見たということに戦場に居たハギスフォートの者達は沸き立つが、クロッゼからの指令により壁外に打って出始めた。騎士や兵士が東門から駆けだしていく。シグマ達冒険者も出撃し、戦争の終わりを誰もが感じ始めていた。


「あたし達はどうするの?」

「ここから様子見だな。狙撃するのにはまだこっちの方がいいだろう」

「様子見どころか私達は見物になっちゃうけどね」


 ミーナとオルフェルの会話に、ジーナロッテが自虐しサーシャが頷いていたその頃。



 森巨人フォレスト・ジャイアント本陣。

 森巨人フォレスト・ジャイアントの部族長ヘカリッサは、自軍の有様に怒り狂っていた。あれだけ居た部下達がほぼ全滅となったのだ。フォーリナムが制するがもはや聞かず、オレアナが作成したばかりの皮鎧に盾、巨大な剣を装備して、近衛の巨人と共に駆けだしていく。


「ちょっと!これどうするの!?」

「騒ぐな!こうなったら奴らを贄に召喚をする。少しでいい、時間を稼げるか?」


 フォーリナムの問いに、少し考えたオレアナは頷き、準備を始めた。


 小枝を触媒に情操系Lv1「虫集め」を行い、集まった甲虫や蛾、飛蝗などを暗黒魔法で完全に支配する。そこに、大事に取っていた魔法薬「レギオンカース」の小瓶を取り出して、比較的大きめの甲虫にそれを垂らした。


 サーシャに自分のレギオンカースが奪われた際に、魔法薬学の知識が奪われた事をオレアナは既に理解していた。巨人達をレギオンカースで強化できないかと考えた時に、薬のレシピが思い出せないことに気がついたのだ。しかし、薬の開発に居たる実験や研究の経緯はまだ覚えている。ならば、再びレシピまでの同じ結論を辿るのはそう難しくは無い。必要なのは時間だけであることから、オレアナはそのことを問題視していなかった。それでも、完成品のレギオンカース薬は貴重なのだが、今となっては背に腹は代えられない。


 虫達にレギオンカースを蔓延させたオレアナはそれを戦場に向けて解き放った。


宜しければ感想、ブクマ登録、レビュー等、応援よろしくお願いします!


全面改訂に伴い、旧第一部を、前日譚として別途投稿しています。

「借金確定の武器無しソードマスター ~ルイン・ブリンガーズ前日譚~」

http://ncode.syosetu.com/n5867cl/


挿入エピソードの大幅加筆、導入も終わりも全面改修して以前とは違った、なおかつ本筋は押さえた形式に。今まで隠していた話も新たに加わっており、本編とは独立して読める一本としてあります。旧第一部をお読み頂いた方も是非、こちらをご覧下さい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ